表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グリアンクル開拓記~異世界でものづくりはじめます!~  作者: わっつん
第2章 開拓村でものづくりはじめました
44/92

43話 贅沢な肉と書いて

43話です。ぷにぷに、タプタプでございます。

43話 贅沢な肉と書いて



天音はドラにパン焼き竈の使用とギルドとの調整役をお願いしたいという旨を伝えた。

竈の使用料についてはダリウスと相談してもらう、調整役にはお役目料も支払われる、などの条件は予めユーウェインと話を付けておいた。

ドラの了承が得られればそれらの条件も話すつもりだが、まずは好意的な返事を貰えないことには話にならない。



「協力……ですか?」


ドラは訝しげな顔で天音とダリウス、そしてダンを順繰りに見遣った。

声には不安がにじみ出ていて、どう答えて良いか躊躇いがあるようだ。


天音はチラリとダンを見た。

どっしりと椅子に座って腕組みをしているダンの姿は、いかにもな貫禄がある。

この夫婦の関係性を予想するに、決定権はダンの方にあるのでは、と考えた天音は、説明相手を切り替えた。



「先だって、ご領主様から特産品計画についてのお話があったかと思います。

 召し上がっていただいたケーク・サレとメイプルナッツクッキーもその特産品に含まれているのです」


まずは企画概要からだ。ダンの目元がピクリと動いた。

職方との会議の日の諍いごとを天音は思い出す。


天音の想像でしかないが、ダンはどちらかと言えば理詰めで考えるタイプだ。

そして結論を急がない。また、結果を大事にするので、利があるとわかれば納得してもらえる可能性が高い。



「トゥレニーでの特産品販売を予定していますが、

 配送に時間がかかるので、あちらでの製作も検討しています。

 出来れば大量に作りたいので、こちらのパン焼き竈の使用と

 トゥレニーのパン焼きギルドへ紹介状を書いて頂けないかと思いまして」


グリアンクルからトゥレニーまでは馬車で3~4日ほどかかる、とユーウェインから聞いている。

これは荷馬車に満杯まで荷物を詰め込んだ上での計算だ。


この計算を前提とするなら、やはり現地で作れる場所があるのならレンタルしたい。

ギルド関係はユーウェインやダリウスから色々と情報を仕入れているが、内部結束が強い組織のようなので、紹介状を得てから交渉したほうが早いとのことだ。



「………使用料は?」


「お支払い致します。紹介状とあちらとの調整をしていただけるなら、

 お役目料の方も用意がございます」


ダンの瞳がキラリと光った。どうやら興味を無事ひくことが出来たらしい。

天音の後ろでダリウスが大きく頷き、ダンと話し始める。

これからの交渉はダリウスに任せる話になっていた。


ドラは今いちピンと来ていないような顔をしていて、天音の方をおろおろと見ているばかりだ。


天音はドラを安心させるために、にっこりと笑顔を浮かべた。



「大丈夫ですよ、ドラさん。

 ご領主様は悪いようにはなさいませんから」


「そう……なんでしょうか?私にはさっぱりわかりません。

 こういうことは旦那に任せっきりでねぇ」


「ドラさんはパン焼き職人になられて何年なんですか?」


「ええと、七つの年からだからもう十五年になるかね、あんた」


ドラは隣のダンに話し掛けるが、ダンは頷くだけで済ませてすぐにダリウスとの交渉に戻る。

どうやら交渉は白熱しているらしい。天音はドラは顔を見合わせてふふと笑いあった。




◆◆◆



気合を入れて挑んだ割に、ドラとの話し合いはあっさりと終わった。

交渉役がダンに変わったのが理由としては大きいだろうと天音は考えている。


ドラは素朴な職人で、計算ごとや交渉事が苦手な性格のようだ。

そのためダンが普段からこういった話し合いに同席して話を取りまとめることが主らしい。


天音はダリウス、ジャスティンと台所で今後の特産品計画の流れについて話すことにした。

特産品計画の内、革製品はミックに任せきりでも問題ないだろう、とダリウスは言う。

となるとあとは保存食関連だ。



「なるべく早めに材料費の方は計算出しておきますね。

 クッキーは出発前にドラさんと2人で作り置き出来るんですが

 ケーク・サレについては消費期限が5~6日なので、到着時にすぐ販売するか

 あるいは現地で製作かどちらかが望ましいですね」


「どちらにしろ倉庫の原材料も限られてますのでケーク・サレについては

 限定生産で本数を絞るなりの対応が必要になりそうです。

 それを考えると到着前後に屋台を借りて即販売、の流れが

 一番いいかもしれません」


天音の意見を元に、ダリウスが現実的な方向にアイディアを修正していく。

そしてジャスティンはその流れを聞きながら口を挟む。



「クッキー1袋は小銀貨1枚くらいで販売しますか?」


「そんなに高くて大丈夫でしょうか?」


「砂糖の値段を考えれば安い方です。

 ハチミツ入りでもそのくらいはするでしょうね」


なるほど、と天音は頷いた。

クッキー1袋は5枚入りと決まった。5枚で小銀貨1枚とは、かなり強気な値段設定に思える。

だが、嗜好品の上甘味は貴重なので、ある程度高価な金額設定の方が良さそうだ。



「あとはメープルシュガー単品での販売ですが……

 あれ、そういえば、雑貨屋で小瓶は購入できました?」


「次の春から素焼き職人が移住してくる予定なので、まだ取り扱っていないはずです。

 在庫の方はどうだったか……ダンに確認してみましょう」


「お願いします。……在庫がなければ、布袋を用意して小分けにして収納になりますね」


天音は頭の中で可愛らしい小袋を思い浮かべる。

イーニッドに製作を依頼すれば作ってもらえるだろうかと訊くと、肯定の返事がかえってきた。

ただし革製品が一段落すればの話なので、万が一の場合は天音とカーラで作ることになる。



「話を戻しますけど、メープルシュガーを販売出来る伝手ってありますか?」


塩や砂糖は独占販売のようなので、少し心配になる。

メープルシュガーも一応は砂糖に分類されるだろうし、販売に制限がかけられれば問題が出て来る。

しかしダリウスは天音を安心させるようににっこりと笑いながら答えた。



「大丈夫ですよ。うちの実家がトゥレニーの御用商人ですからね。

 砂糖の代用品になるとわかれば、喜んで取引を申し出てくるでしょう」


「たぶん、次の冬の終わりには馬車を仕立ててやってきますよ」


ダリウスもジャスティンも自分たちの実家は勝手知ったる、という様子だ。

頼もしい限りである。


メープルシュガーの販売は数を絞って対応する予定だ。

ダリウスたちの実家に専売の方向で、まとめ買いをしてもらう算段らしい。

ともあれメープルシロップを無事手に入れてからの話だから、取らぬ狸の何とやらだ。


そんな風に話し合いつつ、時間は過ぎて行く。

2人にもケーク・サレとクッキーの味を見てもらってOKを貰えたので、保存食品についてはこの2点で決定だ。

販売数量の決定はメープルシロップを無事採取出来てから考えることにした。



「そういえば……最近、ユーウェイン様の腹回りがやばいですよね」


ある程度話がまとまったので休憩を取っていると、ジャスティンがおもむろに話し出した。

確かに、と天音は重々しげに頷く。

先ほど摘んだぜい肉の感触は、今後どんどん成長していく予感を感じさせた。


天音はユーウェインの体型を頭に思い浮かべた。

元々ユーウェインは筋肉質で、腹筋も割れている。


肩周りもがっしりしていて、逆三角のラインがいっそ見事なほどだ。

中背なのに天音を持ち上げて肩に乗せられるぐらいに肩周りの筋肉が発達しているのには驚いた。


だが運動しないと筋肉はすぐに脂肪に代わる。

最近の暴食が祟って、せっかくの筋肉美が崩れてしまっていた。


つまり、食事制限が必要なのではないか。というのがジャスティンの主張だ。



「最近のユーウェイン様の暴食振りは目に余ります。

 いくら妖精の眼(アバルウアヴァル)を使って腹が減るとはいえ……」


「まあ、確かにちょっと腹回りが……コホン。

 アマネさんは何か良い案はありませんか?」


天音は少し考え込む。

ダイエットに最適な食事に必要なのは、低カロリー高タンパクなメニューだ。

開拓村で手に入れられる食材の中では、鶏肉、卵あたりだろうか。


だが開拓村の鶏は、先日メス4匹オス1匹を除いて全て捌かれてしまった。

冬の間の餌を節約するためだ。

捌いたあとの鶏がらを貰って調査の際のスープを取ったのも記憶に新しい。


あとは鴨肉や鹿肉なども当てはまる。そちらは現在熟成中のものがあるので、何とか使えそうだ。

魚もまだ少し残りがある。大豆が使えれば良いのだが、そちらは春の種まきの関係で温存しておきたい。



「太らないような料理内容に変更するのは出来ないこともないです。

 ただユーウェインさんの場合って、食事の回数が多いことが原因ではないかと……」


酷い時には1日3食に加えて間食が2回ほど入るので、間食さえ減らせば問題ないのではないか、と天音は思う。



「ふむ……では何とか旦那様の食欲を抑えなければなりませんね」


「………おさまるのか?あれが?」


ダリウスの言葉にジャスティンが頭を抱えた。

天音も正直なところジャスティンにかなり共感している。


腹ぺこ暴走特急ユーウェイン号が自主的にブレーキを踏んでくれるなんて100%有り得ないだろう。

止めても無駄だし取られまいと隠しても次のタイミングで逆襲を食らうに決まっている。


そうなると取る手は限られてくる。天音は悩んだ末、切り出した。



「……こうしましょう。ユーウェインさんが腹が減ったと言う度に、脇腹の贅肉を摘みます」


天音は机の上で手を交差させて真剣な表情で呟いた。

いわゆるゲンドウポーズだ。天音はとてもシリアスな気分になる。



「アマネさんだけですか?」


「いえ。全員でです。

 ダリウスさんもジャスティンさんも、

 ユーウェインさんが腹が減ったと言った瞬間、取り押さえて腹肉を摘んでください」


大真面目な顔で天音がそう言うと、2人は何とも言えない顔で口ごもった。

男同士で腹の肉を揉むというのはどうにも微妙な心地がするようだ。



「……まあ、案外効くかもしれませんね」


「どうかなぁ……」


片方は半信半疑、もう片方は訝しげな反応だ。



「先ほど腹肉をひとつまみ致しましたが、無事撃退出来ましたよ?」


やはり贅肉に対して自覚的になってもらったほうが後々やりやすいのだ。

自分が太っている、ぷにぷにであるという目覚が今のユーウェインには必要だ。

天音はそう2人に力説する。



「わかりました、ご協力致します」


「まあ、これで食事の制限が出来れば言うことはないですしね」


「そうですよね、やるだけタダです」


2人の協力を取り付けた天音は、早速ユーウェインに対して計画を実施していくことにした。



44話は19日12時投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ