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「なんでや!?」
思わず関西弁になってしまった。
迷った。
みんなとはぐれたらしい。
なぜだ? ホワイ? ムボナ?
いかん、思わずスワヒリ語が出てしまった。
みんなと一緒に森林に入ったのに、なぜオレ一人になっているのか。
確かに土の精霊はグレイに貸した。
グレイシアに睨まれたからよく覚えている。
欲しいなら自分で精霊と契約して欲しい。
だが、そう簡単にはぐれるだろうか。
否。
これはそう、オレが迷子なんじゃない。あいつらが迷子なんだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「こんな時にどこに行きました!?」
「わかりません。精霊はいるので大丈夫だとは思いますが……」
グレイシアがいつになく焦っているのがわかります。
目の前に広がる光景が原因でしょう。
「おいグレイ! どう言う事か説明しろ!」
「説明と言われましても……」
目の前に広がる花畑。
そして、虚ろな瞳で佇むカシムと山賊たち。
ロムルスが混乱するのもわかりますが、見たままとしか言いようがないですね。
ただ、彼がいればこう言ったでしょう。
「嫌な予感しかしませんね」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はっくしょん!」
誰か噂してるな。
「おーい、グレイ。誰かー。誰かいないかー」
さて、どうするか。
背の高い木が多い。
陽はまだまだ高いが、油断するとすぐに暗くなるだろう。
「はっ! はっ……」
くしゃみが出そうで出なかった。
なんだ、花粉かな。
鼻がムズムズする。
「ハックション!」
くしゃみをした瞬間、下がった頭の上を何かが通り過ぎた。
「なっ!?」
「へ?」
目の前には全身黒ずくめの人影が立っている。
手にはナイフ。
いや、あれはクナイダート。
つまり、忍者。
「アイエ!? 忍者! 忍者なんで!? ムボナ!?」
「チッ」
忍者が後ろに飛び距離を取る。
挨拶前のアンブッシュは一度まで、古事記にもそう書かれている。
殺伐とした、末法アポカリプス。
実際怖い。
ここはまず挨拶だ。
忍者が出会えば挨拶が交わされる。
これが世界の真理。
「どーも、忍者さん。塚井です」
手を合わせお辞儀する。
じっとこちらを見つめ微動だにしない。
挨拶を返さないとは凄い失礼。
礼に始まり礼に終わる。
かの宮本武蔵も五輪書にそう記している。
「王都ギルドの新入りだな。ここで死んでもらう」
しゃべった! しかし、内容が物騒この上ない。
この言い方だと、オレを狙ったように聞こえるな。
「オレを狙ったようだが、残念だったな。オレが本当に一人っきりになると思っていたのか?」
「ふんっ、世迷言を。私の認識阻害は完璧」
認識阻害ね。
やはりオレが迷子なわけじゃなかった。
ただ、そういうのは効かないんだよ。
特にホムンクルスには。
「貴様はここで一人、誰にも知られず朽ちるのだ」
「クルス!」
オレの横をかすめるように、シールドが飛んでいく。
しかし、忍者は体を翻し間一髪シールドをかわす。
だが……。
「何!?」
体勢を崩した忍者の頭上から、斧を構えたクルスが降ってくる。
「今日のアンブッシュは百点だ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「まったく、馬鹿の相手は疲れる」
バトラー服のまま厨房で火種をもらい、隠れて紙タバコをふかす。
ポケットから取り出したメダルをもてあそぶ。
あの男、もう少し使えると思っていたがな。
小物すぎる。
せっかくカレンナの情報を渡してやったというのに。
あの花の価値をまるで理解していない。
葉の密売などと、宝の持ち腐れではないか。
あの花の真価は植えた時に発揮される。
その生命力。
その繁殖力。
そして、辺り一面が花になった時。
花が開いた時。
花粉が舞う時。
その時こそ、人々は狂喜乱舞する。
「くくく……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「くくく…… 私を倒したところでもう遅い」
胸に斧が刺さった忍者が寝言を言ってる。
「今頃、お前たちの仲間はカレンナの花粉によって冥府へと送られる」
「冥府ねぇ」
それにしてもよく喋る。
この世界の人は斧が胸に刺さっていても、意外と大丈夫なのかもしれない。
そんなわけないか。
「ちなみに、花粉でどうなるわけ?」
「花粉によって頭を支配される。恐慌だ。全てが恐ろしく、全てが邪魔だと」
結構しっかり答えてくれた。
こいつもしかして親切なのか。
いやでも、オレを殺そうとしたわけだし。
少なくともいい人ではないな。
「恐怖は伝染する、一人残らず感染する」
なるほどね。
全体を混乱させる、フィールドトラップかな。
ゲームでもよくある罠だな。
ゲームだとダメージ床程度の感覚だが、実際に起きると確かに厄介だ。
回復できる者を落とされれば、全滅コースだな。
「なんとかしますか」
「ふん、貴様に何ができる。ここで仲間が互いに殺しあう姿に、自分の無力さを噛み締めるんだな、くくく……」
やっぱ、こいつ平気なんじゃ?
とどめ刺しとくか。
「くくく…… ごふっ!」
笑っていたと思ったら、血を吐いた。
忙しいやつだ。
一旦、土の精霊を呼び戻す。
向こうは向こうで大変だろうが、土の精霊は必要ないだろう。
むしろこのまま迷子だと、本当に手遅れになる。
呼び戻した土の精霊のおかげで、花が咲いてる場所の大体の方角はわかった。
「では、いっちょやりますか」