荒ぶる文章
冷たい夜風が木々を揺らして、辺り一面を覆う木々の葉がうるさいほどに音を立てる。
しかし、その木々に隠れる様にして一件の建物だけは静かにそこにあった。その建物は、外見のすべてが木材でできており、その木材は周りにはえている木で作られているのか、全く同じ色をしていた。
しかし、どれだけ周と同化しても、どれだけ小さくとも、この建物が異物であることは隠せない。
見渡す限りの緑の森に、一か所だけ一日に三回煙が上がっていることに、そこに住んでいる幼児だけが気づいていない。
何がいるか分からないのに、あえて自分のいる場所を知らせる行動はデメリットしかないだろう。もし、あの幼児がこのことに気がついたのなら、すぐに火を使わない食事にしていただろう。
それでもメリットがあるとするならば、それは彼女がそれを目印に来ることだろう。
----------------(3日前)----------------
魔窟の森と呼ばれる場所があった。そこは昔大きな町で、たくさんの人が住んでいたが、ある日突然と現れた魔族に攻め入られ、一夜にして焼野原になった。
しかし、町を攻めた魔族はその後すぐにどこか行き、その場に残された魔物だけがいまだ生活をしていた。
人々はその場に極力近づかず、残った魔物も知能が低い物ばかりのため、いつしかそこは広大な森になり、それが今では魔窟の森と呼ばれるようになった。
そんな森の中は弱肉強食、文字通りに弱きは肉となり強きに食われる森。同族の中では、弱い者は立場が無く、いじめられる。
その中でもオークは、巨体であるほど強く、餌にありつけるが、弱い奴は餌がもらえず強くなれないので、結果いつまでたっても勝てないということになる。
それでも、強いオークに取り入って餌をもらい生きる個体もいるが、弱すぎると群れに入れてもらえない。
そんな中とある雌オークが森をさまよっていた。
「…………」
何も喋らないオークは全身傷だらけで、かなりやせ細っていた。
目からは生気が消え去り、何故生きようとしているのか何故死なないのか、それすらも考えていない雌オークはただ歩いていた。
「…………」
何も話さず、何も考えず、自然に足だけが動いていた。しかし、その本能に任せた移動方法のおかげか、普段は判断すらできない小さな匂いへとその体は近づいていていた。
「——————!」
目の前から急に木々見えなくなったことを不思議に思った雌オークが顔をあげ、そこにあった家に驚いた。
それもそのはず、何故なら見たことが無いからだ。ここに住むモンスターのほとんどが野宿の様な生活をしており、家などは見たことが無かったのである。
雌オークにとって目の前の家は未知の建造物である。しかし、入るかどうかを考える前に雌オークは倒れてしまった。
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その後のことを雌オークはよく覚えていなかった。
記憶には自分と同じくらいの大きさの何かを見上げている光景ががぼんやりと残っていた。
(お腹……いっぱい? もしかして、あれの、おかげ?)
だんだんと記憶が鮮明になっていき、肉を食ったところまでは完全に思い出せていた。
(お礼……しなきゃ、でも……どうしよう)
今の雌オークに出来ることと言えば、そこらの山菜をつんでくることぐらいだろう。
(あった、これとあれと……たくさん)
オークは基本植物を食べない。しかし普段餌が食えなかったこの雌オークは、飢えをしのぐ為にちょくちょく生えている山菜を口にしていた。そのため、山菜についての知識と経験が増え、今の様に山菜とりの達人の様になっていた。
助けてもらった次の日の朝、たくさんの山菜を持って来た雌オークは建物の前でうろうろしていた。
実は、昨日は気づかなかった、自分の体が元気になっていたことや、何か不思議な感覚を体に感じていることに気を向けていて、どうやって声をかけるかを考えていなかったのだ。
しばらくすると、不意に扉が開き中から昨日の男の子が出てきた。あまりに急だったので反射的に近くの茂みに隠れたが、山菜を置いてきたこと気づく。
(しまった。……大丈夫かなぁ)
とりあえず山菜は男の子の近くにあったのので、しばらく見守っていた。
(あ、もっていってくれた)
できればお礼を言いたかったのだが、下手に関わるよりはいいかと考え、帰ろうとしたとき。
「——―—」
雌オークには、男の子が何と言ったかは理解できなかったが、確かに食事に誘われた様に感じた。
しばらくして出てきたご飯を見た時に雌オークは確信した。
(私の、体……変)
少し怖くなり(急いでご飯を食べてから)すぐに走りだした。