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グリアンクル開拓記~異世界でものづくりはじめます!~  作者: わっつん
第2章 開拓村でものづくりはじめました
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46話 魔竜公の息吹

46話です。シリアス?らぶ?な回です。

46話 魔竜公の息吹



魔竜公の息吹(ファラソラス)とは、冬の盛りに山から降りてくる強風の時期を指す。

ユーウェインから聞いた話では、この時期からより一層寒さが増すそうだ。

そして三週間ほど酷い寒さと雪が続いたあとは、春を待つばかりとなる。


実際朝の気温もぐっと下がって来て、普段から着膨れているのに更に中に着込む羽目になっている。

姿見はあっても質がそれほど良いわけではないのが幸いだろうか。

自分の外見を直視する機会がない、というのは天音の人生に置いてとても珍しい現象だった。


日本で生活していた頃はとにかく鏡を見て身だしなみをチェックする、というのが癖になっていたので、自分の外見が今どんな風に映るのかと考えると、天音は少し怖い。



「はあ……鏡を見なくても肌が荒れてるのはわかる……」


ざらりとした感触にげんなりしつつ、化粧水を取り出してお肌の手入れをする。

しっとりとした肌になり、少しだけ気持ちが上向きになった。


今後ラベンダーでフローラルウォーターを作れたら、化粧水として利用しようと考えている。

ラベンダーには保湿成分も含まれているので、乾燥肌には効果があるはずだ。



「さて……今日は荷物整理をしますか」


そろそろ冬も深まってきたことだし、メープルシロップ採取の時期も近付いている。

暇な時に整理をして置きたい。

衣料品は特にそろそろほつれがあるものも出始めている。

繕えば大丈夫なものと、もうボロボロで使えなさそうなものと分けておく。


メープルシロップ採取の際に自宅に寄るつもりなので、必要なものはメモに書き出してわかるようにするつもりだ。


食料品については持ち込んだ干し野菜の残数は3分の1程度。

春になるまでギリギリ保つだろう、と踏んでいる。


調味料については心配はいらないものの、今後塩だけは購入したほうが良いとダリウスに勧められた。

村の人口が増えれば塩が必要になるのは自明だ。

妙な勘ぐりを入れられるのを防ぐために、必要物資はなるべく購入する方向になった。


特産品が無事売れれば懐もあたたかくなるので、天音としても異存はない。



(……そういえば、そろそろ充電しないと)


手回し式充電器は持って来ていたので、開拓村に来てからも何度か充電作業を行っていた。

しかし携帯を部屋の外に出すわけにもいかないし、そもそも用途があまりなかったので放置していることが多かった。


確認したいこともあったので、この機会に天音は電源を入れてみることにする。


無事電源がついたので天音はほっとして息をついた。

アプリを起動させて転移前後のメールを確認する。


穂乃果ちゃんと佐波先輩からのメールは、前に見た通り。

天音は何となく安心して、アプリを閉じる。



(……あれ。あのアプリアイコンが見当たらない……?)



家計簿アプリだっただろうか。お財布に¥が描かれたマークがタップしても見当たらないことに天音は気付いた。

どこを探しても見当たらないので、メールアプリを再度起動させて添付を確認する。

だが、アプリの紹介メールの痕跡さえ見当たらなかった。


天音がしばしの間呆然としていると、扉をコンコンと叩く音が聞こえる。

はっとして天音は扉に視線を向けた。



「……俺だ。ユーウェインだ」


扉を開けるとユーウェインが困ったような顔で廊下に立っていた。



「何か御用でしょうか?」


天音が首を傾げてそう尋ねると、言葉を濁しているので、ひとまず台所へ向かうことを提案した。

あそこが一番暖かいし、天音の部屋は今荷物で散らかっているためユーウェインを入れることは出来ない。


ユーウェインが特に反対する様子もなく頷いたので、2人は早速移動することになった。



台所には珍しく誰の姿もなかった。

火の番をしているかと思ったカーラは従士の宿舎へ趣いているようだ。

疑問が表情に出ていた天音にユーウェインはこう言った。



「今日は魔竜公の息吹(ファラソラス)の日だから、恋人と過ごしているのだろう」


「へ?」



天音は更に訳がわからなくなって間抜けな声を上げてしまった。


魔竜公の息吹(ファラソラス)というのは、冬至のようなものだろうという認識が天音の中にあったので、余計に混乱してしまったのもある。



「冬の一番寒い日には、なるべく2人以上で寄り集まる、というのが恒例になっていてな。

 特にグリアンクル方面は、この時期になると……」


唐突に窓の外に光が走ったかと思えば突然轟音が鳴り響いて、天音はビクッと肩を揺らした。

いったい何の音だろうか。キョロキョロとあたりを見回してみるが、部屋の内部で変わった様子はない。



「ああ、これだ。雷だ。

 冬の雷は火を呼ぶこともある。

 魔竜公の怒りが森に火を放つと危ないから

 なるべく多人数で過ごすことになっている」


「な、なるほど……」


台所の窓は今は締め切られているが、光と音のタイミングを考えると結構近いところに落ちたのではないだろうか。

天音は少し恐ろしげに眉をひそめ、そわそわと指をいじり始める。

雷が昔から苦手なので、天音はどうにも落ち着かない気分だった。

山火事でも起きたらどうしようなどと考えながら、天音はふと疑問に思ったことを口に出した。



「ユーウェインさんは、どうして私と?」


「……ダリウスはジャスティンと過ごすと言い張って、

 他の面子もそれぞれ固まってしまった。

 更にダリウスからお前を誘えと言われた」


「ああ、なるほど。

 お気遣いありがとうございます」



(カーラはホレスと、イーニッドはお兄さんとかな?)


さらっと礼を述べると、ユーウェインが苦虫を噛み潰したような表情になったので天音はあれっと思う。

だが何故ユーウェインがそんな顔をしているのかは全く想像がつかなかった。



「……そういえば、それはなんだ」


ユーウェインは話を変えることにしたようだ。

大変投げやりな態度に見えるが、気のせいではないだろう。

とはいえ突っ込むのも野暮だ。天音は机の上に置いた携帯を見遣った。



「これは携帯です。

 電話をしたり……うーんと、人と連絡を取るための道具ですね」


「……魔石での通信とは違うのか?」


「声を届けたり、文字を送ることも出来ますよ。

 それから、絵姿もこうやって……」


雷への恐怖感を紛らわせるために天音は少々多弁になっている。

写真を撮って見せると、ユーウェインはしげしげと携帯の画像を見つめた。



「不思議なものだな。

 このように精密な絵画は見たことがない」


「他にも色々と機能があるのですが

 わかりやすいものだとそんなところですね」


携帯の中のアプリを弄りつつ、天音はそんな風に説明を終えた。

そして携帯画面をデフォルトに戻す。



(………あれ?)


どこか違和感を覚えて天音は心の中で疑問を発した。

なめるように画面を見てみると、違和感の正体はアンテナの棒線だった。

今まで0だったのが、1本になっている。つまり、電波が少しなりとも通っている状態だという事だ。


天音は慌ててメールアプリを起動させて受信ボタンに指を滑らせた。

心臓がどくどくと音を立て、喉がカラカラになっているのを天音は感じる。



「……おい?どうした?」


ただならぬ様子にユーウェインが思わず声を掛けたところで、メールの受信音が鳴り響いた。

今度はユーウェインが驚いてガタリと身体を揺らす。

天音は携帯を見つめたまま、小声で大丈夫です、とだけ呟いた。


新規メール受信は1件だった。

いてもたってもいられないが、メールが表示されるまで天音は唇を引き結びながら待つ。


TO :モリゾー

---------------------------------------------------------------------------------

件名:変なメールが来た

---------------------------------------------------------------------------------

本文:アプリのアドレス添付されてて

   勝手にDLされてたみたいなんだけど

   これ何かわかる?

   

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添付:app.jpg



「佐波先輩………」


「は?……サヴァから連絡が来たのか?」


どこか焦っているようなユーウェインの様子に天音は気付くことなく手元の携帯を凝視して考え込んでいた。



(佐波先輩にもアプリ紹介メールが届いた……?)


しかも、メール送信の日付を見ると天音がこちらに来た翌日になっている。

だが……天音はそのようなメールを送った覚えがない。

そもそも天音に来たアプリ紹介メールでさえ、迷惑メールだと思っていたくらいだ。


添付にはアプリアイコンの画像が表示されていて、天音が見たものとは違っているようだが、似たようなアプリ内容ではないかと天音は感じた。

何だか良くわからない状況に天音は言葉を失ってしまう。



「おい」


硬直したまま呆然としている天音に業を煮やして、ユーウェインが天音の肩を叩いた。

天音がはっとして顔を上げると、そこにはユーウェインの心配げな瞳がある。



「大丈夫か」


労りのこもったその一言に、天音はただただ頷いた。



「顔色が悪い」


「だい……じょうぶです。

 ちょっと驚いてしまって……」


佐波先輩からのメール内容をどう説明して良いかわからず、天音は途中で言葉を切った。



「……ゆっくりでいいから、ちゃんと話せ」


「はい……」


天音は一つ深呼吸をしてひとまず気持ちを落ち着かせた。

そして頭の中で少しずつ情報を整理していく。


佐波先輩からの連絡は天音の消息を問うものではなかったこと。

天音がこちらへ来たその日の日付がメールには記載されていること。


この2点を天音はユーウェインに説明した。

アプリのあれこれについてはどうにも説明しようがなかったので、割愛したが。



「……サヴァとやらはお前のことが心配ではないのか?」


説明し終えたあとにユーウェインが発したのは、予想外なものだった。

苦々しげな口調は佐波先輩を責めているかのようで天音は困惑する。



「いえ、おそらくこのメールの時点では

 私の不在は佐波先輩に伝わっていないと思います。

 でなければもっとメールが何通か来ているのではと……」


そう、そもそもこちらに来て一ヶ月以上も経つというのに、どうしてメールが1通のみなのだろうか。

職場からも親戚からも一切連絡が入っていない状態で、佐波先輩からのものだけが受信されている。



「しかし……」


何時の間にかアンテナ線は0に戻っていて、これ以上携帯を使っていても仕方がないので天音は電源を落とすことにする。

尚も心配そうなユーウェインに対して、天音は大丈夫ですよ、と言った。



「佐波先輩はそれほど薄情な人ではないので

 それなりに心配してくれていると思います。

 むしろ気になるのはどうしてこのタイミングで

 連絡が届いたのか、という部分で……」


天音がこちらに来た原因はまだわかっていない。

もしかするとこのアプリメールが何か大きなヒントになるかもしれない。


連絡が届いたタイミングで何かなかったかと思い返してみると、そういえば大きな雷が鳴っていた。



(大きな雷……電波?いやでもなぁ……)


淡々とした天音の様子に、ユーウェインは呆れ気味にため息をついたあと押し黙った。



47話は23日12時に投稿予定です。次回はついに!採取に出発します~。


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