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 あの日は戦闘と失言のおかげで異常に疲れたため、食後すぐ部屋に戻ってぱたっと寝てしまった。おかげで、またヘレスさんと朝風呂に行く羽目になる。


 風呂場で、じーっと私を見るヘレスさん。女同士だけど、この素っ裸な姿をまじまじと見られるのはなんだか気恥ずかしい。


「サオリ殿は、キスというものをしたことがありますか?」


 唐突にこんなことを聞いてくるヘレスさん。私は思わずお風呂の中で滑って、沈みそうになる。


「どどどどうしたの、ヘレスさん! 急にキスがどうとかって」

「いえ、私にはあの行為の意味がどうしても理解できなくてですね。口を付けあうと一体どうなるのかと思ってですね」

「はあ……そう。でも、残念ながら私も分からないわ」


 ベッドの上でならそういうのをしたけれど、キス単体というのはしたことがないなぁ。確かに、口づけしあったら一体どういう気分になるんだろう? 


 風呂から上がって部屋に戻ると、すぐに部屋の呼び鈴が鳴る。扉の外には、ビットブルガーがいた。


「サオリ、いよいよ戦艦に寄港するよ」

「そうなの? もう、敵の艦隊とやらはいなくなったの?」

「今朝方には奴らはワームホール帯にたどり着いて、ワープアウトしていったよ。戦闘は完全終結が宣言されたので、やっとこの艦も補給できることになったんだ」


 そういえば、元々はこの船は補給を受けるために宇宙に出たんだった。その途中で戦闘に巻き込まれたため、そのことをすっかり忘れていた。


「あと2時間ほどで寄港するそうだよ。寄港先は『戦艦ビスマルク』という、艦隊司令旗艦に行くことになった。滞在時間は72時間。かなり長い寄港になるので、宿泊場所も用意されているらしいよ」

「へえ、ホテルか何かがあるの?」

「あるよ、ホテル。でも、戦艦に寄港したことは何度もあるけれど、戦艦に泊まったことがないからなぁ。ましてや、旗艦に行くなんて初めてだし」

「いつもはどれくらい滞在するものなの?」

「せいぜい10時間だよ。今回は珍しく長いね」

「なんで今回だけ、そんなに長いの?」

「そりゃあ、サオリが乗ってるからだろう」

「へ? 私?」

「だって、そこで要人と会うんだろう? 君」


 そうだ、そうだった。戦闘のおかげで、そんな大役が待ってることをすっかり忘れていた。


 政府関係者やメーカーの役員など、どう考えても私などが釣り合うはずのない偉い人々と会うことになっていたんだった。今さらになって焦る。


 私なんて、たかだかとある中小な商社の平社員。そんな私が、偉い人達と会ってどうするのだろうか? せっかくあの激しい戦闘を生き抜いたというのに、私の心は暗い。


「どうしよ~、そんなすごい人達に囲まれて、私は何を話せばいいのよ~!」

「そんな細かいことを考えなくったっていいよ。いつも通りやれば、なんとかなるって」


 この男、本当に適当だなぁ。てっきり器の大きい男だなんて思ってたけど、実は単に適当なだけじゃないのか。私の中で、彼の評価がぐんと下がる。


 再び、私は艦橋に向かう。それにしても、大気圏離脱や戦闘、それに戦艦寄港と、なんでいちいち何かあるたびに艦橋に呼ばれるのか? おそらくはこの船のこと、宇宙のことを知ってもらおうという艦長のご配慮のおかげなのだろうが、前回の戦闘のような過激なものだと、正直困る。


 これから戦艦へ入港する、そこで私が呼ばれたのだが、その戦艦のことを聞いてみた。すると、これがまたとんでもない代物だということが判明する。


 この駆逐艦の大きさは全長300メートル、幅は先端が30メートルで、根元部分が70メートルほど。だが戦艦というのは、全長が3000~4000メートルあって、20~40隻の駆逐艦を受け入れられるだけの「港」があるらしい。


 名前こそ戦艦だが、戦闘にはほとんど参加することがない船だという。大きすぎて、動きが鈍いうえに的になりやすいので、主に後方で駆逐艦の補給、修理を行い、乗員の慰労の場所となっているそうだ。


 動画で戦艦の姿を見せてもらったが、小惑星の岩肌がそのままの、船というよりは小惑星にエンジンをつけて飛ばしているという、そんな感じの船だ。武装もあるらしく、駆逐艦と同じ主砲が10~20門ついているとのことだ。


 昔は先端に、駆逐艦よりも大口径の砲門がついているものが多かったようだが、この大口径砲というのは装填時間がかかりすぎて実戦では使いづらいため、いつの間にか廃れてしまったらしい。そもそも戦艦という船は基本的には戦闘に参加しない船であるため、それでも一向に困らないようだ。


 で、今から向かう「ビスマルク」という戦艦は、この地球(アース)399の遠征艦隊でも最も大きな艦艇だ。


 作られたのは今から90年以上前。地球(アース)399の遠征艦隊草創の頃に建造された最初の戦艦だという。今では見られなくなった大口径砲を搭載している。大きさは5700メートル。通常の戦艦の1.5倍ほど。収容艦艇数は50隻で、この艦隊で最も搭載容量の多い船だ。さすがは、この艦隊の旗艦を名乗るだけのことはある。


 そんな船に今から向かうというのだ。なんだってそんな大きな船に行かなきゃならないのか? 気の小さい私は、艦橋の中で憂鬱になるばかりだ。


 憂鬱の原因は、もう一つある。それは、私がこの艦橋内では「姫」と呼ばれていることだ。昨日、艦長がうっかり私に名付けたあの呼び名が、この艦橋内ではそのまま使われている。


「姫様、お席の用意が整いましたよ」

「姫様、お飲み物などいかがですか?」


 艦橋内に入るや否やこの調子だ。照れくさいやら、腹立たしいやら。


「サオリ殿、いや、姫様」

「いやヘレスさん、あなたはせめてサオリって呼んで! お願い!」


 ヘレスさんまで危うく「姫様」と呼ぶところだった。しかし、私はとうてい姫などと呼ばれるほどの気品もなければ、収入もない。困ったものだ。


「戦艦ビスマルクまで、距離1200キロ。あと20分で入港予定」

「入港準備。ビスマルクに入港許可を打診」

「了解、入港許可申請を送信します」


 艦橋内があわただしくなった。だが今度のは戦闘ではない。あの緊張感がない分、まだ気が楽だ。


「ビスマルクより入電、『入港を許可する、第33ドックに入港されたし』です」

「進路そのまま、両舷前進微速、戦艦ビスマルク、第33ドックに向かう」

「了解、機関出力3パーセント、両舷前進微速」


 戦艦の周辺は、たくさんの駆逐艦が整然と並んでいる。その駆逐艦の列の後方を進む駆逐艦5137号艦。やがてこの船の正面には、なにやら灰色の大きな物体が見えてきた。


 その灰色の物体はどんどん大きくなる。正面の窓には、あの小惑星のような武骨なごつごつとした形の船が見えてくる。ああ、あれが戦艦か。


 だが、いくら近づいてもまだ大きくなる。窓一杯にごつごつとした岩肌が広がる。窓一杯に岩肌が見えているが、まだその戦艦の表面にすらたどり着いていない。ちょっとこの船、大きすぎやしないか? 


 全長5700メートル、厚さ1000メートル、幅は1700メートルという化け物艦。船というよりはもはや小惑星のようなその戦艦に、徐々に接近する我が駆逐艦。


「第33番ドックより繋留ビーコンを捕捉」

「取舵3度、両舷前進最微速」

「両舷前進最微速! とりかーじ!」


 航海士の復唱が艦橋内に響く。目の前は、戦艦ビスマルクが壁のように立ちはだかっている。その大きな船に向かって、ゆっくりと接近する駆逐艦5137号艦。


 やがて、戦艦の表面にぽっかりと空いた大きな穴がいくつか見える。その穴の一つに向かって降り始めるこの船。あれが目的地の第33番ドックというやつのようだ。徐々に接近する大きな岩肌。形こそ武骨な小惑星だが、色はこの駆逐艦と同じ灰色だ。


 ちなみに、連合と連盟の船かどうかを、この船の表面の色で区別しているらしい。連合側は灰色、連盟側は赤褐色。戦闘時には、この色で識別して撃ち合っているそうだ。


 その灰色の大型船の腹にぽっかりと空いた深い穴に入っていく我が駆逐艦。


「両舷微速下降、繋留ロック位置まで、あと200!」

「速度、繋留ビーコン出力正常、障害物無し」

「距離、あと100…80…60…40…20…着底! 繋留ロック作動!」

「ロック正常、艦固定、完了しました」


 艦橋内で殺気だったようなやりとりが続いた後、ガシャンという音と共に、戦艦のドックというところにこの駆逐艦が固定されたようだ。


「エアロック接続完了。戦艦ビスマルクとの接続、完了しました」

「了解した」


 そういうと艦長はマイクを手に取り、艦内放送を流す。


「達する、艦長のラーデベルガーだ。これより当艦は72時間、戦艦ビスマルクに停泊する。ただいまより、戦艦への乗艦を許可する。現在、艦隊標準時2300、出港は翌々日同時刻。今回は長時間滞在となるため、特別にホテル『ゲルマニア』に2泊の宿泊許可をいただいている。なお、各員は当艦へ予定時刻30分前までに帰還するように。以上だ」


 ついに戦艦という場所に着いた。以前、ビットブルガーに聞いた話では、ここには鉄道と街があるらしい。


 艦橋内の人達は立ち上がり、皆一斉に降り始めた。私も立ち上がって、彼らと共に艦橋を出る。ビットブルガーとヘレスさんも一緒に、艦の下の方に向かって降りていった。


 エレベーターで駆逐艦の一番下に降りると、エレベーターのすぐ真横に扉が開いていた。こんなところに扉があったのか、今まで全然気づかなかった。その扉の奥には通路があって、そこを通って戦艦に入るらしい。


 その狭くてうねった通路を抜けると、急に広い空間に出る。何もないがらんとした広大な空間の中を歩くと、その奥には透明な窓の着いた壁があった。その前には人が並んでいる。


 これは、私の星の駅でもよく見かけるホーム転落防止用ホームドアだ。壁のところどころが横開きの扉になっていて、その奥には線路が見える。


 しばらく待つと、電車が入ってきた。以前にビットブルガーが言っていたが、本当に戦艦内には鉄道があるんだ。とても大きな船なので、中の移動は鉄道がないと行き来できないとビットブルガーは言う。ホームドアが開き、ホームで待っていた人々は電車の中に乗り込んでいく。


 中はいたって普通の電車。ただし、私の街の鉄道より揺れが少ない。これはあの「慣性制御」のおかげのようだ。おかげで、立っていても苦痛ではない。ここが宇宙の只中であることを忘れさせる。


 ビットブルガーによれば、あと4駅で目的の街に到着する。やっと宇宙船の中にあるという街が見られる。私の心は踊る。


「そうだ、街に着いたら早速、ホテル『ゲルマニア』に行くよう言われてるんだ。何でも、政府高官や民間企業の役員を招待して立食パーティーをやるんだってさ」

「ええっ! 立食パーティー!? じゃあ着いて早々、私は偉い人達と会わなきゃいけないっていうの!?」

「そうだよ。今日と明日の午前中の2回パーティが催されて、そこから先は自由に街を見ることができるよ」

「ええっ~、明日もやるのぉ~。疲れちゃうよ」

「大丈夫だって、私も一緒だから」


 お酒が飲めるのはいいのだが、いきなり偉い人との面会かぁ。せっかく来たのだから、街を見ていたかったなぁ。ビットブルガーが一緒といわれても、あまり役に立たなさそうなこの男が一緒で気が楽になるわけがない。


 街のある駅に到着した。ドアが開き、皆一斉に降りる。私とビットブルガー、それにヘレスさんはホームから出た。


 ホームの向こう側は、確かに街が広がっていた。ビットブルガーによれば、そこは400メートル四方、高さ150メートルの空間に、4層構造の標準的な大きさの街があった。


 街というよりは、ショッピングモールを大きくしたような構造で、店舗がずらりと並んでおり、吹き抜けからさらに上の階層の店が見える。エスカレーターで上の階層につながっており、一つの階層には最大4階建ての建物がある。


 ああ、とても大きな街。こんな街ならすぐにでもお買い物がしたい。こんなに物欲が駆り立てられる街は他にはない。私の街の商店街ほどの広さの場所を4段重ねされた街だが、中にある店はどれも目新しくて、とても惹かれる。


 でも、今からホテルに直行しなきゃいけない。楽しそうな街を横目に、ビットブルガーは車を手配している。


 駅の前に黒い車が到着した。この車には屋根がない。ドライバーもいない。ここは雨が降らないから屋根は不要、おまけに自動運転搭載で、目的のホテルまで連れて行ってくれるそうだ。


 ビットブルガーと私とヘレスさんはその車に乗り込み、ホテルに向かう。私は車から見える街の風景を目に焼き付ける。気になる店は、スマホのカメラでも撮影しておいた。


 街の奥にホテル「ゲルマニア」はあった。ここは第1層から4層まで貫く大きなホテルで、宿泊施設だけでなく、会議場や宴会場もある。この辺りは私の星にあるホテルと同じようだ。


 中に入ると、そこは中世の趣の豪華なロビーが広がる。壁際にはいくつもの彫像が飾られ、壁には絵画が、床には赤いカーペットが、そして天井からは大きなシャンデリアがつるされている。


 ホテルの受付へ行く。私の向かう宴会場の場所を聞く。私とビットブルガーが会場に向かおうとすると、ヘレスさんは私に敬礼しながら言った。


「ではサオリ殿、中尉殿。パーティーを楽しんできてください」

「あれ? ヘレスさんは行かないの?」

「私はそのパーティーに招待されていませんから。これより私はチェックインして、部屋で書籍を読むことにします」

「ええっ!? 街には行かないの!?」

「私一人で行っても、たいして見るべきものはありません。パーティーが終わった後、サオリ殿と共に行動することにします。では」


 そう言って、ヘレスさんは敬礼し、振り返って受付へと向かう。本当に引きこもるようだ。ここまで来て街に行かないなんてもったいない。私と代わって欲しい。


 で、私はその立食パーティーとやらに強制参加させられる。そこは、このホテルでも最も大きな宴会場。会場に着くと、すでに100人以上の人が集まっていた。会場のある男性が、私の方にやってきて声をかけてくる。


「あなたがサオリさんですか。お初にお目にかかります。わたくし、ローデンブルグ工業のケルシュと申します」

「私は、ええと、この星の代表の……」


 あれ、私ってここではどういう肩書きで名乗ればいいんだろう? あの外交官に聞くのを忘れていた。


「ああ、そういえばあなたの星、地球(アース)805として登録されることがほぼ決まったようですよ。ここではあなたは、地球(アース)805の代表者と名乗ればよろしいのではないですか?」

「はい、ありがとうございます」


 なんと親切な方だ。わざわざ私の肩書きをご教授して下さった。


「ところでサオリさんは、どのようなお仕事をされているのですか?」

「はい、今は私の星に常駐する駆逐艦の駐在員ですが、地上ではタナカ商事の社員をしてまして…」

「タナカ商事? ということは、商社の方なのですか?」

「そうです。が、いろいろあって、今は私の国の政府から駐在員を要請されまして、ここにくることになったのです」

「えっ!? では商社では、それなりのお方なのですか!?」


 ここで私は思わず商社の社員であることをバラしてしまった。この何気ない一言が、思わぬ誤解と効果を生む。


「では、ぜひ我が社のこと、タナカ商社の社長にお伝えください」

「あ、私、ネルトリンゲン製作所のベックスと申します。我が社もぜひ御社にご紹介を!」


 気がつけば、100人以上の人が並んで私にところに挨拶にやってくる。なんだか分からないが、商社のそれなりの役職者を持つ人物と思われたようだったのが効いてるらしい。皆さん、私に名刺をどんどんと渡してくる。


 幸か不幸か、私は人の顔と名前を覚えるのがどういうわけか得意だ。その得意技を生かして、名刺とその方の名前をあらかた覚えてしまった。駆逐艦にいる間に、ここで使われる「統一文字」というものもある程度覚えたので、名刺の名前くらいならなんとか読めるようになったのが、ここでは役に立った。


 しかし、こんなにたくさんの人を会社に紹介しなきゃいけないのか? いくらなんでも、うちの社長だけでは裁き切れないだろう。会社に戻ることになったら、相談しよう。


 考えてみれば、地球(アース)399の人から見たら私の星は「新大陸」なんだよね。新しくて大きな市場。そこに住むいろいろな企業とのパイプを持つ商社の人間と聞けば、押し寄せてくるのは当たり前だ。


 もはや私の役割は、地球(アース)805と呼ばれることになった星の代表というより、ここに集まった民間企業と私の星の間を取り持つ架け橋役と呼ぶ方がしっくりくる。袋いっぱいに集まった名刺を抱えて、私はそう感じた。


 ようやく名刺攻勢が落ち着いて、私も食べ物を楽しむ余裕が生まれた。私はビール片手に、片っ端から食べ物を頬張る。これがまた、美味しい食べ物ばかりだった。


「ん~んまひ~おいひい~ひあわへ~!」


 地球(アース)805の代表者と呼ぶには、品のなさすぎる振る舞いをしているが、ここの料理は緊張感が緩むくらい美味しいから仕方がない。


「サオリ、こっちのスイーツが美味しいよ。ほら、この青いやつなんてなかなかいけるよ」

「ふえっ!? 何この青いケーキは! これ、本当に食べられる物なの!?」


 それは、食べることがかなりためらわれるほどの濃い青色のケーキだった。とてもじゃないが、食欲をそそるとは言い難い色のスイーツだ。が、ビットブルガーのやつがあまりにも勧めるから、恐る恐る食べてみた。


 な……なにこれ、美味しい……見た目はとても抵抗があるけど、確かに美味しい。甘さの中に、爽やかさがある。そう、まるでミントのような、水まんじゅうのような、そんな味のスイーツだった。


 思えばここは宇宙の果て。そんな場所で食べる料理が、私の常識通りであろうはずがない。しかし、もう少し色をどうにかできなかったのだろうか? 


 食べ物ばかり堪能していると、今度は政府関係者が押し寄せてきた。こちらは民間の人ほどではないが、20人ほどがアプローチしてくる。


 翌日にも立食パーティーが行われ、気が付けば私は300人分の名刺と面識を得てしまった。これほどの人脈、自分の星に帰ったら、果たして役に立つのだろうか? 


 で、2日目の午後から、やっと私は解放される。これでようやく街に出られる。早速私は、ビットブルガーとヘレスさんを連れて街に繰り出す。


 ヘレスさんは街に出るのがあまり乗り気ではなかったが、私が無理やり誘い出した。


「サオリ殿……私はこういう場所に出るのがとても苦手で……」

「何言ってるのよ! うちの星の街だって出歩いてたじゃないのよ!」

「あそこは、合戦に関する史跡があったからであって、こんな歴史も何もない戦艦内の街では、私が見るべきものなどありはしません」

「そんなこと言って。あんたさ、シンジのこと、気になるんでしょ?」

「はい……気になります」

「そのシンジを、もっと振り向かせたいと思わない?」

「はい、思います」

「じゃあさ、もう少しおしゃれしないとダメだよね」

「ダメですか?」

「ヘレスさんほどの容姿なら、さらに磨きをかけると、シンジのやつ、イチコロだよ?」

「えっ……イチコロ!? 殺されるんですか!?」

「そうじゃなくて、ええと……要するに、あんたが好きでたまらなくなるよってこと! いいから、私についてきなさい!」

「はい、サオリ殿。ついていきます、宜しくお願い致します」


 という感じに、シンジを餌にヘレスさんを連れ出してしまった。


 さて、ホテルから出て街に来たのはいいけれど、一体どこに何があるのかが分からない。私はビットブルガーに聞く。


「ねえ、おしゃれできる店ってどこにあるの?」

「うーん、よくわからないなぁ。大体ここは普段来ることがない戦艦ビスマルクの街だから、余計分からないんだよなぁ」

「何とかならないの? このままこんな広大な街をうろついても、目的の店なんて見つかりっこないわよ」

「分かった、ちょっと待って」


 そういってビットブルガーはスマホを取り出し、なにやら操作し始めた。


「なによ、スマホがあるじゃない。じゃあ、女性用の服屋を探してよ」

「うーん、女性向けの店なんてあるのかなぁ」

「そんなもの、あるに決まってるじゃない! 普通は女性向けの店の方が多いくらいよ」

「いや、地上ではそうだけど、ここは女性が極端に少ない艦隊の中の街だからなぁ。地上とは違うんだよ」


 あ、そうか。言われてみれば、うちの駆逐艦は乗員100人中、私を入れても女性がたったの5人。たかが数パーセントの女性客のために、どれくらいのお店があるのだろうか? 少し不安になってきた。


 が、女性は数パーセントでも、店はわりとあるもので、意外と近くにそれなりのお店があった。


 ある衣料品のお店に立ち寄る。ここはいかにもカジュアルな雰囲気のお店。見たところ、私の星とさほど変わらないデザインの服がたくさん並んでいた。


「ちょ……ちょっと、サオリ殿! 小官は、このような服を着るのですか?」

「それくらいのを一着くらい持っておくといいわよぉ。これなら、シンジの目はヘレスさんの胸元にくぎ付け間違いなしよ」


 私がヘレスさんに勧めたのは、胸元ががばっと開いたワンピース。さほど胸が大きいとは言い難いヘレスさんだが、その薄い胸板にはこのワンピースがマッチしている。


 軍服しか着たことのないヘレスさんは、結局この白くて広い胸元のワンピースを購入させた。このワンピースを入れた袋を真っ赤な頬をして抱えるヘレスさん、相変わらずいじり甲斐がある人だ。


「じゃあ、次行くわよ! 次は……どこ行こうか?」

「どうする? 希望があれば、私が探すよ」

「そうねぇ……そうだ、そのスマホ。私も買えるの?」

「えっ!? そりゃあ、買えるよ。でも、なんで?」

「だってさっきからあんたばっかり検索しているじゃないの。私だってそのスマホ欲しい。私の星のやつより、ずっと性能がいいんでしょう?」

「そうだよ。一日でバッテリーが切れるってことはないし、音楽や映画は無制限と言えるくらい入るし」

「ああ、もう! そういう話を聞くと、余計に欲しくなるじゃない! さっさとスマホを売ってる店に連れてってよ!」


 ビットブルガーをけしかけて、私はスマホを売るお店に到着する。


 そこにはずらりとスマホが並んでいた。色や大きさは様々。ただし、値段がよく分からない。


「ねえ……ここのスマホって、高いの?」

「うーん、どうだろうか。それほど高いというわけでもないよ。例えば、これなんかは100ユニバーサルドルだから、結構お買い得だよ」

「100ユニバーサルドル? なにそれ?」

「宇宙共通の貨幣だよ。そうだな、私が地球(アース)805の街で見かけた商品などの値段から推測すると、大体1エンが1ユニバーサルドルくらいだね」

「えっ!? 1エンが1ユニバーサルドル? じゃあ、ここはたったの100エンでスマホが買えちゃうの!?」

「これは最低スペックの端末だから、せめてこの250ユニドルのこれ以降のものがお勧めかな」


 ※注 ここでの「1ユニバーサルドル」、およびサオリの星の「1エン」とは、こちらの日本円で100円くらいを想定しています。


 そう言って、ひとまわり大きめのものを勧められる。だが、私が気になったのはその金額だ。250ユニバーサルドル=250エンでも安い。そんな金額じゃ、私の星ではスマホなど買えない。確かに200エンのものもあるが、性能が悪すぎて使い物にならない。少なくとも600エン以上でないと満足できないし、最近は高機能な千エン越えのスマホまであるのがこちらの星のスマホ事情だ。


 それが保存容量無制限、どんな使い方をしてもバッテリー持続時間は1週間以上、ワイヤレス充電、3Dホログラフィー表示、そんなスマホがたったの250エンで買える。夢のような話だ。


「サオリには350ドルのこれがいいかな?」

「えっ!? これ100ドル高いけど、見た目は250ドルのと変わらないよ。何が違うの?」

「ああ、『新地球(ニューアース)セット』といって、サオリのように新しく連合に加わったばかりの人々向けに最初から色々な便利アプリがたくさん入ってる端末なんだよ。文字の習得アプリや、この宇宙のことが分かる解説動画、それに音楽が3万曲に映画が2千本入ってるんだ」

「ええっ!? 3万曲の音楽と2千本の映画!? それでたったの100ドル高で済むの? どうなってるのよ、ここのコンテンツ事情は!?」

「ああ、ここに入ってるのは100年以上前に作られた著作権切れのコンテンツばかりだよ。さすがに最新のものは一曲あたり1、2ドル、映画も1本あたり7、8ドルはかかるよ」


 そうか、この宇宙にはコンテンツ文化がすでに100年以上続いているんだった。だから、こんなお得なコンテンツパックが存在するんだろう。


 ちなみに書籍にもまとめパックがあるのだが、種類と数が多すぎて同梱できないらしい。ただ戦艦内にいる間なら、気に入ったジャンルの著作権切れの書籍がいくらでもダウンロードできるらしいので、あとでホテルに戻ってからじっくり探してみることにした。


 スマホ代はビットブルガーが支払ってくれた。というか、こちらも政府から私の買い物用のお金が出てる。しかも、電子マネーで渡されたそうだ。星は変われど、考えることは同じらしい。


 手に入れたスマホを早速使ってみることにする。統一文字表記にまだ慣れないものの、使い勝手は最高だ。画面の操作も、アプリの起動も、私の持っているスマホが古臭く見えるくらいスムーズだ。それに、入っている音楽もいくつか聞いてみたが、かつての名曲揃いということで、古いながらもなかなかいい。というか、我々が聞く分には古さを感じない。ここは100年以上進んだ文化だから、むしろ新鮮な音楽に聞こえる。


 続いて、私は雑貨屋に行きたいとビットブルガーに言う。すると、せっかくだから自分のスマホで検索するよう勧められる。そこで、私はさっき買ったばかりのスマホを取り出して、雑貨屋を検索してみた。


 すると、ここから最も近い雑貨屋は、一つ上の階層に行き、隣のブロックに行くとあるらしい。この4層の街のマップが、ホログラフィーで立体表示されるため、分かりやすいのがいい。


 長い長いエスカレーターを登って上に行き、その隣のブロックに移動、目的の雑貨屋に向かう。


 その店に入ると、まず目に飛び込んだのがたくさんの星の置物だった。


 赤い大地の星、ベージュ色のガス惑星、クレーターだらけの灰色の星から澄んだ水色の星まで、この宇宙でよくみられる様々な星をかたどった球体がずらりと並んでいた。


「わぁ、これは面白いわ。シホ達にお土産に買っていこうかな」


 などとはしゃいでいると、青い星が目に飛び込んだ。


 これは、明らかに地球型の惑星の置物。青い海に、茶色と緑の大地、その上から白い雲の筋が表面にたくさんなびいている。


 これは私のいた地球とは違う形だけれど、まさしくこの宇宙に出るときに見たあの地球とそっくりだ。これを見ていると、私は急に寂しくなる。


 シホやリョウコ、それに会社の皆は元気に過ごしているだろうか? 今、私は地球から何万キロ離れた場所にいるのかわからないけれど、この青い球体の上で彼らは今も普通の生活を営んでいる。この星で私だけが一人、遠く宇宙の果てまで来ている。


 ああ、早く地球に帰りたい。青い星の置物は、急に望郷の念を駆り立てる。私はじーっとその青い星を見つめる。


「ねえ、サオリ? どうしたの、地球(アース)なんか見て黙り込んじゃって」


 ビットブルガーが心配そうに声をかけてくる。私はふと我に返り、振り向く。


「ああ、大丈夫よ。ちょっとこれ見てたら、私の星のことを思い出しただけ。みんな、元気にしているかなぁって思ってね」

「そりゃあ元気にしているだろう。宇宙では戦闘があったけれど、別にあの星には何の影響もないからね。明後日の夜には、またあの河川敷の上に帰れるよ」


 そうだよね、明後日には帰れるんだ。だけど、どうしてこんなに寂しくなってしまったのだろうか? 


 周りには、私の星の人間がいない。どこかそういう事実が私のストレスになっているようだ。立食パーティーでも出会ったのは地球(アース)399の人ばかり。さっき手に入れたスマホも、私の星で使われている文字はなく、統一文字と呼ばれる別の文字だ。さっきから、私の星の人や物が、全く見られない。せめてシホでもいてくれたら、もう少しこの気持ちがまぎれたかもしれないのだが。


 そういうわけで、私は急に静かな場所に行きたくなってしまった。そこでビットブルガーがそういう場所を探す。


 最初に向かったのは、静かなレストランだった。そこで私とビットブルガー、それにヘレスさんでスイーツを食べた。


 私の星でも見かけるイチゴのパフェが出てくる。甘いものに目がない私は、早速それをいただく。


「こ、これは……なんて甘くて美味しい食べ物……こんなものがこの世にあったなんて……」


 ヘレスさんは、どうやらこんな立派なパフェを食べるのが初めてらしい。白く透きとおった頬を赤く染めて、私と同じイチゴパフェを一心不乱に食べる。


 で、静かなレストランでパフェを堪能したわけだが、あっという間に食べてしまったため、極めて短時間しかそのレストランにいることができなかった。


 次に向かったのは、花園だった。


 こんな宇宙の果てに、こんな静かな花園があったのか。周りには、バラやユリ、パンジーにチューリップが咲いている。ここを訪れる人は少なく、周りを防音ガラスで囲われていない場所にもかかわらず静かな場所だ。ここが戦艦の中だということを忘れさせてくれる。


 私はその花園の中にあるベンチに腰を掛けた。色とりどりの花々をぼーっと眺めている。ヘレスさんも一緒に眺めていたが、どうやら彼女はこういうものを眺めるということに耐えられなかったようで、すぐに立ち上がる。


「サオリ殿とビットブルガー中尉、私はこの辺りで飲み物でも探して買ってまいります。ここで待っててください」


 そういうとヘレスさんは、花園から出て行った。


 私とビットブルガーだけが取り残される。そういえば、ビットブルガーはこういう場所にいるのは平気なのだろうか? 


「ねえ、あんたも退屈じゃない?」

「いや、私は平気だよ。むしろこの場所にいると、私の実家の事を思い出すなぁ」

「子爵といえば上流階級の屋敷だから、やっぱりこんな花園もあるの?」

「あるね。うちの実家の中庭にあるよ。でももう、5年近くは見ていないなぁ。兄貴はちゃんと手入れしているんだろうか……心配だなぁ」


 そうか、寂しいのは私だけじゃないんだ。ビットブルガーだって、200光年も離れた星からやってきて、長らく自分の星の大地を踏んでいないんだ。


「ビットブルガーも、自分の星に帰りたいとか考えたことあるの?」

「以前はね。でも今はどっちでもいいかな。家に帰ったところで、私の居場所はないし。多分、私は地球(アース)805に残ることになるかなぁって思ってるし」

「えっ!? そうなの? でも、なんで残るの?」

「そりゃあ、サオリと結婚して、ここで家族を作るからさ」


 ……あれ、もしかして今の、プロポーズだったの? 唐突に予想もしない台詞が飛び出して、私は面食らっていた。


「……ええと、ビットブルガーさん? 今、とても大事なことをおっしゃいませんでした?」

「ああ、サオリと結婚して家族を作って……」

「あの、それって本気で言ってるの!? まだ私達は出会って10日も経っていないのよ!」

「本気だよ。こんなことで私は冗談なんて言わないから」


 さっきまで望郷の念に駆られて落ち込んでいたのに、急に血圧が上がるのを感じた。いかんいかん、ちょっと話題をそらそう。


「あ、あのさ、そういえばヘレスさんが昨日の朝、駆逐艦内の風呂場で変なことを聞いてきたんだよ!」

「へえ、何を聞いてきたの?」

「いやね、キスってどんな感じですか? って聞くのよ。あまりにもヘレスさんらしくない質問でさ、私ちょっと面食らっちゃって」

「で、なんて答えたの?」

「どんなものかなんて分からないって答えたんだ。だって、キスだけというのをしたことがないから」

「ふうん。じゃあ、やってみる?」

「へ?」

「キス、してみる? 今から」

「いや、あの、その、さすがに外はまずいんじゃあ……」

「大丈夫だよ、だれもいないし」

「ええっ!? ここでするの!?」


 突然、ビットブルガーのやつは立ち上がる。そして、私の肩をつかむ。


「いいじゃん、ぱぱっとやっちゃおう」


 こう言われた瞬間、私はこの人の何が好きになってしまったのかが、ようやく分かった気がした。


 ビットブルガーという人間は、馬鹿正直だ。やりたいと思うことは、素直にやりたいと話す、そういう人だ。


 だが、それだけじゃなくて、恥ずかしいとか無理だとか思うことでできる心の中の壁のようなものを、この人はさらりと取っ払ってくれる、そういう雰囲気があるのだ。だから、普段だったら恥ずかしいと思うことでも、なぜか気を許して受け入れてしまうし、やってしまう。


 このキスでもそうだ。いくら人気のない花園であっても、普段ならば私は絶対にやろうなんて思わない。なのにこの人と一緒だと、不思議としてみたい気持ちになる。


 懐の深さというか、安心感というか、そういうものが彼に私を引き寄せるのだろう。


 私はビットブルガーの手を握り、そのまま顔を近づけて、目を閉じてそっと口づけをする。


 キスをすると、よくビビッと電気が流れるようだと言う人がいるが、電気とはちょっと違う。なんというか、暖かいものが足元から頭にかけてゆっくりと上がってくる、そういう感覚が私を襲う。


 ああ、これが「キス」というものなんだ。私はこの行為の意味を、言葉ではなく心と体で理解した。


 しばらくして、すーっとビットブルガーの顔が離れていく。私は閉じていた目をゆっくりと開く。


 ふと振り向くと、その視界の端にヘレスさんの姿が飛び込んできた。ヘレスさん、2人のこの行為の一部始終を、そばでじーっと眺めていたようだ。女は買ってきたドリンクを抱え、唖然とした様子でこちらを見てる。


 ここで私は我に返る。まずい、非常にまずい。この広い宇宙で、最もあってはならない状況に遭遇したのではないかと思えるほど、まずいことになった。


 すると彼女は両足を揃え、右手を額に当てて敬礼し、私にこう言った。


「サオリ殿、今のご行為について、後ほど感想を伺います!」


 私とビットブルガーも、唖然とした顔で、しかし冷静にと右手を額に当てて返礼する。


 後悔先に立たず、である。キスとするときは、前後左右をしっかり確認致しましょう。私は、身をもって思い知らされた。


 さてホテルに戻ると、早速ヘレスさんが私の部屋に押し掛けてきた。部屋に入ってくるや否や、開口一発、お風呂に入ろうと言い出した。


 一応、国賓待遇ということで、私の泊る部屋はとても広い。そして、一人用では大きすぎるお風呂もついている。そこにヘレスさんと一緒に入ることにした。


 どうもヘレスさん、本音を語るときはお風呂と決めているようだ。だから私と一緒にお風呂に入ろうというのだろう。


 体を洗い、湯船に浸かる。しかしなかなか話し出さないヘレスさん。だが、さっきの反応ではキスの感想を聞かれるのだろう。それが分かっているから、私からは切り出せない。私の方から「キスって、こんな感じだったよぉ!」などということは恥ずかしくて言えない。しばらく、沈黙の時間が続く。20分ほど経ったときだろうか、ようやくヘレスさんが沈黙を破る。


「サオリ殿!」

「は、はい!」

「……やっぱり、ビットブルガー中尉のことが、好きなのですか?」


 あれ、てっきりキスのことを聞かれるかと覚悟していたのに、意外な質問から来た。


 というか、いまさらそんなこと聞くか? 艦橋での私の失言で、バレバレな事案だと思っていたのだが、なにゆえ改めて確認などするのだろうか? 


「うん、艦橋でも口走ったけど、もちろん好きだよ」

「そうですか……」


 私のすでに周知のこの応えに、ヘレスさんはなぜかがっかりな様子だ。なぜ、ヘレスさんががっかりする必要がある? 


「サオリ殿が、なんだか遠くなった気がします。こうしてお風呂に一緒に入るのも、これから少なくなるのでしょうか」


 ヘレスさんが寂しそうに応える。


「何言ってんの! たとえ私がビットブルガーと結婚することになったって、あんたとは友達だよ! 一緒にお風呂だって、付き合ってあげるわ!」

「そ、そうなんですか?」


 思わず私はいきり立ってしまった。驚くヘレスさん。


「だから、遠くなったなんて言わないで! せっかく200光年の距離を隔てて、こうして会って友達になったのだから、いつまでも仲良しだよ」

「さ、サオリ殿……」


 うっすらと涙を浮かべるヘレスさん。しまった、ちょっと言い過ぎたか。


「あ、いや、そんなに深刻に考えなくってもいいのよ。ただ単に、友達でいようって言っただけだから」

「私……見ての通り、友達がいないんです。だから、サオリ殿の言葉が、とても嬉しくて……」


 泣き顔のヘレスさん。今まで、彼女から喜怒哀楽を感じたことはほとんどないから、この反応は珍しい。そうか、私とずっと「友達」でいたいんだ。


「狭い駆逐艦ならともかく、私の星は広いんだよ。友達の100人や200人、あんたにだってすぐにできるって。だから……」


 私はヘレスさんの肩を掴む。


「だから、私のことは今後、『サオリ』って呼んで」

「いや、サオリ殿は私の……」

「いいの! 遠慮しない! 親友でしょ? 私もあなたのこと『ヘレス』って呼ぶから」


 少し強引だが、ヘレスにはこれくらい言った方がいいと感じた。


「じゃ、じゃあ……サオリ」

「なに? ヘレス」

「あのね……一つお願いしてもいい?」

「いいわよ。何でも言ってちょうだい」

「ええと、その……キスをしたい」

「は?」

「あ、いや、その……キスは言葉では言い表せないというから、体感したほうが分かるかなぁって」

「……分かった。じゃあ、覚悟はいい?」

「はい…お願い……」


 ヘレスの透き通った頬がみるみる赤くなる。目を閉じて、私の口づけを待っている。そのヘレスの唇に、私はそっと自分の唇を当てた。


 ビットブルガーとキスしたときと、まったく同じ感覚が襲う。ヘレスも、おそらく同じ感覚を感じていることだろう。彼女の肩からは、力が抜けるのを感じた。


 こうして私はヘレスと、親友になった。彼女にとって私は、初めての心許せる親友なのだろうと思う。


 しかし、なぜ私は今、彼女とキスをしているんだ? 

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