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「こ、これは!?」
ヤベェ!?
とんでもないものを見つけてしまった。
いつものように東の森で草を集めている時に見つけた。
よく見れば辺り一面生えている。
これがあれば、アレができる。
手当たり次第に摘んでしまった。
★★★
ギルドで草を納品してる時も落ち着かない。
誰かに見られていないか?
こちらの世界に来てすでに三ヶ月近く経っている。
すでに我慢の限界だった。
見つけてしまったからには、何としても摂取しなければ。
オレは居ても立っても居られず。
コソコソとギルドを後にした。
★★★
草を換金して手に入れた金を持って、王都の市場に行く。
実は、存在は確認していた。
市場で普通に買う事ができると、ゲオルグさんから聞いていた。
しかし、購入には至らなかった。
危険だからだ。
アレに手を出せば、もう引き返すことはできない。
だが、手に入れてしまった。
手に入れてしまったんだ。
オレを止めることはできない。
★★★
王都はとても大きな街だ。
どこで見られているかわからない。
そこで、普段は使わない西門に向かう。
実は西側は少し危険な地域だ。
スラムとは言わないが、王都の中では治安の悪い場所となる。
西側は交易用の門があり、外に出るとテントが乱立してる。
行商人がここで物々交換したり、露店を開いたりと楽市のようになっている。
ただ、当然よそ者が多く王都の民と比べれば素行はやや悪い。
また商人の品や買い物客の財布を狙う輩も多い。
単純に人が多いこともあって、王都内の市場と比べて治安に不安が出る。
テントとテントの間、ちょうど良い場所を見つけた。
そこで腰を下ろし、持ってきた鍋を取り出す。
ついにこいつを使う時が来た。
思えば長くかかったものだ。
★★★
鍋に水を入れ、東の森で見つけたアレを入れる。
この日のためにこの鍋は用意したと言ってもいい。
そう、飯ごうだ。
この独特の形状を伝えるのに苦労した。
底の深い鍋を買って横から殴って成形しようとした事もある。
見事に失敗したがな。
あとで気がついた、普通に鍋でいいやんかと。
しかし、外で米を炊くと言えば、飯盒炊爨しか思い浮かばなかった。
米を炊く。
日本人としてあるべき姿。
しかし、ただの米じゃない。
なんと、もち米だ。
もち米があればアレを作れる。
★★★
水を多めに入れておかゆのようになったもち米に、市場で購入した大麦を入れる。
これによって麦芽糖を作れる。
これを煮詰めるとできるのが、水飴だ。
こちらの世界に来てどうしても手に入らないものが甘味だ。
砂糖もハチミツもとても高価で、何より甘い食べ物に飢えていた。
米さえあればと何度思ったことか。
それを見つけてしまった。
もう我慢できない。
この危険な食べ物の誘惑に抗うことはできない。
★★★
「何をしているんですか?」
ハッとした。
水飴作りに夢中で接近に気がつかなかった。
振り向くとグレイシアが立っていた。
「ギルドでも何やらソワソワとしていましたが、やっぱり何やら怪しげなモノを作っていますね」
「いや! こ、これは、違うんだ! そういうんじゃないんだ」
「どういうのだというんですか。違うとおっしゃるなら私に出しなさい」
「ぐっ!?」
なぜだ!? あれ程周囲にバレないように気を配ったというのに、一番バレてはいけない相手に見つかるなんて。
クソ!
★★★
「これは!?」
煮詰まり飴色になった水飴を一口含むと、グレイシアは固まった。
だから見つかりたくなかったんだ。
「どういったモノかは分かりました。私が勘違いしていたことは謝ります」
まあ、確かに挙動不審だったからな、勘違いするのも無理はないかもしれない。
「それはそれとして、こちら譲ってください!」
「ダメだ。これはオレのだ!」
「なぜです。またお作りになればいいでしょう」
「違うんだ、今なんだ。いま必要なんだ」
「そこを…… そこをなんとか……」
★★★
グレイシアと喧々諤々とやり合っていたら、周りを野次馬に囲まれてしまった。
しかも、取り合いになっていることから、そんなに良いものなのかと知らない行商人が、横から買うと言ってきた。
そこからは収拾がつかず。
ヤケになったオレは、削った木の棒の先に水飴をつけて、少しづつ売ることにした。もはや駄菓子屋か、紙芝居のおじさんだ。桃太郎でも語って聞かせようか? 桃があるかはしらないが。
だが、ただでは転ばない。
値段を銀貨一枚にした。
感覚的なものだが、日本円で八千から一万円ほどだろうか。
水飴一口に出す値段ではない。
しかし、ここは異世界。
砂糖は品質や量にもよるが最低でも金貨がいる。
それを考えれば、銀貨一枚でも安いはずだ。
★★★
わずかな時間で、鍋一杯の水飴はなくなり、睨みつけてくるグレイシアに明日も作るよう命令された。
言われなくても作るよ。
甘味に飢えているのはオレも同じだからな。