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グリアンクル開拓記~異世界でものづくりはじめます!~  作者: わっつん
第1章 異世界で遭難しちゃいました
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8話 欲望メーター

8話です。誤字脱字などございましたらお気軽にご連絡ください。

8話 欲望メーター



遭難生活5日目。


朝、スッキリ目が覚めた天音は、午前中に干飯の作業を終わらせて、昼食後はソリの制作を行うことにした。

ソリの制作だが材料には当てがあった。


荷物は20~30kg相当になる予定なので、重量に耐え切れる設計にしなければならない。

そのため丈夫で加工しやすい素材が望ましい。


天音はお風呂場に入って立て掛けてあった風呂蓋を手に取る。

湿気があったのでタオルで丁寧に拭き取り、リビングへと持って行った。


抗菌タイプの風呂蓋は折りたためるようになっているので、四角の棒状に固定したあとソリの滑る部分に利用するつもりだ。


縦75cm×横149cmの大型のものなので、十分足りる。

台座は、押入れにある簀の子を使う。荷台は3段ボックスだ。


天音は自分の部屋に戻り、中身を取り出した空の3段ボックスと押し入れの簀の子をリビングへと移動させる。

ついでに災害用ロープも出しておいた。あとは太めのベルトを2本用意して、ひとまず置いておく。


ノートを取り出した天音はさらさらと大まかなデザインを描いて行った。

といっても天音は絵を描けないので図案とサイズだけだ。


滑りの部分と台座でコの字型のような形で設計する。

コの字台座を一度山の下まで降ろしてから荷台を取り付ける方がスムーズかもしれない。


何にせよ荷物の移動には骨が折れそうだ。


荷台の三段ボックスは木製の蓋を取り付けてある。

ただ、防水性がないので更にカバーが必要になりそうだ。


蓋の部分にビニールの布でカバーを作ってクッションを取り付けるのもありかもしれない。

中にブランケットを入れて、出し入れがしやすいようにチャックかマジックテープを付けておくと、省スペースでクッション性のある椅子代わりにもなる。



(うん、いいかも。ブランケットはそんなに重くもないし、暖かいし)


身体への負担を考えると荷物は出来るだけ少ないほうがいいが、防寒対策としては毛布や厚手の洋服が必要になってくる。


いずれにせよアイディアだけは沢山出して、あとで取捨選択していくしかないだろう。

天音は集中してペンを走らせて行った。


3段ボックスの材質は濡れた場合塗装が剥がれる可能性が高い。

また、水分が内側に入ってしまうと食料の保存性に問題が出てくる。


特に干し野菜や干飯には大打撃だろう。


防水スプレーはあるが、限りもあるし、食料系をまるっと水分が入らないようにカバーするぐらいしか対応策は思いつかない。


となると、あとのことは考えずに資材を投入した方が良い。

3段ボックスは使い捨てにする方向で進めて行く。


山は緩やかな丘陵もあれば、急な斜面もあるだろう。

ソリが止まらなくなったときのためにブレーキも取り付けたいところだ。


ブレーキ部分の素材には、フローリング清掃用のワイパーを使うことにした。


先っぽは動かないように固定すれば問題なく使える。

組み立て式になっているので、ネジを外せば短くなるはずだ。


うん、と満足げに頷いて天音は続ける。


雨が降った場合のことも考えると、傘もあった方が良いだろうか。

そこまで考えて、雨合羽のほうが重みもないし、と思い直した。


野営はテントを使うとして……かまくらを作るためにスコップも持ち込みたい。

荷物が多くなりそうで頭が痛くなる。


天音は目をつむってコタツにもたれかかった。



「……甘いものが食べたい」


数時間根を詰めていたせいか、ふと気付くと脳に疲れが溜まっていたようだ。

ぼうっとする頭をふるふると振って、緩慢な動作であたりを見回す。


そういえば、遭難以降甘いものを取っていない。

疲れた時には甘いものと相場は決まっているものだ。

缶クッキーや飴、チョコ等は置いてあるが、いざと言う時のために残しておきたい。


なので、欲しければ作るしかない。だが燃料が心もとない。

カセットガスの予備は残り9本で、内1本は使い掛け。


数日中に家を出ることを考えると無駄遣いは出来ない。

欲望と理性の天秤がぐらぐらと揺れている。



「食べたいけど……でもなぁ…ガスがなぁ…」


ちらちらとカセットガスコンロを見ながら、うろうろと歩き回るが、結論はなかなか出ない。

そもそもさっきご飯を食べたばかりで、満腹だし……と言い訳したところで、天音は半目になった。



(いや、疲れた時には甘いものが鉄板でしょ!)


欲望メーターが振り切ってしまったようだ。


天音は自棄気味に思考を走らせた。


牛乳はまだ少し残っている。

冷蔵庫の中には卵、マーガリン、そしてバニラエッセンスと重曹の在庫も問題ない。


もちろん、砂糖もだ。


メイプルシロップも残っていたので使う事にする。

プリンとパンケーキとで悩んだ末、腹持ちのするパンケーキを選んで、早速調理に取り掛かった。


卵と牛乳、砂糖をボウルに入れて混ぜ合わせる。

ふと冷凍庫の中に生おからが残っていたのを思い出し、湯煎にかけて溶かしたあと生地に入れ込んだ。


そして薄力粉と重曹を粉ふるいにかけて、ゴムべらでさっくりと混ぜ合わせて行く。

最後にバニラエッセンスを少々。バニラの香りがいい匂いだ。


最後にほんの少し油を入れて生地作りは終了だ。


マーガリンをフライパンに落として溶かしたあと、生地を流し込んで弱火でじっくり焼いていく。


少しぶ厚めになってしまった。

慎重に火を入れなければ生焼けになってしまいそうだ。


生地にぷつぷつと空気穴が空いてきたので、見計らって生地をひっくり返してまた焼く。

真ん中に箸を付き入れて、生地がまとわりついていなければ完成だ。


箸で確認したあと、蓋を閉めて中を蒸し焼きにしてしっとり感を出したパンケーキを皿に乗せる。

一度に食べきれる量ではないので小分けにして保存しておく。


手のひらサイズのパンケーキに、メールプシロップをたっぷりかけると、出来上がり。

飲み物はレモン汁を入れて香りを出した紅茶だ。



「いただきます!」



(甘い!ふわっふわだし、美味しい~!)


あつあつのパンケーキは思いのほか甘かった。

メイプルシロップ効果もあるのだろうが、砂糖はあまり入れていないにも関わらず口の中には十分なほど甘味が広がる。


しっとりとした食感も素晴らしい。

あまりの美味しさに味わうゆとりもなく、あっと言う間に食べきってしまった。


牛乳はこれでお終いなので、作った分だけしかしばらくの間は味わえないことを考えると、もう少しゆっくり食べたほうが良かったのかもしれない。

ごろりと横になりながら少しの後悔と多くの満足感に浸る。



「うーん、満足~」


しばらくそのままゴロゴロとしているとバニラの香りが気になってくる。

食べている間は良い匂いなのだが、時間が経ってくると飽きてくるものだ。


寒いのであまり風を入れたくない気持ちを押し込めて、空気を通すことにした。


ベランダ側だけでなく、玄関側にも風が通るようにチェーンキーを閉めて、ドアを半開きに固定する。


風を通している間にクッションカバー制作に入る。

手が少しかじかんでいるので、布地の準備だけ行う。


中に入れるのはブランケットだけでなく着替えも含まれている。

下着類等、色々と詰め込む予定だ。


メジャーを取り出して布地に印を付けて行き、鋏で切って終了だ。



「うう、さすがに寒いっ」


窓を開けて10分程度経過した頃天音は鼻をすすりながら扉を閉めに行った。

風は結構な強さでベランダ側から玄関に流れている。


少し塩気が含まれているように思えるのは海風だからだろう。

夏だとじっとりと肌にへばりつくだろうが、幸い冬なのでそれほど気にならない。


さて、作業の続きだ。

用意した布地を裏布なしでボックス型に縫い合わせていく。

見かけは二の次で、ある程度丈夫であれば問題ない。


旅支度で問題になるのが衣料品だ。

気温が下がっているので洗濯をしても乾きづらく、かといって替えを多くすると重みが増す。


下着類が特に問題だ。今のところは家に居るので毎日下着を替えることが出来る。

体を拭く際に洗って1日半ほど干してじっくり乾かしているが乾燥は遅い。


夜のうちに外に出しておくと、水分があるため凍ってしまう。

家で出た時それが心配だ。


あるいは、あり合わせの布で簡易下着を作るのも一つの手かもしれない。

使い捨ては流石に勿体ないが、ボクサータイプのものなら簡単に作れそうだ。


古いシーツを切り裂いて、材料を用意しておく。

ゴムは在庫が心もとないので細く切った布を紐代わりに使用することにする。


途中、寒さで指がじんじんしてくるので、その都度湯たんぽに手を当てて手をマッサージする。

指空きタイプの手袋をしているが、それでも冷えは防げないようだった。



ある程度計画に目処が立ってきたので、気持ちに余裕も出て来た。

明日あたりは、実際に外に出てみて、必要なものを改めて洗い出したい。




レインブーツの代わりには大学時代に佐波先輩に貰ったお古のショートブーツを使う。


佐波先輩は足のサイズが小さいため、成人女性用のショートブーツに厚手の靴下、分厚い中敷を入れて履いている。

そして定期的に新しいものと取り替えているので、お古が何足か押入れにしまってあるのだ。


そのうちの一つを以前頂いたが、貰ったきり使っていなかった。

幸いなことに天音も足のサイズがそう大きいほどではないので、靴下を履けばちょうど良い。



納戸から取り出した靴を確認して天音は玄関に向かう。



「……?」


玄関先でさあ靴の手入れをしようという時。


特にどうということはないが、外で微かに物音がした。

耳をそばだてて見ると何かを引きずっているような音が聴こえる。


夕方も過ぎているので、手回し式ランプを手に取り恐る恐る防犯窓をそっと覗いてみるが、それらしいものは見当たらない。



(というか、暗くて見えないよ……)


角度を変えてみても暗さに変化はない。と、そんな折、何やら蠢く影が見えた気が……した。



「………っ!?」


声をあげそうになって咄嗟に手で口元を押さえた。

見間違いだろうか。そう思ってもう一度確認するが、のそのそと影が動いているのが今度ははっきりとわかる。


心臓の音がどんどん大きくなっていく。天音は遭難以降、はじめて怯えというマイナスの気持ちに直面していた。



(どうしよう、怖い)


慌てて玄関脇に置いてあるホウキを手に取り臨戦態勢の構えを取る。

そして、ひと呼吸することで気持ちを落ち着かせようと試みた。


相手が何であるかはともかくとして、万が一、盗賊だったりしたら……危険な動物だったりしたら……という考えが目まぐるしく頭を過ぎる。


人間ならチェーンをかけて置けば中には入ってこれない。

問題は小動物で、噛まれれば怪我をするし雑菌が入ってしまうだろう。


念のため入ってこれないよう、ダンボールをガード代わりにする。


そして息を殺して、チェーン施錠済の扉をゆっくり開けようと手を伸ばした時………。




ピンポ―――――――――――――――ン。




状況に不釣り合いな電子音がにわかに鳴り響いた。



9話は5月8日12時に更新予定です。

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