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グリアンクル開拓記~異世界でものづくりはじめます!~  作者: わっつん
第1章 異世界で遭難しちゃいました
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4話 部屋と干し芋と私

4話 部屋と干し芋と私




――まずは水だ。水がないと人は生きていけない。

幸いにも外は吹雪。調達には事欠くまい。

天音は真新しいゴミ袋を手に早速身支度を整える。


地面を引きずると破けてしまう。

悩んだ後、天音は納戸に向かった。


天音と佐波先輩は車を所有していない。

重量のある商品を買うときはスーパーカブを乗り回している佐波先輩頼み。

だが安売りの際はやはり買い込みたい。

そんな時に使っているのが折りたたみ式カートだ。


プラスチック製の折りたたみコンテナを上に置いて固定。

こうすればゴミ袋も破けない。

何回か往復しなければならないことも想定して、ダウンジャケットを着込む。

フードを深めに被ってさらにマスクも付けた。

手には軍手を二重に装着。


――よし。


園芸用のスコップを片手に、天音は気合を入れた。

正直なところ、外に出るのは避けたい。

外に出たら見知らぬ土地。出来れば家で救助を待ちたいのが本音だ。


でも背に腹は代えられない。



「……ううっ。寒いっ」


玄関を出ると、早速冷えた空気が天音を覆った。

ホッカイロを持ってくるべきだっただろうか。

いや、と天音は首を振る。

脱出のタイミングを考えると温存したほうが良い。

いつ燃料が切れるかわからないのだから。


足場を確認しながら洞窟から少し離れる。

遠目では平らに見えていたが結構でこぼこした地面だ。

カートを押すたびに音がする。


吹雪は幸いにも止んでいたので、ゴミ袋とスコップだけを持って洞窟の外へ出た。



――きゃっ。


天音はお世辞にも運動神経が良いとは言えない。

鈍臭いなあと佐波先輩に笑われることもしばしば。

そういうわけで、つるっと滑って転んでしまうのも致し方なかった。


したたかに腰を打ち付けて天音は涙ぐむ。

大した痛みではないものの、一人寂しく遭難中の身だ。

心に染み入る痛みだった。


けれど竦んではいられない。

このまま雪の上で凍死するわけには、いかないのだった。

ゴシゴシと乱暴に目元を拭って、天音は立ち上がった。


天音は洞窟から少し離れたところで雪の採取を始めた。

なるべく綺麗なものを選んでさくさくとスコップを動かしていく。


3分の2ほど入ったところでコンテナに置き、二枚目のビニール袋を取り出してまた同じことを繰り返す。


調理用と洗濯・掃除用だ。

飲料用以外はバスタブに貯めておけば問題ない。


清潔を保つためにも、なるべく多めに取っておきたかった。

軽く汗を掻きながら天音は黙々と作業を続ける。



「ふう……これくらいか」


必要なこととはいえ結構な重労働だ。

雪の中は身動きが取りにくく、余計に体力を使わせる。


天音は息を整えながらカートの移動をはじめた。

結構重いが、もう少しの辛抱だ。

重みで時々バランスを崩しつつ、何とか家まで戻る。


――到着。


早速一つ目の袋を栓をしたバスタブに置く

昨日掃除をしたばかりなのである程度清潔なはずだ。

とはいえ念のため袋ごと。袋の口はきつめに縛る。



衣服やカートの水気を丁寧に拭き取ったあとはキッチンへ。

天音は収納棚から大型の両手鍋を取り出した。


保存作業に入る前に水を作っておきたい。

天音はダウンジャケットと手袋を壁に吊るして、スコップで鍋の中に雪を入れ始めた。


一回だけでは済みそうにない。


薄型のカセットコンロを取り出して二段構えで溶かそう。

沸騰させる必要はないので、溶かしたものを順番に空きペットボトルに入れていった。


2Lのペットボトルは四本。


(ゴミに出してなくて良かった)


今はどんな資源でも貴重だ。何に必要になるかわからない。

天音は緊張感からごくりと喉を鳴らして作業を継続する。


ペットボトルに水を注ぎ終えた。

今度は野菜の下ごしらえに入る。

泥を落として適当な大きさに切り分けるため、ダンボールをキッチンに移動させた。

ダンボールの中にはぎっしり野菜た詰まっている。

必要なものを取り出して、ひとまず残りは放置だ。


まず簡単なきのこ類から開始することにした天音は、はたと気付いた。



「しまった、ネット足りるかな?」


野菜の量から逆算すると、数が必要になりそうだ。

使えそうなものを探すため家探しに入る。


一つ目は折りたたみ式の一夜干しネット。

佐波先輩が干し肉製作に使っていたものだ。

納戸にある収納ケースに無造作に入れてあったので、遠慮なく拝借する。


次に調理用のザル。

無使用の洗濯用ネット。

タオルを入れるのに使っていたバスケットラック。



「これは使えそうだけど、必要ないか」


布団圧縮袋や未使用ストッキングを眺め見て天音は首を振る。

数だけは揃ったので、これで問題なく作業が出来る。


――作業再開だ。


きのこ類は湿った布巾で根元を拭いながらバラバラにしていく。

種類は四種。ザルにこんもりときのこの山が出来た。


次に芋類に取り掛かる。

こちらは蒸してから干すので汚れを拭うだけで留める。

かぼちゃについても同様だ。

天音はそのまま手早く根菜類や葉っぱ野菜を次々に処理しては干していった。

干し玉ねぎにもチャレンジしてみた。これも甘みが出るといいのだが。


そして、芋類とかぼちゃを蒸す作業に入る。


大きめの角型蒸し器は亡くなった母が愛用していたものだ。

普段天音は小さいせいろの蒸し器を使っていたのだが、ここに来て役に立つとはと少ししんみりする。



「さて、ちゃっちゃと片付けますか!」


ジャガイモだけは芽が出ている部分を取り除いて、全て輪切りにしていく。

かぼちゃは包丁を入れるのに手間取ったものの、何とか櫛形切りに処理をして種を取り除いた。

種は実を布巾で拭ったあとビニール袋に入れる。


蒸し器は三段あるが一度で終わりそうにもない量だ。

地道にやっていくしかない、と覚悟を決めて蒸し始めた。


蒸している間に、包丁やまな板等使わないものを洗って片付けておく。

動いてないと寒さに震えてしまいそうだ。

時折かじかんだ手に息を吹きかけて暖を取る。火元に近付けるのも良い。


そろそろ夕方に差し掛かるころあいで気温も下がって来た。

夕食は温めるだけなので良いとして、お風呂をどうしよう?

天音は掌に息を吹きかけながら考えた。



そもそも排水が機能していないので浸かるのは無理。

タライに沸かしたお湯を入れてタオルで拭くぐらいしか出来ないだろう。


心情としては毎日髪と身体は洗いたい。

温かい時間帯なら何とかなるかもしれない。けれど望みは薄そうだ。



(今日は体を拭くだけかあ)


緊急事態だ。天音は多少気落ちしつつ、思いを振り切るように作業に邁進する。


――第一弾が蒸しあがったようだ。

中身を新しく入れ替えてまた蒸し始める。


蒸しあがったものののうち、サツマイモだけは皮を分厚く剥いた。

あとは特に気にするでもなく皮を取り払う。


サツマイモの皮についた実の部分はあとで裏ごししてペーストにする予定だ。

かぼちゃに関しては皮を剥く必要はなかったのでそのまま。


ちなみにまだ生のものは残っている。先は長い。




――結局、蒸し終わるまでに二時間くらいかかってしまった。

ランタンはフル稼働だが、広い部屋には心もとない。

薄明かり程度で、夜になれば足元がかろうじて見える程度だろうか。


ネットはベランダ側に出して物干し竿に引っ掛けることにした。

風通りも良いし、気温も低いので腐る心配もない。

干し野菜は日陰がセオリー。あとはじっくり待つだけだ。



「疲れた……」


天音は崩れ落ちたいのをこらえつつ、さっさと食事を終わらせることにした。

メニューはお昼と同じだが、デザートにヨーグルトが付いている。

ヨーグルトには少し多めに砂糖を入れることにして、食事を開始。



「……ごちそうさまでした」


電気やガス、水道。

文明の利器が使えない生活というのはなかなかに厳しい。

リビングは広い。据え置き型ガスコンロでいくら温めても熱が逃げてしまう。


就寝前に身体を拭くことにして、天音は自室へと戻った。

なるべく時間をかけて念入りに、と思ったものの部屋がどうにも寒い。

あまりに冷え込む日があったら足湯なんていいかもしれない。


(蒸しタオルもいいかも)


お湯をそれほど使わずに済むのが利点だ。

今日みたいに動き回る用事があればいいが、何もせずじっとすることもあるだろう。

脱出するにしても、天候次第。出発時期は未確定だ。


――身体を温める手段は複数あったほうが良い。



清拭が終わり、濡れたタオルを部屋の中に干しておく。

季節柄か乾燥しがちになっているため、枕元にペットボトルをセッティング。


寒さを軽減させるため、布団の上に毛布を二重重ね。

さらには湯たんぽ。これで寒さで寝られないことはない。


明日はまた一日保存食作りが待っている。

予定を決めたいところだが、瞼が既に落ちかけている。



「明日のことは明日考えよう……」


今日は怒涛の1日だった。

部屋ごと遭難するなんて夢にも思わなかったが、返って幸いだったのかもしれない。

少なくとも、食事も出来る、水も飲める。身体を清めたり暖めたりする手段もある。

それだけで十分恵まれている気がする。


(と思わなければやってられないよね……)


気が抜けたのか、天音はひとつ欠伸を起こして、瞼を閉じた。

きちんと睡眠を取って、英気を養わねば………。



湯たんぽの暖かさにほっとしながら、天音は眠りに誘われて行った。





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