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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

石のなかにいる

作者: 暁ノ零騎士

勢いで書いた。

後悔はしていない。

 コレから行われる事を考えて、(わたくし)はあまりの恐怖にガタガタと震えておりました。


 大きな祭壇の上で強制的に跪かされている私を全方位から見下ろされる憎悪の籠った目、目、目。

 かつて共にこの国を支え合って生きていこうと誓った私の愛していた方がそれらを満足げに眺めると私の居場所だった位置に居た少女の肩を抱いて高らかに宣言致しました。


「コレより、ヴィヴィオ・マルキ・ヴィッセルの処刑を執り行うっ」


 どうして……どうしてこうなったのでしょうか……。

 私は遠くなりそうな意識の中で過去を思い出しておりました。


 ★


 私の愛する方、殿下と出逢ったのは殿下が7歳の時。

 身分は伯爵の地位でしたが国内外にその名を轟かせている御父様の力を欲した国王から打診があり、私と殿下の顔合わせが行われました。


 当時まだ4歳だった私はとても綺麗な美丈夫とその姿をそのまま小さくしたような天使の姿を見て、ポカーンと口を開けたまま固まってしまい、皆さんを困らせてしまいました。


 思えばコレが所謂¨政略結婚¨の顔合わせと言うものだったのでしょうね。

 私はそんな事を全く理解しておらず天使のような殿下とどうやったら仲良くなれるかと果敢に話し掛けていた記憶しかありません。ただ……その時殿下が戸惑いながらも私の頭を撫でてくれた事は私の大事な宝物です。


 それから時は流れて私は殿下の婚約者として相応しくなるように厳しい王妃様監修の元でお妃教育を施され、我が儘でヤンチャだった成りは見事に隠れ今では¨社交界の黒姫¨と呼ばれるようになりました。何でも御父様によればいずれ王妃となるためには必要な事だと言うことで殿下と結婚するための絶対条件だそうですの。ですから私寝る間も惜しんで勉強致しましたのよ?流石に一度寝不足のあまりに倒れてしまってからはそこまでしなくてもいいと御父様に止められましたが……。


 まあそんなことはどうでもいいのです。


 問題はこの国に住まう全ての貴族が通う王立学院に籍を置いてからのことでした。

 何やらこの国の中核を担う有力貴族の御子息方が婚約者がいるにも関わらず一人の女生徒の取り巻きと化してしまっているという噂を耳に致しました。しかもその中に私の婚約者である第2王子のアレイド様までおられるとも……。


 私はいてもたってもいられずアレイド様に会いに行きましたのよ。


 そこで見たのは10年もの間婚約者として側に居続けて居た中でも見たことの無いような穏やかな表情で一人の女生徒に笑顔を向けるアレイド様の姿でした。

 私はあまりの光景に手にした扇子を握り折ってしまいながらも絶望に暮れてしまいました。思わず駆け寄り二人の仲を裂きたくなる衝動を必死に抑え込み、その日は何処をどう歩いたのか覚えてませんが自室にて泣き寝入り致しましたの。


 それから数日後。

 私は何故か謂れのない罪に問われ城の牢獄へと捕らえられました。あまりの出来事に呆然としながら迎えに来た騎士見習いの少年……確か例の女生徒の取り巻きの一人だったような気がします。彼に乱暴に引っ立てられ、私は震える侍女たちに御父様に連絡を……とだけ伝え大人しく着いていきました。


 そしてそれから一夜明けた今。

 私の裁判が開かれております。いえ、裁判なんてものじゃありません。私の弁護が無い一方的なまでの談合裁判。次々と挙げられる罪状は私に関係の無い事ばかり……私の発言は丸っと無視されてアレイド殿下が例の女生徒の腰に手を回しながら私の前に立ちました。


「今彼女を謝罪すれば実家への更迭、そして修道院送りだけで許してやる。どうだ?」

「私は何もしておりません。ですから彼女、シスカさんに謝る必要性を感じません」

「貴様っ!殿下の恩情を無視する気かっ」


 私を引っ立てた騎士見習いの少年が吠えます。


「やれやれ、強情な方だ。認めないとなればこのまま裁判を続けるしかありませんね」


 キリリと眼鏡のブリッジを右手の親指の付け根――拇指球(ボシキュウ)でクイっと押し上げながら宰相の息子である青年が目が笑っていないにこやかな笑顔でそう告げます。


「貴女のような方が居るから世界は平和にならないのです、嘘つきは舌を抜かれるべきですね全く……」


 神々しいと表現出来るほど綺麗な顔をした美丈夫が天に祷りを捧げながら平然と恐ろしいことを口にして私を睨む。


「ヴィヴィオ、諦めて謝ってくれ。そうすれば俺はお前を許すことが出来るんだ」


 チャラい空気を醸し出す私のお兄様。いつも服の乱れを指摘しておりましたが今日も相変わらず酷いですわね。


「みんなっ止めてよっ。彼女はなにも悪くないわっ、悪かったのは彼女の婚約者であるアレイド様に近付いた私が悪いのっ。彼女はそれに嫉妬しただけっ。だからこんなこと止めてっ」


 小柄の小さな女の子。私より背が低いこじんまりした庶民の可愛らしい小動物のような少女が声高だかに私への糾弾を止めようとしているがどう考えても周囲を煽っているようにしか見えない。

 案の定、殿下を含めた取り巻きたちは口々にシスカさんを褒め称え、私への憎悪を募らせていく。

 私はそれを白けた目で眺めるだけ。

 やがて茶番を終えた殿下たちが判決を下した。


「ヴィヴィオ・マルキ・ヴィッセル。君を石杜(いしもり)の刑に処す。」


 愕然とした。回りでことのなり行きを見守っていたことなかれ主義の貴族たちがどよめくのが遠く聴こえる。

 私は今立っている事が出来ているのでしょうか?どうにも現実感がありません。

 ¨石杜の刑¨……またの名を永久の終身刑。

 意思を対象の身体から抜き取り封魔石に閉じ込める刑罰。

 そして石杜の(やしろ)と呼ばれる神殿に奉納される永久的な禁固刑。そこには個人の自由は無く、ただただ永遠に続く時間だけが供となる。肉体的な死を与え、精神だけで生き続ける最高の刑罰。


 そんな刑罰が王族によって(くだ)された。つまりもう撤回は不可能。陛下も王妃も、第1王子も外交で国に居ない今。この決定を覆すことのできる身分の者は居ない。

 御父様……私は何を間違えてしまったのでしょうか。


 ああ、今は亡き御母様。私は貴女の元へ行くことは叶いそうにありません。


 ★★



「コレより、ヴィヴィオ・マルキ・ヴィッセルの処刑を執り行うっ」


 記憶が混濁していた。

 目の前で私の愛していた人(アレイド様)が声高だかに何かを叫んでいるのを箱状の動く絵画を通して観ているようだ。

 その絵画の中でアレイド様はこう言うの……


「『さてヴィヴィオ・マルキ・ヴィッセル。最期に言い残すことはあるか?』」


 私は地面にボロボロの状態で跪きながら呆然と見上げ続けた。


『私はっ!殿下を愛しておりますっ!なのにっなのにどうしてそんな女なんかをっ』

『黙れ醜い女狐めっ!もうよいっ刑を執行しろっ』

『放しなさいっ!殿下っ…殿下ァッ!!いやあァァァァァァあ!!』


「何も言えないのか?ふん、最期まで可愛いげのないやつだ。刑を執行しろっ」


 コ レ ハ ナ ニ ?


 ずるずると両脇を抱えられ私は魔方陣の中へと引き摺られる。


 コ ノ キ オ ク ハ ナ ニ ?


 足枷を付けられると目の前に真っ黒なオニキスのような宝石が供えられ皆が離れていく。魔方陣の中で私はただ一人大量の記憶に翻弄され動くことが出来ない。


 知らない母親。知らない父親。未知の技術で造り上げられた道を行き交う箱形の馬車。捻ると簡単に水が湧き出る不思議な棒やランプや蝋燭の火より明るい光の魔道具。庶民のような者たちがたくさん集まって共に勉強する学園のような空間。みんなみんな知らない未知の情報。その記憶の中でも彼女が箱状の絵画を何かを使って巧みに操る中、アレイド様と女生徒が抱き合っている所へ高飛車な顔をした黒髪の豪華な衣装を着こなした女が割り込む絵画が表示される。

 彼女の名はヴィヴィオ・マルキ・ヴィッセル。

 そう、彼女()(彼女)だ。そうか、此処は乙女ゲームの世界で私ほ悪役令嬢のヴィヴィ――


「待てッその刑罰を中止――」


 御父様の声が聴こえたと思ったらそこで意識はぶつりと途絶えた。次に映ったのは目の前で目を見開いて涎を垂らしたまま力無く倒れるヴィヴィオ()の姿。


 思わず悲鳴を上げたけど声が出ない。それどころか身体の感覚すら無い。心臓の鼓動もない。体温、暖かさや涼しさも感じない。全てが無い。あるのは視覚と聴覚のみ。

 私の前に御父様がやって来た。憎悪に孕んだ目でアレイド様やあのシスカと言う女生徒。そしてその取り巻きたちを睨み付けている。

 遅れて王様がやって来た。心なしか一気に歳を取ったような気がするのは私の気のせいかしら。

 そしてその場でアレイド様の王位継承権放棄及び廃嫡(はいちゃく)が決定された。シスカ嬢の取り巻きもそれぞれ全ての立場を喪う。


 理由は無罪の公爵令嬢の処刑の断行。今更間違いだったなんて言い逃れは出来ない状況。証人はこの処刑場にいる全ての人間。シスカ嬢は何かを叫んでいるが衛兵に引っ立てられて消えていく。

 御父様が涙を溢しながら私の入れ物(身体)を抱き締め天に向かって恨み言を叫ぶ。


 アレイド様の方は廃嫡の言葉に動揺し、更に愛しの彼女(シスカ嬢)のあまりの変貌ぶりに頭を抱えている。騎士見習いの子は罪悪感から逃れるため自害しようとして取り抑えられ簀巻きにされ、神官である美丈夫はぶつぶつと懺悔を繰り返す。

 お兄様は御父様に殴り飛ばされたまま動かない。


 どこもかしこも騒然としている。

 もう戻ることの出来ない私は一体どうすれば良いのだろうか。

 その答えは見つからないままだ。


 ★★★


 時は流れて私に赤ちゃんが出来た。と言っても心は石の中。身体はただの肉人形だ。

 魂が抜けたとは言え不思議なことに肉体は生きていると言う謎の状態。

 お兄様が廃嫡となったせいで血を絶やす訳にはいかなかった我がヴィッセル家は政略結婚として第1王子、ユグドラード様の側室として嫁ぎ子を授かった。そしてそれから実家の領地の本邸にて子育てを続けている。幸い授かった子は男の子だったので毎日可愛くて仕方がない。

 舌っ足らずな声で「かぁしゃまかぁしゃま」と呼んでくるもんだからついついによによして何ですか?と声も出ないのに返事をしてしまうのだ。

 身体は動かない人形のようだが私はおおむね満足している。何故なら最近息子と会話できるようになったからだ。どうやら何となく溜め込んでいた空気中の魔力のお陰で念話が使えるようになったみたいで私の入った石を持った息子と何故か繋がれた。

 正直びっくりである。


 そんなこんなで息子はもう5つになりました。

 私は今日も石の中にいるけどおおむね元気です♪


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[一言] 第一王子が可哀想だな。 馬鹿な弟の尻拭いにダッチワイフ抱く羽目になったのだから^^; 元の状態知ってるだけに余計にやりきれんだろうに・・・
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