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「いいかお前ら、俺たちの商売はナメられたら終わりだ」
ゲオルグさんの言葉に、集まったギルメンから唸るような声が上がる。
「衛兵団の連中に王都ギルドの怖さってやつを、叩き込むぞ!」
「おうっ!」
★★★
しかし、戦争といっても相手は国家権力で、こちらは私設の武力集団だ。ギルドのメンバーがいかに強くとも一国を相手に戦っても勝ち目はない。
「こういうのはな、頭を狙うんだよ」
頭を使うのではなく、頭を狙う?
ゲオルグさんの言葉は簡素すぎてよくわからない時がある。
「国王でも誘拐するのか?」
「いい発想だが、それじゃ本当に戦争になっちまう。戦争を始めるのは簡単だが終わらせるのは難しい。始める前から落とし所を作っておかないと泥沼になっちまう」
「それだと…… 隊長か?」
「そうだ、第三衛兵団の隊長サイガスをこちらで抑えられれば、落とし所を作れるだろう」
横からグレイが割って入る。
「おそらくですがサイガス隊長の裏に誰かいるはずです」
「何か根拠があるのか?」
「サイガス隊長は小賢しいですが小心者です。その彼がカレンナに直接手をだすとは考えられません。発覚すれば首が物理的に飛びますから」
「直接取引には加担しないが、黙認する感じか?」
「そう考えるのが自然です。それと取引には相手が必要です。そうしたコネクションを、あのサイガス隊長が持っているとは思えません」
「外部との連絡役が必要になるわけか」
「そうです、そしてその連絡役をよこしている者こそが」
「裏で糸引いてるわけだ」
「そいつを引っ張りだすにも、まずは隊長だな」
★★★
では、どうやって隊長を捉えるか?
「ドーンとぶちかましてこい」
作戦とかないのかよ!?
だめだ、脳みそまで筋肉だ。
勘弁してくれ。
これじゃ本当に反逆者だ。
やっぱり逃げるか?
そうだな。
逃げる前にせめて、世話になった人に挨拶くらいしておくか。
★★★
北門に続く大通りは一種異様な空気に包まれていた。
通りを塞ぐように整列する、第三衛兵団の士気はあまり高くない。
「クソッ! どうしてこう面倒ごとばかり起こるんだ」
自業自得だとわかっていても、口をついて出るのは愚痴ばかりだ。
「報告! 敵はまっすぐこちらに向かっています」
「詳細はっ!」
「はっ! 先頭にゲオルグ、バルトの二名を確認。中列にグレイシア、マルコ、ゼニスの三名。後列は民衆なども入っており不明です」
「さがれ」
「イエッサー」
ゲオルグとバルトだと!?
王都ギルド創設メンバーじゃないか。
だがゲオルグはとっくに引退したはずだ。バルトだって一線を引いて随分になる。戦力としては全盛期ほどじゃないはずだ。
それに数ではこちらの方が上だ。
いくら王都ギルドの精鋭といえど、この数にかなうとは思えない。
しかしグレイを逃したのは痛恨だった。
保釈を条件に口止めを考えていたが、甘い選択だったようだ。
「報告!」
「なんだ」
「それが……」
「どうした!」
「東門にエルフが来たと報告があり、現在第二は警備強化のため援軍は出せないと……」
「は?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
どうしてこの時期にエルフが来るんだ。
「報告!」
息を切らして伝令が走ってきた。
今度はなんだ!?
「西門で商人達がお祭りだと騒ぎ始めてしまい、警備を強化するために援軍は送れないと第四から……」
「くっっそがあっ!」
振り下ろした拳は簡素なテーブルを叩き割る。
ジンジンとする拳が震える。
どうする?
今更後には引けんぞ。
やるしかない。
★★★
数の上では圧倒的に不利だと思われた。
広い王都を警備する衛兵団は第一から第四まで五百人を超える。
だが、全てを北門に回すことはできない。
一つの衛兵団から集められる最大数は三分の一がせいぜいだ。
それでも三つの衛兵団から兵を集めれば百を超える計算だった。
しかし、第二と第四から援軍は来ない。
もともと王城を警備する関係で第一は動かせない。
四十名足らずで王都ギルドと対峙することになった第三衛兵団の士気は下がる一方だった。
★★★
ヤベェ、超帰りたいんだけど。
結局逃げることはできなかった。
熱狂した狂信者の行進のようになっていて、今更降りるとは言い出せなかった。
お別れを言いに行きたいとグレイに言ったら、手紙ならとコウモリのような生き物を貸してくれた。
こいつが伝書鳩のように行き来して連絡を取っているらしい。
ライザさんにはお茶をいただきに行きたかったが、カレンナのせいで行けなくなったと送った。
また西門のロドマスには水飴のレシピを書いた紙を送った。
ついでに適当に何人かの商人にも同じ物を送っている。
これで競争が生まれるだろう。
庶民でも買えるようにしてもらわないと意味がないからな。