宿に泊まる気はないらしい
ギルドでの一件があった後、俺たちは街道を町から出るように歩いていた。
「マスター、宿にはいかないのですか?」
「サクラ、宿を借りても意味ないどころかただ金を取られるだけだろ。」
実際のところ、宿を借りることの利点はないに等しい。と言うか、借りるほうが損まである。
「野営の方が過ごしやすいだろ。」
「そうですね、マスター。」
俺たちは街の外の草原に出た。途中の門番にもう遅いからと止められたが。
「サクラ、周囲の掃除を頼む。」
「はいマスター。」
草原にはとてつもなく弱い魔物が、本当にまばらにいる。サクラだったら30分とかからずに終わるだろう。
「あ、あの、マ…。」
何かを言いかけてたラツのお腹が盛大になった。…そうだった。生きるのには基本的に食事が必要なんだった。
「本当にごめんな、ラツ。ここ5000年程食事を取ってなかったから忘れてた。」
「すみませんマスター。」
あ、ラツが俺の名前をマスターだと思ってる。まあ、そう思うか。サクラが俺のことをずっとマスターって言ってたからな。
「ラツ、もう一つ訂正だ。俺の名前はマスターじゃなくて祐希だ。お前の名前は一方的知ってて、こっちは名前を言ってなくてすまないな。」
「わかった。ユウキ様、よろしく。」
「様はなくていいぞ。」
「ユウキ様。」
「だから。」
「ユウキ様。」
だめだこりゃ。様なんてなくていいんだがな。どうしても様をつけたいんだな、ラツは。
「マスター、終わりました。」
「お疲れサクラ。もう一個仕事だ。ラツに料理を作ってやってくれ。」
「わかりました。」
よし、料理はサクラに任せて、俺は結界を張ろう。設定は…前の野営の時と同じでいいか。
俺は設定は同じで範囲を前回の二倍ほどにした結界を張るのだった。
「マスター、料理ができました。」
俺がベットを作っている時にサクラから声をかけられた。いや、サクラさん、俺に報告しないですぐラツにあげていいんだからね。
「わかりました、マスター。」
「どうぞ、ラツ。」
「ありがと。」
俺に話す時より少しギスギスしている気がするが…気のせいか。
「美味しいですか。」
「悔しいけど…美味しい。」
ラツは食べるのがはやかった。3人いるのに1人しか食べてないから、少し居心地が悪そうだったように見える。今度から俺とサクラも食べることにしようかな。食べなくていいだけで食べられないわけじゃないし。
「もう時間も遅いし寝よう。」
「はい(うん)」
俺とサクラは汚れないからおいといて、ラツは少し汚れただろうから、結界魔法をくぐらせて、汚れを全部分離させる。その汚れは全部結界の外へ。よし、これで気持ちよく眠れるだろう。
「よし、寝るぞ。」
俺たちは横になった。
「すごい、こんなに寝心地のいいベット初めて。」
やっぱりこの世界のベットの水準は低いんだな。
「ぐっすり寝ろよ。」
「うん…。」
俺たちは…寝た。
「ユウキ…様。」
「なんだラツ。」
俺たちがベットに入って少し経った頃、ラツが話しかけてきた。
「寝られなくて。」
寝られないのか。
「ベットが悪いのか?」
ずっと硬いベットで寝てると、ふかふかのベットが寝にくく感じるらしいし。
「違う。」
「じゃあ、どうしたんだ。」
なんだろうか。想像つかん。
「…怖いの。眠って起きたら、また一人になってるかもしれない、と思うと眠れなくて。」
そうか。100年もひとりぼっちのまま封印されてたもんな。そりゃ怖くなるだろう。
「なんか俺にしてやれることはないか?」
力になってやりたい。俺が解放したんだ。できるだけ幸せにしてやりたい。
「…あの、その、えっと。」
「なんだ?」
「…一緒に寝てほしい。」
…。
「そんなことでいいのか。」
「うん。それがいい。」
もっとなんかしてやれることはないものか。でもラツがいいって言ってるからな。変に押し付けるのも良くないだろう。
「よし、じゃあ寝るか。」
「うん。」
その夜、俺とラツは一緒に寝た。
ただ、寝ただけだ。それ以上もそれ以下も起きていない。…本当だぞ。




