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グリアンクル開拓記~異世界でものづくりはじめます!~  作者: わっつん
第1章 異世界で遭難しちゃいました
16/92

16話 この木なんの木

16話です。

洞窟から出て、いよいよ大森林地帯へ突入です。

大食らいのユーウェインさんは食べる分どんな働きを見せてくれるのでしょうか。


誤字脱字などございましたらお気軽にご連絡ください。


16話 この木なんの木


森にいざ入らんとしたところで、ユーウェインから注意を受けた。

この森は未開発地域なので獣も多く、道に迷いやすい。

特に飢えた獣は見境なく襲って来ると言う。



「獣……ですか」


ユーウェインは頷いていくつかの獣の名前を上げた。


狐であれば追い払うことも可能だが、危険なのは狼だという。

群れで狩りをする狼に目をつけられると、足が遅いミァスでは逃げ切れない。



「ミァスのコブに苔が生えているだろう?」

「はい。緑色のふわふわしたやつですね」


何とはなしに手でコブに触れて感触を楽しむ。

今は素手ではないので伝わって来ないが、苔なので湿気をけっこう含んでいる。

匂いは青臭く、普通の苔のように見えるが……。



「この苔は獣避けになるのだ。肉食獣はこの匂いが嫌いでな」


なるほど、と天音は感心した。ミァスは力持ちで燃費も良い。

だが狼に比べると足が遅く肉食獣に出逢えばイチコロだ。



「ミァスの苔のお陰で、たいていの獣は自分から避けてくれる。……飢えた狼以外は」


熊も危険な獣の一つとして挙げられたが、このあたりは生息域ではないようだ。

秋に木の実や草で肥え太った鹿や兎を狼は狙う。

この時期はそれほど困るわけではなく、群れのほとんどは餌にありつける。


だがたまに狩りの下手な狼がいる。

弱い狼は群れから外され獲物にも有りつけない。


もちろん良い狩場に近付けないよう群れのメンバーから追い出される。

そしてメスと交尾する権利もなくなる。


あるいは、群れのボス争いに負けた狼。こちらも、もちろん群れから追い出される。

これらをはぐれ狼と言う。


ここまでは天音も納得出来る話だった。ほうほうとおとなしく聞いていた。



「通常、極限状態まで飢えると死ぬのだが」

「そうですよね。死んじゃいますよね」


何だか話がよくわからなくなってきて、天音は同意したものの内心首を傾げていた。

飢えた獣に気をつけろ、とそういう話ではないのだろうか。



「魔素を取り込んで魔獣化するはぐれが居てな」


魔獣。魔獣か。天音は聞きなれない言葉を咀嚼するように口の中で転がした。

魔法を使ったりするのだろうか。


小説や映画は友人たちと行く程度で趣味には程遠い。

よって天音には魔獣と言われても明確なイメージは持てなかった。


お腹が空き過ぎたので、魔素を食べます。

魔獣になりました。


という図式を頭の中に思い浮かべて、天音はうんうん?と頷く。



「魔獣化すると、獣は理性を失い狂乱する。

 狂乱した魔獣は見境なく人間を襲う。

 そして人間の味を覚えると執拗に狙うようになるのだ」


(Oh………)


村人の一人が犠牲になると村が狙われる、という流れらしい。

餌場として認識されてしまうのだそうだ。



「そういうわけで、魔獣に出会い次第その場で対処する。

 アマネには慌てぬよう心づもりをしておいてほしい」

「わ、わかりました……」


神妙な顔で天音は喉を鳴らした。

心づもりと言われても、いざその時になったら恐怖のあまりパニックになりそうだ。

何か一つでも対処法があればいいのだが……と、天音は背中のリュックの中からあるものを取り出した。



(……心もとないけど、ポケットに入れておこう)


ダウンジャケットのポケットは大きめに作られているので何とか押し込めそうだった。

武器にはならないが追い払うことぐらいは出来るかもしれない。



森の中はすでに薄暗くなりはじめている。早めに野営の準備をしないといけない。

ユーウェインは少し足を早めて先導をはじめた。



「まずここから少し歩いたところにある狩り小屋で一夜を明かす。

 もう夜が更けるので食事を取ったら早めに就寝する。

 詳しくは着いてから説明しよう」


普段なら道の状態があまりよくないらしいが、雪が積もっていることで平らになっている。

ソリが引っかかることもない。道なき道をすいすいと歩いて行った。



森の木々は天音が思っていたよりもずっと大きかった。

天音は人工林や里山しか今まで目にしたことがないため、イメージ上での木は背の高さがだいたい高くても20~25mくらいだろうか。


比べて周りの木を見てみると、高さは30mは優に超えている。

特筆すべきは幹の幅だ。どっしりとした体躯で地面に根を張り、街中の公園で生育されている木とは比べ物にならないくらい太い。


木の種類は天音にも詳しいことはわからないが、ナラ、ブナ、スギやマツの木、それにカエデの木らしきものも目に映る。

カエデの木はサトウカエデだろうか。

カエデは以前国内旅行に行った際にメープルシロップの工房に遊びに行ったことがあるので、見分け方を教わったことがある。



(サトウカエデなら、メープルシロップが取れるなぁ……)


一年に一回しか採取出来ないが、今の時期はちょうど良いのではないか。

頭の隅に記憶をインプットさせておくことにする。



◆◆◆



そうこうしている内に小屋についた。

樹齢はどのくらいだろうか。根元付近に大きなうろが空いていて、扉がついている。

周りの太い枝木を利用して小屋が建てられており、想像していたよりも随分と立派だった。



「ミァスをうろに移動させる。一度降りて欲しい」


はい、と勢い込んで降りようとしたが、長い時間同じ体勢だったため筋肉が固まってしまったようだ。

そのまま頭ごと落ちかけたところをまたユーウェインに助けられてしまった。



「す、すみません………」

「気をつけろ。筋肉をほぐしてからハシゴを使って小屋に行っておけ」


気を遣わせてしまったことで申し訳ない気持ちになるが、素直に言うことを聞いておくことにする。

しばらく腰からお尻・太ももまでマッサージを行い筋肉をほぐしたあと、ミァスから取り外された小さい荷物を手に取ってハシゴを上り始めた。


ハシゴは木製のがっしりとしたものだ。

天音は縄梯子でなくて良かったと心からほっとして、みしみしと音を立てながらハシゴを登り終えた。


小屋は小さな1ルームで、部屋の中心に灰を落とした窪みがあった。

おそらく囲炉裏のようなものだろう。ここで簡易の煮炊きが出来るような設計だ。


手荷物とリュックを部屋の隅に移動させると、天音はとって返してハシゴのところまで戻った。



「これも頼む」


ユーウェインは片手に怪我をしているため、持ち上げたりする作業は天音が行うことになった。

とはいえ荷物は小分けにしているのでそれほど重くはない。


話し合いの末、荷物は小屋にある程度置いて行くことになっている。

腐りものがほとんどないため、天音にも異論はない。

のちほどユーウェインの手の者が取りに来てくれるようだ。


荷物をあらかた持ち上げ終わると、うろの戸締りをしたユーウェインがハシゴを伝って上に上がってきた。

片手だというのに、器用なものだ。

身の回りの雪を落とすと部屋に入ってくる。


部屋はもちろん土足だ。

天音の方はついつい癖で靴を脱ぎかけたが、床は掃除されていないために結構汚れているので我に返って結局土足のままだ。

ただし、靴ひもは緩めている。


囲炉裏はあるものの薪を用意している暇はないだろう、ということで、取り出しやすいようにリュックに入れておいたカセットガスコンロを取り出し湯を沸かす。


晩ご飯は出発前に仕込んでおいたピザ生地に、ハムの残りとチーズ、乾燥芋を乗せて焼いたもの。

それから器に乾燥野菜、味噌、出汁粉末を入れてお湯を注いだもの。

という和洋折衷な内容となった。


フライパンに油をしいて膨らんだピザ生地を伸ばす。具材をのせて弱火でしばらく放置だ。

あらかじめ沸かしておいたお湯を味噌と具を入れた器に注いで、先に頂くことにする。


味噌の味が受け入れられるかどうかは気になるところだ。

ただ気に入られても今のところ再現が不可能なので、どちらに転んでも悩ましいところではある。



「……不思議な味だな」


ユーウェインは味噌汁を躊躇わず口に含んだが、食べ慣れない味のようでしばらく首を傾げていた。

だが味自体は悪くないとのことで、あっと言う間に一杯目が終わる。

そしてお代わり要求が来た。やはりか。


幸いお湯自体は冷めていないので二杯目を用意する。

ついでに、焼き加減がちょうど良くなっていたピザを取り出して切り分ける。

仕上げにハーブ&スパイスを振りかけて完成だ。


香ばしいチーズと芋の香りが何とも食欲を刺激してくれる。

ひとまず切り分けた分を促して、二人で食べ始めた。


塩気をきかせた生地は、ドライイーストのおかげで中はもっちり外はカリッとしていた。

即席ピザにしてはなかなか良い味、というのが天音自身の感想だ。


ケチャップやマヨネーズは今回使っていない。

使えばもっと美味しくなることは確実だが、ユーウェインの食欲を更に刺激してしまうことになるのでは、と懸念している。


今日は大判のピザで満足してもらおう。

と、天音が1つ目のピザを食べ終えている隙に、ユーウェインがあっと言う間に半分を平らげていた。


やばい。天音はついついうろんな目になる。

8枚切りのピザは残り3枚。



(……うん、あと2枚は諦めよう)


少し物足りないのか天音とピザをそわそわと見ているユーウェインに、そっと2枚のピザを差し出す。

するとユーウェインは拳を握って喜びを全面に出し、早速食べ始めた。


何というか、天音としてはわんこに餌付けをしている気分である。

もそもそと残りの1枚を食べながら、村に着くまでの辛抱だと自らに言い聞かせる天音だった。



部屋が一つなので、必然的に寝る場所も一つだ。

とはいえユーウェインは紳士的に、なるべく端っこの方に寄ってくれた。


看病していた際に使ったタオルケットは結局洗えていないが、肌触りが気に入ったようでユーウェインのものとなった。

現在、タオルケットと古い毛布がユーウェインの布団代わりになっている。


天音のほうは、自分で持ち込んだ毛布とブランケットを使い、寝苦しいがダウンジャケットなどは着たままだ。

洗顔だけ行ったあと、もうすっかり暗くなった部屋の中には天音のランタンの光があるだけ。


二人きりということで少しばかり落ち着かない気分になるものの、ユーウェインはというとどこ吹く風であっと言う間に寝てしまった。


緊張していた自分に苦笑をして、天音も毛布にくるまり眠り始める。

だが、うとうとすると同時にお尻と太ももがヒリヒリして目を覚ます羽目になり、鞍のクッション性向上を心に誓う天音であった。



深夜、まだ夜が明ける様子もない時間帯。

夜行性のフクロウの鳴き声がホーウホーウと森に響いている。



「……アマネ」


ちょうど寝入っていたところに揺さぶりをかけられ、少し機嫌を悪くしながらも天音は何事かと起き上がる。

ユーウェインは口のところに人差し指をあて、静かに、と落とした声で注意を促した。


どうも緊急性が高い要件のようだ。

あっと言う間に覚醒した天音は、ユーウェインに対して声を出さず頷く。

すると向こうもほっとしたようで、耳元に口を近づけてボソボソと喋りだした。


一瞬天音は近すぎる距離にギョッとするが、動揺している場合ではないことを思い出して、おとなしく内容を伺う。



「……小屋が狼の魔獣に囲まれている」


え、と驚いてユーウェインを見ると、真剣な色をした瞳とかち合う。

これは命の危険がどうとか、というレベルだろうか。暗闇の中で天音の顔色がさあっと青くなった。



17話は19日12時に更新予定です。


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