協力
「妾の代わりに、この世界の異能者の異能を消すのじゃ!」
リィは、玲を指さしてそう言い切る。
当の玲はやっぱり、と手を額に当てて溜息をついている。
「あのな、俺の異能はキスしないとだめなんだぞ。分かってるのか?」
「安心せい。この世界の人間は男より女の方が異能に適性がある故滅多に男の異能者はおらん」
「問題はそこじゃないし。女でも問題だろ」
女の方が適性があるというのは初耳だが、女であろうが男であろうが異能を奪うためにキスをすること自体が問題行為なのだ。
「そもそも、ただキスするだけじゃダメって言ったろ」
「そこはお主が異能者を惚れさせればよいのじゃ」
「できると思うか?」
「しかし、見た目によらずもうすでに二人もお主を好いていた輩がおるじゃろう」
「ぐ……」
問題点を的確に返してくるリィに玲は歯噛みして黙る。
このままでは確実にやらされることになる。玲は、どうにかリィを諦めさせる言い訳を必死に考える。
「……。そもそも、俺が手伝う理由が」
「どうじゃろうな。確かにここらの担当は妾じゃがいつまでも音沙汰なければ別の誰かが様子を見にくるじゃろう」
「それが……」
「先程は言ってなかったが《コントラクト》の魔法中は一定距離以上離れられん。妾が見つかるということはお主も見つかり、妾以外の誰かに見つかれば妾たちのことを知ったお主はどうなるのじゃろうか」
「……」
見つかればどうにもならないとは言っていたが、リィ以外のしっかりとした奴に見つかればどうなるかは分からない。
別段お咎めなしかもしれないが、問答無用で首を飛ばされる可能性もある。死にはしないが即捕まってしまう。
つまり今、玲がリィの仲間に見つからないようにするためには、リィがきちんと仕事をしなくてはいけない。そして今それができるのは異能を奪う異能を持つ玲のみ。
「お前の代わりに俺が異能者を惚れさせて、キスして異能を奪えと?」
「うむ」
力強く頷くリィに、玲はうんうん唸りながら迷いに迷う。
ここで今玲に残されている選択肢はやる一択しかない。
しかしながら玲はコミュ障である。今こうしてリィと普通に話せているのは、相手が猫の姿だからという点が大きい。
見知った相手ならいざ知らず、異能を奪うために自分から接点を作って惚れさせるなんて無謀に等しい。初対面の相手と話すようにするのでさえ相当気力と体力を削るのだ。
「まだ迷っておるのか?」
「……」
「ふむ」
「……」
「しかたがないのう」
そう言うと、リィはそろそろと玲のもとへ近寄ってくる。
そんなリィに気付くと、玲は疑問に思いながらも、なんだとリィを見る。
「玲よ」
「?」
「お・ね・が・い・じゃ♡」
「……」
一瞬、玲は固まる。
そして、
「ぐはっ!?」
何かにやられた様に、大きく後ろに倒れる。
玲はかすかに動く頭だけを動かし、リィに視線を向ける。
リィは、手を体の前で組み潤んだ瞳で上目遣いに見つめてくる。
子供が親に何かをねだるときのような、大人の女が使う計算されつくされた仕草のようなものは、玲の心に渾身の右ストレートを放った。
明らかに邪なものが混ざる仕草。しかしその愛くるしさの前ではすべてが些細なこととなって消えてしまう。
なんとか起き上がった玲は、再びリィを見やる。
リィはそんな玲をじっと見つめる。
そして、
「……分かった」
悔しながらも、リィの頭をなでて玲はそう言うのだった。
******
「で、具体的にはどうすればいいんだ?」
半ば無理矢理協力させられる羽目になった玲は、もう諦めてリィに問う。
「どうもこうもさっき言った通りじゃ。異能者を見つけて惚れさせる。そしてキス! 女子を攻略すればいいのじゃ」
「攻略って言うなよ……。だから、その異能者はどうやって見つけるんだよ」
「ん? ああ、それはじゃな……」
そう言うと、リィは体中をまさぐる。特に何もない体を。
そこでリィは、あ、というように何かに気付き、玲に向き直る。
「なくしちゃったのじゃ」
「何をかは分からないが重要なものをだな?」
玲がじっと見ると、リィはバツが悪そうに目を逸らす。
玲はもう大体この猫の性格が分かってきている。
全体的に偉そうで偉いと思っているんだろうがアホでおっちょこちょいだ。しかし本人はそれを認めないどころか気づいてもいない。
名だけのエリートだ。
「えっと、妾がなくしたのは異能の反応を探る機械。魔法器と呼ばれるもので」
「……それがないと見つけられないんだろ? だめじゃん」
「ぐぬぬ……」
自分から手伝いを強要しておいてその方法を自分でなくすとか、玲は溜息をつきながら心底呆れる。
リィがわーわー喚いていると、そこで部屋に音楽が流れる。
何かと思ったが、普通にスマホが鳴っただけであった。
悪い、と断りスマホを開くと、そこには一件のメールが届いていた。
送り主は天水風祢。
引きこもりの現状で玲にとって接点のある数少ない存在で、いわゆる幼馴染というやつである。ダメダメな玲に何かと世話を焼いてくれていて、今でも毎朝ご飯を作ってくれている。
要件は、『ごめんれーくん! 今日用事入っちゃってそっち行けない! 明日行くね!』と表示されている。
今日は金曜日。
風祢は毎週金曜日、一週間の授業ノートを写したものを玲に持ってきてくれる。
たまにやりすぎなところもあるが、玲は風祢に感謝してもしきれないほど感謝しているのだ。実際は、玲のひねくれた性格上素直になれないが、いつか恩は返そうと思っている。
メールに目を通した玲は、スマホからリィに視線を戻す。
「よいのか?」
「ああ。それより、どうするんだ?」
魔法器がなくなってしまったのなら異能者を探しようもない。
玲としては、それでこの話がなしになるのなら文句もないが、リィからしたら、そうもいかないだろう。
「やっぱり、地道に探すしかないの……」
何とかならないかと考えるリィだったが、やがて諦めた様に溜息をつく。
こうして、明日という休日は、魔法器探しになったのであった。




