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「まずい事になりました」
あれから二日たったが、オレは王都ギルドにいる。
というか、関係者全員ギルドに軟禁状態と言っていい。
一応、総括さんの権限で逮捕にはなっていないが、王都を混乱させたのは事実。
王都ギルドの面々はがっつり当事者なので事情聴取だけではすまない感じだ。
それにしても草を取りに行けないと干上がっちまうんだが。
「何がまずい事だよ。もう間に合ってるよ」
「カシムが暴れています」
「なに? 受付嬢にフラれたの?」
オレの一言にホールにみんなの笑い声が響く。
「笑い事ではないですよ! おそらく…… カレンナの花です」
それはまずいな。
いや、この場合は手がかりか?
「行くのか?」
「勿論です」
オレは行きたくないなあ。
★★★
王都に来るときは三日以上かかったが、今回はギルドのメンバーだけで行くので幾分早くなる。
当たり前だが、オレ達が王都から出るのは通常では考えられない。
なにせ王都の治安を乱した大悪党だからだ。
しかし、特例として、今回だけ、特別に、許可が出た。
「後からミゲル大隊長もきます」
本来、衛兵団は王都の治安維持が主目的なため、あまり王都からでない。外に出す人員がいないのもあるが。
王都の警備だけで手がいっぱいというわけだ。
その衛兵団を総括する大隊長ご本人が出向くのか。
現場は大変だろうなぁ。
まあ、オレ達には関係ない。先行してカンフェを目指すだけだ。
衛兵団のように大人数で行っても遅くなるだけなので、今回は少数精鋭で行くことにする。
オレ、クルス、グレイのいつものメンバーと、グレイシア、マルコ、ゼニスを加えた六人体制だ。
これが通常のパーティー編成だな。
ちなみにゲオルグさんは店があるから来ていない。
後、バルトは娘さんにめっちゃ怒られたらしく、王都でおとなしくしてる。
今回入ったマルコはチャラい兄ちゃんで、弓を使うレンジャーだ。
それとゼニスはやたらめったら暗い。
これでプリーストなんだから人は見かけによらないな。
むしろ黒魔術やってますって言われた方がしっくりくる。
まあ、この世界の魔法に白も黒もないけどな。
★★★
かなりの強行軍で進む。
かなりきつい。
途中からついていけなくなった。
体力のない現代人に大して整備されてない未舗装路はハードすぎる。
「クルス、おぶってくれ」
「イエス、マスター」
荷物などすべて持たせていたが、結局オレごとを持たせることにした。
「ダンナはだらしねぇなぁ」
マルコに煽られた。
「ここで体力使ってカンフェで倒れるよりいいだろ」
「だからって女に背負わせるのは、さすがにねぇ」
「オレは男女平等なの。クルスの方が体力も力も強いんだから適材適所だろ」
「クルスちゃん、ダンナに愛想つかしたらいつでも俺っちのとこに来たらいいからね」
「……」
クルスに無視されて、マルコがちょっとへこんでる。
いい気味だが、ちょっとマズイな。
一応パーティーを組んでる仲だ。
クルスの無感情キャラはパーティー内で浮いてしまうかもしれない。
「……」
隣を見ると無表情のゼニスがいた。
やっぱ関係ないな。
★★★
「げぇええ」
クルスにおぶってもらったら、上下動でげろ酔いしたわ。
「ぉげぇええ」
そしてマルコがもらいゲロしてる。
「女神の祝福を」
相変わらずの無表情ゼニスに回復してもらう。
プリがいると便利だな。
やっぱヒーラーは必須だわ。
「助かったよ」
「そ、それ以上近づけば、この邪神ドモンの呪いが貴方を滅ぼしますよ」
それまで無表情だったゼニスが、急に目を見開きオレに木彫りの像を振りかざしてきた。
「なんか、ごめん」
ゲロのせいか、それとも対人恐怖症かわからないが、ゼニスにはあまり近づかないようにしよう。
それにしても、曲がりなりにもプリーストが邪神とかいいのか。
★★★
やっぱり馬車にすればよかったかな? と一瞬頭をよぎるが、馬車の方が遅いからしょうがない。
ガタガタの未舗装路を馬車で走る時は、かなり慎重に進む必要がある。
馬車の車輪にスプリングなんてないからな、それでなくても轍にハマれば大幅にロスになる。人間が走った方が絶対早い。
あと馬の問題がある。
馬も生きてるから延々走らせるわけにいかない。
馬車でなく馬での移動も検討したが、人数分の馬を用意する時間がなかった。
いくら王都ギルドとはいえ、六頭はさすがに荷が重いようだ。
「はあ、カンフェって遠いな」
「ダンナ、カンフェは王都から一番近い街だぜ」
「あれで!?」
「遠いところだと十日はかかる街もあるぜ。最近見つかったダンジョンがそれくらいかかったはずだ」
「そういうところには行きたくないな」
「そんなこと言ってると、行く羽目になるんだぜ」
「不吉なこと言うなよ」
行かないぞ。
行かないからな。
★★★
かなりのハイペースで大変だったが、おかげで二日目の深夜にはカンフェに入ることができた。