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グリアンクル開拓記~異世界でものづくりはじめます!~  作者: わっつん
第2章 開拓村でものづくりはじめました
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45話 泣くな従士たちよ

45話です。飯テロです。

45話 泣くな従士たちよ



「アマネさん。ちょっと宜しいですか?」


冬の盛りがもうすぐそこへ訪れようとしている時期のことだった。

昼食も過ぎた頃、台所でジャスティンに話し掛けられて、天音は顔を上げた。

机の上には書き散らかしたメモが散乱しているので、少々気恥ずかしい気分になり慌てて片付ける。



「何でしょうか?」


「ええ、その、実は……」



ジャスティンの話によると、最近、従士たちにある種の不満が溜まっているらしい。

ユーウェインのダイエット騒動で天音の料理を食べたところ、自分たちのさもしい食事と比べて格差を感じてしまったようだ。



「そんな理由で申し訳ないのですが……

 ユーウェイン様の許可は取っておりますので

 何かこう、作って頂けないでしょうかと……」


ジャスティンは恐縮気味に身体を縮こまらせてそう頼んで来た。

水汲みや力仕事などでいつもお世話になっているため、天音は笑顔で快諾した。


お礼のしどころに迷っていたのだ。

ちょうど台所で食事のメニューをつらつらと考えていたので、タイミングも良い。

材料も倉庫のものを使って良いとお許しが出ているそうだ。



「構いませんよ。どんなものがお好みでしょうか?」


「改めて訊かれると……

 たぶん、食いでがあるものなら、何でも良いかと」


アバウトな答えに、天音はうーんと考え込んだ。

お酒のアテよりもガッツリ食べられるもので、味が濃い目のほうが良いだろうか。

そんな風に申し出ると、ジャスティンはほっとしたように頷いた。



「なるほど、わかりました。

 何人分作れば宜しいですか?」


「10人分あれば大丈夫かと思います。

 それで、少ないのですが……」


ジャスティンはおもむろに懐から取り出した革袋を机に置いた。

チャリ、と音がするので、中身はお金だろうか。

天音は目を丸くして手を伸ばし、確かめてみるとやはり金属の手触りだった。


大銅貨が10枚分。1人頭1枚を徴収したらしい。小銀貨ではないのはそういう理由からだろう。



「これは……」


「無料というわけにはいきませんので

 従士たちからかき集めました」



(……材料費ってことかな。でも……)


少し多く頂いた気がしたので、天音は半分の5枚を取り出してジャスティンに袋を戻した。

日頃から間接的にお世話になっている上、黒パン3日分が大銅貨1枚ということを考えると、ここで多少なりとも恩を返しておきたい。



「こんなには頂けませんので、半分はお返しします」


「ですが……」


「いつも力仕事でお世話になっていますので、お礼です。

 このお金でお酒でも飲んでください」



開拓村には娯楽がお酒ぐらいしかないので、気晴らしと言えば酒会という流れになる。

そして酒の在庫は雑貨屋には置いていないので、外に出た際に購入するか、館の倉庫から買い取るかどちらかしかないのだ。


従士たちの気晴らしと言うのなら、お酒も加えたほうが効果的だろう、と天音はジャスティンに一言添える。

あわせて、パン代金として大銅貨3枚を返金する。流石に主食は館の食料では賄えないだろう。




「……それもそうですね。では、お言葉に甘えて」


「それはそうと、ジャスティンさんの分が入っていませんが

 宜しいのですか?」


「ああ、こちらの分は気にしないでください。

 いつも分け前を貰っているので」


流石に従士長としてまとめ役をやっているだけあるなぁと天音は感心する。



(まあでも、ジャスティンさんだけ仲間はずれというのも……軽食ぐらいは作ってあげよう)



いつもユーウェインの世話で気苦労も多かろう。

天音はそう思って、早速メニューを考え出した。




◆◆◆



ジャスティンはまだ仕事が残っているとのことで台所から去っていった。

天音は書き散らしたメモを整理しつつ、まず食いでがあるメニューを考えることにした。


お腹が膨れると言えば炭水化物系だ。

水分を吸うと膨らむ素材を使うのも良い。



(パンはあるから……中をくり抜いてクリームソースを入れてもいいなぁ……)


いくつかメニューが思い浮かんだので早速作業に入る。


具材は炙ったベーコンと根菜、玉ねぎ。くり抜いた部分はパン粉にして、別のものに加工する。

パン粉とレバーペースト、芋を蒸して潰して混ぜ込む。

10人分ともあれば相当な量だ。大きめのボウルを使っているが、持ち上げるとずっしりとした重量がある。


味付けはレバーペースト自体についているが、味がボヤけていることを懸念してスパイス系を足すことにする。

天音は辛味のあるルッコラのような乾燥ハーブを取り出してゴリゴリとすりこぎで粉々にしてからボウルに投入した。



「あとはこれを丸めて……」


ごろっと丸い形に整えたものに片栗粉をまぶしてトレイに並べて行く。

片栗粉は天音が持ち込んだものだ。


あとで油で揚げることにして、クリームソースを作ったあと、冷めないうちにお団子を揚げる作業に取り掛かる。



「……美味しそう」


スパイスの香りが強い上にラードの香りがついて恐ろしい爆発力を演出している。

まず、この濃い香りだけでお腹がなりそうだ。


パチパチと脂のはねる音がして、食欲が更に煽られる。


匂いがしたからだろうか、台所の外でざわざわと声がしだした。

従士たちがコッソリ覗き込んでいたようだ。


天音の耳には従士たちの方向から腹の鳴る音が入り込んでいるが、気にしない振りを貫く。



(私もお腹が鳴りそうで怖い……明日は我が身)


作り終えるまで空腹に負けないように口に手持ちの飴を放り込んで仕上げに注力する。

大皿に並べたパンの中に具入りのクリームソースを流し込んで一品。

そしてさっと素揚げして油をきった葉物野菜の上に肉団子を並べて二品。


最後に、はちみつで漬けておいた柑橘類……クァカトラをデザートにして任務は完了だ。



「ふぅ……!」


休みなく動いていたので少々汗をかいてしまった。

天音は汗をハンカチで拭いつつ、外の従士たちに向けて声を掛ける。

手ぐすねを引いて待っていたためか、先ほどから声が一切していなかった。

腹の鳴る音は随分と響いていたが。



「出来ましたよ!」



「うああああああああああ」


「ひゃふぅうううう」


「持っていけ!早く!」


「つまみ食いするなよ!!!」


天音が一声掛けると、従士たちの雄叫びが聞こえて、あっという間に2つの大皿が運ばれて行く。

声を上げていた中にはホレスの姿もあって、天音はこっそり驚いていた。

従士たちはとっくの昔に食堂に移動したようで、台所の外に出ると誰ひとりとして姿が見えない。



「おや、アマネさん。

 料理は完成したのですか?」


「あ、はい。無事……でも皆さんあっという間に食堂に行かれてしまいました」


ダリウスは従士たちの雄叫びに驚いて執務室から出て来たようだ。

覗きに行くかと言われて天音は頷いた。


食堂の中では従士たちが無言で立ち尽くしていた。一種異様な雰囲気だ。

何事かと机の上に天音が視線を向けたところ、皿はどちらも空になっていて、見事な完食状態だった。


天音は従士たちの食事スピードにまず驚き、そして彼らが滂沱の涙を流していることに更に驚いた。



(一体どういうことなの……)


無言で涙を流し続ける従士たちにドン引きしつつ、隣のダリウスに解答を求めてみるが、肩をすくめてかわされる。

どうにも声を掛けるのが躊躇われて入口近くでおろおろしていたところ、後ろからジャスティンが現れた。



「……お前ら、何をしている」


地を這うような声に従士たちはびくりと肩を震わせた。

ジャスティンは小さい身体には不釣合いなどっしりとした怒りのオーラを放ちながら従士たちの元へと足を進める。



「従士長……なくなってしまいました……」


「は?」


ぼそりと呟いたホレスは従士長の代理をすることも多いためか流石にびびってはいないようだ。

が、呆然としていてまともな状態とは言い難い。



「さっきまであったのに……」


「すぐになくなりました……」


「信じられない……」


ホレスのあと、堰を切ったかのように次々と従士たちから声が上がる。


食堂に皿を移動させたあと、まず従士たちはお互いを牽制しあって手を出さなかった。

そこへホレスが一口目を頬張ると、一気に皆が食事をし始めたようだ。

普段なら乾杯から始まる食事風景がそのせいで殺伐とした雰囲気に変わり、更には早く食べないと誰かに取られてしまうという焦りから、食べるスピードは加速していったと言う。


そしてあっという間に皿が空になり、現在に至る。



「お前らはあほか?なあ?」


ジャスティンはイライラと従士たちを小突いている。

しかし従士たちは呆然と泣き崩れるばかりで収集がつかない。



「はい、はい。お前たち、泣くのは好きにしたら良いですが

 忘れていることはありませんか?」


手を叩いて耳に刺激を与えることで従士たちの顔がはっと上げられた。

声を掛けたのはダリウスだ。さすが年の功、と天音は心の中で拍手を送る。



「はい!美味かったです!」


「ありがとーございましたァッ!」


「遅いんだよこのあほ共がッ!」


次々とお礼を言う従士たちにジャスティンが後ろから蹴りを入れて行く。



(バイオレンス……ッ)


そのあとジャスティンのお説教が続き、従士たちはしょんぼりとしつつも天音が「また作りますよ」と言ったことで表情を輝かせていた。




◆◆◆



さて、次はジャスティンとダリウスの分だ。

従士たちが後片付けをしている間に天音は急いで台所に舞い戻った。


作るものはもう決まっている。ピリ辛パンケーキサンドだ。

実は先ほど生地自体を既に作っているので、あとは具を簡単に作るだけだ。


レバーペーストは今回使わない。乾燥ジャガイモの素揚げに炙ったベーコン、残っていた葉物野菜をパンケーキに挟んで完成だ。

持ち込みのチリソースで味付けを行ったのだが、好みに合うだろうか。


ちょうど用事があって台所に入って来た2人にパンケーキサンドを渡すと大層驚かれた。



「わざわざ作ってくださったんですか?」


「ありがとうございます」


「はい、いつもお世話になっているので、もし良かったら食べてください。

 こちらの調味料ではないので、慣れない味かもしれませんが」


つつ、と皿ごと差し出す。

2人は興味深そうにパンケーキを似たような表情で観察してから一口食べた。

こういう反応は血縁関係があるためか、よく似ている。


以前焼き鳥を食べてもらった時に、どうもこの2人は塩っぱい・辛いものが好みなのではと思っていたのでチリソースを試してみたが、どうだろうか。

天音はドキドキしながら2人の反応を見守る。



「えっ」


ジャスティンが小さく叫んだ。

耳が赤くなっていくのを見て、気に入ったのだなと天音は判断する。


「おっ。これは良いですね」


ダリウスにも好感触のようだ。

天音はほっとして微笑みを浮かべた。

やはり美味しそうにしてもらえるのは嬉しい、と独りごちる。

ユーウェインのアレな反応は置いといて、こうやって試行錯誤で相手の好みを知ることが出来るのも、天音にとっては興味深いことだ。


元の世界での職場では、思えばこういった充足を感じることは少なかったので、天音は自分の感情に少し驚いていた。



(こういうの、好きなのかな?)



そうやってしみじみしていると、台所の扉でユーウェインが恨めしげにこちらを見ているのを発見してしまった。

天音としては見ない振りをしたかったが、目が合っているので逃げられない。



(どうしよう。ユーウェインさんの分、用意してない)



このあと滅茶苦茶機嫌を損ねられた。ダイエット中の人に美味しそうなものを見せてはいけないと心に誓った天音であった。






46話は月曜日更新です。12時になったら読めるはず。


次はシリアス回ヽ(・∀・)ノ

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