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久しぶりのギルドは静まり返っていた。
「よく来てくれた」
深夜にも関わらずギルマスのおっさんが出迎えてくれる。
暇なんか?
「どのような状況ですか?」
ついて早々にグレイが仕事モードだ。
こいつ意外と体力あるな。
「よくはないな。カシムは今、おそらくだが森林で山賊を集めてる」
「山賊?」
「そうだ。お前たちが護衛したキャラバンを襲った奴らの生き残りなんかを集めてるみたいだ。というか、もともとカシムと繋がりがあった連中らしい」
「カシムはもうちょっと友達を選んだ方がいいな」
「同感だ」
俺の皮肉にギルマスが同意する。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
暴れてるってことだったので、衛兵隊長のようにバーサクにでもなってるのかと思ったが、ちょっと事情が違うようだ。
「あいつ森林でカレンナの栽培をしようとしていたらしい」
なかなかの爆弾発言だな。
ランタンで照らされる、薄暗いギルドハウスには沈黙が流れてる。
「そのための人足は王都から運ばれていた。大半が宿無しや乞食だが、中には悪さして王都にいられなくなった奴なんかも混じってた」
「それが山賊に?」
「そうだ。まとめ役だった奴をお前らが殺しちまったから、カシムが直接指揮するようになったみたいだ。ただ、状況が変わったのはつい最近だ」
「王都で私たちがやらかした件ですね」
「おそらくな。頻繁に誰かと連絡を取っていた形跡がある。まだ完全には掴んでないが、かなりの大物がからんでる可能性がある」
「大物…… ですか」
「あいつ、ヤバいんじゃないか?」
とっさに思いついたことで、思わず口を挟んでしまった。
「どうしてですか?」
「大物なんだろ? 口封じされないか?」
オレの言葉に全員がかすかに緊張する。
「サイガス隊長のようになる、と?」
むしろ、ここに来るまで隊長みたいになってると思ってたぞ。
「もしくはそうならないように森林に逃げ込んだか」
「なるほど」
「悪いんだが、サイガスについて詳しく教えてもらえるか」
険しい表情のギルマスが、静かな声音でグレイを睨むように声をかける。
「そうですね。カンフェではなかなか情報も届かないでしょうし、情報交換が必要ですね」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「まったく、困ったものだ」
最近、西門の界隈で流通しているミズアメなる甘味を入れた珈琲に口をつける。
一部の商人がすでに製造方法を手に入れたと報告を受けている。
これは是非にでも手に入れる必要がある。
現在も部下にレシピを早急に入手するよう指示している。
このレシピは我が国にこそ必要だ。
「それで、どうなった?」
後ろに控えるバトラーに現在の状況を問う。
「はい。カンフェに送りました間者から、対象と接触したと報告がありました」
「そうか。今回は、ミスのないようにな」
「はい、心得てございます」
うやうやしく頭を下げるバトラーを冷めた目で見る。
であればこのように胃の腑に悪い日々を送ることもなかったのだ。
カレンナの密売はもっと慎重に進めるべきであった。
持ち出された上、北の森林で密造されるとは。
サイガスを始末しなければいけなくなったのも手痛い。
せっかく手に入れた手駒を早々に手放さなければいけなくなった。
「もう一つの方は」
「はい。調査中ではございますが、王都ギルドに新しく入った者が二名おり、時期も合致しております」
「そうか、あとで詳しい報告をよこすように」
「明朝までにはご用意いたします」
「わかった。もういいぞ」
「失礼いたします」
音もなく下がるバトラーに気味の悪ものを感じる。
気の休まる時がない。
すでに王都にきて十年以上になる。
そろそろ後任をよこすように、国に発破をかけなければ。
ミズアメのレシピが交渉材料となるだろう。
いや、いっそ自分で事業をするのもいいかもしれない。
それもこれも、この一件が片付いてからだな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
早朝のギルドで眠い目をこする。
ほとんで寝ていない、みんな仮眠程度だ。
「美味くはねぇが、とりあえず腹に収めとけ」
ギルマスが炊き出しを渡してくる。
塩味のおかゆのような物で、確かに味気ないが暖かい食い物は助かる。
「食ったら行くぞ」
「はい、はい」
早朝から捜索を始めるのは、どうもかなり森林の奥までカシムは入っているらしく、移動にかなり時間がかかるようだ。
ただ、おおよその場所は掴んでいるとのことで、その辺はさすがギルマスだ。
バラバラに探すことなく全員で一気に強襲する。
信じられないが、カシムのやつかなり強いらしい。
ギルマスの話じゃカンフェにいるギルメンでカシムに勝てる奴がいないらしい。
さらに森林には山賊連中がまだいる。
俺たち王都ギルドでカシムを抑え、カンフェギルドは山賊連中を捕らえる作戦になっている。
まあ、草を取りに散々入ったからな、庭みたいなもんだよ。