展開が思いつかず、結局そのまま転移させた
気づけばそこにいた。
目の前には縦線の木材の壁、首を回せば、ここが木でできた質素な造りの家の中だと言うことが分かった。
しかし、何故僕はここにいるのか? さっきまで……確か、あれ? 思い出せない。いや、それどころか、僕――――誰だ?
自分に関することが、何も思い出せない。地球生まれの……誰だ? 知識はある。カルボナーラ、白米、水……何でこれが出てきた? 好物だったのか?
とりあえず、生きる上では問題ないな。
「見た感じは5歳の体だな」
言葉は話せる。その意味も理解できる。だが、やはり自分のことは分からない。
少なくとも、僕の知る5歳児と、今の僕はだいぶ違うだろう。
僕は誰で、何で、何故、どうして――――様々な疑問が次々に浮かんでくるが……。
「どうして僕はこんなに冷静なんだ?」
結局は疑問が増えただけだった。
「とりあえず外に出よう。何か分かるかもしれない」
遠くに行くつもりは無いが、窓からは青い空しか見えないため、ここがどんな場所にあるかは確認したい。
5歳児の歩きにくい足を動かし、ドアに近づく。記憶の中では、ドアノブに手が届かず外に出られないはずだが、ここのドアは押せば開く簡単な作りだった。
「さあ、どんなけし――――痛!?」
ドアを押しながら出ようとすると、突然ドアが止まり頭をぶつける。
音からして、何か物にぶつけた感じだった。
「何が、置いて、あるの」
ドアに引っかかっている物が邪魔で、それごとドアを押してやっと出れた。
何があるのかと見ると、そこには子豚の様に見える何かがあった。しかし、それは僕の記憶にあるものとそっくりだった。
「まさか……オーク?」
そこにいたオークは、漫画で描かれている様な見た目で、二足歩行の豚みたいだった。記憶の中ではファンタジーの存在とされている者が、本当にここにいるならばこの世界は異世界と言うことになる。
「とりあえず……放置だな」
一瞬どうするか悩んだが、子供みたいだし弱っているから大丈夫だろう。
いったん家に入り、ここの探索をしてないことに気づく。
「何か役立つもの――――痛って!?」
歩いていると何かにつまづいてこける。さっきからこんなのばっかだなと、内心怒りでいっぱいになりながら、つまづいた物に目をやる。
「箱何てあったか?」
足元には小さな箱があり、床と同じ色をしていたため分かりづらかったのか、今まで全く気付かなかった。
箱の中には手紙が入っており、それ以外は何も入ってなかった。
『これを読んでいる者へ
君がいったい誰なのかは分からないが、それでもここに居るということは変わらないだろう。要件だけ書かせてもらうと、君には生きてもらいたい。そのために必要な物は奥にある。ここでは、強い方がいい。だから、がんばって、いって。ね』
……なんだこれ? 文の構成が色々とおかしい。それに、ここには他の部屋何――――て?
少し手紙から視線をずらすと、箱の下に大きな四角形の線があった。部屋とは、地下室のことなのか。
開け方が分からなかったが、箱が床に引っ付いていたから、これが取っ手なんだろう。
思った通り、下には地下への階段があった。
他にやることも無いので、先にここから調べよう。
(移動中……)
「なんだよ……この量」
階段を下りた先にあった一室には、全体が見えない程の数の食材と道具、それも見たことのない食材とか道具が多い。
何あれ? ブロック肉だよな、何か目玉付いてんだけど。
ブロック肉にある一つ目と目が合う。まるで小鹿の様なつぶらな目に、大きくて綺麗な瞳を持ったこの肉に、僕は……僕は――――
「昼飯は、ブロックステーキをメインにしよう」
もちろん目玉はくりぬく。慈悲は無い。
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香ばしい肉の匂いが一室に広がる。
それにしても、食材を選んだはいいが、問題は調理の方だった。フライパンは重いし、肉を焼くと叫ぶしで、めっちゃ大変だった。
ちなみに、サイドメニューはポテトサラダに牛乳。食材を調べる限り、特に何もなかったから大丈夫だろう。うん、多分腐ってない。
それにしても、あのブロック肉丸々焼いたのはいいが、正直食いきれそうにない。
……あのオーク、どうなったかな。
気になった僕は、改めて外に出て見る。
「ぁ……うっぁ、ん……はぇ」
匂いに気づいたのか、オークは近づこうとしているが、飢えで体が動かせていない。
「どうぞ、一緒に食べる? まぁ、怖いから少し離れるけど」
半開き状態のドア越しに、僕はオークに半分ステーキをあげる。もちろん、サラダと水も付けた。牛乳は、飲めるかどうか分からないから止めといた。
「はぐふぁぶ、ぶあぶぁ――――」
ものすごい食いっぷりだ。
オークはすぐさま食い終わり、どこかへ行ってしまった。僕はだいぶ遅れて食い終わり、外にある食器を洗う。とは言っても、水が無かったから多量の雑巾の中から一枚取り出して、それで拭いた。
その後は、自分の記憶と気持ちの整理をしていたら、暗くなったので寝た。もちろん、晩飯は作る気力がなかったので食わずに寝た。