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グリアンクル開拓記~異世界でものづくりはじめます!~  作者: わっつん
第2章 開拓村でものづくりはじめました
36/92

35話 ものごとは計画的に

35話です。

35話 ものごとは計画的に



ユーウェインの変調は数日続いているが、天音は特にどうということもなく特産品計画を練っていた。

方向性としては、香り付きの石鹸や化粧品関係と保存食開発を行って販売し、元金を作る。


衛生面でも石鹸はたくさん欲しいので、村内に普及させるためにも養豚は必須だ。

ラードは食材としても使えるので、自家生産出来るなら越したことはない。


他には、サトウカエデの木から取ったメープルシロップを保存食に使おうと考えている。

が、本数が定かではないので一度調査に赴く必要性がありそうだ。

確か冬の終わり頃が一番甘味が増すという話だったので、そのタイミングで採取を入れるにしても、冬が深まる前にユーウェインに相談しなければ。


ナッツ類は秋口にたくさん取れたのか倉庫には豊富にある。

もちろん非常食の意味合いが強いのでおいそれと使えないものの、いざとなれば天音が持ち込んだ食料品の一部でカバーは出来そうだ。


ナッツとメープルシロップを固めてお菓子にすれば日持ちもするし一品作れる。

あとはウサギのレバーペーストも保存食の一つとして使えそう。

養豚事業が始まれば、豚のレバーを使ってもいいかもしれない。


また、保存食には焼き菓子も含めるつもりなので、卵が定期的に取得出来れば嬉しい。

養豚と並行して養鶏も視野に入れたいところだ。


色々とアイディアが出て来たのでどんどん紙に書き溜めていく。


だいたい計画の概要が見えて来たので、天音はダリウスに相談することにした。

台所に向かうとカーラとダリウスがちょうど歓談しているところだったので、使用人部屋から椅子を持ち込んで話を向ける。



「……っていうのを考えているんです」


「ふむ……そうですね、そのあたりが妥当でしょうね。

 メフェヴォーラ……アマネさんの仰るラベンダーティに関しては今後畑を作って質の向上を

 はからなければなりませんね……。

 ひとまずカーラ、手持ちのメフェヴォーラを買い取っても良いでしょうか?」


「構いませんよ。臨時収入は嬉しいです。

 結婚資金にします!」


カーラはぐっと拳を握って宣言した。天音は微笑ましい気分になりながらダリウスに視線を向ける。


「あと、豚や鶏についてなんですけど……餌代がかなりかかりますよね?」


「そうですね。増やすにしても頭が痛い問題です」


「そこで、私が持ち込んだ野菜の種や芋を増やしたいんです。

 家庭菜園で細々とと思ったんですけど、もう少し敷地が欲しくて」



そう言って天音はサツマイモ数本と大豆を取り出した。

ラディッシュにカボチャの種と柿の種も袋に入れて持ち込んでいる。

大豆については800gほど残っていたので、半分を植え付けに使う。


今から木桶に土を入れて発芽させておけば春の終わりには植え付けを行えるだろう。

サツマイモの植え付けも春の終わりだから、冬が終わった段階で土をある程度耕しておかなければならない。

こちらは肥料がほとんどいらないので、簡単に育てられるはずだ。


とはいえ、発芽に手間がかかるようなので、穂乃果ちゃんメールできちんと確認をする予定だ。

木桶なども借りる手はずを整えてもらう。


すぐに餌にはならないが、二年先三年先を考えるとすぐにでも下地を整え始めた方が良いだろう。


「わかりました。手配しましょう。

 ……しかし変わった色ですね?」


「そうですよね。でもでっぷり太って食べごたえがありそう……」


ダリウスとカーラはサツマイモを興味深げに見ている。

なるほど、確かにサツマイモの紫色は、結構珍しい色彩かもしれない。



「ここまで太らせるには経験が必要ですけど、

 育てるのにそれほど手間がかからないのです。

 痩せた土地でも育つそうですよ」


「なるほど……豚の飼料にするには

 少々もったいない気もしますな」


「サツマイモが増えれば、加工して売ったほうが

 いいかもしれませんね」




◆◆◆



そんな風に雑談をしていると、流れで革細工の進行状況の話になった。

イーニッドとトレヴァーも張り切っているようで、小物関係はそろそろ出来上がるらしい。

ランドセルは試作品の最後の調整に入っているようだ。



「もう3日ほどしたら報告に来るようですね。

 楽しみに待っていましょう」


天音とカーラはうんうんと頷いた。



「あ、そう言えば、アマネさん昨日大丈夫でした?

 ティムったら、馴れ馴れしかったでしょう?」


「ああ、何か軽かったですね。

 大丈夫ですよ、特に問題なかったです。

 リッキーさんといきなり呑みだしたのには驚きましたけど

 クレアさんが怒ってくれましたし」


「ははは、ティムは酒好き女好きで騒がしい男ですからねぇ」


ダリウスの発言に天音はなぬ、とつい睨みつけてしまう。



「ダリウスさんそういうことは

 あらかじめ言っておいてくださいよ……」


「まあ、口説いてる最中は手を出さない男なので大丈夫かと。

 酒を呑んでも暴れませんしね」


そんな風に軽く言われてしまえばそうなのかとも思うが、釈然としない。

だが、昨日のユーウェインが変だったのはもしかしてこういうことを心配していたのかもしれない。

まあ後の祭りだけれど。


それ以上ダリウスを追求しても仕方がないので、天音は計画を先に進めることにした。


保存食を作る際に酵母菌があれば便利なので、ダリウスに頼んで冬のビタミン摂取用に倉庫に保存されていた柑橘類を少し分けてもらう。

カゴに入れて廊下を移動していると、角で誰かにぶつかってしまった。



「あばっ」


床にゴロンゴロン、とフルーツが転がった。

ああ、せっかく洗って来たのにと慌ててしゃがむと、にゅっと大きな手が先に手に取るのが目に入る。



(あ、ユーウェインさん)


「ありがとうございますー」


無言で渡されたのでとりあえずお礼を言っておく。

昨日からやはり様子が変だ。季節柄、もしかすると体調が悪いのかもしれない。



「ユーウェインさん、昨日から何かおかしいけど

 風邪か何かですか?」


「……いや、そんなことはない」


天音が心配そうにそう尋ねると、ユーウェインは驚いたように目を見開いた。

目が充血していたりしないだろうかと目元を覗き込むが、そんなことはない。



「そうですか?ならいいんですけど。

 もし喉が痛かったりするのなら言ってくださいね。

 のど飴がありますので」


「ああ、その時はよろしく頼む」


そう言ってまたフラフラと去って行こうとする。

あんまり様子がおかしいので天音は心配になった。

思わず服の袖を引っ張って引き止める。



「ちょっとユーウェインさん、来て下さい」


「あぁ?」


ずるずると引きずるように台所に連れて行く。

悩み事があるのかもしれないが、とりあえず疲労回復で見当をつけて、クエン酸入りのお茶を飲んでもらうことにする。


お茶受けにクッキーを取り出す。

ちなみにクッキーはこれで最後だ。

名残惜しい気持ちが芽生えるものの、どうせいずれはなくなってしまうものだ。



「どうぞ。お疲れのようですので」


ユーウェインはいまいち反応が鈍いようで、ああ、と頷くとポリポリとクッキーを食べだす。

やはりおかしい。いつもなら、もっとがっつくはずなのに。

天音は恐れおののいて思わずその感情を言葉に出してしまった。



「ユーウェインさん……本当に何かあったんですか?

 ちょっと気持ち悪いぐらい変ですよ?」


気持ち悪い、という言葉にユーウェインの動きがピシッと固まった。

一瞬フリーズしたあとわなわなと震えだしてユーウェインの顔に生気が戻って行く。



「お前なぁ……言うに事欠いて気持ち悪いとは何だ!」


「だから気持ち悪いくらい変だったって話なんですけど……

 元気になったみたいですね。言い方は悪かったです。

 すみませんでした」


ユーウェインの怒りに天音は肩をすくめて答える。

素直に謝ったことで少し気がおさまったらしい。ユーウェインは息を吐いてパクリとクッキーをひと噛みした。



「……こちらこそすまなかった。

 ここ2日ほど動揺していたようだ」


「はあ……まあそういう時もありますよね」


天音はユーウェインがそこそこ元気になって会話が出来るようになったことでほっとしていた。

何に動揺していたには言及せず、適当に流すと、ユーウェインは不機嫌そうに顔を顰めた。

これは不味いと話題を変えることにする。



「そうそう、ダリウスさんと色んな案を話していたんですが

 畜舎を作るのに木材ってどのくらい必要になるんでしょうか」


豚を増やすにしても、獣の被害が怖いので、ある程度育つまでは開拓村の柵内で育てる、とダリウスは言っていた。

鶏についてはサイズがそもそも大きくないため柵内のみで育てる。


現在建てられている畜舎だけでは足りないので、拡張することになる。



「……家や家具と違って、家畜用であれば切り出した木をそのまま使っても問題ない」


「乾燥がいらないってことですか?」


「そうだ。とはいえ屋根に被せる藁が足りんので

 そちらは購入ということになるな。

 作業自体は農民に日当を出して雇えば作るのは一週間もかからん」


日当は食事付きで大銅貨5枚程度とのことだ。藁は1束で大銅貨1枚。

建物の規模にも寄るが、それくらいの値段なら問題なく支払える、とユーウェインは言う。

良い小遣い稼ぎになるらしい。なるほど、と天音は頷いた。


建物自体を増設するのに然程お金がかからなさそうなので、結構希望が持てるかもしれない。

あとは餌をどうするかは大豆やサツマイモの収穫にかかっている。

そちらは試行錯誤をしていくしかないだろう。


ふむふむと考え込んでいると、ユーウェインが天音をじっと見つめていることに気が付く。

何か言いかけて、やっぱり止めたという風に頭を振るユーウェインに、天音は首を傾げつつ、サトウカエデの木の調査のことを伝えた。


ユーウェインは、ならば従士たちを引き連れて調査に赴こう、と申し出てくれた。

天音も着いて行かなければ木の種類がわからないため、準備をするように言われる。


ついでに狩りも行うようだ。ということは、皮剥の現場を見ることになるのだろうか。

先日は心の準備をしていなかったため直視出来なかったものの、いずれは慣れなければと天音は思っている。


気合を入れつつ、調査の話を進めることにした。

冬の盛りにメープルシロップの採取をする前提で、天音の部屋にユーウェインと2人で荷物も取りに行かなければいけない。

当初は従士にも着いて来てもらう予定だったが、機密性を考えると迂闊に洞窟に人を入れることは出来ない。


そのあたりの予定を詰めていると、天音はすっかり酵母菌作成のことを忘れてしまっていて、あとで慌てることになった。




36話は6月10日12時投稿予定です。

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