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グリアンクル開拓記~異世界でものづくりはじめます!~  作者: わっつん
第1章 異世界で遭難しちゃいました
29/92

29話 開拓村特産品計画

29話です。

29話 開拓村特産品計画




天音の素性は屋敷の外の人間には、「異国の商会主の娘で、旅の途中家族とはぐれたところユーウェインの命の危機を救った」という設定で押し通すことになっている。

ミックにもそのように説明したが、何て疑わしい、と目で語っている。


だが天音の風貌は明らかに異国人のもので真偽もこの場では確かめようがないのも事実だ。

そのことがわかっているようで、ミックは何も言わずに口を噤んだ。



「今回原材料をそちらに融通してもらうことになった理由を説明しよう。

 この村には現在定期的な商隊が来ていない」


「……東の端っこですからね。来ても旨みがありませんし」


「その通りだ。木材の輸出についても人足が足りていないため

 数が揃えられない。特に木材は乾燥に時間がかかるからな」


「それがどうしたって言うンです?

 俺らは承知でこっちに移住してきてます」


ミックはぶっきらぼうに鼻を鳴らした。

生活はしばらくの間苦しくなるのはわかっている、と言うことらしい。



「もちろんそのことには感謝している。

 だが今後、我が領をより一層盛り立てて行かねばならん。

 俺は春から領主主導の商会を作るつもりだ。

 既に公都の商人ギルドからは認可を貰っている」


その場に居たダリウスを除く全員が目を丸くして声を漏らした。

ユーウェインは皆の動揺を予想していたらしく、表情一つ変えず、机の上に羊皮紙を1枚広げた。


契約書か何かだろうか。天音は文字が読めないので、内容がどんなものかわからない。

他の面々の表情を伺ってみると、理解しているのはダリウスとミックぐらいのようだ。


天音は商会云々の件は聞いていなかったので驚いたが、反面納得もしていた。

経済を専門に勉強してきたわけではないので、天音にはそっち方面の知識は少ない。

しかし、外貨獲得手段が少ない上、貨幣の循環が鈍いのは感じていた。


何せ、村で唯一の雑貨屋が繁盛していない。

そして村人同士は物物交換が主流だ。これでは経済の規模は大きくならないだろう。



「商会……会頭は誰になるんですかい?」


「ダリウスが担当する」


「……フン」


ミックは少し興味を惹かれたようだ。顎に手をやって何やら考え込んでいる。

商取引が多くなれば収入も増える。現在は小口取引が多いので、商会との取引になれば、と皮算用をしているのかもしれない。


それにしてもダリウスさんの有能さが光る。

家計も預かっているようだし、どう見ても働き過ぎのような気もする。

要領は良さそうだから適度に仕事を割り振るとは思うが、心配になる天音であった。



「以上を前提として、改めて協力を頼みたい。

 ……アマネ、例のものを」


意識を別のところにやっていたのでもう少しで反応が遅れるところだった。

天音は手に持っていたレザークラフト系の型紙をユーウェインに手渡した。


ちなみに印刷物は精巧過ぎるため、昨夜カーラに泊まり込んでもらって写しを作ったので、そちらを使用している。

ジッパー付きのものや細かな細工が必要なものは除外して、小物入れや鞄など作りやすいものを選んでいるから、加工技術さえあれば作れるものばかりだ。


特に目玉となるのはランドセルだった。ちなみに完成予想図は天音が描いている。



「………」

「……変わった形ですね」


先ほどの商談ではよく喋る印象だったミックが鋭い視線で型紙を見ている。

感心しているのはトレヴァーだ。肩掛け鞄はこちらでは片掛けが多く、袋タイプのものがほとんどで四角い形が新鮮のようだ。



「特産品の第一弾として、こちらを作りたいと考えている。

 革製品の加工はそちらに任せる」


「……?ああ、なるほど。

 加工でまた代金を頂けるわけですかい?」


「その通りだ。そして、利益についても配分を予定している。

 ……こちらとしては型紙の提案したアマネの分で

 売掛3割は貰いたいところだが2割。

 また、商会の売上として5割。残り3割が職人への配分だ」


「…………」


「ちなみに2割に下げることを申し出たのはアマネだ」


「……承りましょう。

 トレヴァー。型紙通り再現出来るか」



しばしの葛藤の末、ミックは了承することにしたようだ。



「もちろんです」


トレヴァーも目を輝かせて肯定する。やる気満々の様子だ。天音は穏便にすみそうでほっとする。

型紙を交渉材料にすることについては天音が言い出したことだった。


最初はユーウェインに渋面で反対され、なかなか了承してもらえなかった。

交渉事を甘く見ていると苦言を呈されたが、天音としては外様の身分だし、低姿勢で行く方向性は譲れない部分だった。


結局アイディア料を何割か頂く契約を交わすことで同意してもらった。

元々天音が考え出したデザインではないのでお金を貰うのは後ろめたかったものの、ユーウェインのいらないと突っぱねればいらぬ疑いを掛けられるとの一言で、貰うことに決めた。


代金を頂くことで丸く収まるのならそれに越したことはない。


その後、作り方と革以外の材料の話をすることになった。

具体的にはホックとリングだ。


ホックは現物があったので実演した。こちらも母の遺品で、打ち付け棒があったので作業自体は楽に済んだ。

問題は再現出来るかだが、後日鍛冶屋のリッキーとの顔合わせがあるので、そこで確認を取るつもりだ。


リングはおそらく作成には問題ないだろう、との判断だ。



「精巧だな」


「このような艶やかな鋼は初めて見ました……」


感心しきりの2人に、天音はあまり長く見せるのも不味いと思ってそそくさと道具を仕舞う。

短い間だったが金具の重要性は認識してもらえたようだ。


真剣な顔をしてミックが口を開く。



「錠前も用意したほうがいいな。

 仕上がりを見ないとわからんが、

 このランドセルとやらは富裕層にしか売れんだろうから

 ならばいっそのこと鍵付きにして値段を釣り上げたほうがいい」


「……ふむ。一考の価値はあるな」


「そうですね。作りが立派なものであるほど、

 需要は高いと思います。元々革鞄は一生に一点ものですから」


しっかりとした作りの鞄は元々一定の財産を持った人間しか身に付けない。

日本でも似たような扱いだったので、天音にも理解しやすい価値観だ。


錠前とセット販売することで付加価値を上げるのだろう。



「ならば、小物入れ等も革製品で作って一緒に販売してもいいかもしれませんね」


天音は便乗してアイディアを出した。

職種によって道具のサイズが違うので、道具専用の収納袋があると良いのでは、と言うと、皆が頷く。



「……小物入れですが、女性向けのものを作ってみるのも良いのではないでしょうか。

 レースをあしらって花飾りを付ければ、見栄えもしますし……」


おずおずとイーニッドが意見を出す。

少し貯めれば手を出せるような値段設定にすれば、働く女たちも興味を惹かれるかもしれない。

などなど、どんどん有用なアイディアが出て白熱した雰囲気になってくる。


そんな折、トントンとノックの音が響いた。



「失礼いたします。お茶をお持ち致しました」


カーラである。事前に天音が準備しておいたナッツクッキーとお茶を持って来てくれたようだ。

クッキーは黒麦と小麦粉をブレンドして、バター、塩少々、砕いたナッツをヤギ乳で混ぜて練り込み、棒状にしたものを切ってオーブンで焼いたものだ。


ナッツはクルミのような実を倉庫で分けてもらったものを使用している。

砂糖を使っていないのでナッツの甘味だけだが、十分美味しいものが出来上がった。


お茶はラベンダーティだ。

原材料が近場に生えていて、今後も手に入れる算段がついているので、味を覚えてもらうために最近こまめに出している。


先ほどのユーウェインの言ではないが、栽培が出来れば特産品の一つとして仕えるのではないだろうかという目論見だ。


ミックやトレヴァーは訝しげに見ていたが、香ばしい匂いが部屋に充満して食欲は刺激されているようだ。

どちらも鼻がひくひくと動いている。

イーニッドはと言うと、瞳をうるうるとさせながら落ち着きがない様子だ。


クッキーはユーウェインに作成を頼まれた。ある程度交渉が落ち着いたら、ダメ押しとして使いたい、という意図のようだが、どうなるだろうか。



「カーラ、ご苦労。

 こちらの堅焼き……クッキーとやらは

 アマネが作ったものだ。

 遠慮なく食べてみると良い」


そう言ってユーウェインはクッキーに迷わずかぶりついた。

一瞬ダリウスが険のある表情をしたのは気のせいではないだろう。

いくら危険性が低いとは言え、立場上毒見は用意すべきだ、というダリウスの意見は最近黙殺されてばかりだ。



「お口に合うかわかりませんが、どうぞお召し上がりください」


ミック、そしてトレヴァーの順に口にして、最後にイーニッド。

2人はおそるおそる、イーニッドだけは期待を込めてクッキーを頬張った。



「………!?」


「おお……」


「美味しいですねぇ……!」


うっとりと艶っぽい声を漏らしたのはイーニッドだ。

洗礼済のため、耐性がついている。

全く動揺していない。だが、男2人は顎が外れそうな勢いだ。



(おかしいなぁ……そんなに大した材料は使っていない……あ、重曹を使ったからかも)


おそらくだが、2人は堅焼きと聞いてかなり堅いカッチコチなパンを想像していたのだろう。

なるほど、それならこのような反応になるのも不思議ではない。

想定していたよりも柔らかかったのだ。


そういえば重曹の在庫はたっぷりあるが、今後代用品を考えておかないといけない。



(やっぱり酵母菌は必要になるよねぇ……薫子さんに習ってるから作れないこともないか)



3人+ユーウェインは勢い良く食べている。

普段食べているものが味気ないのが原因だろう。

今回は食べる量を制限しているので問題はないが、このまま欲望のままに食べる癖がついてしまうのは不味い。


ナッツ類は栄養が豊富な一方で、食べ過ぎるとお腹が緩くなったりデメリットも多い。

クッキー程度なら摂取量も問題ないだろうと踏んだが、枚数を重ねるとなると問題だ。



(あとでユーウェインさんに釘を刺しておこう)


うんうんと心の中で頷いて、天音はしばらく場が落ち着くのを待った。



それから様々なことが決まった。

原材料の在庫が然程ないので、今回はランドセルと革小物を数点にして制作数を絞ること。

鍛冶屋のリッキーに確認を取ること。OKを貰えた場合、部品の代金は支払うが、革製品についての配当はしないこと。


部品そのものの利益については後でユーウェインがリッキーと話し合うそうだ。



「……ひとまず、持ち帰ってトレヴァーと試作してみますわ」


「よろしく頼む」


ミックが会議はこれで絞めとばかりに打ち合わせを終了する。

そして、特産品制作計画が始動する運びとなる。



30話は6月3日12時投稿予定です。


30話で第1章が終了となり、翌日から第2章がはじまります。

第2章からも更新速度は変わりませんのでよろしくお願いいたします。

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