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グリアンクル開拓記~異世界でものづくりはじめます!~  作者: わっつん
第2章 開拓村でものづくりはじめました
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40話 腹ぺこ警報発令中

40話です。書きましたねぇ……。あと20話で2章が終わる予定です。

40話 腹ぺこ警報発令中



さて、調査に出発して3日目になった。

今天音たちがいるのは、2つ目の小屋近くだ。


天音は残して来た柑橘酵母菌へと思いを馳せる。

早ければそろそろ発酵が始まる頃合だ。

カーラとダリウスに任せて来たので、気温が急激に下がったとしても対処してくれるのである程度は安心だったが、やはりそこそこ心配はしている。


とはいえ今思い出しても仕方がないことだ。天音は実のところ少々逃避気味になっていた。


昨日までは移動だけだったので、天音にとってはそれほど問題はなかった。

問題があるとすれば同じ体制でずっといたため、腰が少々痛くなったり、動かないことで寒さが身にしみたりとそんなところだ。


だが今日からは自力で歩く必要性がある。当たり前のことではあるが。



「……お前は何をしているんだ?」


呆れ調子の声はユーウェインのものだ。

天音は森の中で歩くことに慣れていない。更には雪が降り積もっている。

どこが深いポイントか、わからないまま突き進むので、あっと気が付いた時には足を取られて雪にはまり込む羽目になっていた。



「いえ、普通に歩いているんですけど」


天音はついつい仏頂面になっていた。

運動神経は並程度だと思っていたが、自己判断に下降修正を加えなければならないかもしれない。

ユーウェインはもう何も言うまい、と静かに天音の脇の下に手を入れて引き上げてくれる。


厚着をしていなければ悲鳴を上げていたところだ。

ぷよぽよの二の腕を触られていたら立ち直れなかっただろう。

天音は心底ほっとしつつ、ぽんぽんと服についた雪を払った。


雪は湿気があるかどうかでベタつきが左右されるが、こちらの雪は割合サラサラだ。

地面だと思って歩くと柔らかすぎて痛い目に合う、というわけだ。



「ほれ」


ユーウェインは何を考えたのか、手を差し出して来た。

疑問に思って天音が首を傾げていると、ため息を一つついたユーウェインは徐に天音を持ち上げた。



「え?え?」


いつの間にかユーウェインの肩に乗せられて移動していたので、天音は混乱しつつバランスを取るためにユーウェインの頭にしがみつく。



「移動先を示せ。連れて行ってやるから」


そういうことかと納得して、天音は情けなさに眉を下げながら、あちこちを指を向ける。

小屋の近くではサトウカエデが数本見つかった。

それぞれに革紐で目印を付けて行き、従士たちに特徴を覚えてもらう。


このあたりまで来るとあまり見掛けなくなるが、村の近くには白樺の群生地もあるという。

日当たりの良い南の森の端にあるようだ。

家具材として使われるほか、樹皮は発火材としても重宝されている。


そちらも甘味料を採りたいところだが、りんごと同じように村民用ということで、放置されているようだ。


サトウカエデの見分け方は葉っぱがわかりやすいが、この時期は既に葉が落ちてしまっている。

天音が訪れたのは冬の初期だったのでかろうじて葉が残っている木もあったので、サトウカエデだと気付いた経緯がある。

その時にだいたいの木の形……シルエットを覚えていたのは幸いだ。


と言っても口で説明出来るほど天音も専門的な知識があるわけではない。

従士たちの中には森育ちの人間も居て、彼らに助けられることになった。



「この木はダリアだな」


「ああ」


ダリアとは葉っぱに特徴のある木の総称で、なるほどサトウカエデの葉っぱもギザギザとしていて特徴がある。

そのことがわかると、森育ちの従士たちを先導として、早速調査隊が編成される。

悲しいかな、この時点で天音はお役御免だ。


見分け方を心得ているのは2人。

お調子者のリアムと忠義心の強いニールだ。

この二人は幼馴染で、トゥレニーの北にある村の出身だそうだ。

凸凹したコンビに思えるが、息は合っている。


2人が調査隊のメンバーの中核となり、ホレスが周辺警戒組を率いることになった。


そしてジャスティンはユーウェインの護衛として残る。

手持ち無沙汰な天音は、足でまといなのを自覚していたので、従士たちが帰ってきた時のためにスープでも作っておくことにした。


小屋の近くには前回は気が付かなかったが小さな薪小屋があった。

そこから薪を少々拝借する。

結構な重さの上足元も覚束無くふらふらと移動していると、ユーウェインが半分持ってくれた。



「ありがとうございます~」


「礼は良いが……何を作るんだ?」


「まあ、見てのお楽しみです」


鴨やウサギは熟成期間があるため使えない。

空腹が過ぎる場合は熟成を待たず食べてしまうこともあるらしいが、基本的には熟成を行う。

となると食材は持ち込んだものに限られる。


ダシを取る為に鶏がらを持って来ていたので、和風の鶏ガラスープもどきを作ろうと思っていた。


材料は鶏がら、ネギ科の野菜、お酒、昆布だ。

昆布は消化酵素の関係でこちらの人間がそのまま食べるのは無理だろうが、ダシとして使うのならば問題ないだろう。


ユーウェインに火を起こすのを手伝ってもらって、綺麗に洗って切り分けた鶏がらとネギもどきを大鍋で煮立てる。

途中何度か灰汁を取りつつ、静かにコトコトと煮込む。


スープの良い香りに、ユーウェインの喉がごくりと鳴った。



(スープを煮立てて乾燥とは行かないまでも濃くして、マーラーカオっぽい蒸しパン作れないかな……)


そんなことを考えながらお玉で灰汁を取り続ける。

春になったら種を仕入れる予定だが、香草類ももう少し増やしたいところだ。



「……腹が減った」


「まだ出来上がりませんから。

 ジャスティンさんと一緒に暇つぶしでもしていてくださいよ」


ちなみに野外調理なので、外で火を焚いている。

小屋の中よりも逆にこちらの方が暖かいのかもしれない。

ユーウェインは暇を持て余していた。


ジャスティンはと言うと、原料を持ち込んでいたようで木彫り細工の真っ最中だ。

器用にナイフで木の塊を削っている。

黙々と熱中しているため、ユーウェインの相手をするつもりはないらしい。



「腹が減った」


大事なことなので二度言ったようだ。

天音は仕方なく小腹に入れられるものを作ることにする。


火の管理をユーウェインに任せて材料の確認を行う。

と言っても大したものは出来そうにない。

黒麦を使って麦粥……と言うのは安直すぎるので、薄いパンケーキを焼いて、レバーペーストサンドにしようと思い付く。


水の代わりに少しだけ鶏がらスープを利用することにして、生地作りだ。


小麦粉と黒麦粉を1:2の割合で混ぜる。重曹を入れてさらに混ぜる。

鶏がらスープに少量の塩を入れてあらかじめ溶かしておく。

塩入りの鶏がらスープを少しずつ生地に加えて馴染ませる。

生地を混ぜて、またスープを入れての繰り返しだ。



生地が出来たら、石を組んで小さい竈を作ってもらう。

周りの雪は既になくなっていて土の地肌が見えているため、石組みもしやすかった。


雪で壁を作って風避けにすることで火も起こしやすく工夫がされている。


生地はひとまず置いておいて、次は具材だ。

レバーペーストと酢漬けの野菜をメインにする予定だが、酢がきついので水で野菜を洗う。


この時期は雪を取ってくればいいので、水の心配をすることがなくて楽だとユーウェインは言う。

天音にはまだ実感がないが、冬が開ければそのあたりの心配もしなくてはいけない。



「このあたりに井戸は作らないのですか?」


「計画自体はあるな。

 今後はこちらに来ることも多くなるから

 水場は必須だ」


西の崖方面に行くと、湧水のポイントがあるらしいが、遠いので井戸があればと思っているようだ。



(井戸を掘るのってもちろん人力なんだよね……)


そういった方面での知識がほとんどないので、天音は少々心配になる。

人足自体は足りているようなので、農閑期に村民総出で作業をすれば……とも考えるが、天音にはまだまだ想像が出来ない。


具材が揃ったので生地を焼いて行く。

ホットケーキを作る時のようにどろっとした生地を、バターをひいたフライパンに生地を流し込んで行く。

手のひらより少し大きめのサイズにしたので、これをあとで半分におって具材を挟み込む形としたい。



「……まだか?そろそろ腹が……」


「お腹が空いているのはわかっているのでもうちょっと待っててください。

 あとジャスティンさん呼んで来てください」


天音の周りを忙しなくうろうろしだしたユーウェインに対して、天音はことさら冷静な態度を取る。

正直なところ、邪魔だし少々うっとおしい。と言ってしまってはユーウェインが可哀想だろうか。


ユーウェインはわかったと頷いてジャスティンのところへと行ったようだ。

今のうちに生地を全部焼いてしまおう。天音は手早く作業を消化していく。



「ああ、美味しそうですね」


ジャスティンが普通に声を掛けてきた。ユーウェインほど目の色を変えていない。

うんうん、やっぱりこれが普通だよねとどこかホッとした気持ちで天音はパンケーキサンドを渡す。


味付けが濃すぎないかどうか心配だったが杞憂だったようだ。

彼らは天音と違って連日動いて汗をそれなりにかいている。

逆に濃い味付けのほうが身体には合っているのかもしれなかった。


天音も小さな口で一口ずつ齧っていく。

もともと天音は肉よりも野菜を多く取る性質だったが、こちらに来てから食生活の事情もあり肉と野菜はだいたい半分ずつの割合になっている。


時期的なものもあるのかもしれない。

土地柄を考えても獣が多いので、肉を摂取しやすい環境だ。


そんな理由で、肉食にも少々慣れつつあった。

レバーペーストをパンに挟んでいるとはいえ軽々食べられるようになったのは、天音としても驚きだった。



「美味かった……」


お腹も膨れて満足したようで、ユーウェインがお腹をぽんぽんと叩く。

それにしても、ユーウェインは良く食べる。

その割には太らないのが羨ましい限りだが、内臓に脂肪をため込むとなかなか落とせないので、天音は少し心配している。



「ユーウェイン様、最近食べ過ぎではありませんか?」


ジャスティンの発言に、天音は納得顔で頷いた。

やはり食べ過ぎているきらいはあったのだろう。

ユーウェインは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。



「仕方がなかろう。

 アマネの食事が美味すぎるのがいかん」


偉そうに胸を張ったところで、食べ過ぎは問題だ。

天音は白い目でユーウェインを睨みつける。



「……ユーウェインさん?

 このまま食べ過ぎが続くと、お腹がぽよぽよになって

 妊婦さんですかと訊かれてしまいますよ?」


「………!」


天音の発言に、ユーウェインは愕然とした顔で下腹をじっと見つめた。

ムニムニと触っている様子からすると、少し自覚はしていたようである。



「ユーウェイン様、豚のように肥え太って身動きが取れなくなるようでしたら

 外に出られなくなりますからね?」


更に追い打ちを掛けるジャスティン。



「そうですよ。

 太ると動きが鈍くなりますし、身体にも悪いです。

 これからは少し制限しますからね?」


天音の発言に、ユーウェインはぐぬぬと苦悶している。



「責務を放り投げる豚に成り下がるようでしたら、

 私としても考えがございますし……」


「ですよねぇ~お察しします」


「お前ら、楽しんでるな!?」


「滅相もございません」


「あ、早く食べないと冷めてしまいますよ」


「……くっ」



そんな風に軽食を終えたあと、後片付けをしてしばらくしてから、森が騒がしくなって来た。

従士たちが戻って来たのだろうか。だが、それにしては少し不穏な雰囲気を感じる。



「…アマネ、下がっていろ」


ユーウェインの鋭い警告が天音の耳に届いた。天音は無言で頷いて、足を後ろに下げた。





41話は16日12時投稿予定です。

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