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グリアンクル開拓記~異世界でものづくりはじめます!~  作者: わっつん
第2章 開拓村でものづくりはじめました
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44話 ダイエット戦線異常あり!

44話です。今回はコメディ回ですね。ぷにぷにを楽しんで頂ければ幸いです。

44話 ダイエット戦線異常あり!




ユーウェインにはダイエットが必要だ。

そのことは、天音を含めた3人に共通していた。

そして出来れば3人だけではなく、他の人間にも協力を求めたいところだ。


カーラは静観を希望した。流石に領主の腹肉を摘むのは気が引けたのだろう。

天音だってこんな状況でなければなるべく遠慮したい気持ちが強い。

だがダイエットは必要だ。あのようなぜい肉を放置していて良いわけがない。


ユーウェインには魔獣討伐で村を開けることが多く、身体が資本だ。

そんな人間が、太ってしまったら、どうか。



『何てことだ……動けない!』


ぷくぷくと太ったユーウェインを想像して、天音は眉を顰めた。

頭の中のユーウェインは完全にアメリカ人なみのピザデブの姿で原型を留めていない。


一度そうなってしまったら、痩せるのは至難の技だ。


特に、ユーウェインの性格上そこまで行くと更に食欲が倍増されてしまう恐れがある。



『オデノカラダハドボドボダァ……!』


巨体を揺り動かす度に腹肉がたぷぅんと揺れるユーウェイン(太)。

由々しき……由々しき事態に天音は戦慄を覚えた。

今のうちにダイエットは成功させなければいけない。そしてそのためには、下準備が必要だ。



そんな訳で、従士たちにも協力してもらうことになった。

説得はジャスティンに任せた。

計画の概要は、何時ものごとくユーウェインをご飯の匂いでおびき寄せて従士たちに後ろから拘束させ、腹が減ったと言えば腹肉を摘む。こうだ。


しかし、ジャスティンが言うにはユーウェインは腐っても領主。

なかなか簡単に拘束されてはくれないでしょう、とのことだ。

とはいえ食欲に負けてフラフラしている一面もあるので、隙は十分にあると思いたい。


何せ、標的がやってくる場所は決まっているのだ。

どの道台所に姿を現すので、逃げ場を防げば良いだけの話。


そしてユーウェインは大抵の場合、美味しいものを食べるまで諦めない。

困ったことである。天音はため息をついて頭を振った。



◆◆◆



本日の餌……もとい、メニューは、ユーウェインの食欲を存分に刺激するような内容だった。

まず、メインは鴨カツ。

ついでに乾燥ジャガイモも素揚げして塩を振ると香ばしい匂いがたちまち漂って舌を刺激する。


油は少々もったいないが豚の背脂を使った。

といっても使ったあとの脂も使い道があるので、採算については何とも言えない。


メイン2つ目にはベーコンとカブのグラタン。チーズもたっぷりで美味しそうだ。

そして、まだ使いきれていない鶏がらを使ったスープ。具材は干し肉に乾燥野菜。


鴨カツには丼で食べたいなぁ、と天音は悩んだ末、久々にコメを炊いた。

ユーウェインたちの分はパンを用意してあるので、こちらは完全に天音の分だ。


炊飯窯の中から炊きたてのコメを取り出すと、ダリウスが不思議そうに覗き込んでくる。

フライパンの時もそうだったが、こちらでは鍋の形は一定なので物珍しいのかもしれない。


ジャスティンはユーウェインの捕獲準備をしている。

現在はユーウェイン主導で訓練が行われている様子だ。

まあ、美味しいものの気配を感じたらすぐにでもやって来るだろうと思われる。



「変わった形の鍋ですね……材質も不思議だ。

 そしてこのコメ?という麦みたいなものも、不思議な香りですね」


「私の故郷で食べられている主食ですね。

 食感がもちもちしていて独特なので、

 こちらの人の舌には合わないかもしれません」


「ふむ……」


海外ではどちらかと言えば粘り気のないインディカ米のような長粒種、あるいは栄養面で精米されていない玄米の方が美味しいとされている、と何かの記事で読んだ覚えがある。

ただ、米を食べたことがある人がこちらでは少なそうだ。

米開発の余地はありそう……と思いつつ、天音単独で玄米を発芽させて稲を育てる……なんて芸当は出来そうにない。

そのため、現時点で持ち込んでいる玄米は食べてしまうか味噌にしてしまうかどちらかになるだろう。


米びつにコメを移したあと、濡れ布巾をかけて蓋をしておく。

スープは事前に準備してあったので、具材を入れて火をかけたままだ。


グラタンも焼き終わっているので、あとは標的を待つのみになった……。

そんな折、入口付近がざわざわとしてきた。



◆◆◆



「腹が減ったぞ!」


腹を空かせたユーウェインが現れた!


ユーウェインは訓練あとのためか泥だらけな姿だった。

正直なところこの汚さで台所に入って欲しくなかったため、天音は半目で睨みつけながら近くにあった棒を使ってユーウェインを突く。

ユーウェインの傍にいたジャスティンが天音の行動にギョッとして目を剥く。



「そのような汚い格好で台所に入らないでください!」


「う、痛、なんだ!?」


「入らないでください~~!!」


「わかった、わかったから!痛っ」


天音が優先的につついていたのはもちろん贅沢にぷよよんと弛んだ腹の肉だった。

筋肉の塊状態なら、天音につつかれたぐらいでここまで痛がることはなかっただろう。

だが、ぷよぷよの贅肉はユーウェインを守ってくれなかったようだ。



「ふぅ……ユーウェインさん、私は怒っているんです。

 最近、食べ過ぎではないですか?

 この!腹肉!!」


「いてぇっ!……仕方なかろう!?

 飯が上手くて腹が減……っ」


天音は棒で腹肉を更につつく。今度は結構力を込めてみたので、ユーウェインも痛そうに顔をしかめている。

ユーウェインの反論と同時に、天音は後ろにいるジャスティンに強い視線を送った。

最初ジャスティンはとても嫌そうな顔で、けれど段々と仕方なさそうに眉を下げて、ユーウェインに一言。



「……ユーウェイン様。お許し下さい」


「何がだ!?というか、この状況はおかしくないか!?」


「旦那様、私からも先に。

 申し訳ございません。恨まないでくださいね?」


「はああああ???」



ジャスティンは後ろの従士たちに命令して、ユーウェインを拘束させた。

狭い室内なので、逃げ場がなかったことが幸いしたらしい。



「さて……ユーウェインさん。

 もう一度言ってもらえますか?」


天音は実のところ相当うっぷんを貯めていた。

ウサギ肉を取られたあの時からずっとである。

天音の分の食事を「美味いからしょうがない」と取られたのは1度や2度ではないのだ。


その取られた食事が腹肉に変わっていると思うと、業腹ものである。



「……いや、だから、腹が減っ」


「ジャスティンさん!」


「っ失礼します!」


ジャスティンが目を瞑ってユーウェインの腹肉を抓る。



「痛ぇええ!」


どうやら思いっきりやったらしく、ユーウェインが悶絶している。

しかもジャスティンはブツブツ念仏のようにすみませんすみませんと言いながらも抓ることを止めていない。

継続の状態だ。



「反省が足りないようですね?

 宜しいですか、このままの勢いで食べ続ければ、

 ユーウェインさんはデブになってしまいます。

 既にその兆候は現れているはずですよ、その腹肉に!!!」


ずびし、と天音はユーウェインの腹を指さした。

天音の厳しい言葉にユーウェインはぐぬぬ、と悶え声を漏らす。



「……確かに、最近腰周りが少し動きにくくなったが……

 だが、そんなにか!?」


「そんなにですよ、旦那様。

 正直見苦しいです。

 さらに言えば、太ると次兄様のようになりかねませんよ?」


「しかし……腹が減いてぇえ!」


今度はダリウスが腹肉を抓り始めた。

天音は仁王立ちで腕を組み、成り行きを見守っている。

いざとなればまた棒でつつく覚悟だ。



「外見だけではないのですよ。

 太れば色んな病気の危険性があります」


骨が弱くなったり、肥満を放置していると糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病にかかるおそれもある。

そしてこちらでは医療技術がそれほど発達していない様子だ。

何しろ開拓村に医者の存在がないのが驚きだ。

医術にかかることが出来ないのなら、病気になるなどもってのほかだ。



「私は自分が作ったご飯で人が病気になるなんて許せません。

 ………そして食べ物を取られた恨みは忘れません………」


「お前結構根に持つヤツだったんだな……」



根に持つと言われてカチンと来た天音は棒をひゅんひゅんとしならせた。

ユーウェインがビクッとしている。



「そのような理由から、勝手ながら

 今後私はユーウェインさんの食事を制限させて頂きます」


「待て、その、制限というのは」


「具体的には間食は1日1食に制限。

 3食キッチリ取って、それ以外はなしで」


「………なん……だと……!?」


「いえ、驚いておられるようですが

 これが普通ですからね?」


ユーウェインのあまりにも愕然とした表情に天音は呆れ調子でそう答えた。

周りの雰囲気も苦笑が混じっている。



「ユーウェインさんがこの条件をのめないようなら……

 そうですね。先ほど作った鴨カツ、グラタン、スープ。

 全部従士さんたちに食べていただきます」


天音がそう言うとユーウェインの後ろから喝采が上がった。



「やったーーー!」


「ユーウェイン様、ありがとう!」


「は!?駄目だ、あれは俺が食べる!」


「更に、今後一切私はユーウェインさんの食事を作りません。

 私の食事も分けてなんてあげません。スタッフが美味しくいただきます」


「スタッフってなんだ!?いやそれは困るから……」


「なら、先ほどの条件を守って頂けますよね?

 守って頂けるなら……もちろんこちらを召し上がって頂いても大丈夫なんですが」


天音はぐぐいとオーブンで余熱をしていた鴨カツとグラタン皿をのせたお盆をユーウェインの目の前に出した。

ユーウェインの腹が鳴り、鼻がピクピクと動いている。


先ほど訓練で体を動かしたあとなので、かなりの空腹状態のはずだ。

運動したあとだからある程度食べるのは問題ないだろう、と天音は頭の中でカロリー値も計算している。



「……間食を2食」


「なら食べさせません」


「…………条件をのもう」


よし、と天音は内心拳を握ったが、ここで油断を見せてはいけない、とにっこり笑って頷いた。



「宜しい。今後文句を仰るようなら、

 また同じ目に合わせますからね?」


「くそ………っ」


ユーウェインが拳を握ってくやしそうに吠えた。

ちなみに、食事はユーウェインを含めて全員で美味しく頂きました。



◆◆◆



その後、あまりに腹が減ったとうるさい場合には周囲の人間に寄ってたかって腹肉を抓られたので、ユーウェインは次第に食欲を抑えるようになった。

同時に増加傾向にあった贅肉も、日々の運動で筋肉に取ってかわったことで、天音の心にも平穏が訪れることになった。


誤算と言えばしばらくの間ユーウェインが天音を恐れるようになったことだが、天音にとっては些細なことである。


45話は……22日12時に投稿予定ではあるのですが、毎度のごとく土日をはさみますので、余裕があればどちらかに更新します。



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