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グリアンクル開拓記~異世界でものづくりはじめます!~  作者: わっつん
第1章 異世界で遭難しちゃいました
12/92

12話 妖精の眼

12話です。今回もファンタジー色強し、です。徐々に明かされていきますのでお楽しみに。


誤字脱字などございましたらお気軽にご報告ください。

12話 妖精の眼(アバルウアヴァル)



死の山の呪いとはどのようなものなのか。天音の問いに、ユーウェインは言葉を選ぶようにゆっくりと話しだした。



「さて……何から話せば良いやら。元々(ドゥブ)とは曖昧なものでな」



(ドゥブ)とはいわば超能力のようなもので、人の身には過ぎる力を得る現象のことだそうだ。

そしてその現象は人間からもたらされ、(ドゥブ)と呼ばれる。



神の銀(アールガッド)が人の手によって黒ずむようなものだ。


 お主の(ドゥブ)は然程悪いものではないように見える。害はないであろう」


ユーウェインの言葉は酷く難解だ。銀が黒ずむ、というのは酸化現象のことだろうか。

呪いという言葉だけだと命に関わるような悪いイメージしか浮かばない。

いろいろと疑問はあるが、実害がないとわかって天音はほっと息を吐いた。



「あのう……呪いというのは、解けたりはするんでしょうか」


天音はふと思いついた疑問を口にした。言葉が通じる呪いはよくよく考えればとても便利な能力だ。

いきなり解けたりして意思疎通がはかれなくなるのは勘弁してもらいたいところだ。



「そのような話は聞いたことがないな」

「そうですか……」


ひとまずは安心出来そうだ。



「さて、最後の本題だが」


本題?と首をかしげて、天音は思い出した。これからの生活の件だ。

ひとまず居住を落ち着けて仕事を探すなり何なりしなければ、飢え死にしてしまう。



我が領地(グリアンクル)は開拓村でな。人手は多いほうが良いのだが……」


(我が領地?いま我が領地って言った!?)


衝撃の真実に天音は思わずごくりと生唾を飲み込んだ。

もしかするとある程度身分の高い人なのかもしれない、と予想をしてみるが、身分頼りにしてしまうのは気が引ける。

そのためあまり突っ込んで質問する気にはなれない。



「残念ながら、今期の予算は既に決まっている。礼金は支払うが、ひとまずは空き部屋を貸すぐらいしか出来ん」


村人からの税の徴収が秋の作物収穫時期に合わせてとなり、冬のはじまりと共に予算の割り振りが決まっているらしい。

税金は現物と労役がメインだ。農民は小麦やその他の作物を。職人は制作物を。

また、労役については村内の共同作業が定期的に割り振られる。


このあたりのことは、今後しっかり訊いておく必要があるだろう。

特に戸籍関連、税金関連は後が怖い。



「ありがとうございます。部屋を提供して頂けるだけでもありがたいです。お家賃の方も、可能な限りお支払いしますので、交渉させてください」


ユーウェインは鷹揚に頷いた。何とも様になっている。人に命令をするのに慣れているような物腰だ。


冬が開けて小麦畑の土起こしが終わる頃に街へ馬車が出ると言う。

残念ながら天音の分の冬越しの食料はないため、手持ちの保存食料を持ち込む。

春になれば食料を買い込むことになりそうだ。


となると当座の資金が必要になる。家の中で売れるものを追々探すことにする。

そのあたりもユーウェインに色々と意見を頼むことになるだろう。



「……話はこのあたりか。すまないが、少し寝る。ミァスに水だけ頼む」

「わかりました。無理を押して頂いて申し訳ありません」


ユーウェインが布団を被り横になってあっと言う間に寝息を立てはじめると、天音はぐったりと壁にもたれ掛かった。


話し合い自体が上手く行ったお陰で今後の憂いも晴れたのが救いだ。




特に生活拠点をゲット出来たのがありがたい。

そもそも身分証明さえ怪しいのだから、住めるところがあるだけでラッキーだ。


寝不足もあってこのまま寝てしまいたいが、その前にミァスくんに水をやらねばと天音は立ち上がった。


ベランダから出るとミァスは何故か洞窟の壁をペロペロと舐めていた。

何か美味しいものでもあるのだろうか、と覗いてみるがちょうど影になっていて見えない。

はて、と首をかしげつつ、天音は目の前のオスの森ラクダに声をかける。



「ほら、おいで。お水だよ」


プラスチックの深型の皿になみなみと水を注いでやる。

餌は1日に1度。少量の野菜があれば十分とのことなので、明日またラディッシュの残りを食べさせるつもりだ。


ミァスは天音の声にゆっくりと振り返って首を下げた。

問題なく水を飲む様子を眺めながら天音ははたと気付く。



(はっ!これってもふりタイムのチャンスじゃない!?)


一瞬拳に力が入る。

こちらに来てから、気持ちが落ち着かない日々が続いていたのでストレス発散の良い機会だ。


天音はそっとミァスの長い毛を指の腹で撫で付けた。

それだけでストレスゲージが随分下がったような気がする。



「はぁあ~幸せ……」


主の寝ている間に勝手なことは許されないが、少し触れるぐらいなら問題なかろう。

マッサージをするように撫で付けててやるとミァスも気持ちよさそうに目を細めていた。



そういえば冬越しの食料を用意しなければいけないが、作っていた保存食で賄えるのだろうか。

森ラクダの癒し効果で疲労していた頭がスッキリしたことで考える余裕が出て来た。


気力を充填させた天音は、そのままの勢いで部屋の中へと入っていった。




◆◆◆



ユーウェインは三時間ほど経ったあと、パチリと目を覚ました。

薬を使っていなかったものの自然回復力が優秀だったようだ。

顔色も良く、体調も悪くなさそうだった。



「お加減はいかがですか?」


温かいお茶をこぼれないようにそっと渡す。

ユーウェインはあまり表情が変わらないので味の善し悪しがイマイチ読み取りにくいのだが、先ほど出したハーブティは全て平らげていた。


ということはこれといった問題もないのだろう、と判断する。



「随分良くなった……いただこう」


香りを楽しむように目が細められる。どうやら気に入っているらしい。



目が覚めたユーウェインには、トイレの場所と紙の使い方を教えておいた。

一人で立ち上がり歩くことが出来そうだったので、自由にさせたほうが良いだろうと思ってのことだ。


紙についてはひと悶着あった。

これは何だという質問からはじまり、使い方を説明していると量産出来ないかという要望が投げ掛けられ、トイレットペーパーの一体何が琴線に触れたのか戸惑うばかりだ。


最初ユーウェインは布かと思ったらしい。

しかしペリペリと簡単に破ける様を見て心もとなく見えたようで使い方を説明してもピンと来ないようだ。


普段拭くのに何を使うのか聞いてみると、乾燥させた上繊維を叩いた木の皮を使っているようだ。

柔らかい若木が好ましいらしい。カルチャーショックだ。


ひとまず木の皮はないので、こちらに滞在する間はトイレットペーパーを使うことを納得してもらった。

ユーウェインの感覚からすると未知で稀少なもののようなので、随分と渋られたが。



あれこれしている間にそろそろ晩ご飯の時間になったので準備を始める。


精のつくものが良いと思い、肉を使う事にする。

冷凍状態の鶏もも肉を乾燥野菜と一緒にアルミホイルに包む。

調味料はバターをほんの少しと塩コショウ。


フライパンに水を敷いてその上にアルミごと乗せる。

火を入れると蒸し焼き状態になるのでヘルシーだ。



「………」


バターが溶けて濃厚な匂いが漂って来た。ユーウェインが落ち着かなさげに身動ぎする音が後ろから聞こえる。

どうやらうまい具合に食欲を刺激出来たようだった。


ある程度火が通ったら肉を取り出して細かく切り分ける。

バターや野菜の旨みが十分に溶け出しているようで、このままでも十分食べごたえがありそうだ。


だがこれだと一人分のおかずにしかならないし、病み上がりでは消化に悪い。

そこでもう一手間かけることにする。


半分は翌日の朝ごはん用に残しておき、残りを更に小さく刻む。

乾燥させていたじゃがいもを少量取り出し、刻んだものと合える。

先ほどアルミに入れ込んでいた乾燥野菜もなるべく細かく刻んで一緒に混ぜる。


片栗粉を少し入れて塩コショウやハーブで再び味を整えた肉生地をまとめて小判型にしたものをフライパンでさっと焼く。

蒸し焼きだけでは味わえない香ばしさを出すためだ。



一旦皿に鶏モモ肉ハンバーグもどきを移して、今度はリゾットに移る。

先ほどユーウェインが寝入っている間に少し干飯作業を進めていた。

そのついでに晩ご飯の分もお米を炊いておいたので、それをリゾットに使う。


牛乳がもうないので、クリームシチュールーを使用する。味付けが濃過ぎるのも問題なのでルーは控えめにしている。

出汁は肉の旨みがあるので使わない。野菜からも十分出ているはずだ。

ささっとリゾットを作ったあと、先ほどの鶏モモ肉ハンバーグもどきと一緒にしばし煮込めば、完成だ。

仕上げにラディッシュの葉っぱ部分を刻んで振りかけておいたので、少しでもビタミン不足解消になれば良いが。



「どうぞ」


せっかく出来立てなので、天音も早速食べることにする。

いただきますと宣言して一口二口と頬張ると、濃厚な旨みが腔内に広がった。


その様子をユーウェインは興味深げに見やったあと、祈りの文句のような言葉を捧げて食べ始めた。

夜にのみ祈りを捧げるのだそうだ。文化の違いを感じる瞬間だった。



(肉汁うまぁ……っ)


一度焼いたお陰で、焦げ目がまた美味しい。干し野菜も濃厚で味付けが薄くても十分食べごたえがある。

ユーウェインのほうはと言うと、無言で食べていた。目つきが変わっていて必死な様子だ。

米は多めに使ったのでお代わりはあるが、足りるだろうか。少し心配になってくる。



「うまい。もう一杯頼む」


案の定、お代わりが飛び出た。天音は躊躇わずお代わりをよそう。

本人が平気そうにしているとはいえ怪我人だ。なるべく早く治るよう、食生活に気を使ってあげたい。


とはいえ燃料や食料の残量も確認しておかなければならない。

食事を終えたあと天音はその話を持ちかけようとユーウェインに声を掛けた。



「……先日の大雪から2日弱か。あと一週間は吹雪にならんだろうが、ここから村へは3日はかかる。出発するなら急いだほうがいい」


そのようなユーウェインのアドバイスもあり、出発は2日後の朝に決まった。

明日1日かけてソリ制作と食料の保存を急ピッチでしなければならない。


荷物についてはミァスに取り付けることで随分と軽減出来るようだ。大助かりである。

また、村までもてば保存方法についてはどうとでもなるという判断を元に、米やその他の物資は加工せずに持って行くことにした。


水については、開封済と未開封のものを両方持って行くことにした。

途中、森の境目地点に未開封のものを置いておけば雪がなくなったときでも戻って来れる。


ユーウェインは天音の計画に時折助言を加えながらしっかりと聞いていた。

そして驚いたことに、聞きながら素振りをしていた。

ちょうど良い重さのある棒がなかったので、仕方なく麺棒を使っているのだが、やけにサマになっているのが不思議だ。



「残念ながら片腕ではろくな助けにもなれんが、出来ることがあるならば手伝おう」


汗を拭きながら無表情でそう申し出てくれるのは天音にとってはありがたいが、怪我人の自覚があまりないようで困る。

そう指摘するとユーウェインはにやりと笑った。考えてみれば、愛想が良かったのはこれがはじめてかもしれない。


「このくらいのこと、問題にもならん。気を失ったことで不覚を取ったが、怪我には慣れている」


と断言されたが、天音は嘆息しつつも怪我が悪化しないように見守ろう、と心に誓う。



そして夜も更けた頃。天音はユーウェインの瞳に変化が訪れたことを知る。



「あの……片目が光ってますよ?」


「これか?これは妖精の眼(アバルウアヴァル)だ」



また新しいファンタジックな単語が出て来たようです……。天音はこっそり冷や汗を流した。


13日は13日12時に更新予定です。15日までは連続更新になります。

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