10
時間が惜しいといわれて、グレイと一緒に鍛冶屋にいく。
時間がかかったのはグレイがおかわりしてたからだろう。とは言わないよ。うん。
ワンオフでシールドを作るか聞かれたが、既製品で十分だろう。
そもそも装備は消耗品だしな。
確かにいざという時、適当な装備に命を預けられるかという心配はあるが、どんなにいい装備でも壊れるときは壊れるものだ。
命を預けるのは装備じゃない。
あくまで自分のスキルだ。
だから、オレは危険ならすぐに逃げる。
逃走こそ我が人生、ってね。誤字じゃないぞ。
シールドの支払いは、納品した草の代金と相殺にしてもらった。
グレイのことATMだなんて思ってないよ。本当だよ。
★★★
グレイとギルドに入ると、女性が一人待っていた。
ピンクの髪が斬新だが顔は美人だ。
つなぎ目のない黒い服は何かの革でできていて体のラインがはっきりと出ている。
クルスに負けないでかい胸は乳袋によって一際強調されてて、かなりのナイスバディだな。
黒のショートパンツと金属製のグリーブとの間にある絶対領域がいい味出してる。
それにしても黒一色に統一された装備はどれも金がかかってる。
特に片手剣は、お高いワンオフ品だな。
「グレイさん、遅いですよ」
「申し訳ない。少し野暮用がありましてね」
「それで、オッポの件ですが討伐は私が行きましょう」
「助かります」
ちらりと女性がオレを見る。
「そちらが、例の」
「はい」
「同行は?」
「承諾いただきました」
「結構です。いつ出発できますか?」
「今からでも」
「結構」
★★★
東の森へ向かう道中、世間話でもする。
「なあ、あんた」
「グレイシアです」
お! ツンデレお嬢様キャラか。
「グレイシアね、それであんた聖騎士だろ。オレはじめて見たよ」
ゲームじゃみんなホーリーナイトを目指してジョブを選んでいたが、こっちじゃ見たことなかった。
ソードマンからスタートしてフェンサーを選ぶ。フェンサーをあげつつ、さらにサブでクレリックもあげないといけない。
ソードマンスタートだからクレリックをあげるのがキツい。
どうしてもマナが少ないからな。
そうしてなれるのが、聖騎士だ
挫折ってほどじゃないが、何人かは面倒になってやめていってしまった。
「どうしてそう思われたのです?」
怪訝な顔をされてしまった。
何か変なことを聞いただろうか?
「どうしてって、金のかかってそうな装備はソードマンじゃ無理だ、それにフェンサーならもっと細身の剣にする、あとナイトやパラディンなら盾を持ってるからな。」
「そう。バカではないようで安心しました」
えらい言われようだな。
何か気に入らないことでもあるのか?
★★★
この男、一目で私のジョブを見分けるなんて。
初めて見たという割に、聖騎士について随分と詳しい様子。
その割に仲間の女戦士にあのような格好をさせて。何か良からぬ理由があるに違いありません。
だいたい、どういった素性の者かわからないというのに、由緒ある王都ギルドに入れてしまわれて、グレイさんはどういうおつもりなのか。
今回のことも、東の森にオッポなどいるはずがありません。
おおかたオークでも見たのを大げさに吹聴したのでしょう。
初期装備のウォリアーとよくわからない学者なんてジョブのパーティーでオッポから逃げられるはずがありませんからね。
王都ギルドで実力ナンバーワンと呼び声高い私を呼び出しておいて、オーク数頭だったなら即刻除名にしましょう。
まったく女戦士にあのような…… 女性をなんだと……
★★★
「ここが、そうですか……」
辺り一面に散らばる焼け焦げた虫の死骸に、グレイがやや呆れた表情を浮かべる
「ああ」
ここまで土の精霊に道案内させたら、グレイシアが精霊を欲しいと言い出した。召喚術を習得してくれといったら、本気で悩み出した。
「で、こいつが飛んできてクルスの盾が壊れたよ」
昨日散々くらったオレの頭くらいある木の実を拾ってグレイに放り投げる。
「間違いなくオプの実ですね」
「しかし、肝心のオッポがいないようですが」
グレイシアはここまでずっと不満げだ。
随分と嫌われたようで。
お嬢様相手に少しフランク過ぎただろうか。
「ライザさんに聞いてみるか?」
「ライザとは? どなたのことですか?」
「昨日この辺であったんだ。緑色の髪した女の人に」
「そ、それはまさか」
「あなた、まさか」
二人してオレをみる。
なんだよ。
くぉぉらぁぁあああ
遠くから雄叫びが聞こえる。
「ちょうどよかった。ライザさんが来たぞ」
声の方を見ると、全速力で走ってくるジャイアントシマリスもどきと、その後ろを鉈を持って走るライザさんの姿が見えた。