- 宴(うたげ) -
その日の夜に、あのエノキダという外交官と艦長が出演する特別会見が行われた。駆逐艦不時着についての報告と、今後の地球399との交渉の道筋が示された。
『まずは、我々の艦の故障により今回の自体を招いてしまったことを、お詫び申し上げます……』
艦長のこの発言から始まった会見は、この星の人々を驚愕させる内容で盛りだくさんだった。
この宇宙の直径1万4千光年の領域内には800もの人類生存星があり、その800の星々は連合、連盟の2つの陣営に分かれ170年もの間争っているということ、彼らは連盟に対抗するため、この星を連合側に加わってもらうためやってきた、などなどの事実が明らかになる。
私はそのニュースを、他の乗員と共に食堂のモニターで見ていた。ここのテレビ放送を受信できるようにしたらしい。
食堂には私やビットブルガーさん、へレスさんの他に、20人ほどの乗員がいる。皆、この会見の様子をじっと見ていた。
当然、記者からは質問が山ほど出てくる。
『我々と同盟を結ぶのが目的だとおっしゃってましたが、本当に侵略の意図はないのですか?』
『なぜ、通常の宇宙船ではなく、軍艦で訪問する必要があったのですか?』
概ね、こんな質問がほとんどだ。まあ、相手は宇宙人、当然といえば当然だ。
これに対して、艦長は一つ一つ丁寧に応える。それにしても、報道関係者というのはなぜああも同じ質問ばかりするのだろうか? 何人もの記者が質問に立つが、事実上この2つの質問しかしていない。
『宇宙人だというのに、なぜ我々と同じ言葉を話しているのですか?』
これが、彼らのうちでもっとも知的な質問であった。だが、宇宙にある800の星々のことや、同盟締結後するとどうなるのか、などを聞く記者はいなかった。
ただ、その辺りの説明を行う動画が地球399政府から提供され、近日中にテレビにて公開されるということが会見の場で予告される。
翌日、早速この会見を受けて、各テレビ局では緊急番組を流していた。
まずアンケートがとられた。宇宙人について、どう思うか? これに対して「好意的」が24パーセント、「信用できない」が28パーセント、残りの半数以上が「分からない」だった。どこの局も、だいたい同じような結果だ。
議会でも論戦になる。野党側はこの一件に食いついていた。この不時着以前にも、宇宙人と政府の間には接触があったのではないか、というのだ。
だが政府の回答は、宇宙人との接触は今回が初であり、それ以前にはないというものだ。これは正しいだろう。地球399の人達もまだ来たばかりだと言っているし。
だが野党側は、以前とあるテレビ局で流された宇宙人番組で、宇宙人と政府との接触があったとされるシーンを引用し、それを根拠に政府が宇宙人の存在を隠ぺいしてきたと主張したのだ。
その番組では、政府が極秘に宇宙人の民間人拉致を容認してきたと言っていた。が、その番組の内容があまりに事実と異なるため、証拠とするにはいささか心許ない。なにせあの番組では、宇宙人は緑色のどろどろした体を持ち、人体実験を行う残虐な生命体だと言っていた。だが実際には我々と変わらない姿であり、人体実験も行わない。しかも当のテレビ局もこの番組がフィクションであり、単なるバラエティ番組であるという声明を発表した。多分、そのテレビ局にはものすごい問い合わせが来たのだろう。これを受けて、国会でも宇宙人の極秘接触はなかったということでまとまる。
そんなやりとりが世間で行われている中、私はその宇宙人達を街に連れ出した。
もちろん、艦長の許可も取り、外交官のエノキダ殿にも知らせた上での行動だ。なんら問題はない。
あの衝撃的な記者会見の翌々日の昼間には、5人の宇宙人を連れ出して商店街に繰り出す。
ビットブルガーさん、へレスさんの2人は今回も参加、そこにチャラ男宇宙人のシュパーテンさんと、アルトさんという女性士官に、ピルスナーさんという男性士官が加わった。
アルトさんという女性士官は、いたって普通の女性だ。この艦にいる4人の女性の内の1人。おっとりした性格で、甘いものが大好きだという典型的な女子。アイスを食べる我々を見て、外に出たいと願い出てきた。
「アイスですか、美味しそう! 私も食べたいです~」
こんな感じの、なんだかふわふわとしたしゃべり口調が特徴の少尉さんである。
ただアルトさん、一つだけ特殊な一面がある。
彼女の所属は機関科。つまり、エンジン担当だそうだ。そのせいかどうかは知らないが、機械が大好き。特に、大型で、力強い機械がたまらなく好きなのだという。
昨日のことだが、まだ生きている片側の核融合炉を見せてもらった。
「見てください! サオリ殿!! この核融合炉は、たった1基で出力400万キロワットも出せるんですよ!! わかりますか!? そのすごさが!!」
機械を前にすると、急に鼻息が荒くなるアルトさん。ハンドルを握ると性格が変わる人というのはよく見かけるが、大型機械を見ると性格が変わる女子は、私はこのアルトさん以外には会ったことがない。
さてもう一人、ピルスナーさんだが、我々の言葉で言い表せば、彼はずばり「イケメン」だ。
背も高く、鼻も高く、気品も高い。それはそうだ。彼は地球399のある国の、伯爵家出身の高貴なお方だという。身分も高いのだ。
ただし、次男なので家督を継げず、軍に入ったらしい。貴族というのは、長男が家を継いで、次男は軍属になるというのが一般的らしい。せっかくのイケメンなのに、理不尽な話だ。
だが、性格はおおらかなで、そんな理不尽をもろともせず、ポジティブに生きている。だから、ビットブルガーさんから外出に誘われると、喜んでついてきてしまった。
そんな5人の宇宙人を連れて商店街に来る。だが、先日ビットブルガーさんとへレスさんを連れ出した時とは事情がちょっと異なる。
それは、彼らが来ている紺色のこの服が、宇宙人の軍服だとばれていることだ。記者会見の際に艦長が着ていた服のデザインと同じであり、似た服装が存在しないため、簡単に宇宙人だと分かってしまう。
「えっ……あの、この人たち、もしかしてあの船から来たの?」
商店街のお土産屋の若い女性店員から言われた一言だ。明らかに警戒しているが、すかさずピルスナーさんが応える。
「はい、我々は地球399から参りました宇宙人です。あなた方にお目にかかれて、光栄に存じます。我々の艦が故障し、しばらくはご迷惑をおかけしますが、何卒よろしくお願いいたします」
ピルスナーさんは背も気品も身分も高いが、物腰は低い。この店員さんもあっという間にこの宇宙人の虜になってしまった。
あのチャラ男が正直心配だったが、これはこれでなかなかプラスの効果を出してくれる。
「えーっ!? あなたがあの宇宙人なの!?」
「そうですよぉ、200光年もの長旅を経て、あなたのような方に会うため、この星にやってきたのです!」
「ええーっ!? やだぁ、この人!!」
口では拒絶しているが、どうやらこのシュパーテンという宇宙人が面白いらしい。一方のシュパーテンさんも、この星の女子の反応がよすぎてノリノリだ。
へレスさんは相変わらず合戦関連の史跡にぞっこんだ。今日は神社を見ている。
この神社は、勝利したタケガワ公が戦勝を感謝して立てた神社で、あの丸太による奇跡の一撃が勝利を呼び寄せたことから、一発逆転のチャンスを呼び寄せるとして人気が高い神社だ。受験生や会社員、それに恋愛に賭ける女子が御利益を求めて押し寄せる。ここにはあの丸太を模した棒状のお守りがあるのだが、これがこの神社で最も人気の商品だ。
でも私、この丸太のお守りを持っているんだけど、結局ふられたからなぁ。効果があるとは、私の口からはとても言えない。
「この街って、とても古臭い感じの街ですよね」
などとストレートに表現するのは、ご存知、馬鹿正直男のビットブルガーさんである。
「そういうのは趣があるとか、風情があるとか、歴史を感じるとか言えないの!?」
私は思わず突っ込む。だがこの男、発言を改めるつもりはないようだ。
「えーっ、いいじゃないですか。私は古臭い雰囲気、好きですよ」
あんたの好みを聞いてるんじゃない。人聞きの悪い表現だといっている。
宇宙人というのはもっと恐ろしい存在だと思っていたのに、なんだろうか、このゆる過ぎる人達は。私は随分と慣れたが、この商店街の人々はその事実に戸惑っているところだ。
こんな調子で街を巡っていると、突然声をかけられる。
「あれ? サオリじゃないの! 何やってんの、ここで」
振り向くと、そこにいたのはシホだった。私の会社の同僚で、友人でもある。
「あれ!? シホ、今日会社じゃないの!?」
「何言ってんの、今日は臨時休業だよ。馬鹿でかい宇宙船が来てるから、明日まで様子見だってさ。さっき会社で言われて、今から帰るところなんだよ」
「ええっ!? 会社はそんなことになってるの!?」
「なってるの、じゃないわよ! あんた一体何してたのよ!? 会社は休んでるし、メッセージを送っても返事がないし……」
あ、しまった。返事出すの忘れてた。そういやふられたあの日も、メッセージをもらってたんだった。
「いやあ、ごめんごめん。今ちょっと大事な仕事しててさ」
「真っ昼間から会社サボって、ウロウロするのが大事な仕事なの?」
「ち、違うって! ほら、あの宇宙船、あそこの乗員を街に案内してるのよ!」
「……あんた、なんでそんなことやってるのよ?」
「あれ、会社では何も聞いてない?」
「何も聞いてないわよ。ただ、部長が、サオリがしばらく休むことになったとだけ言ってたわよ。てっきりやばい病気にでもかかったのかと思ってたのよ、私」
「そうか……話せば長いんだけどね。あの宇宙船が落っこちてきたときの私、あの川の下にいてね……」
当日起こったことをシホに話す。
「……じゃあ、そのまま成り行きで宇宙人の相手をさせられてるの?」
「まあ、そういうことになるわね。でも、社長の承諾までもらっちゃっててさ、帰るに帰れないじゃない」
「ふうん、サオリも大変だったんだねえ。で、その宇宙人達はどこにいるの?」
「どこも何も、目の前にいるわよ」
すぐそばにいたのは、ピルスナーさんだった。シホを見て、挨拶に来たようだ。
「あの、こちらはサオリ殿の友人ですか?」
「はい、同じ会社の同僚で……」
「し、シホって言います! よろしくお願いします!」
「ピルスナーと言います。こちらこそ、よろしくお願い致します」
シホは私の腕を引っ張り、小声で聞いてくる。
「誰よ、この少女漫画の恋人役を立体化したような人物は!? これ本当に宇宙人なの!?」
「そうだよ、なんでも伯爵家の次男らしくて、とても気品あふれる人だよ」
「は、伯爵!? どうなってるのよ! 宇宙人にも貴族なんて身分があるの!?」
「知らないわよ、私だって彼らと接触してまだ3日目なんだよ!? 知らないことの方が多いんだから」
こそこそと話していると、声をかけられる。
「やあ、サオリ殿。こちらのお嬢さんはどちら様?」
来た。シュパーテンさんだ。めざとくシホを嗅ぎつけてきた。
「ああ、ええとこちらは私の会社の同僚で、シホって言うんだけど……」
「シホ殿ですか。私はあなたに会うため、200光年彼方からはるばるやってまいりました、シュパーテンというものです」
「はあ……」
「よろしければ、ご一緒にお茶などいかがですか?」
「……何、あの人。あれも宇宙人?」
シホは警戒気味だ。やはり初対面でいきなりこれでは、警戒されて当然だろう。
シュパーテンさんを適当にかわした後、残りの3人もついでに紹介しておいた。だがシホ的には、最初のピルスナーさんのインパクトが大きすぎて、あとは関心がなさそうだった。
「ねえ、サオリ。飲み会やらない?」
「えっ!? 飲み会!?」
「そう。宇宙船って、男ばかりなんでしょう? だったら、こっちは女子をかき集めて、一緒にわいわいやろうよ」
「まあ、いずれやろうかと思っていたからいいけれど……でも、だれを呼ぶのよ。今この時期に、宇宙人相手で集まるものなの?」
「そうねぇ……何とか知り合いの女子を集めてみるよ。それよりもいいの? 軍人が外で飲み会なんて参加してもさ」
「うん、まあ、艦長に話してみる。そういえば、こっちにも女子はいるのよね」
「ああ、そうだったわねぇ。てことは一人くらい、男も呼んだ方がいいのかな。でも相手はあのへレスさんなのよね……」
やはり、あのヘレスさんが引っかかるのか。気持ちはわかるが、私としてもせっかく話せる仲になったことだし、外したくはないなあ。
「ねえ、あの人、どういう人なの?」
「うーん、そうねぇ。歴史オタクって感じかな?」
「歴史オタク、そうなの。そうねぇ……そういえば1人だけ、ちょうど良さそうなのがいるよ」
「えっ!? 誰?」
「ほら、総務部の痩せ男よ。彼もそれなりのオタクって聞くわよ」
ああ、分かった。話したことはないが、そういう雰囲気の人物は確かにいた。言われてみれば、ヘレスさんといい勝負かもしれない。
だが、へレスさんと同系列の人間をぶつけると、話が進まないのではないか? ヘレスさんは自分から話しかけるタイプの人物ではないし、その痩せ男も多分そうだろう。
いいのかなあ、そんな組み合わせで。ともかく、一緒に飲み会をやろうということで決まった。費用は私の例の電子マネー持ち。日時は、明日の夜。
「ああ、もしもし、私。明日の夜、空いてない? あのね……」
早速誰かに電話している。シホもこういうの好きだから、任せて大丈夫だろう。
……ところで、地球側は女性だらけで、宇宙人側は男性ばかり。これって飲み会というより、合コンではないか? 200光年を隔てた合コン。おそらく、この地上では初の試みではないか?
ところで、明日はやっと部品を持った駆逐艦がやってくる。その後に飲み会など行ってる余裕はあるのだろうか? それだけが心配だ。
シホと別れ、私と宇宙人の5人は艦に戻る。さすがにもう混乱はなくなりつつある。堤防の上の道はまだ封鎖されているが、明日の部品輸送の駆逐艦訪問以降は、ここも開通する予定だという。
艦に戻った私は、今日見た彼らの出来事をノートにまとめる。私は駐在員に任命されてから3日、ここでの記録をノートに残すようにしている。史跡好きの宇宙人、チャラ男の宇宙人、機械好きや貴族出身、それに馬鹿正直な宇宙人の話はすでに書いた。
その日の夜も史跡好きの宇宙人と風呂に入り、馬鹿正直な宇宙人を加えて夕食を食べる。ここ3日はこのパターンが続く。
そして、ついに翌日を迎えた。
その日の朝11時に、もう一隻の駆逐艦がやってくることになっている。この船の修理部品を届けるためだ。私とビットブルガーさん、ヘレスさんら数名の乗員は、艦の外でもう一隻の船の到着を待った。
上空にはヘリが飛び交う。報道関係と首都防衛隊のヘリだ。前回とは異なり、今回は予告された訪問。この故障艦とは違い、私はまともに飛ぶ宇宙船というものを初めて見ることになる。
しかし、こんな狭い場所にちゃんと着陸できるものなのだろうか? 少し不安ではある。この河川敷はそんなに広くはない。この船と同じサイズのものが着陸できるスペースは、この船の前に1隻分しかない。
そんなことを考えていたら、遠くに灰色の船体が見えてきた。ゴゴゴという、あの重苦しい音を出しながら、ゆっくりとこちらに向かってくる。
超高層ビルほどの長さの船体がこっちに向かってくる。こちらの船と姿形はまるで同じ。ただし、この船が降りてきた時と違い、実にゆっくりと飛んでいる。その周りを、報道関係と防衛隊のヘリが囲む。
その船は、この船の正面の着陸場所の真上で停止した。ぴたっと止まる船。故障していなければ、あそこまでぴたりと制御できるんだ。そしてその船はそのまま緩やかに下降し、地面に降りてきた。
ちょうどこちらの船に向かい合うような格好で降りてくる駆逐艦は、そのまま地面に着陸した。多少ズシンという衝撃音はあったものの、前回のこの船の着陸に比べたら静かなものだ。土煙も立てず、地面を揺らすことなく地上に降り立った。
全長が300メートルある、そこらの高層ビルよりも長い大きな船。そんなものが今この河川敷に2隻も並んでいる。この光景を、報道関係者が空や地上から撮影している。
さて、着いたはいいが、どうやって部品の受け渡しをするのだろうか? 部品を持った船が到着するや否や、艦長が何やらスマホを取り出して、誰かに指示を出している。なにかを始めるようだ。
すると、こちらの船の左側からギギギという音がする。どうやら、故障したエンジンのある区画の扉を開けているらしい。開けられた扉の奥には、核融合炉や重力子エンジンと呼ばれる大きな機関がむき出しになっている。左側は商店街のある側に向いているため、堤防の上からは丸見えだ。それをバシャバシャと撮影するカメラマン。
もう一隻の船にも動きがあった。上のハッチが開いて、中から白くて角ばった航空機のようなものが出てきた。
ヘリのように垂直に上昇するその機体には、ローターはなく、まるで飛行船のようにふわっと浮き上がる。すごい技術だが、これだけ大きな船でさえ浮かせるだけの力がある彼らだ。あんなヘリ程度の大きさの物体を浮かせることなど、造作もないことのようだ。
その白い機体の下には、大きな包みがつけられている。それをゆっくりとこちらのエンジンの扉に向けて運んでくる。ビットブルガーさんによれば、あれは「哨戒機」と呼ばれる航空機だという。この船にも2機載っているとのことだ。
その哨戒機は、徐々にこの艦の左側面に接近する。哨戒機がある程度近づいたところで、こちらの船の中から大きなロボットの手が伸びてきて、哨戒機が運んできた包みを掴む。哨戒機は包みを切り離し、そのまま帰っていく。
帰っていった哨戒機、今度はあちらの船の上の、先ほど出てきた扉の上で止まる。すると今度はその扉の奥から伸びてきたロボットの手に掴まれて、中に引き込まれていった。
それにしても、宇宙人の船はロボットだらけだ。お風呂に調理、洗濯、航空機の収容にもロボットを使う。便利には違いないが、なんだか使いすぎな気もしなくもない。
用が済んだため、ヒィーンという音を出して、あちらの船は浮上する。徐々に高度を上げる駆逐艦。そのまままっすぐと高度を上げていき、とうとう見えなくなった。
「あの艦、宇宙に帰るんですよ。あのまま高度4万メートルまで上昇し、そこでエンジン全開で大気圏を離脱。いつもそういう手順で宇宙に行くんですよ」
さらっと宇宙への行き方を解説するビットブルガーさん。まあ、宇宙人だもんね。この地球では、宇宙に出るのは大変なこと。それをこの人達は、まるで近所の商店街にでも行く感覚で宇宙に行けてしまう。
早速、艦内では部品の取り付けを行う。側面は開けっ放しのまま、作業を始めた。閉めると作業スペースが足りなくて作業しづらいため開けっ放しにしているそうだが、外からはその光景が丸見え。おかげでまたカメラマンの被写体となってしまう。
ロボットの手があることと、修理しているのが核融合炉などという未知の機械であることを除けば、いたって普通の作業風景だ。ここ4日ほど彼らと接触しているが、我々との違いをあまり感じない。
ただ、少しだけ我々と彼らの違いがあることを知った。それは「歴史」である。
我々の星は、彼らの指標で「文化レベル4」なのだそうだ。未開状態が「1」、農耕文化と国家が存在する状態が「2」、産業革命を経て工業文明を持つ状態が「3」、計算機を持ち情報革命を経験した状態が「4」、そして、宇宙に安定的に進出している状態に達していれば「5」と分類されているらしい。
彼らは約100年前に、地球045によって技術と文化をもたらされ、宇宙進出を果たすことになった。そのときの彼らの文化レベルは「2」、我々でいうところの中世の真っ只中のような状況で、各地に王国があり、城を構えて剣と槍で戦争をやっていたそうだ。
それがいきなり宇宙の文化がもたらされて、文化レベル5にまで引き上げられた。だから、彼らの星は工業革命や情報社会という過程を経験していない。
このため、中世のお城の横に宇宙船が停泊する宇宙港が作られていたり、貴族という制度がまだ残っていたりする。ピルスナーさんの実家が伯爵というのはその名残らしい。
おかげで、産業革命や情報社会という段階を経た我々の星の「歴史」が珍しいようだ。商店街から少しいったところに鉄道資料館があって、昨日シホと別れた後にそこに行き、展示されている蒸気機関車を彼らに見せたのだが、皆、興味津々だった。
「何ですかこの鉄の塊は!? めちゃくちゃかっこいいじゃないですか!」
案の定、アルトさんは食いついた。目をらんらんとさせて、古臭くも重厚なその蒸気機関車を見ている。宇宙に出るくらいだから、蒸気機関くらいあると思ったのだが、彼らはこういうものを作った歴史を持たない。このことを私はそこで聞いて知った。
別に文化を飛躍したからといって特に問題はないのだが、彼らにとってはこの星の歴史は「深い」のだ。
他にも、蒸気機関車のみならず、50~100年ほど前に建てられた旧家や商店、それに古いコンピュータなど、工業革命時代や情報社会の歴史を知ることができる建物や資料に関心が高いようだ。
さてその夜、そんな彼らを商店街にある居酒屋に招く。アルトさんは機関修理のため来られず、こちら側は男性3、女性2、一方、シホ側は女性2、痩せ男1。たまたまだが、過不足なく男女が揃った。
それにしても、シホは自分以外に2人しか呼べなかったことになる。やはり宇宙人相手というので難色を示す人が多くて、人が集まらなかったようだ。
「えーっ、それでは、はるばる200光年彼方からいらした地球399の方々の歓迎会を行います! では、カンパーイ!」
わーっと盛り上がる8人の集団。宇宙人がいると知って一瞬ドン引きする周囲の客。そんな周囲の状況に御構い無く、会は開かれる。
乾杯という習慣は彼らにもあるのだが、発する言葉が違う。
「乾杯!」
「プロージット!」
こういう多少の違いはスルーして進めないと、異文化との交流などうまくいくはずがない。なにせ我々の間は地球の裏側とかそういうレベルじゃない。いくつもの恒星を超えた、200光年も離れた者同士なのだ。
このもっとも長距離同士が顔を合わせた宇宙規模の合コンが始まり、早速会話が進む。意外にもノリが良かったのは、この2人だった。
「ぎゃははは! 何それ、チャラ男のくせにそんなことをしてるの!?」
「何言ってんの、俺みたいなのは、裏で努力しているものなんだぜ!?」
何がきっかけでここまで意気投合できたのだろうか? シホとシュパーテンさんが2人、盛り上がっている。
「ここのお酒、美味しいですね。こんなに薄いのに美味しいビールは、うちの星にはないですね」
褒めてるのかけなしてるのか分からない発言をする男は、ビットブルガーさんだ。薄いから水のように飲めると言いながら、がんがんと飲んでいる。
「あんた、そんなに飲んで大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ、私はお酒大好きですから。それに我々にはいいものがあるんですよ。あ、そういえばサオリさんにこれを渡しておきます」
そう言ってビットブルガーさんがくれたのは、錠剤のようなものだった。
「なにこれ、変な薬じゃないわよね?」
「ああ、これ、二日酔い防止の薬です。これを飲むとアルコール分解を促進してくれるんですよ。この会が終わったときに飲めば、翌日悪酔いしなくなるんですよ」
「へえ、そんな便利なものがあるんだ」
さすが宇宙人。こういうところは妙に進んでいる。
「ねえ、ビットブルガーさん」
「なんですか?」
「あんた、彼女とかいないの?」
「いませんよ」
「……さらっというわね。あんたさ、ピルスナーさんほどじゃないけど、それなりの外観じゃないのよ。今まで1人くらいはいたんじゃないの?」
「いやあ、あの閉鎖環境に5年ですよ。100人の乗員に女性が4、5人。ひどい時は0って時もありましたよ。競争率高いし、私のような不器用な人間なんてそもそも見向きもされないし、だから、恋愛なんて考えられないですよ」
「ふうん、でもさ、ここんとこ私とヘレスさんの2人で行動すること多いじゃん。両手に花。いい環境じゃないの?」
「言いますねえ。でも、艦内のあの雰囲気を考えれば、いい雰囲気ですね。でも、ヘレス少尉は私なんぞ眼中にないですから、どうも近寄りがたいんですが、サオリさんなら……」
「はあ? 私ならなんなの!?」
「あ、いや、なんでもないです」
「なによ、男ってばいっつもそうやってはぐらかすんだから」
私もちょっと酔っているようで、ビットブルガーさんに絡んでいる。
ふと端の席に目をやると、ヘレスさんが1人黙々と何かを食べている。その正面には、シンジという総務部の痩せ男が、同様に黙々と食べている。
この2人、雰囲気は似ているが、だからといって一緒に話をするわけではないらしい。せっかくの場なんだから、何か話せばいいのに。
そう思った私は、ヘレスさんのところに行く。
「ヘレスさん、ちゃんと飲んでる?」
「いえ、お酒は苦手なので、どちらかというと食べる方に専念しております」
「こういうところでは、ちゃんと飲んどいた方が良いわよ~。二日酔いしない薬もあるんでしょう? ぱあっと飲んだって大丈夫よ!」
「サオリ殿、酔ってますね」
視線が冷たい。この人はどうもはじけるということを知らないようだ。私は相手に合わせて話題を変える。
「そういや、街に出るといっつもあの商店街の入り口にある資料館ばかり行ってるよね。そんなに面白いの?」
「面白いです。今、我が駆逐艦が着陸している辺りで、昔に8度も戦があったなんて、なんという偶然。我々は何かの縁に引き寄せられて、あそこにたどり着いたのではないでしょうか?」
ヘレスさんにしては、妙にロマンチックなことを言う。
「そういうわけで、今はあの合戦について調べているんです。どうやら3回目にも大掛かりな合戦が行われているらしいのですが……あの資料館の文字が読めなくて、それ以上のことが分からないのです。なんとかなりませんか」
えっ、3回目? そうなの? 私はあの戦いのことに詳しくないため、そんなマイナーな合戦については知る由もない。
どうしようかと思っていた時、テーブルの向かい側から話しかけられる。
「あのー……僕、知ってますよ、大久伝川、3度目の合戦の話」
振り向くと、話しかけてきたのはあの痩せ男、シンジだった。
「そ、そうなのですか!? その3度目の合戦で、一体何があったのです?」
ヘレスさんが食いついた。この2人、ずっと向かい側に座っていて、初めて交わす会話である。
「あの3度目の合戦では、ナガスギ軍が初めて『盾槍陣形』を使った戦いだったんですよ。このときタケガワ軍は、有力武将を4人も失うという大敗北を喫して、一時この辺りの支配圏を奪われたんです。その後夜襲や物量戦でなんとか追い返したものの、しばらくはこの陣形に苦しめられることになるんです」
「ええと、シンジ殿……だったか? あの陣形、普通に横から攻められれば、それだけで崩されるものではないのか? なぜ、あれほどの鉄壁さを誇れるのだ?」
「いや、ちゃんと考えられているんですよ。弱点となるあの陣の横にはですね……」
ここからは2人だけの、マニアックな会話が続く。いったん会話がつながるとこの2人、よくしゃべる。やはり当初の読み通り、相性はいいようだ。ヘレスさんの頬の色を見ればよく分かる。
ということで、うまく着火した2人のことは放っといて、他の人物に目を移す。
反対側の端には、リョウコが座っている。リョウコとは私の同僚で、一説によればそれなりのお嬢様だと言われている女性社員だ。
だがこのお嬢様、とにかく気が強い。油断していると部長にまで食ってかかる。だから、こんな会に参加すること自体が意外だった。
しかしシホ曰く、彼女に声をかけたらすぐに誘いに乗ったらしい。他の女性は宇宙人と聞いてドン引きしている中、まさか彼女がこんな得体の知れない合コンに来るとは思ってなかったようで、誘ったシホも驚いていた。
「ええっ!? では貴方、次男だからという理由で、貴族の座を追われて軍属になったとおっしゃるのですか!?」
「ええ、まあ、そういうことになりますかね。我がヴァルテンブルファー伯爵家では、地球399が宇宙に進出した時からそういう伝統になっているんです。嫡子は家を、次男、三男は星に尽くせというのが我が家の家訓なのです。ゆえに私はこうして遠征艦隊に身を置いているのですよ」
そのリョウコだが、何を叫んでいるのかと思いきや、話し相手はあのピルスナーさんだ。
「でも、生まれた順番が違うというだけで、どうして家を出なければならないのですか! 我が家では考えられないことですわ!」
「ですが、私が宇宙に出たことで、こうして私のことを心配して下さるリョウコ殿にお会いできたのです。その巡り合わせに、私は感謝してますよ」
「だだだだ誰が貴方のことを心配しているというのですか! 私はただ、その理不尽な伝統に異を唱えているだけなのですよ!」
なんだか面白い会話をしているようだ。ちょっとツンデレなリョウコが、ピルスナーさんのペースにのせられている。この2人、案外お似合いかもしれない。
気がつけば、3組のペアが誕生したようだ。私はその男女の組みを眺めながら、ビールを飲む。
「大丈夫ですか? ぼーっとしてるようですけど、酔っ払ってきましたか?」
ビットブルガーさんが話しかけてくる。
「当たり前でしょう、酔っぱらうのは。飲み会なんだから。それよか、あんたはいいの? 他の女性に声かけなくても」
「かけようにも、みんな相手がいますし。残っているのはサオリさんだけですよ」
言われてみれば、そうだった。残っているのは私とビットブルガーさんだけだ。
「しょうがないわね。じゃあ、私が相手してあげるわよ」
「お願いします。でも、サオリさんと一緒で私は嬉しいなあ」
この男、馬鹿正直なのだが、それ故にこんなことをさらりと言ってのける時がある。なんだか照れ臭い。
「ななな何言ってんの。こん中じゃ、余りものだよ、私」
「えっ!? そうですか? 私は最初からサオリさんが本命ですよ」
「ほ……本命だとか、あんた本気で言ってんの!? ちょっと酔ってるんじゃないの」
「今は酔ってますけど、別にしらふでもこの気持ちは変わりませんよ、私は」
急にビットブルガーさんから迫られた。なぜか私も意識してしまい、顔の表面が熱くなるのを感じた。
「わ、私のどこがいいのよ。この通り、出会ったときからあんたに対してはきつい女よ。普通こんな女相手に惹かれる奴なんていないわよ!」
「そうですか? でもなんだかんだと言いながら、私のことや、我が艦のみんなのことを助けてくれてるじゃないですか。そういう優しいところに、私は惹かれてるんですよ」
「わ、私が優しい? やっぱりあんた、酔っ払ってるんじゃないの」
「そうですねぇ。酔ってますよ。だからこそ本心が言えるんじゃないですか。いけませんか?」
この宴会を開いた目的の一つに、外交官からの依頼である、宇宙人の「本性」を探るというものがある。
だが、私はとんでもない「本性」を引き出してしまった。
そもそも私は失恋が原因で、彼と出会うことになってしまった。そんな彼から今、私は迫られている。
胸の奥がキュッとする。鼓動が早まる。今までそういう対象として見ていなかったのに、急にビットブルガーさんを男として意識してしまう。
「あ、あのさあ、私って一度、別の男からふられてんのよ。いいの? そんな女で」
「それはふった相手が見る目がなかっただけのこと。私には、サオリさんのいいところがちゃんと見えてますよ」
「私のいいところって、何よ」
「さっきも言いましたが、優しいところがあるのと、あと気兼ねなく話せることですかね」
この男は本当にさらりと馬鹿正直に言ってのける。だが、今のは褒め言葉なのか?
「あのさあ、もうちょっと気の利いたこと言えないの? 綺麗だ、とか、魅力的だ、とかさ」
「そんな当たり前の事、言ってもしょうがないじゃないですか。姿形ではわからない、サオリさんらしいところに惹かれているんだから、それを言ったまでですよ」
やっぱりこの男は、真っ正直でやや不器用だ。女性の扱い方が、なっていない。
でも、そんな男のこの言葉につい惹かれるのは、一体何故だろうか?
「ま、まあ、あんたがそこまでいうのなら、付き合ってあげてもいいわよ! でも、きっと後悔するわよ! いいの!?」
「いいですよ。でもサオリさん、こんな酔った男の言葉をちゃんと受け止めてくれるなんて、やっぱり優しいですね」
この男、さっきから私の心の中に土足で上がり込んでくるようなことをずけずけと言ってくる。おかげで私の心は今、大変なことになっている。
こんな調子で、気がつけば宴会の時間が終わってしまった。お酒の力は、宇宙人の本性を引き出しすぎてしまったようだ。
気がつけば、4組のカップルが誕生している。皆それぞれに、得られるものは大きかったようだ。
「ではシンジ殿、今度資料館にてお会いしましょう」
「はい! ヘレスさん! お待ちしてます」
歴史オタクコンビは、すっかり意気投合している。ナガスギ公もタケガワ公も、300年後にまさか自分たちの合戦が、200光年もの距離を隔てたこの2人を引き寄せるきっかけにされるなどとは、思いもよらなかったことだろう。
それにしても、私はこのときヘレスさんの笑顔を初めてみた。あの彼女の透き通るような白い頬は赤さを増していたが、そこに表情が加わると、この人も人間だったのだと認識する。
チャラ男とシホの2人は、次の合コンをセッティングする方向に調整を進めていた。やはりいいコンビだな、この2人。
一番面白いのはリョウコだろう。あれだけ攻撃的なイメージが強いリョウコが、伯爵様ご子息の前でデレている。
そして、私とビットブルガーだ。
「サオリさん」
「は、はい!」
「……大丈夫ですか? なんだかちょっと疲れているみたいですけど」
疲れの80パーセントは、あなたが原因なのですが。
「そうそう、これ飲んでおいた方がいいですよ」
「これは……ああ、あの二日酔い対策のやつ」
「これ、本当に効きますから、すごいですよ。でも、おかげで酔いが覚めるのも早いんですけどね……駆逐艦に着く頃には、ほとんど冷めちゃいますけどね」
そんなに効くんだ。二日酔いどころか、速攻で酔いを覚ましてくれるんだ。やっぱりこの宇宙人の技術ってすごい。私はもらった錠剤を飲み込んだ。
「あんた、酔いがさめたら、さっきまで言ったことを忘れちゃうんじゃないでしょうね……」
何故、私は念押しするか。
「大丈夫ですよ。言うほど酔ってませんから、私」
と言いながら、錠剤を飲むビットブルガーさん。本当に、大丈夫なのだろうか?
ここで地上組と駆逐艦組は別れ、5人は駆逐艦の方に向かって歩いていく。
私は飲みすぎたようで、少しふらふらとしながら歩いている。ビットブルガーさんが肩を貸してくれた。
「大丈夫ですか? ちょっと飲みすぎたんじゃあないですか?」
「うるさいわね! あんたが飲ませたんでしょう! それにしても、ちっとも効かないわよ、あの薬!」
などと突っかかる私。と言いながらも、ビットブルガーさんの肩にのしかかったまま、私は歩いていく。
駆逐艦のある堤防までやってきた。あの駆逐艦すでに修理は終わり、左側面の大きな扉は閉じられていた。
その駆逐艦が見えたあたりから、急速に酔いが冷めてきた。あれだけふらふらだったのに、急に体が言うことをきくようになった。あの薬の威力は、本当にすごい。
だけど、なんとなくこのままでいたい気がして、船に着いてからも酔ったふりを続け、ビットブルガーさんの肩に寄りかかっていた。そんな私を、ビットブルガーさんは部屋に送ってくれるため抱え続けてくれた。
「そういやあさ、あんたの部屋ってどこなのよ」
1人部屋が並ぶ通路に途中で、私は不意に聞いてみた。
「ああ、そこですよ。そういえばサオリさん、結局一度も私の部屋に来たことないですよね」
ここに来て毎朝、ヘレスさんと一緒に朝食をとるので、ビットブルガーさんの部屋に行くことがなかった。だから、ビットブルガーさんの部屋の場所を確認したことがない。
それで部屋の場所を聞いてみた。部屋の前に着くと、私はビットブルガーさんと共にそのまま中に押しかけてしまう。
男の1人部屋というから、もっとごみごみとしたものをイメージしていたのだが、中を見渡すと案外さっぱりしてて綺麗な部屋だった。私はそのままベッドの上に倒れこむ。
「あーっ、疲れたー!」
「サオリさん、そこ私のベッドですよ」
「いいじゃないの、私が寝ちゃいけない理由でもあるの?」
「いや、男の1人部屋ですよ、もうちょっと警戒していただかないと…」
「何よ、この私を襲うつもり? いいわよ~、受けてたってやるわ」
何を言ってるんだろう、私は。
「あの、サオリさん?」
「何よ!」
「まだ酔ってます? それとも、もう冷めました?」
あれ、妙に冷静だ。てっきりこのまま何かされると思ってたのに。
「まだ酔っていらっしゃるなら、お部屋にお送りします。酔った相手に手を出すのは、本意ではありませんからね。それとも、実はもう冷めてるんですか?」
「……うん、実はね、堤防の下あたりぐらいから、冷めてた」
私は、正直に申告する。
「やっぱり、そうじゃないかと思ってましたよ。艦に入る辺りから急に軽くなったので、そろそろ薬が効いてきたのかなあと感じてたんですよ」
「何よ! じゃああんた、知っててそのまま部屋に連れ込んだって言うの!」
「いや、入ってきたのはサオリさんの方ですよ?」
そうだった。私が勢いに任せて入ったんだった。
「……そういえば私、なんであんたの部屋なんかに入ったんだろう? まさか、あんたと一緒に寝たいなんて思ったからなのかな……」
「そうじゃないですかね。まあここは、そういうことにしておきましょう」
などと、決して巧みではない言葉につられてしまう私。そのままベッドの上で、ビットブルガーさんの手にかかってしまう。
おかげで私は、宇宙人の男性の身体の構造が、我々の星の男のそれと変わらないことを、身をもって知ることになる。