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頑健勇者

作者: 無限の地平はみな底辺

佐藤ゆうすけは異世界ラノベ中毒のキモオタである。

毎月の給料はラノベ・漫画・フィギュア・DVDに消える。

声優ライブには皆勤賞だし、私服は全てアニメTシャツである。

これだけならば、どこにでも居る気持ちの悪いオタク青年なのだが、ゆうすけには他のオタクと決定的に違う点があった。


佐藤ゆうすけはオタクと柔道の二足の草鞋を履いた男だったのである。

それもガチで強い。

警察官であった父の薫陶を受け、恵まれたトレーニング環境の中で、幼少期より厳しい修練を積み重ねてきた。

大学時代にブラジルのウーゴやフランスのセべールに勝利している事から見ても、柔道家として相当な域に達してると言っても過言ではないだろう。


ゆうすけの強さの秘訣は勿論ライトノベルである。

それも愛読書である異世界ファンタジーが力の源泉だった。

ゆうすけは試合の度に、自分をライトノベルの主人公だと思い込む事で戦意を極限まで高めた。

技を仕掛ける時には技名を力強く叫ぶ事で人体の潜在能力をフルに活用した。


「ジャスティスクラッシュッ!!  (技の名前)」

「バーニングバスターッ!!  (技の名前)」

「フレイムバーストォォォッ!!! (技の名前)」


何せ、皆が柔道をやっている時に、一人だけ異世界ラノベをやっているのである。

モチベーションからして凡夫達とは格が違っていた。

その気持ち悪さも含めて、佐藤ゆうすけは世界から恐れられる猛者だった。



そんなある日、国体会場でゆうすけは突然出現した謎の光体に吸い込まれてしまう。

現場は柔道家ばかりでオタク知識を持つ者は皆無だったのだが、運営委員が『謎の光体』と検索したところ、検索候補に『ラノベ』とか『深夜アニメ』と云った単語ばかりが出て来たので。


「ああ、佐藤のいつもの病気が発症したのか。」


と皆が勝手に納得した。

柔道連盟もキモオタのゆうすけが柔道界で幅を効かせている事に不快感を持っていたので、嬉々としてゆうすけの選手資格を剥奪した。




一方、念願の異世界に召還されたゆうすけは得意の絶頂であった。

何せ天には龍が泳ぎ、馬車を曳くのは純白のユニコーンである。

人々の額には身分に応じて種々の宝石が埋め込まれ、浮遊する絨毯に乗った子供たちが嬌声を挙げている。

まさしく、ゆうすけが夢にまで見た光景である。


異世界人達もゆうすけの雄渾な肉体を見て大いに喜んだ。

今度の地球人は使い物になりそうである。

話してみると、この巨漢は「異世界に来る事を幼少時から望み続けていた」と満面の笑みで語る。

更には報酬を要求する気もないらしい。

「この日の為に鍛錬を重ねて来た。 何でも依頼して欲しい。」とのゆうすけの頼もしい言葉に異世界人達は感涙した。

まさしくWINWINの関係である。


すぐに異世界で最高級の甲冑がゆうすけに支給され、更には「勇者」の称号も与えられた。

理想的な冒険の序章である。


今回の地球人は使い物になりそうだ、という事で異世界側が盛大な歓迎パーティーを開いてくれる事になった。

100人以上の美姫が舞い踊り、出席した貴人達の全員が成果への報恩を約束する書状にサインした。

まさしく大盛況である。

特に料理のレベルは高かった。

その美味は飽食大国ニッポンの住民であるゆうすけを満足させる程であった。

ゆうすけは御馳走を腹一杯食べ、水をガブガブ飲んだ。


これが命取りになった。


日本は異世界も含めた全世界で最も衛生的な水道環境を持つ国である。

当然、日本人であるゆうすけには真水に含まれる雑菌への耐性が皆無であった。

異世界側も念入りに煮沸消毒はしていたのが、それは所詮異世界の浄水技術での話。


その夜、ゆうすけは原因不明の高熱を発症し意識不明の重体に陥る。

翌朝には死亡が確認されている事から見ても、あまり苦しまずにすんだらしい。


トレーニング環境を整備すればするほど人は強くなれるが、生活環境が整備されればされるほどその内面は弱体化するということ。




その年の重量級は井口泰明四段が悲願の初優勝を果たした。

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