16
どうすっかなぁ。
オレの横で、腰を浮かしキョロキョロとするグレイはおそらく役に立たない。
隊長は目の前にいる。
部屋には、ゾロゾロと衛兵が入ってくる。
数で押す気だ。
おそらく二者択一。
一つはおとなしく捕まる。
グレイが捕まればギルドなりグレイシアが動くはずだ。
冤罪なのだから、時間をかけて調べれば何がしか突破口はあるはずだ。ただ、それまで生きていればな。
もう一つはここで暴れて逃げる。
その場合、完全にお尋ね者だ。
どう言い訳しようが、ここから逃げ出したという事実は残る。
まあ、考えるまでもない。
オレは、水の精霊を呼び出した。
★★★
ファンシーな見た目の青紫色したアルパカが姿を現す。
背丈はオレと変わらない。
実際に見ると結構でかいな。
なんでアルパカなんだと思ったよ。
水関係ないしな。
可愛ければいいんだろう。
「捕らえろ!!」
精霊が出現したことで、隊長が吠えた。
「グレイ息止めてろよ」
「え!?」
「やれっ!」
オレの合図で水が吹き出す。
間欠泉でも掘り当てたのかってほどの、怒涛の勢いで水があふれ出す。
その勢いはとどまることなく、隊長室をまるでプールか水槽のように水が埋め尽くす。
さらにアルパカを中心に水流が渦を巻く。
洗濯される服になった気持ちで、水流に身をまかせると割れた窓から外に押し出された。
外にでるとゲホゲホと水を吐くグレイをアルパカの背にのせる。
オレもアルパカにまたがると、そのまま走り出す。
まあ、脱出はできるんだよ。
問題はこの後どうするかだ。
国家反逆罪なんだよなぁ。
しかも逮捕に抵抗して、隊長室を水浸しにして、逃亡って役満だよな。ドラも乗ってそうだ。
そんなオレはテンパってるって、やかましいわ。
★★★
その足でゲオルグさん家を目指す。
置いてきたクルスを回収しに行く。
青い顔したグレイを引きずってゲオルグさんの店に入る。
悪いとは思ったが、とりあえず床に寝かせる。
大の大人をテーブルに持ち上げる力はないよ。
「なんだ?」
厨房からゲオルグさんが顔をだす。
「すみません、緊急事態で」
「任せろ」
ゲオルグさんがグレイを見ている間に、二階に上がってクルスを呼びに行く。
「クルス」
「イエス、マスター」
とりあえずこれで戦力は確保できた。
あとは王都を出るか?
でも、どこへ?
カンフェに戻るか?
それとも、別の街を目指すか?
なんか、完全に逃亡者だな。
★★★
下に降りると、すでにグレイは目を覚ましていた。
さすがゲオルグさんだ。なんでもできる。
「よく、あの状況から逃げられましたね」
「逃げるのはできるよ。それよりも問題はこれからの方だ」
「そうですね……」
「はやまったか?」
「いえ、あそこまで強硬な手段を使ってくるとは思いませんでした。あそこは逃げるのが最善でしょう」
「そうか」
「お前ら何やったんだ」
ゲオルグさんが太い腕を組み、睨みつけてくる。
「第三衛兵団と、ちょっと……」
「そうか第三か」
「はい」
「それで」
「はい?」
「戦争か?」
「……はい」
「よし、よく言った。そうでなきゃ王都ギルドは名乗れねぇ」
なんでそんなに血の気が多いんだよ。
★★★
ギルドはすでに衛兵が封鎖しているらしい。
一体どんな手を使ったのか、何やら秘密の連絡手段があるらしく、グレイシアが少数のギルメンと共にゲオルグさん家に集結する。
「おう、久しぶりだなゲオルグ」
「元気そうだなバルト」
熊かってくらいデカいおっさんが二人、がっしりと握手する。
「グレイさん、何があったのか説明をお願いします」
「わかりました。私はカンフェギルドのロムルスから、カレンナについて調査を依頼されました。カンフェでカレンナが少量とはいえ流通した痕跡があると。調査の結果、王都でも確認されました」
皆黙って聞いている。
「その調査の過程で、第三衛兵団の名が浮上します」
「あいつらが出所か?」
「おそらくは、しかし証拠がありませんでした。そこで何か引き出せないかサイガス隊長に面会します」
もう少し用心しておくべきだったな。
「そこで、サイガス隊長は私たちを国家反逆罪で逮捕すると」
「おお、なかなか強引な手にでたな」
「はい。尻尾は出しましたが、私たちだけで行ったのが裏目に出ました。衛兵に囲まれ逃げの一手しかなく」
「衛兵団に囲まれて逃げられたなら上出来だ」
「それで」
グレイシアが口を開いた。
「このあとは?」
「決まっている」
答えたのはゲオルグ。
「戦争だ!」