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グリアンクル開拓記~異世界でものづくりはじめます!~  作者: わっつん
第1章 異世界で遭難しちゃいました
21/92

21話 噂をすればヤツが来る

21話です。やっとユーウェインさんが帰って来ました。腹減り坊やの帰還でございます。


誤字脱字などございましたらお気軽にご連絡ください。

21話 噂をすればヤツが来る



パン3日分で大銅貨1枚。1ヶ月分だとおおよそ小銀貨1枚。

塩は1ヶ月分で小銀貨1枚と大銅貨5枚。


館に戻ってから天音はブツブツと机に向かって計算を行っていた。

場所は使用人部屋だった。


部屋の中は昼間とはいえ窓を閉め切っているため薄暗い。

ゆえに、ロウソク代がかかってしまう。

ロウソクも含めた雑貨代金のことも結局聞けなかったので、ダリウスの居る使用人部屋に無理やり押しかける形となったわけだ。



「ダリウスさん、月々にかかるロウソク代についてなんですけど……」

「……アマネ様は勉強熱心であられますね」


生活費について相談をしたい、と天音が申し出ると、ダリウスは面を喰らいながらも色々と教えてくれた。

1ヶ月はこちらでも30日。1年で合計360日あるようだ。計算がしやすいので楽だ。


ロウソク代は1本あたり大銅貨2枚。通常の季節であれば節約することを前提に1部屋あたり1本で1週間は保つ。

冬の間は灯りが足りなくなるのでロウソク代は約2倍に跳ね上がるそうだ。


薪代は森が近くにあるので街に比べればかなり安い。

こちらも冬以外は枯れ枝を集めることによって値段を抑えることが出来る。

ただし冬は量が必要になるのと薪自体が森で取れなくなるため薪屋から購入する。


開拓村では薪屋=木材屋で、木材屋は冬以外の季節に手頃な木を切って半年~1年ほど乾燥させる。

乾燥させた中で上等なものは家具や家の木材として売られ、端材が薪となる。


こちらでは炭ではなく乾いた端材を燃料としているようだ。

薪はちなみに一山大銅貨1枚。バケツ1杯分くらいだ。

一人暮らしで窯の設備もある家、という仮定だと、節約したとしても1日1山は使う。


薪代、冬場は小銀貨3枚。館では皆苦心しているようだ。



(……冬場はお金がかかりそうだなぁ)


スープやサラダの野菜は大抵家庭菜園で作ったもののようだ。

つまり土地があることを前提として種代と労働力さえあれば何とか、と言ったところだろうか。

また、野生のハーブ類も許可を得れば採取はOKの様子だった。


肉については、狩りで男集が獲って来たもののおこぼれに与るというのが基本になりそうだ。

もちろん相応のお礼はしなければいけないだろうが。


他、天音はダリウスから聞き取った情報をメモ用紙に書いて行く。

ユーウェインが戻る前に試算表を完成させる心づもりだ。


この場合の試算表は、簿記においての試算表とはやや意味合いが異なる。

どちらかといえば規模的に個人のお小遣い帳に近い。

とはいえお小遣い帳も最適な単語じゃないような、ということで試算表という言葉を借りている。


収入欄についてはもちろん保留だ。冬とそれ以外の季節で分けて試算を行う。


-------------------------------------------------------------------------

試算表(通常/1ヶ月)


--食材--

パン  |小銀貨1枚

塩   |小銀貨1枚 大銅貨5枚

酢   |      大銅貨7枚

他   |


--燃料--

ロウソク|小銀貨1枚 大銅貨6枚

(2本) |

薪   |


--雑貨--

石鹸  |大銅貨8枚


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

                   計 小銀貨5枚 大銅貨6枚 

-------------------------------------------------------------------------


昨日、従士の給与が最低大銀貨2枚ということを聞いたので、この試算で行くと何とかなりそうな気もしなくはない。

だが天音の場合、生活用品が揃っていることからの余裕という見方がある。

家賃の問題もある。そのあたり、ユーウェインと細かな調整を行わなければいけない。


洗剤については石鹸を併用して使っているらしい。身体や髪を洗うのも同じ石鹸のようだ。

森で採れる木の実や種などを搾り取った油が原料のようなので、作り方を教えて貰えればお金もかからないだろう。

とはいえ、村人とのあの微妙な距離感を考えると、買ったほうが何かと軋轢が少ないかもしれないと思っている。


ダリウスは紙や鉛筆を珍しそうに見たあと、試算表に並々ならぬ関心を抱いたようだ。



「アマネ様は……商会の帳簿係か何かをされていたのでしょうか?」

「そう…ですね。広義ではそのように言えなくもないかも……」


会社というのはこちらでは商会のようなものだろうか。

経理と一般事務とは仕事内容が違うのだが、簿記の資格も取っているためやれと言われれば出来ないこともない。



「なるほど、合点が行きました。私が知っているものとは違いますが、こちらは数字ですか?」

「はい。あ、ダリウスさん。お時間のあるときに数字や文字を教えて頂きたいのですが」


ダリウスは少し考え込んで、旦那様の許可が頂けましたら、とだけ答えた。

そのあたりは天音も理解出来るところであったのでさっくりと了承する。


そう言えば、と天音は周りを見渡した。使用人部屋は台所の隣に配置されていて、ドアは開けっ放しだ。

そろそろお昼どきのようでカーラが準備をしている姿が先ほどからチラチラ見えている。



「あのう。お昼が出来上がりましたが……」


扉の向こうからカーラがひょっこりと顔を出した。

昨日から何度か天音も手伝いを申し出ているが、お客人にそのようなことはさせられませんという一点張りで未だ台所仕事をさせて貰えていない。

天音としても理屈はわかるので納得はしているものの、今後覚えなければいけないことを考えると悩ましい限りである。


そのあたり、ダリウスのほうは天音の押しもあって柔軟に対応してくれているほうだろう。

ユーウェイン不在で目の届かない場所であれば問題ないのでは、という天音の意見に耳を傾けられるぐらいは意識が柔らかいようだ。



「お部屋に戻ります」


天音は手元のメモと筆記用具を手に持ってそう声を掛けた。



食事についてわかったことは、基本的なメニューは毎回同じだといういうことだ。

収穫祭など特別な時をのぞいて、パンとスープに副菜、という内容は崩れない。


とはいえ農民の場合はパンよりは麦粥を作ることが多いようだ。

農家にはパン焼き竈がないため自然とそのようなメニューになるのだろう。



「それではアマネ様。何かございましたらお呼びください」


自室に戻って給仕を行い、ダリウスはカーラを部屋に留めたあと退去した。

カーラは少し落ち着かなさげにそわそわとしているように見える。


そういえば2人きりになるタイミングがなかなかなかったなと天音は食事をしながら考えていた。

女性同士だから色々と聞きたいこともある。仲良くしたい気持ちがあるのだがお互い距離を測りかねている状態だ。



「あ、あの。アマネ様」

「はい?」

「あのあの、何かご要望などございますでしょうか。お味に問題とか……」

「大丈夫ですよ。十分美味しいです。ありがとう」


沈黙が落ちる。

カーラが何やら会話をしたがっているのは感じられたので、天音としても応じたいところだが、良い話題はないだろうか。



「そういえば、カーラさんは婚約者がいらっしゃるのですよね」

「は、はい!アマネ様とはまだ顔合わせが済んでおりませんが、ホレスという名前で、その」


女性同士の会話と言えば恋バナ。話題の提供に成功したらしく、カーラの目が輝いた。

天音はうんうんと相槌を打った。少々唐突な話題転換だったが、問題ないようでほっとする。


カーラはしばらくホレスについて滔々と語った。

背が高くのんびりとしていて、頼りにならなさそうに見えるが、意外としっかりしている。

体格の良さから戦闘に出ることが多いので怪我をしないか心配。などなど。


そのような話を聞いている内に、天音は食事を終えて食後のお茶タイムだ。

もともとお喋りな気質なのか、お茶を入れる間も口が閉じる気配はない。

天音としては仲良くしたい気持ちがあったので、あえて口を挟まずに聞き役に徹していた。


しばらく女性とこのような会話をしていなかったので案外楽しんでいたのもある。

熱いお茶をすすりながらほっこりとしていた。



「ところで、アマネ様はユーウェイン様とどこまで進んでいらっしゃるんですか?」


鼻息の荒いカーラの質問を受けるまでは。



◆◆◆


飲み込んだお茶を危うく吹き出すところだった天音は、まず自分の耳を疑った。

記憶を頭の中でリピートしてみるが、耳に問題はないようだ。

そのあと、何を言っているのだろう、この子は。とついつい胡乱げな目をカーラに向ける。


カーラは期待に満ちた瞳を天音に向けている。キラッキラしている。

カーラは目鼻立ちがはっきりしていてまつ毛もビシバシだ。

視線を合わせると目力が物凄い。天音はつい、勢いに負けて後ろに下がる。



「……どこまでも何も始まってすらいません」


やっとの思いで否定の言葉を発したが、カーラは納得していないようで、より一層勢いを強めた。



「ええ!?そんなはずはないですよ!だって!

 村に戻って来た時、ユーウェイン様が大事そうに抱えていたって……」

「あのね?それは私がよろけたところをね?」

「それにご出立の際もあのような満面の笑顔を……」


食いしん坊万歳め。天音の中でのユーウェインのイメージは腹減り坊やである。

あの笑顔は決して熱を持ったものではないのだ。

熱を持っているとすれば食欲のせいだ。天音は一生懸命カーラに説明した。


説明を受けたカーラは最初の方こそ強気だったがその内納得してくれたのか勢いが小さくなって行く……かに思えたが。



「……納得しませんからね」

「いやいや」


納得はしてくれないようだった。



◆◆◆


そんなこんなで数日が過ぎた。結局ユーウェインは4日ほど退治に時間をかけたらしい。

徒歩ではツリーハウスまで1日半ほど。行き帰りで合計3日かけ、最終的に出発してから一週間後にユーウェインは村へと戻った。


帰って来た男たちは汗や泥で薄汚れていたが、無事魔狼を退治出来たおかげで表情は晴れやかだった。



「おかえりなさいませ、ユーウェイン様」


ジャスティンは静かに敬礼した。魔狼退治が成功したことが当たり前のように飄々とした表情を浮かべている。

ユーウェインの方も答礼し、村へと入ってくる。


天音はと言うと、ざわつく村人の後ろのほうでユーウェインの帰還を眺めていた。

先日からカーラに言われていることでどうも顔を合わせるのは気まずい。

だが客人としてお世話になっているので帰還に出迎えないわけにも行かないし、という微妙なバランスの元、後ろでひっそりこっそり出迎える、という結論に至る。



「おう、アマネか!」


魔狼退治に浮かれて、ユーウェインの機嫌は良いかと思えば、悪かった。

無理やり笑顔を作ってはいるものの、何というか、そこはかとなく苛立ちがにじみ出ているような様子に天音は首をかしげる。



「おかえりなさいませ。ご無事で何よりです」


ひとまずオーソドックスな対応で誤魔化そう。という天音の無難な目論見は早くも崩された。

ユーウェインは長い脚であっと言う間に天音の傍に近づき、パン!と肩を叩き、耳打ちをした。



「……腹が減ったぞ、アマネ」


苛立ちの原因はそこですか。天音は呆れたようにユーウェインを見遣った。


22話は26日12時に投稿予定です。

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