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バーサーカーとビキニアーマーは使いよう  作者: 名称未設定
王都編
1/24

01



 今日も今日とて草を納品する。

 この世界に来てはや二ヶ月、なれたもんだ。

 ギルドの扉をくぐり、入って右手側の受付に持ってきた草の束を渡す。

 番号の書かれた小さな木片を受け取って、あとは鑑定されるのを待つだけだ。


 今日は順番待ちが少ない。

 ああ、ダンジョンの解禁日だ。


 オレから言わせれば、なぜ危険なダンジョンに挑戦するのかわからない。

 その辺に生えてる草を刈って持ってくるだけで金になるのに、わざわざ命をかけて攻略しに行くのはバカのすることだろう。


 だが、ヤツらから言わせると前人未到のダンジョンがあるのに、攻略に行かない奴はバカということらしい。


 まあ、考え方は人それぞれだ。


「九番のかたー。九番の番号札のかたー」


 おっと、オレだ。

 呼び出しは受付嬢だが、対応はイカツイおっさんだ。

 このおっさんとも、もう二ヶ月か。

 いつも渋い顔で草の束を鑑定している。


「恒常依頼の薬草採取、納品数は八株で間違いないか?」


「ああ、間違いない」


「買取価格は銀貨二枚だ」


「ああ、それでいい」


 いつものやりとり。

 誰だかわからないおっさんの顔が装飾された銀貨、二枚を受け取りギルドをでる。

 いつもの光景。

 だが、それも今日で最後かもな。


★★★


 オレのジョブは学者という。

 導士からスタートしてレベル五十でクラスチェンジする。

 クラスチェンジする先は錬金術士と魔術士に別れる。

 そこから錬金術士を選び、さらにサブクラスとして召喚術を習得する。錬金術士はレベル五十、サブの召喚術はレベル三十まで上げる。

 そしてようやく習得できるのが学者だ。


 オレの今のレベルは学者レベル五十だ。

 レベルキャップが五十に設定されているからな。

 しかし、それまでに習得したジョブは内部的に加算されてる。そのためオレはレベル五十の学者だが、ゲーム的にはレベル百八十になる。


 そう、ゲーム的には。


 この世界に来て、右も左もわからない状態で、命からがら逃げ込んだのが今のギルマスのところだ。

 どういうつもりか知らないが、ギルマスのおっさんはオレをギルドに入れてくれた。

 ギルド加入の際、ジョブを聞かれて学者だと答えたら、他のギルメンにめちゃくちゃ笑われた。

 そんな役に立たないジョブを選んだ奴を見たのは初めてだとさ。

 確かに、単体の攻撃力は並だ。

 DPSもたいしたことない。

 何より装備が貧弱だ。

 しかし、学者はパーティーに必須と言っても大げさじゃない。

 そのバフ、デバフは高難易度のダンジョンほど威力を発揮する。


 タンク役のウォリアーやパラディン、ヴァルキリーはいかに学者を守りながら戦うか常に考えていた。

 時には回復役よりも優先して守りに入るほどだった。


 まあ、ここはゲームじゃない。

 単体での火力が重要なんだろう。

 そう、火力だ。


★★★


 オレは銀貨を持って拠点となっている街をぶらつく。

 他のギルメンは酒に女に博打、もう少し常識のある奴は装備に金を使う。

 だがオレはこの二ヶ月、その稼ぎのほとんどをあるものにつぎ込んでいた。

 ホムンクルスに。


 これは、錬金術レベルを三十にすると使える人体錬成というスキルを使うことで作製できる。

 人体錬成なんて禁忌だろって話だが、ゲーム的にはお供NPCをクリエイトできる程度の話だ。

 ソロプレイヤーの救済措置だな。

 もともと学者は支援タイプのジョブだ。

 常にパーティーを組んで冒険しないといけない。

 それでは他のプレイヤーと時間の合わない時に困る。

 そこで運営は、色々なお供を用意している。

 学者なら四大元素を元にした精霊。

 また馬やオオカミなんかの動物やモンスターも一部ではあるがお供にできる。

 あと金で雇える傭兵なんてのもいる。


 ただ、この世界でそれらがどの程度役に立つかわからない。

 やはり学者の力を最大限発揮するにはパーティーを組むのがいい。


 そうオレは自分の前衛を作ることにしたんだ。


★★★


 最後の素材、灰を手に入れていつもの安宿に帰る。

 独房かってくらい狭い部屋。

 調度品などは何もなく、暗くてカビ臭い。


「最後の仕上げだ」


 思わず独り言がでる。

 長かった。

 この部屋ともこれでおさらばだ。


 ギシギシと音をたてる床板に直接灰を撒き、線を引いて魔法陣を作る。

 今まで集めた素材を魔法陣の真ん中にバラ撒く。

 そして、魔力を込める。


 青い光が魔法陣から溢れ出す。


「成功だ」


 目の前には思い描いた通りの存在が立っていた。


★★★


 次の日、朝からギルドは騒然としていた。

 ダンジョンに行く前に立ち寄ったパーティーは、信じられないものでも見る目でオレを見ていた。


 いや、オレの隣に立つ女性を。


 金色の髪をなびかせ、美しい青い瞳はオレを見つめる。

 何より目立つのはその格好だ。

 いわゆるビキニアーマーというやつを着ている。

 着ているというのもおこがましい。

 胸と股間に申し訳程度の白い布があてがわれてるだけ。

 防具らしさは革製のニーハイブーツと肘まで覆う革製のグローブくらいだ。

 あとは白い肌がこれでもかと晒される。


 一応これでも前衛なので、ジョブはウォリアーになる。

 だから初期装備のラウンドシールドとハンドアックスを持たせた。

 筋肉隆々の男なら蛮族ぽくていいが、やたらスタイルのいい女だとただただハレンチなだけだ。

 まあ、そういう装備ではあるが。


 この格好、もちろんエロいだけで装備させてるわけじゃない。

 それこそ羞恥心などどうでもよくなるほどに。


 ウォリアーの攻撃力は筋力で決まる。

 装備の補正はかなり小さい。

 これは初期のジョブということと関係している。

 始めたばかりで装備も揃わないキャラでも、ある程度プレイできるように装備の補正を小さくしてる。

 これは逆に古参のプレイヤーがサブキャラなどに、強い装備を持たせて無双できないようにする意味もある。

 そして筋力は、装備重量によって増減する。

 ゲーム中、一番装備重量が軽いのがビキニだ。

 男キャラにもブーメランパンツがある。

 ちなみに重量は、驚異の0.2だ。


 装備重量が軽いと、その分攻撃力が上がる。

 もちろん、軽装だと防御力は落ちる。当たり前だ。

 ビキニなんてもってのほかだ。

 しかし、そこに学者がいると話は違う。

 ありとあらゆるバフをかけることで、防御力をカバーできる。

 戦闘中に使えるバフは、装備品などよりも補正値が大きい。


 だがそんな話をして、本当に装備重量をギリギリまで抑える奴がいるだろうか?

 いるわけない。

 みんな自分の身を守るためにガチガチに装備を固める。

 前衛ならなおさらだ。むしろ装備が揃ってないヤツを前衛に出したりしない。


 だからオレのいうことを聞く、ホムンクルスを作ることにしたんだ。


★★★


 受付にギルド加入の申請を出す。

 ホムンクルスは見た目ほとんど人間と変わらない。

 まあ、少し受け答えがカタいが、見た目でそれと分かるほどじゃない。


「よう嬢ちゃん、そんな草刈り野郎とパーティー組んでもいいことないぞ。悪いことは言わない、俺のパーティーに入んな」


 ギルメンの男が声をかけてきた。

 ホムンクルスはその声を完全に無視してる。


「おい、聞いてるのか!」


 この男、確かこのギルドのナンバー3くらいだったか。

 強いんだが少し自意識過剰なところがある。


 横でぼんやりと、ある意味他人事のようにやりとりを見ていた。


「おい、お前!」


 しびれを切らした男は、無視をきめこむホムンクルスの肩に手をかけた。

 あ、まずい。


 ドンッと大きな音とともに、ホムンクルスは男を床に押さえつける。

 驚愕の表情を浮かべる男に、ホムンクルスは斧を振り上げる。


「まて、まてまて。ストップだ」


 慌てて止めに入る。

 振り下ろされた斧は、男の顔スレスレで止まった。


「下がれ」


 オレの声にホムンクルスは素早く下がると膝をつき頭を垂れる。


「だ、大丈夫か、あんた?」


 男に声をかけたが瞳孔の開いた目でオレを見ると、小動物のように怯えた表情で、仲間の元に逃げ帰った。


「申し訳ございません。マスター」


 片膝をつき頭を下げるホムンクルスを立たせる。

 まあ、ちょっかいかけてきたのは向こうだからな。


「いや、それより一度、戻ろう」


「イエス」


 オレはギルマスに今日は帰ると言って二ヶ月ぶりの休みを取ることにした。

 本当は今日から、もう少し遠くまで草刈りに行きたかったが幸先悪いな。

 前を歩くホムンクルスの柔らかそうな尻を見ながら、いつもの安宿まで歩いて帰った。


 そういやホムンクルスの名前を考えてなかった。

 適当でいいだろう。

 ホム? いや、クルスでいいや。


「今日からお前の名前は、クルスだ」


「イエス。マスター」


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