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天才引きこもり少年の女子攻略  作者: 太田裕
エルローレ編
47/59

赤塚早希の独白



 ――好き。



 その言葉は、口にした私自身が驚くほどすんなりと出てきた。

 目じりが熱く、頬に濡れる感触がある。恐らく、泣いているのだろう。必死に涙を流さないようにと抑えるが、そんなもの微塵も効果はなく、涙はとめどなく流れていく。


 少しばかりぼやける視界に映る玲の表情は、呆気にとられている。くまのある瞳を見開き、何回も確かめるように瞬きを繰り返しながら私を見つめる。玲の驚く顔は珍しい。基本ゲームくらいでしか交流のない私にとっては、玲の呆気にとられた表情を見たのは初めてだった。普段は落ち着いており、滅多なことでは驚きを見せない玲。それはゲームの最中でもそうだった。いくら私が裏をつこうが、玲は冷静に対処してきた。一つも表情を崩さず、比較的冷静沈着と自負している私の方が驚くほどに。


 そんな玲の意表をつけたこと、そして、また新しい玲が見れたこと。今がそんなことを思っている状況ではないと分かっているけれど……それでも、どうしようもなく嬉しい。思わず頬が緩んでしまう程に。


 いつからだっただろうか。少なくとも、今朝の私であればそんなことは思わなかったはず。

 玲の新しい表情がまた一つ知れてうれしい? 自分で思っておきながら、恋する乙女か、とツッコミたくなる程女々しい感情。まさか自分が誰かを好きななるとは思わなかっただけに、その感情に自分自身がついていけない。


 考えてもみてほしい。元々引きこもりなうえに、年齢に見合わない幼児体型。そこいらの女子と同じように恋を望むなど、分不相応だ。誰かに好かれることがないのだから、誰かを好きになることもない。失恋すると分かっているのに、わざわざ恋なんてしない。第一、好かれる好かれない以前の問題で、私はこれまで男というものに興味を持ったことはなかった。万が一、いや億が一誰かに告白されたとしても、断っていたはずだ。それがどれだけイケメンでも、関係はない。そもそも興味がないのだから。


 だけど、今はどうだろう。

 もしちょっと前の私が見れば、心底驚くだろうし、止めておけと忠告すると思う。自分の身の丈くらい承知している。どうせ傷つくことになるのだから、夢なんて見ない方がいい。私が今までずっと心得てきたことだ。


 だけど、今なら分かる。そういう問題でもないことを。

 以前も私は恋というものについて考えたことがあった。約一年という時間を家で過ごしてきたのだ。考える時間はいくらでもあった。だけど、理解することはなかった。自分が体験したことがないからかもしれないけど、恋という感情が全く理解できない。何でそこまで他人の事を好きになれるのか。そもそもどこがどう好きでどうなるのか。

 考えた挙句、自分には一生分からないだろうと投げ出したのだが……恋は理屈じゃないとはよく言ったもので。


 私も、玲のどこが好きかと言われたら答えられない。

 顔は、目の下のクマが減点だが素材は悪くない。けど、私は男の顔などどうでもいいのであまり関係はない。

 となると性格だけど、正直言ってよく分からない。もちろん全部じゃないけど、玲と私は大分似通った部分がある。故に、嫌いじゃないが好きでもない。私は、自分の性格について決して良く思ってないが、嫌ってもいないのだ。そして、ナルシストではないので好いてもいない。

 となると……玲について残っているのは頭脳くらいだろうか。とはいっても、私は私で頭がいい。別に自画自賛とかそういうわけじゃなくて、ありのままの事実だ。もちろん玲には到底及ばないけれど、自分も他とくらべたらなまじ頭がいいだけに、あまり魅力的には感じない。


 今並べたように、玲の具体的に好きな点があるわけではない。ならば、好きではないのかとも思うのだが、それは違うと不思議に断言できる。詳しい説明はできないけれど、好き。理屈じゃなく、好きなのだから仕方がない。


 今にして思えば、私が玲の事を好きとはっきりと分かったのは、玲の心を覗いた時だ。その前からも予兆らしきものはあったけど、その時は恋という感情自体知らなかったから気づくことはなかった。



 『可愛い』



 玲が口にした通りの、玲の私に対する感情。

 奇異でも不気味でもない、初めて知ったプラスの感情。正直最初は半信半疑だった。もちろん今までのことから自分の力を信用していなかったわけではない。ただ、そう思わざるを得ないほどに、私にとっては理解し難い感情だったのだ。

 なのに、なのに玲は私の至るところに目をつけては、可愛らしいなど愛くるしいなどと思っていた。聞いているこっちが恥ずかしくなるほどの……思い出したらまた恥ずかしくなってきたけれど、そんな感情を玲は嘘偽りなく持っていた。

 そして私は……正直に言って嬉しかった。あの時は驚きが先行していたけれど、今思い返してみればはっきり分かる。少し時間が経った今でも、思い返せば自然を顔がにやけてしまう。自分で驚くほど緩んだ表情。十数年間生きてきて初めてだ。

 で、でもしょうがなじゃない!? だって、可愛いとか素で思われたの初めてなんだから……。


 そして、玲が行き、私一人残されたことで余計に自分の気持ちを思い知らされた。

 あまりにも急すぎたせいで私にも何が何だか分からなかったけれど、玲は間違いなく寸前に起きた爆発を見て走っていった。安全なことじゃないのは明白。私は玲に言われた通りに逃げることもできず、ただ茫然と立ち尽くしていた。心配と不安。私の心の中はそんな感情で一杯になり、それは徐々に大きくなっていった。爆発を受けて避難する人々も、私の不安を余計に煽っていった。

 玲い言われた通り逃げればいい。私のとるべき行動は至って簡単。でも、私の脚はどうしても動いてくれなかった。

 そして……ある時、不安と心配と緊張と、いろんな感情がないまぜになった糸がプチンと切れたように、私は動き出した。もちろん、玲が走っていった方へ。……無意識だったのか、私はあんまり覚えてないけど、後悔はしていない。むしろするなら、私が行ったことで迷惑をかけてしまったことだ。


 玲を探して走っている最中も、不安は大きくなる一方だった。爆発の跡と思われる場所はボロボロに破壊され、命の保証すらないことを思い知った。けれど、私は決して止まろうとも戻ろうともしなかった。

 ――そして、玲を見つけた時、私は安堵のあまりその場にへたり込んでしまった。目じりには涙が浮かんでおり、この時、私は思い知ったのだ。



 ――あぁ、私は玲が好きなんだな、と。

 


 その感情を今すぐに言うつもりはなかった。そんな状況でもないし、私自身心の整理ができていなかったからだ。

 でも、玲の話を聞いてしまった。もちろん範疇は超えていたけれど、大まかには道中考えていた想像に沿ったものだった。私と同じく特別な力を持つ悪人がいて、それを倒すために玲たちが動いていた、と。普通は聞いても信じられないような話ではあったが、何となくは想像していたし、何より玲がそんな意味のない嘘をつくとは思えなかった。さすがに玲も特別な力を持っていたことには驚いたけれど……。

 そう、私が一番驚いたのはそこだった。他の人の力を奪う力。玲は私に力があるのを知って、接触を図っきたのだ。私の力が必要だから……玲は表情を陰らせながらも、包み隠さずその事実を私に伝えた。



 玲は私ではなく、私の持つ力を必要としていたのだ。



 私と同類である玲には、その話を聞いて私がどう思うか分かっていたのだろう。いつにもまして低い声で謝罪を口にしてきた。

 

 なぜ、玲が私に近づいてきたのかは初めから疑問だった。

 私なんかに構う理由が分からない。もちろん、《ゼロ》と《レッド》という見えない糸でつながっていたことには私も驚いたけれど、それが理由だとは思えなかった。ネット上でのつながりがあるからこそ、それを断たせないためにも不用意に会わない方がいい。もしも現実での付き合いで何かがあれば、ネットでの繋がりすらも消えてしまう。それは嫌だったし、怖かった。玲はきっとそう思っただろう。何せ、私がそう思ったのだから。

 でも、玲は距離を置こうとはしなかった。そのことについて疑問を感じているうちに、私はだんだん玲といるのが悪くない……いや、とても楽しいと思うようになった。初めての感情。玲もきっとそう思ってくれているのだろうか、なんて思いもした。けど……裏切られるのは怖い。だから、過度な期待はしないで、もっと他に理由があるんだろうなと思っておくことにした。

 でも……心のどこかではそうあってほしいと願っていた。だって、私にとっても、初めてだったから……誰かと一緒にいるのを楽しいと思うなんて。


 が、それらが全て私の持つ力のためにした行動だった。まんまと裏切られたわけだ。


 いつのまにか私にとって、玲は『光』と呼べる存在になっていた。限りになく私に似通った人。私が唯一理解することができ、理解してもらえる人。奇異や不気味にまみれたこの私を、可愛いと言ってくれた人。その存在は、私が思うよりも何倍も大きくて……大切で……。


 それが一瞬で偽物に変わる。

 信じないと決めたのに、どうしても信じたくなって……今となっては、どうしようもないくらいに信じてしまっている。大切で、私にとって何よりも尊い『光』が、薄っぺらい虚像となって消えていく。真っ黒く、ドス黒い。私の心が絶望に満たされ――。




 ――違う。


 


 私の心に、玲の『可愛い』という声が響く。

 そうだ。私は知っている。玲の、私を、その……可愛いと思う気持ちは間違いなく本物。それに……玲の心を覗いた時、流れてきた私に対する感情、それはとても嘘や虚飾で塗り固められたものではなかった。とても温かく、澄んでいて、こっちが恥ずかしくなるような心。


 たとえ玲に私の力を奪うという目的があったとしても、玲の私に対する感情は本物だ。

 そう……信じられる。


 だから、私も私の気持ちを玲に伝える。きっと玲も思っているはずだから。信じたいと、望んでいるはずだから。私が玲から教えてもらったこと……信じられる、信じてもいいんだよって……玲に伝えるんだ。







 だって私は……玲が好きだから。




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