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どうして私がこのような事に付き合わねばならないのでしょうか?
ギルドのホール、受付が並ぶカウンターの反対側は、鑑定などを待つ冒険者用にテーブルとイスが置かれています。
そこはギルドの貢献度など関係なく、どなたでも使用して良いとなっていますが、実際は年齢や序列によって座る席が半ば固定化しているのが実情です。
そして私がいまいる席も、別段誰のと決まっているわけではないですが、私がギルドにいる時は、自然と空いてしまうわけです。
「ふう」
冷めた紅茶に一口つけ、今日何度目かのため息がでます。
ちらりとカウンターの方を見れば、グレイさんが目を光らせていました。
本当にあの方は、お金のこととなると急に行動的になられて。
その行動力をもう少しギルドに使っていただけたらと、何度思ったことか。
「ああっ!?」
入り口の方で大きな声をだす方が現れました。
どうやら始まったようですね。
「も、もしや…… あなた様は……」
男が一人、私の目の前で大げさに驚くそぶりを見せました。フードを目深にかぶり顔をなるべく見せないようにしていますね。これではただの怪しい人ではないですか。
「私に何か御用ですか?」
「王都ギルド実力ナンバーワンと呼び声高い、グレイシア様ではございませんか!?」
声がでかい。
耳がキーンといたします。
「いかにも、私がグレイシアです」
「なんという幸運。この幸運をどう表せば!」
なにもしなくて結構。
早く終わりませんか、これ。
「ああ、せっかくお会いできたというのに、この幸運を国の母親に伝えるすべが私にはない!」
大げさですね。
「な、何か頂くことは?」
「そうですね。グレイさん」
「なんでしょうか? グレイシアさん」
「こちらの方が、どうしても私に会った証が欲しいとおっしゃいますの、ですが私今お渡しできるものがございません」
「それでしたら、ちょうど良いものがあります」
「まあ」
はあ、なんですかこの寸劇は……
「こちら西国より取り寄せたシキシなる紙がございます。こちらにグレイシアさんの署名をしてお渡しになるのはどうでしょう?」
「まあ、とても良い考えですね。あなたもそれでよろしいかしら?」
「はい、ありがとうございます。あの、お礼は?」
「お礼など」
「銀貨二枚と半です」
グレイさん……
「なんと、たった銀貨二枚と半でこのような素晴らしいモノをいただけるなんて、私は幸せ者です」
「はぁ……」
★★★
署名をもらった男は小躍りしながらギルドを後にしました。
変な薬に手を出していないか、あとで厳しく追及いたしましょう。
「おう、グレイシア」
「あら、バルトさん。お久しぶりですね」
元ギルドナンバーワンの冒険者。
元ギルマスのゲオルグさんとパーティーを組んで、この王都ギルドを立ち上げた立役者。
引退したわけではないですが、すでに一線を引き今では娘さんと奥さん三人で、悠々自適な生活をされている。
「俺にも署名をもらえないか」
「え? ええ、それは構いませんが」
「おいグレイ、俺にもシキシとやらをくれ」
バルトさんは銀貨をグレイさんに放り投げました。
「ありがとうございます」
グレイさんの細い目がさらに細くなっていますね。
あれは悪いことを考えていますね。
ため息しかでません。
「バルトさんまで、こんな事に付き合わされているんですか?」
「ん? いや、俺は関係ないな。そいつは娘にやりたいんだ」
「お嬢さんに、ですか?」
「ああ、あいつ誰に似たんだか剣士なんぞ目指しててな」
それは、それは、奥様もおかわいそうに。
「それでな、グレイシアみたいになりたいんだそうだ」
「私みたいに?」
「どこで聞いたのか、王都ギルドには男よりも強い女剣士がいるってな。そういうのに憧れる年なんだろう。俺はもう少し女らしくして欲しかったがな」
「そう…… ですか」
署名をしたシキシをバルトさんに渡すと、白髪混じりのヒゲが覆う口もとが少し緩んだ。
「おう、邪魔したな」
「いえ、お嬢さんにもよろしくお伝えください」
★★★
どうして私がこのような事に付き合わねばならないのでしょうか?
バルトさんがおかえりになった後、飛ぶようにシキシが売れ。
私は何度も署名する事になりました。
やはりあの男は除名にすべきです。
グレイシアについて。
ここまでお読み頂いた方には、すでにお気付きの方もおられるとは思いますが、かなり行き当たりばったりで書いています。そのためグレイとグレイシアで『こいつらキャラ被ってるやん』という問題が発生しております。
特に丁寧口調で男女差がでないためどちらが喋ってるのかわからない事が多々あります。
しかしながら、問題の根本的解決方法が全く別のキャラに置き換えるくらいしか思いつかない体たらくぶりで、すでにここまで書いてあるため、ある日突然別人になったら読者に『誰やこいつ!?』と混乱させる事になるのは間違いありません。
この問題にどう対処するか考え中ですが、見知らぬキャラがなんの前触れもなく出てきた場合、『あ、この作者、諦めたな』と敗北者を見る目でお読みください。