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エガオ爽やか実験室  作者: 豊洲 太郎
1/8

 1 オリンピックアイランド

 ペロリン。

 ギョッとして瞳孔全開、ワォ!

 知らないプードルさんがドアップでカオをなめていた。

 「あらヤダ、ハルちゃんったらキタナイ。」

 「汚れるからウチの子に触らないでください!」

 この水辺はセレブの愛犬お散歩コースだ。


 プードルさんが話しかけてきた。

 「なにか釣れたかな?」

 「ハゼですよ、先輩。」

 「ほう、いいね!」

 「これも、生活の為ですよ。」

 「わしから、ひとつだけ忠告しておく。」

 「は?」

 「お前は一度もサカナに触れたことなどはない。じゃぁ、わしはこれで失礼。」

 ハル先輩は尾を振りながら飼い主のもとに小走りでかけ戻った。


 ここはオリンピックアイランド、天空まであかりがきらめく超高層住宅街。ハゼ釣りをしていたらタワーマンションの日影で眠ってしまった。記憶の再構成を中断したので頭がしびれている。

 ハル先輩、ハゼ釣りなら子供の頃から俺のカラダに染みついています。これから釣り上げたハゼを唐揚げにするのです。

 ポケットナイフを駆使して、ウロコ、頭、背骨を順次さばく。こんなひどい目にあっていてもハゼには愛嬌があるなあ。あっ、指先にかすり傷をつけてしまったが、気にしない。

 まな板代わりに敷いた経済新聞の上に3×4列で並ぶ完璧なハゼの背開き。

 充足感が表層意識を支配して、つい「いいね!」とつぶやく俺。

 アウトドア唐揚げキットにハゼを投入。

 続いて、コンビニドローンで調達した発泡酒を開ける。

 プシュウ!

 「運河に乾杯。」と、独りごとをして味わった。

 そうする権利はあるさ、運河で釣りをして酔い痴れている間に世界が変わってしまったのだから、と思った。いまや、この世界はちぐはぐな造りものでどこかピントがずれている。世界はいつ変わった? まぁいいや、気にしない。

 サクッ。

 クーッ! 味覚がノドの奥から後頭部に突き抜ける、サックサク、シュワーッ、ゴクリ。

 気が遠くなるような永い時を経て、俺が見つけたサムシングはハゼ釣りに、唐揚げ、発泡酒という黄金のパッケージだった。

 これで何も想い出さずに眠ることができれば、今日が最良の日になるはずだった。

 しかし、俺はそそくさと道具一切をビジネスバッグに詰め込んでメトロを目指した。

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