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エガオ爽やか実験室  作者: 豊洲 太郎
7/8

 7 ストレスフリーの心地よい無重力感

 夕暮れの運河。

 俺はエム氏の目線に合わせてしゃがんだ。

 ビジネスバックから収納式の釣り竿を取り出す。目を見張るエム氏。

 「いつも釣り竿を持ち歩いているのですか?」

 「えぇ、まあ、そうなのです。」

 「実は… 私もなんです。今頃、釣れるのはデキハゼ、大きいのはヒネハゼというのでしょう。」

 とエム氏。この反応は、人工知能である可能性が高い。


 プシュウ!

 「おつかれさま!」

 「運河に乾杯!」

 それから筋書き通りに黄金のパッケージが展開した。お互い相当に酔って、いい気分になっていた。

 「ところで、唐突なのですが、素晴らしく爽やかなエガオをされますね。」

 ついに俺は核心に迫った。

 「いやぁ、そんなことないです。」

 「ほら、そのエガオ、実にいいです。是非ともコツをご伝授いただけないでしょうか?」

 なんと、エム氏は『エガオ爽やか』の極意を授けてくれた。

 「眼差しはチワワ プラス ハゼ、口元はチワワで半開きでニィ! のイメージ。」という至極単純なものであった。実際に真似てみると、「はあ、そうか」と気付かされる。その効果は驚嘆に値するものであった。

 一見風采のあがらないエム氏がニィっとやると、その落差に一瞬、ばかにされているような感覚を生じるが、次の瞬間から、もう目が離せなくなって時間が止まる、ひるなぎの青の水平線、木もれびと爽やかな微風、ストレスフリーの心地よい無重力感、永遠に包まれていたい… 。


 「はい、もう一度どうぞ。」

 「ニィ! 」

 「とてもいいです、シニアカウンセラー! 完璧ですよー 」


 我ながら、大のおとなが、他愛もない…。

 プードルさんになめられて実体化した俺は、おそらく何十万回も出現したのだ。条件を満たすまでは、何度生まれ変わっても、同じことのやり直しを強いられていたのだ。

 無限ループに閉じ込められていた何十万人かの俺に、欠けていたものがこれだったとは…。

 『エガオ爽やか』の習得 がその答えだった。

 なんの他愛もない些細な事によって分岐点を乗り越えて未来を切り拓く、ゲームのルールがわかってしまえばそんな事だったのかとも思える。

 もうカモメさんが来ても大丈夫だろう。そして俺はどこに行くのか。


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