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グリアンクル開拓記~異世界でものづくりはじめます!~  作者: わっつん
第2章 開拓村でものづくりはじめました
35/92

34話 酒よ

34話です。※ナンバリング表記変えました。ややこしくてごめんなさい。

34話 酒よ



ユーウェインからの話を受けて翌日、天音は早速答えを出すことにした。

あまり長い時間をかけるのも良くない。

結局のところユーウェインの助けがなければ今後こちらで暮らして行くことはままならないだろうし、やることも一緒ならば給金が貰えるだけマシだ。


そんな考えから、天音は特産品計画に参加することにした。

気持ちも定まったことだし、早速引き受ける旨を伝えたところ、ユーウェインは何故か気のない様子でそうかとだけ答えた。


まるで天音の返答を予想していたかのようだった。

天音が釈然としない気持ちを抱えていると、ダリウスに詳細を聞くように、と言われる。

何だか素っ気ない態度のユーウェインに疑問を抱きつつも天音は素直にはいと言って引き下がった。


部屋から出ると、ちょうどダリウスの姿が見えたので、ユーウェインからの指示を伝える。



「わかりました。では、使用人部屋を使いましょう」


「よろしくお願いします」


ダリウスと話した内容は、初期の大まかな予算と冬の間のスケジュールだ。

予算の金額は、小金貨3枚。おおよそ豚2頭分の金額だ。

その内、既に革製品の材料代として半分を職方に収めていると言う。


天音のほうでは冬のあいだにお金を使うことはない、とだけ伝えておいた。

春になってから買い付けに行くタイミングで、色々と仕入れを行いたいと考えている。


スケジュールについては、冬の間に特産品のアイディアを出して検討すること。

職方との話し合いが必要になるので、なるべく早めに顔合わせはしておくこと。

などと言った簡単なものだった。


更に、天音のほうで既にアイディアがあれば、予算の関係上相談して欲しいとのことだった。



「職方って、私が会ったのは雑貨屋の旦那さんとミックさんたち……ぐらいですね」


「そうですね。あとで一人従士を付けますので、鍛冶屋のリッキーに会いに行ってください。

 もし特別な道具を作るのならば、彼の協力は必須ですからね」


それはそうだ、と天音も納得した。

ところで、従士とは一体誰になるのだろうか。そう思って訊いてみると、ダリウスはにこにことして答えた。



「ティムです。アマネさんはあまり顔を合わせたことがないかもしれませんね」


名前を言われてもピンと来ないが、顔と名前が一致していないからかもしれない。

どんな人かと問えばダリウスは笑ってはぐらかしてしまう。



「まあ、会ってみればわかります。

 では明日の午後に予定を入れておきますね」


そんな風に押し切られてしまい、天音はそのまま頷くしかなかった。



◆◆◆



ユーウェイン付きの従士は、基本的に館の隣の宿舎で共同生活を行っている。

小さな台所と倉庫と食堂、それから従士たちの寝室2つのログハウスだ。


ジャスティンはユーウェインの護衛も兼ねていつも館で寝泊りをしている。

そのため従士たちのまとめ役はホレスが担当しているようだ。


そのあたりの情報は、カーラから取得した。

実はティムに鍛冶屋への案内をしてもらう予定だと言うと、カーラに眉を顰められた。


困ったことがあったらリッキーの奥さんに言うんですよ、と念を押された天音は、よくわからないながらもうんと頷いた。

何となくそのまま理由を聞かなかったが、問い詰めたほうが良かっただろうか。


天音は隣で歩いている中肉中背の男を見上げながらそんな風に考えていた。


ティムは髪をかきあげて口笛を吹きながら雪の中をさくさくと進んでいた。

腰には何故か酒瓶が取り付けてあり、これから酒盛りにでも行くかのようだ。


とろんと垂れた目に高い鼻。女性受けしそうだなぁと思いつつ、適当に視線を外す。

足の長さが違うので追いつくのに一苦労だが、差が開く程ではない。

途中でティムが調整しているのだろう。よく気が利く男のようだ。



「アマーネさん、って言いましたっけ?」


「アマネですけど、そちらの方が呼びやすいなら

 どちらでも良いですよ」


おもむろに話しかけて来たティムに驚きながらも天音は答えた。

物怖じしないタイプらしい。人見知りなんて言葉も知らなさそうなくらい態度が自然だ。



「そうですか、ボクは知っていると思うけど、ティムって言うんだ。

 キミのことは結構前から噂になっていたから気になっていたんだよ」


「はあ……。そうなんですか」


雪道の移動は動きが激しくなるので、話しながらだとけっこうキツい。

天音は多少息切れしつつ最低限の返事をする。



「ウン、ボク興味津々」


愛想良くそう言われて、天音は何と言って良いやらわからずに首を傾げる。



「ユーウェイン様が連れて来た子だからどんな子だろうって噂だったんだ。

 ジャスティンは自分より小さいって言ってたけど、ほんとに小さいね!」


そう言ってティムはパコパコと天音の頭を軽くはたく。

革製の分厚い手袋をしているので、それほど痛くはない。

小さいとは背丈のことだろう。そういえばカーラもイーニッドも、ジャスティンより背が高かった。



「私の国では、これぐらいが平均値なんですけどね」


「へえー。みんな小さいの?男も?」


「いえいえ。男性はもう少し高いです」


「ふぅん。男もそうなら、ジャスティンやリッキーみたいだなって思ったのに」


「……リッキーさんって、今から向かう鍛冶屋の旦那さんのことですよね?」


そう問い掛けると、ティムはうんと大仰に頷いた。



「リッキーはね、小さいおっさんなんだ!」


そうにこやかに告げられて、天音はやはりどう反応して良いかわからずに、そうですかとだけ言った。



◆◆◆



「ヤー!リッキー!」


ティムは扉をバーンと開けて叫んだ。

そして返事を待たずにスタスタと部屋の中へと入って行く。

どうやら勝手知ったる他人の家のようで、行動に迷いがない。


扉を開けた部屋はカウンターと椅子だけが置いてある簡素なものだった。

奥には作業部屋があるようだ。



「何だお前か。相変わらず騒々しい」


ひょっこり奥から出て来たのは、ティムの言うように小さいおっさんそのものだった。

リッキーは天音よりも背丈が小さく、濃い焦げ茶の縮れ毛が頭のみならず顔の半分を覆い尽くし、鷲鼻は職業柄火を取り扱う


からか真っ赤になっている。


そして声はとてもハスキーで、天音はピンと来た。



(酒焼けの声だ……)


お酒を良く呑む人にありがちで、胃液が逆流して喉が焼ける現象が続くとリッキーのようにハスキーボイスになる。

もしかして、ティムが持って来た酒瓶は……と観察していると、リッキーの視線が天音の方へと向いた。



「お前さん、誰だ」


「リッキーは会ったことないよねぇ。

 今度ユーウェイン様付きの侍女になるアマーネさんだよ。

 ほら、特産品計画の~」


「お前には訊いとらん!

 まったくよくまわる口だ。

 酒に強くなければたたき出しているところだ」


リッキーは不機嫌そうに壁をガンと叩く。



「へぇ~い。んじゃ、アマーネさん宜しく!」


チェンジバトン!と言うことらしい。しかもウィンク付きだ。



「……はじめまして。アマネと言います。

 特産品計画でお世話になるだろうから

 挨拶をしておけと言われて来ました」


「………ふん。顔は覚えた。

 もういいだろう、さっさと帰れ」


「ちょーぉっと!それはないんじゃ~な~い?

 ほら、これ持って来たからさぁ。

 まず呑もう?ね?」


短気な態度にストップをかけて、ティムはリッキーの目の前にたぷんと酒瓶を揺らした。



「この香り……蜂蜜酒か!」


「当たり~!ダリウスからだよぉ~」


「ほれ、さっさと急がんか!……そこ、お前さんも入るなら入れ」


素早い変わり身に思考が追いつかない間に、2人はさっさと部屋の奥へと入って行く。

作業場を抜けて居住スペースの建物に移る。棟は別らしい。



「おう!つまみ!」


居住スペースの部屋へと入るなり、リッキーは奥さんとおぼしき女性におつまみを要求した。

女性は慣れているようではいはいと準備を始める。


女性の名前はクレアと言うようで、天音も軽く自己紹介する。



「っかー!うまい!もう一杯!」


「いや~やっぱりミリシュの蜂蜜酒はサイコー!」


ミリシュはグリアンクルの西にある村のようで、養蜂を行っているらしい。

そちらで作られている蜂蜜酒はそこそこの値段がするが、上質なもののようだ。


蜂蜜酒が近隣で作られているのなら、ラベンダーを漬け込んでみるのも良いかもしれない。

確かラベンダーを漬け込んだ焼酎も美味しいと言う話だし、特産品計画に紛れ込ませてみるのも手だろうか。


そんな風に考えていると、リッキーとティムは早速出来上がってきたようだ。

水で割っているので呑みやすいのか、進行がとても早い。

ティムは職務で来ているのに大丈夫なのだろうか、と心配になるほど酔っ払っている。



「おれたちはー」

「さんどのめしよりー」

「酒が好きーーーー!!!!」


ぎゃっはっはと騒ぎ出して、天音としてはドン引きもいいところだ。

どうしてこんな人選にしたのか、ダリウスに問い詰めたい気持ちで一杯になる。



「あんたたちっ!騒ぎすぎだよ真昼間っから。

 リッキー、酒がそんなに好きなら

 今日の夕飯はいらないんだね?」


そんな騒ぎの中、クレアが大声で一喝を入れる。

リッキーの肩がびくりと震える。流石にご飯抜きは辛いらしい。



「それからティム!

 あんたも仕事で来てるんだろう。

 酔っ払ってていいのかい?」


「いやあ……それを言われてしまうと~」


ポリポリと頬をかいてティムが苦笑する。

クレアはそんなティムの頭に拳骨を食らわせ、天音に顔を向けた。



「それで、あんたは何しにここへ?」


「私は今度ユーウェイン様の主導で行われる

 特産品計画に携わることになりまして。

 それで職方に挨拶して来いと言われました」


「ああ、なぁるほど。

 あんた!わかった!?」


「うるせえなぁ……わーったよぉ」


小さいおっさんもとい、リッキーが立つ瀬なしと言う風に肩を落として呟く。

どうやらこちらの家庭の力関係は奥さんの方が強いらしい。



「旦那のことで困ったことがあったら

 私に言いなね。力になれることもあると思うから」


そう力強く言ってくれたので、天音は嬉しげに頷いた。



◆◆◆


そのあと酔いがすっかりさめたティムに送られて館へと戻った天音は、特産品のアイディアを自室で考えることにした。

ラベンダー酒や他にも色々と考えが浮かんで来たのだ。



「ラベンダー酒にお茶、それからラベンダー石鹸も欲しいよねぇ……」


ペンを片手にノートにアイディアを書き出して行く。

石鹸については植物油がこちらには少ないようなので、従来のラード石鹸に1工程加えて作る。

後から真似される危惧はもちろんあるものの、初期資金を作ることが目的なので、工程が簡単なものでも良いはずだ。


そもそも材料も現時点で0なので、石鹸については春以降に計画を詰める必要性がある。


ラベンダー関連は3点にまとめて、次は食品系に移ることにした。



「販売出来る保存食かー。カロリーバーみたいなのは日持ちもするから有り、かな。

 あとソース系も需要がありそう。現地で屋台みたいなのは出せないのかなー」


問題は堅焼きパンと認識されてしまうとパン屋ギルドからクレームが来るかもしれない、というところだ。

気乗りはしないがドラとのしっかりとした話し合いが必要だろう。

ダンやダリウスに同席してもらえれば、大きなトラブルにもならないのでは、と天音は予想する。



そういえば、春からの開墾計画の方も申告しておかなければならない。

実は持ち込んだ食材の中で、サツマイモだけは一部そのまま残していた。

日光に当てなければ日持ちもするし、どこかで植えて増やせればと思っていたのだ。


また、柿とカボチャの種も残したままだ。

残念ながら栗は渋皮煮で使い切ってしまったが、仕方がないだろう。


柿については桃栗三年柿八年と言うから育成に時間がかかる。

植えておいて放置が限界だ。


カボチャについては春に植え付けするはずだったので、あとで穂乃果ちゃんからのメールを確認してみようと思っている。

穂乃果ちゃんは乾燥野菜の時もそうだったが何を植えたかどうやって肥料をやったかなど、けっこう小まめに報告してくれていた。


そういえば大豆についての内容もあったはずだ。


大豆は半分以上残して保管してある。

確かかなり扱いやすい、痩せた土地でも問題なく育つという話だったので、一番増やしやすいかも、と心に留めておく。


(うーんやっぱり土作りと肥料の問題があるよねぇ)


ラディッシュの種と土がまだあったはずなので、そちらは問題なく増やせそうだが。

そんな風にアイディア出しを黙々と行っていると、トントンと扉を叩く音がした。



「はーい」


ダリウスかなと思って扉を開けると、相手はユーウェインだった。

廊下が薄暗いのであまりよく見えないが、どうやら渋い表情をしている。



「どうしたんですか?」


「……ティムとリッキーに会いに行ったと聞いたが」


ユーウェインの様子が変だ。何だかいつもと違って、妙におとなしくてよそよそしい。

そう思いながらも、天音はいたって普通の調子でこたえる。



「はあ。行きましたよ。最初は呑んだくれてましたけど、

 クレアさんに怒られてしょげてましたね、2人とも」


「そうか……その、大丈夫か」


はて、何の話だろうか。

酔っ払いの相手なら佐波先輩に連れられた呑み会で覚えさせられているので耐性はある。

それに今回は天音そっちのけで盛り上がっていたので実害はまったくなかった。



「大丈夫ですけど」


「そうか………」


ユーウェインはそうか、そうかと言ってそのまま去ってしまった。



(………何だろうあれ)


意味がわからないなぁと訝しみながら天音はあっさりと扉を閉めた。




35話は6月9日12時投稿予定です。よろしくお願いします。

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