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告白男子と採点女子

作者: こめぴ
掲載日:2017/07/11

「好きです。付き合ってください」


 様々な喧騒が行き交う放課後に、比較的静かな体育館裏で俺の声が凛と響く。まっすぐ目の前の女子を見つめ、俺の気持ちをぶつけた。

 もはや何度口にしたことか。前よりスッと口からそれは出るようになったが、慣れることはなく、恥ずかしいことは変わらない。顔に熱が篭っていくのを感じた。

 シンプルイズザベスト。頭を下げたり、花束を渡すなんて洒落たこともしない。ただ自分の感情をさらけ出すように彼女に視線を向けた。彼女もそれに答えるように、少しつり上がった強気な目を俺に向けている。

だが、告白相手の彼女とまっすぐ視線を交わすのは、思ったよりも恥ずかしかった。


 そして気まずい沈黙が流れる。

 部活中の生徒の叫び声や、まだ学校に残っている生徒の大きな話し声。それらが静寂を誤魔化すように、この世界と切り離されたような告白現場へと滑り込んでくる。


「んー……」


 彼女は眉を寄せながら、唸るような声を出す。腕を組み、どうやら悩んでいるようだった。風が吹き、背中あたりまで伸びている彼女の黒髪が揺れる。

 その姿を見て、俺の鼓動は速さを増していく。夏ゆえの暑さからか、嫌な汗が流れる。気を紛らわせるように、額に浮かんだ汗を袖で拭った。


「うん、そうだね」


 自分の中で決着がついたらしく、納得の言ったような声を漏らす。

 どんな返事が返ってくるのか。今すぐにでも詰め寄りたいところではあるが、それではがっついているようであまりにもカッコ悪い。爆発しそうな感情を理性で押しとどめる。

 何か言葉を発そうと彼女の口が開き始める。俺はそれを見つめた。はやる気持ちもあって、まるでスローモーションのようだ。

 そして、その言葉が俺に告げられた。


「六〇点かな」


 軽い調子で、太陽のような笑顔を浮かべながら言った。


「……はぁぁ……」


 重くため息を漏らしながら、ゆっくりと足を動かし、壁に向かっていく。そして扉の下の段になっているところに、糸が切れたように腰を下ろした。彼女もそれに続いて、俺の横を手で払って、そこに腰を下ろす。


「六〇って……前はもっと高かっただろ」

「そ。二回目だから、前より低いのよ。シンプルなのは気持ちがまっすぐ伝わってきて嬉しいけど、使い回しはねぇ……」

「無茶言うな。何度目だと思ってるんだ。いい加減ネタ切れだ」

「ネタとか言ってる時点でお察しよね」


 彼女は楽しそうにクククと喉を鳴らす。

 責めるような視線を彼女に向けるが、どこ吹く風だった。だが責める気にはならない。惚れた弱みとはよく言ったものだ。今の俺は、まさにそんな状態だった。



 初めて彼女に告白したのは、もう一ヶ月も前のことだ。

 きっかけはなんてことない、どこにでもありそうな一目惚れ。同じクラスになった彼女を一目見た瞬間にまず容姿に惚れ、そして付き合いたいと仲良くなって中身に惚れた。

 そして意を決して告白。今と同じ、ただ彼女を見つめての告白だった。そして彼女からは――


『八〇点』


 そう無残に告げられた。



「俺もよくやるよなぁ……」

「ん?」


 彼女は持ってきたらしいお茶の入ったペットボトルに口をつけながら、目だけを俺に向けた。汗でうっすら湿っている、白くて綺麗な首筋に目が行きそうになり、必死にそらした。


「こう何度も何度もよく告白してるよなってこと」

「ああ、確かにね」


 頷いているが、彼女は振っている張本人である。

 お前が言うか、といったような視線を向けるが、やはり動じない。ため息を一つ吐き、俺を自分で持ってきたペットボトルに口をつけた。


 実際よくやっていると思う。点数で言われるものだから、一〇〇点を取れば受けてもらえるかも、なんてあるかどうかもわからない希望を持ってしまっているのだ。

 そのために手を替え品を替え、いろんな方法で告白してきた。


「最近、確かにネタ切れの雰囲気はあったね」

「まあな。実際ネタ切れだったし」

「でもさ、逆立ちしながらはないと思うんだけど、どう?」

「……うるさいよ」


 逆立ちしながら告白なんていう痴態を晒したのは前回のことだったか。

 この告白は定期的に行われている。金曜日の放課後、この体育館裏で。

 特にその時間と場所に理由はないが、たまたま何度も彼女を誘う時間と場所がそれになってしまい、なんとなく今まで変わらずにきている。俺の思考にバリエーションがないといえば、そこまでだけど。


「お前こそどうなんだよ」

「どうって?」

「何度も何度も俺に告白されて。時間も奪ってるし。しつこいとか言って、気持ち悪がるものなんじゃないのか? 自分で言うのもなんだけど、軽くストーカーみたいなものだろ」


 さすがにつきまとったり尾行はしないけど。

 そう付け加えた。


 俺の質問に彼女は顎に手を当てて唸り始める。思考に沈む時は大抵このポーズだ。この時話しかけても返事が返ってこないのはわかっているから、急かすことなく彼女の言葉を待った。

 悲観的で、自虐的になっていることは否定しないが、客観的に見てしまえばそれは確かに事実で。実際にそんな奴がいたら俺は気持ち悪く思う。


「んー……気持ち悪くは、ないかな、うん」


 普段強気な彼女には珍しく、小さな声でそう呟いた。ほのかに頬を赤く染めながら。


「人……って言うか君に好意を向けられるのは嬉しいし、悪い気はしないっていうか、ストーカーとかは思わないし、なんていうか、うん、そんな、感じ」


 いまいち自分の中でも言葉にできていないのだろうか。ところどころ区切って、文を作りながら話しているような、そんな感じだった。そしてそのたどたどしさを誤魔化すように、再びペットボトルに口をつける。

 変にしおらしい彼女にかける言葉が見つからなくて、「そうか」とだけなんとか返すことができた。


「で、でもさ、みんなにそんな返答してたら大変だろ?」


 実際彼女はモテる方だと思う。学校のアイドルなんてほどでもないが、顔は整っているし、性格も明るい。もちろん好きな人贔屓が入っているかもしれないが、実際何人かに告白されたなんて話を聞いたこともある。


「……してないよ。それに、最近は君以外からの告白もないしね」

「それは……ただのみんなの勘違いだろ」

「だよねー。私たち、付き合ってるわけじゃないんだけどなー」

「これに関しては自業自得だ。俺に対してそういう態度をとっているからだ」

「自業自得って言っても、君にとっては良いことでしょ?」

「違いない」


 俺と彼女は付き合っている。

 それがクラス内での見解だった。

 全ては俺が友達に、彼女に好きと伝える方法を尋ねていたせいだ。

 その誤解はもちろん俺にとっては嬉しいことだから否定もしないし、かといって事実ではないから肯定もしていなかった。だが意外だったのは、彼女も俺と付き合っているかという質問に、俺と同じような回答をしていたことだ。

 それに関しては、未だによくわかっていない。


「でもお前にとってはあまり良いことじゃないだろ」

「それまたどうして?」

「いや、だってお前は俺のこと……好きじゃないだろ」


 何をやっているんだか。自分で言って、自分で傷ついていた。「どうして?」と言われて、とっさに口から出てしまったのだ。

 だが沈んで暗い俺とは正反対に、彼女はニコニコと微笑んでいる。


「でも、君はそれを変えるつもりなんでしょ?」

「…………」


 何も言えず、言葉に詰まった。

 確かにそれは俺の目的でもある。受けてもらえるように、告白しているんだ。それは事実だし、これからも変えるつもりはない。

 だがなんとなく、自分でもよくわからないが、ムッとしたのだ。


「だけど、もしかしたら今日で最後かもしれないぞ? やっぱり無理なんだって、お前のことはやっぱり好きじゃないなんて思ってやめるかもしれないだろ?」


 だからこんな言葉が口をついて出てくる。もちろん本心じゃない。今でも彼女に対する気持ちは色あせていない。今後もそれは変わらないと俺自身思っていた。

 だからこそ口にしてから後悔した。自分に、そして彼女に嘘をついているようで後ろめたかった。

 でももう口から出てしまった言葉を口に戻すことはできない。

 やってしまったという行き場のないモヤモヤした気持ちを誤魔化すように、彼女から目をそらしお茶を飲んだ。


「そうかもね」


 でも彼女自身は、何も気にした風ではなかった。


「でも、それは心配してないわ」

「え?」


 それはやけに確信めいた言い方だった。

 その内容もあるが、自信があるような言い方に思わず聞き返してしまった。

 彼女は立ち上がり、一歩、二歩と足を動かした。そして俺の前まで来て振り返る。




「だって君、私のこと好きでしょ?」




 声が出なかった。思わず目を見開いてしまった。

 それは言葉だけ見ればなんて自意識過剰なことか。いや、もちろん事実な訳だが。

 告白しているのだから俺が彼女のことを好きなのは自明の理だ。でもそれをはっきり口にできるだろうか。

 あまりにはっきりしていて、自信に溢れていて。そう断言した彼女に、「何言ってるんだ」とからかいまじりに言おうとしたが、それもできなかった。

 いっそ清々しい。一周回って尊敬してしまう。

 気がつけば、俺の口からは笑みがこぼれていた。


「ハハハ。よくわかったな。俺の気持ちがわかるだなんて、ひょっとして俺のこと好きなんじゃないか?」


 冗談のように軽く、俺は笑いながらそう言った。

 そう、これは冗談だ。だから軽く流してくれれば良い。


 彼女はそんな返しをした俺が予想外だったのか、キョトンとした表情を浮かべた。

 そして意味深な、どこか楽しそうな笑みを浮かべこう言った。



「さあ? どうでしょう?」


登場人物


男子君

・所謂どこにでもいる普通の男子高校生

・何度もめげずに告白している。

・大変だが、そのぶん彼女と長い時間一緒に居られるとまんざらでもない。


女子さん

・クラスにいる可愛い子レベル。性格も良く、なかなかモテる。

・男子のことが好き。でも告白され、その感情をぶつけられるのにハマってしまい、受けも振りもせずにここまできた。

・点数?内心毎回一〇〇点ですがなにか?

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