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天才引きこもり少年の女子攻略  作者: 太田裕
琴吹 藍那編
21/59

二人の襲撃者


「……はぁ。なんで一日に二度も学校に来なくちゃならないんだ……」


 玲は、学校の校舎を前にして大きくため息をつく。つい勢いで決闘なんぞを了承してしまったが、いざその時となってみると面倒くさいことこのうえない。実際、学校へ行かず寝てしまおうとも考えたのだがリィにたたき起こされた。


 玲は、しぶしぶ校門を上り学校の敷地内に侵入する。さて、というところで玲はふと足を止める。琴吹が言うには学校に十時に来いということらしいが、学校のどこに行けばいいのだろうか。玲は、辺りをきょろきょろ見回しす。

と、校庭の真ん中に一つ。ポツンとたたずむ影が見える。暗くてよくは分からないが、恐らくは琴吹だろう。玲は、今一度ため息をつき琴吹の下へ向かう。


「……」

「……どうした、リィ?」


 すると、その途中リィが胸ポケットから飛び出し辺りをせわしなく見回し始めた。玲は、不思議に思いながらリィの後を追い問いかける。

 見ると、リィの表情はいつになく真剣で思わず玲の方もゴクリと生唾を飲み込み真剣になる。


「……何かが、おる」

「は? 何かって、何が……」

「それに、なんだか嫌な予感も……」


 玲も、リィの言葉を聞き辺りを見回すが、当然夜の学校には誰もいない。玲は、首をかしげ改めてリィを見やる。今はこんなことをしている状況じゃないんだが……。玲は、リィを連れ戻そうと手を伸ばして――。


 瞬間、背中を何かがとてつもない勢いで叩く。思わず苦痛の声を上げるが、その時にはもうすでに数十メートル先まで叩き飛ばされ、学校の校舎に勢いよく突っ込んでしまう。突然の出来事に、リィは驚き玲に駆け寄っていく。


「恨みも用もねぇんだが……見られるといろいろと面倒なんでな。ま、恨むならこんな時間にここにいる自分を恨みな」


 煙を上げ、崩壊した校舎の一部を見やりながら、玲を吹き飛ばした張本人はそう呟いた。次の瞬間には、もうそちらに完全に興味をなくし校庭の方へと歩いていく。


「な、なに!?」


 さすがに静かな夜に校舎を壊すほどの音が鳴れば校庭にいる琴吹にも聞こえる。琴吹は、音に驚きその方向を見やる。と、そこから、こちらに向かって歩いてくる一つの人影が見える。琴吹は、一瞬玲かとも思うが、すぐに違うと首を振る。それは、見ればすぐに分かった。その人影は、玲など――大人でも、到底かないそうもないほど大柄で遠くからでも分かるほど筋肉質で太い腕を露出させている。


 琴吹は、一瞬迷うがすぐに危ない人物だと悟り反対方向に走って逃げようと――その瞬間、琴吹の目の前にバッとひとつの影が下りてきた。一見すればスーツ姿に眼鏡と、真面目そうな顔ではあるが、琴吹はその人物を見て一層血の気が引いていくのを感じる。理由は単純。その人物の右手には、一振りの刀があったからだ。琴吹は、よろめきながらもなんとか後退する。が、不意に背中に何かが辺り動きが止められる。恐る恐る振り向くと、そこには――。


「っ!?」


 琴吹は、思わず息を飲みその場にへたり込んでしまう。前方には刀を持った人物。そして、後方にはさきほど遠目に見た大柄な男がすでにいた。琴吹は、全身を振るえさせる。動こうにも、足が言うことを聞いてくれない。

 そうこうしているうちに、二人の男はお互い頷き合い大柄の男が琴吹に手を伸ばしてきた。


「や、やめ……」

「そのまま動かねぇでくれよっと」


 男は、そのまま琴吹の腕を掴み無理矢理立ち上がらせる。


「ヴァニラ、こいつを連れてきゃいいんだな?」

「ああ。それで俺たちの任務は終了だ」


 連れていく? 何処に? 琴吹は、男たちの会話を聞き一層震えが増す。どうにかしなくては、このままでは連れていかれる。しかし、体の方は一向に動いてくれない。


 琴吹は、唇を強く噛みしめる。普段は、生意気にもあーだこーだと格好つけているのに、いざというときには抵抗の一つもできやしない。琴吹は、自身の弱さを思い知る。やはり自分は、ただの痛い中二病にすぎなかったのだ……。


「いくぞ」


 刀の男――ヴァニラがそう言うと、大柄の男は頷き琴吹を抱え上げる。琴吹はとうとう目を見開き目じりに涙を浮かべる。が、そこで大柄の男に何かがコツンと当たってきた。見たところ大きな石ころだ。何かと思い、二人はその石ころが飛んできた方向に視線をやる。琴吹も、そこにたっていた人物を見やり先程以上に目を見開いてみせる。肩を上下させながらもこちらに向かってきているのは間違いない。つい数時間前に決闘の約束を取り付けた黒木玲だ。


「……お前」

「はぁ、はぁ……おい、殺す気か……。滅茶苦茶痛かったんだが……」

「そりゃな。殺す気でやったからな」

「……本当に笑えないからな」


 琴吹には分からない内容の会話を続ける玲と大柄な男。玲は、大柄な男に抱えられている琴吹を見て目を細める。目的は琴吹か……。


 玲は、二人には見えないよう背中をさする。もうほとんど痛みはないが、まだヒリヒリする。正直冗談じゃないレベルの攻撃だったことは確かだ。玲も、もし不死身の異能を持っていなければここで死んでいた。それは、今無事で、しかも立って喋ってすらいる玲を見て大柄の男が驚いているのを見ても分かる。

 あまりの衝撃に皮がめくれいくらか肉が抉られた背中。校舎に突っ込んだ際割れたガラスによってできた頬と腕の切り傷。壊れるほどの勢いで校舎に突っ込みぶつかった頭と胸辺りの打撲の傷。死んでもおかしくない、いや、死なないのがおかしい負傷だ。

 

「ライラック、彼は殺したんじゃないのか?」

「ああ、殺ったさ。間違いなく殺す威力だったはずだ……」

「じゃあ、なんで生きている……?」

「知るかよ! いいぜ! もう一回殺ればいいだけの話だろ!」


 琴吹を下ろし、玲に向かってくる大柄な男ライラック。それとは対照的に、ヴァニラは黙って玲を見やる。

 ヴァニラも、疑っているわけではない。ライラックの怪力は認知しているし、その攻撃を受けたこともある。そのおかげで大事な大事な刀が一本折れてしまったのだが……。とにかく、ライラックの力だけはヴァニラも信用している。だからこそ、その一撃を受けて生きている、それどころか立って喋り石を投げる力まで残っているとは……。どうにも腑に落ちない。


 一方で玲は、内心焦っていた。先程はなんとか大丈夫であったが、奴の一撃を喰らってしまえばどうなるかは分からない。死にはしないにせよ、意識を持ってかれることは十分にあるはずだ。やはり石ころを投げつけるというのはなかっただろうか……。

 しかし、それも仕方ないと言えば仕方ない。まさか石ころで倒せるとは思っていなかったが、琴吹が連れていかれる寸前だったので、考えている暇がなかったのだ。どうにかして相手の注意をひこうとした結果うつった行動がアレだったわけだ。


「……やるしかないか」


 玲は、小さく息を吐き防御の姿勢に入る。戦闘、といっても玲に武の心得などない。玲にできることはただ一つ、守りに徹することだけだ。力も、素早さも、どれも相手に勝るはずもないのだから。


「黒木くん!?」

「んな防御意味なんかねえよっ!」

「くっ!?」


 ライラックは、玲の防御など意に介さず真正面からストレートを一発叩き込んでくる。それもそうだろう。実際、ライラックの攻撃力の前では防御など無意味だ。当然の様に腕の骨ごと叩き折られて後方に吹っ飛ぶ。その結果を、ライラックはもちろんヴァニラも、そして琴吹も思っていた。


 が、実際には吹っ飛ぶどころか腕の骨が折れる感触すらも伝わってこない。ライラックは、驚きのあまり声を上げて目を見開く。そう、玲はライラックの一撃を耐えたのだ。


「馬鹿なっ!? あのライラックだぞ!?」

「黒木、くん……」

「お前、一体……」


 全員の驚きの視線を受けながら、玲はよろよろとライラックから距離を取る。玲は、自分の腕を見ると、小さく息を吐き唇を噛む。やはり……、と。相手にはうまく気づかれないようにしてはいるが、玲の腕は震えが止まらないのだ。


 玲が行ったことは簡単だ。ライラックの一撃に耐えられるよう、腕の強度を高めたのだ。身体能力向上の異能によって。実戦で、というか戦闘自体初めてなのだがうまくできてよかった。玲は、小さく安堵するもそう安心してばかりはいられない。強化する、と言ってもそれには限界がある。あまりにも強くしすぎると、その力に自分自身の肉体が耐えられなくなり自滅する、と玲は推測している。現に今も、強化の反動により手の震えが止まらない状態だ。そう、玲の腕の震えはライラックの一撃が原因ではない。強化の反動が原因なのだ。


 不死身と身体能力向上。この二つを使えば、実質戦闘において玲に負けというものはない。逆に、玲自身のスペックが低すぎて勝てもしないが。そう、玲は勝てないが負けもしないのだ。

 しかし、現状はそういう問題ではない。今しがた述べたのは戦闘という概念においての話だ。相手の目的が逃亡であるのだとすれば、話は変わって来る。


「……なぜ琴吹を狙う?」

「それはお前が知る必要はねえ」

「……ただの黒い炎なんて、使い道はないだろ?」

「あぁ!? なんでお前が知ってるんだ? もしかして、関係者か……?」


 玲は、少し考えたのちライラックに向かってそう言う。その声が聞こえたのだろう。玲の発言に、ライラックのみならずヴァニラも、琴吹も驚いている。

 しかし、玲は目を細めて内心呟く。やっぱり、と。黒い炎、と言い出した時の反応からして二人の目的は琴吹の異能か。しかも、二人は異能について知っている人物であることも分かる。……リィと同じ、違う世界に住む人間なのか……。


「……っ!?」


 玲は、しばし黙り込む。が、不意に右腕に何か熱い感触が走った。玲は、自身の右腕を見て―—目を見開き、左手で必死におさえる。あまりにも唐突なことで状況が頭に入ってこない。


 肉。血。腕の断片。熱い。痛み。どうして。斬られた? 誰に。なんで――。


 ――痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


 思考を、脳が焼き切れるほどの痛みが中断させる。感じるのは熱、そして激痛。それとは裏腹に、全身から血の気が引いていき寒気がしてくる。

 玲は、声にならない声で喘ぎ、地面に倒れ伏しジタバタともがき始める。意識しないうちに、目には大量の涙が溢れかえっている。


「っ!? 玲っ!」

「黒木くん!」

「ったく。これから楽しめそうだったのによ」

「俺たちは急いでいるのだ。これは遊びではないんだぞ」


 もがき苦しむ玲に、リィが駆け寄り体をゆする。琴吹は、目を見開きリィの様に玲に寄ろうとするも、上手く力が入らない。

 そんな玲と琴吹を見やり、玲の腕を斬り落とした張本人、ヴァニラは血をはらい刀を鞘に納める。が、不意に目を細めもう一度刀を鞘から引き抜く。すると、ヴァニラは一瞬も躊躇せずに、正確に玲の心臓を刀で貫いた。それまでもがき続けていた玲も、口から血を大量に吹き出し力なく動かなくなる。そう、まるで死んだかのように。


「念には念を、だ」

「けっ。じゃ、行くか」


 ライラックとヴァニラは、最後にもう一度玲を一瞥すると琴吹の方に向かっていく。

 琴吹は、その光景を呆然と見つめただ黙り込むことしかできなかった。目からは、もうどれくらいかも分からないほど大量の涙が流れ、全身の震えが止まらない。

 もう、何が何だかも理解できない。パニック状態だ。しかし、そんな中でも一つだけ、確かに分かることがある。それは――。



 ――自分の為に、人が一人死んだということだ。



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