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第五節 アレクシアとノーヴァ

 ノーヴァは一人で、帰路についている。学園に入る前はずっと師匠と2人きりだったせいで、彼には友人といえる友人もいないし、その作り方もわからない。一人ぼっちになるのは、成績からも考えて当たり前のことだった。まだ夕陽が世界を照らす中、石畳を踏みしめる足音は、一つ孤独に響く。

「アレクシアの奴、お前がよっぽど怖かったんだろうな」

 カイリの声が、聞こえてきた。ノーヴァは若干傷ついたような表情で、カイリの方を見る。

「俺は、自分にそんな力があるとは思えない」

「そりゃお前だけだ。――王女様、お前を見て震えてたぞ。気づかなかったか」

「お前のなにかを感じ取って震えていたんだろう。あまり、師匠を疑うような真似はしたくない」

 ノーヴァは師匠への信頼が揺らぐのが怖いのか、この話を続けることを嫌がっていた。カイリはその様子を見て、溜息をつく。

「……確かに、お前を拾って育てたのはアレクシアだ。いわばお前の母親、信じたい気持ちもわからなくはない。でもな、そのアレクシア自身が、何よりお前を恐れていた。その為に私を封印して、同時にお前の力も封じた。お前に何も言わず出て行ったのは、恐らくもう耐えられなかったからだろうな。――それほどまでに奴は追い詰められていた。むしろ今までよく殺さなかった、と言える位だ」カイリは言った。

「殺す?俺をか」ノーヴァは信じられないという表情でカイリを見る。「そもそも、師匠が俺に施した封印の所為で俺が魔法を使えない、というのにも確証がないんだ。これ以上憶測を立てないでくれ」

「目を背けるな」カイリは強い言葉で、ノーヴァの視線を制する。「お前に認識阻害の魔法が掛けられているのは明白だ。解呪してやりたいところだが、生憎今の私は魔法が使えない。封印を解こうにも、その封印は私には解けないからな。どうしようもない」

「封印の解除方法は、俺にもわからない」ノーヴァは苦々しい表情で答えた。「俺が魔法にふさわしい実力を得たら教えてくれる、と前に言っていた」

「……そして認識阻害で、魔法の学習を妨害する。実力を得たら解き方を教えると言って、実力を得る機会を奪うとは。アレクシアのやり方は陰湿だな」カイリはそう吐き捨てた。

「認識阻害?さっきも言ってたが、どういう魔法なんだ、それ」ノーヴァは疑問に思った。「どの属性でも、そんなことはできないと思うんだが」

「アレクシアは別世界の魔法使いだ。あいつはお前たちとは違って、真の意味での『魔法』を習得している。認識阻害魔法というのは、対象に特定の事柄に関する認識をし辛くする、またはさせないようにする魔法だ。お前はアレクシアの魔法によって、魔法に関するあらゆることが『覚えられない』ようになっている。魔法について聞くと、脳が認識をしなくなっている」

「暗記しろと言われてもできなかったのは、それが原因か」昨日にいくらやってもできなかったことを思い出して、ノーヴァは言った。「それでは、いくらたっても成長しないのではないか」

「あぁ、そうだ」カイリは言う。「お前は一生そのままだ。アレクシアが戻ってくるまで、お前は一生魔法が使えない。……むしろ、この状態で『火球』が使用できること自体が異常だ」

「使えないのに、使える?」ノーヴァは首を傾げる。「いったい、どういうことだ」

「恐らくアレクシアが仕掛けた認識阻害も、お前の学習能力を完全に奪い去ることは出来なかったんだろうな。……もしくは、良心の呵責で少しだけ阻害の手を緩めたのか」

「わからない」ノーヴァは言った。「どちらにせよ、師匠が帰ってこないことにはどうしようもないな。こちらから連絡もでき無さそうだ、ここは待つしかない」

「それもそうか。帰ってくるとは思えんがな」カイリはそう言って、空を見上げる。

「帰って来るさ。師匠なら、きっと」ノーヴァもまた、空を見上げた。


*************************************


 新月の夜のことだった。エアスト帝国という国にある貧民街に、純白の衣に身を包んだ女性が訪れる。

彼女は貧民街に捨てられた赤子を一人一人調べていた。手の甲や、目の色を確認して、「――違う」と呟いた後、去ってゆく。貧民街には棄てられた赤子が多く、彼女が調べなくてはいけない対象の数は、数十人に上った。女性が街に訪れて一時間ほど経過したころ、彼女は黒い髪をした、一人の赤子と出会う。「この子だわ」と呟いた彼女は、その場で黄金色に輝く魔法術式を組み上げ、その魔法を赤子に向けて放つ。閃光に包まれた赤子は、魔法を受けても変わらぬ姿で、泣き喚いていた。「これでよし」と言って、女性は赤子を拾い上げ、貧民街を出て行った。――誰も気にすることの無い、一夜の出来事である。その女性の名前は、アレクシア・トーラ・リンドバーグ。彼女はのちに、拾った赤子をノーヴァと名付けた。

「なぁ、師匠」

「何かしら、ノーヴァ」

『料理を作るのは面倒』というアレクシアの性格から、彼女とノーヴァの二人は毎日、街の食堂で食事を行っていた。毎日外食しても資産には余裕がある。教授であるアレクシアが学園からもらっている給与は、それこそ屋敷一つ立てられるほどのものだった。――なぜか彼女は、小さな家で暮らしていたが。

「結局俺は、どうして魔法を使えないんだろうな」食堂からの帰り道、ノーヴァがぼやいた。「師匠は優しく、わかりやすく教えてくれている。なのに、どうしても俺は上達しない。何か、理由があるのかな」

「……」アレクシアは答えない。黙ったまま、星空を見上げている。

「ごめんな、師匠。俺、もっと頑張るから」彼の言葉を聞いて、アレクシアは何を思ったのだろうか。

「……良いのよ。貴方は、ちゃんと魔法を使えているわ」

抱擁と共に、彼女はノーヴァに震えた声で語りかける。アレクシアが流した涙は、ノーヴァには見えなかった。「気にする必要はないの。貴方が魔法を上手く使えないのは、私の所為だから」アレクシアの言葉に、「それは違う」とノーヴァは反論する。「確かに、師匠は俺の特異魔法を封印した。でもそれは、俺の実力不足が原因だ。断じて師匠の所為じゃない」

 その言葉に、アレクシアは言葉を返せなかった。ただノーヴァを抱きしめるアレクシアへ、彼は「こんな俺でも、何とかなるやり方はあるはずだ。学園に行って、何とかそのやり方っていうのを自分で見つけ出してみる」

「……そう、ね。貴方なら、きっとできるわ」彼女はそう言って、ノーヴァを放した。彼が魔法学園に入学する、数日前の話だった。


*************************************


 時系列は、現在へと回帰する。ノーヴァは魔法学院から自宅へ帰り、ベッドで横になっていた。今日は夕食を摂りに行く気分になれない。朝食を多めに食べるか、と考えて、彼は眠ることにした。――余談だが、彼は早朝に水浴びをする習慣がある。

「認識阻害魔法、か」ノーヴァはそう呟いて、天井を見上げる。そこには満点の星空など無く、気分は一向に晴れない。彼は信じていたものが揺らぐ感覚に襲われていた。

「優しかった師匠が、俺を恐れていた。――俺との日々は、苦痛だったのだろうか」

ノーヴァはカイリの言葉を、本当のことだと捉えていた。なぜかはわからないが、ノーヴァにもそんな気がしたのだ。「もう、戻ってこないのだろうか」彼がそう言って、目を閉じようとした時だった。彼の家、玄関のドアが、開く音がした。ノーヴァの眠気は吹き飛んだ。彼は一目散に玄関へ走り出す。

「――ノーヴァ!」彼の名を呼ぶ、懐かしい声がする。ノーヴァが玄関へたどり着くと、そこには血相を変えた表情で、師匠――アレクシアが立っていた。

「あぁ、ノーヴァ。無事だったのね……!」彼女はノーヴァを抱きしめて、安堵の表情を浮かべる。彼には全く、状況が理解できなかった。

「どうしたんだ、師匠」

「この世界で、魔法の暴走が発生したのを感知したの。それで、貴方が暴走したんじゃないかって、慌てて飛んできたのよ」

「俺は封印があるから、暴走なんてしない。それより、今までどこに行ってたんだ」

「……ちょっと、ね」アレクシアは曖昧な答えを返す。「いきなり居なくなってしまってごめんなさい」

「別にいい。魔法が暴走したというのはどういう事だ、師匠」ノーヴァはこちらの方が気になるようだ。

「暴走した、というよりは、これから暴走する、というほうが正しいわ」

「これから?」

 ノーヴァの声と共に、地震が彼らの家を襲う。

「何だ、これは!」

「魔法の余波よ。――この揺れだと、恐らくは帝国ね」

「帝国って、俺の生まれた国か!?」激しい揺れの中、ノーヴァの声は自然と大きくなっている。

「ええ、そうよ」対照的に、アレクシアの声は落ち着いている。彼女は万が一に備えて魔法による防壁を展開し、ノーヴァを守っていた。揺れが収まると、アレクシアは彼を開放する。

「いったい何だったんだ、今のは」ノーヴァはそう吐き捨てた。

「特異魔法の暴走よ。たった一人が暴走しただけでも、隣国にまで余波が届くほどに強力なの」

「……そうか。そこまで危険なんだな」

『あぁ。確かに、私達が暴れたら今位の衝撃は普通だな』

 何処からともなく、幻聴がする。カイリの言葉は、ノーヴァにしか聞こえないはずだが――

「……目覚めたのね」

 彼女の言葉を聞いて、アレクシアが表情を変えた。

『久しぶりだな、アレクシア。16年ぶりか』

「できれば一生会いたくはなかったわ。封印は機能しているようだけど、なぜ話せるのかしら」

『私は最高位の悪魔だぞ。あの程度の封印でどうにかなるほど弱くはない』

「強がりね」

『……ちっ、バレたか。あぁそうだ。お前が仕掛けた封印の所為で魔法は使えないし、魔力だってすっからかんだ。回復した傍から対消滅されてはお手上げだな』

 参った参ったとひらひら手を振るカイリを、アレクシアが冷ややかな表情で見つめている。

「師匠。……カイリの声が聞こえるのか」ノーヴァはようやく、口を挟むことができた。

「カイリ?……あぁ、乖離ね」アレクシアは呟いた。「聞こえるわ。見ることもできる」

「そうか。まか師匠だし、その位できた所でおかしくは無いな」ノーヴァは自然に納得したようだ。

『おいおい、理由とか聞かないのか』とカイリが突っ込むが、「お前を封印できる時点で、お前を近くできてもおかしくはない」というノーヴァの返しに沈黙する。

「そう言えば、師匠。一つ、聞きたいことがあったんだ」ノーヴァはふと、アレクシアに向き直る。

「――認識阻害魔法」彼はボソッと、呟いた。

 その言葉を聞いて、アレクシアの表情が変わる。

「――事実だったか。師匠、俺の特異魔法を封印したのはわかるが、認識阻害魔法をかけられた理由はわからない。魔法の理論がわからなくて困っているんだ、できれば解呪してほしい」





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