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家族の前でも、その演技を怠らない悠登お兄ちゃん。
パパもママも、すっかり騙されていると思ってる。
その証拠に、たまに、ほんとにたまに、パパとママのことを、とても冷めた目で見ている。
まぁ、それをあたしに見られているのに、気づかない時点で、まだまだだねって感じだけど。
だけど、あのパパとママが、そんな青二才の演技に騙されるわけがない。
二人は気づいていて、知らないふりをしているのだ。
だってたまに、悠登お兄ちゃんが、良い子発言で自分の首を絞めたとき、パパとママが、こっそり陰で笑ってたもん。良い子発言する悠登お兄ちゃんに、わざと面倒事を押し付けたりしてるし。
それを考えると、二人もなかなか良い性格してるよね。
まぁでも、他人を見下し、自分の保身ばかり考える悠登お兄ちゃんを、暖かく見守るパパとママはすごいなって思う。
悠登お兄ちゃんはああゆう性格だから、諭そうとしても余計火が付くだけだし。
それに気づくこともなく、自分を理解してくれる人がいない、って嘆く悠登お兄ちゃんは、まだまだ子どもだなって思う。
そんな面倒くさいひねくれ方をした、悠登お兄ちゃんだけど。
実はあたし、悠登お兄ちゃんに絡むのが一番の楽しみでもある。
なぜって?
それは、良い子の仮面を被ってるせいで、あたしを蔑ろにできない悠登お兄ちゃんの、内心ひきつりながらも頑張る姿を見るのが楽しいから。
意味もなく呼び掛けても、ニコニコしながら頭を撫でてくれるし。
ワケわかんない質問(例えば、なぜ海は青いのか、とかね)をしても、真面目に調べて教えてくれる。
あ、だけど、海がなぜ青いのかって聞いたとき、真面目な答えの後に
「でももしかしたら、海が空に恋をしたからかもしれないね」
って薄ら寒い笑み(世間では王子さまスマイルともいう)を向けられたときは、マジで鳥肌たった。
とまぁそんな感じで、あたしが投げたボールを、悠登お兄ちゃんは全て受け止めてくれるから、楽しくて仕方がない。
内心ではどんなにあたしを毛嫌いしていてもね。
でも、どんな理由であれ、あたしの我が儘に付き合ってくれる悠登お兄ちゃんには、一応感謝してるんだよ?
この間も、めちゃくちゃ乙女チックなお店に一緒に行ってくれたし。悠登お兄ちゃん、中身はあれだけど、外見はマジで王子様だから、こういうお店に入っても違和感ないんだよね。
話が逸れちゃったけど、悠登お兄ちゃんには、感謝してるんだ。
だから、お礼として、あたしも悠登お兄ちゃんに見合った妹、を演じてるんだよ?
肌の手入れはもちろん、髪の毛の手入れに体型管理。容姿は前の世界のままだから、そこら辺はどうしようもないけれど……。
感情表現も豊かにして、前の世界のように、無表情にならないように、気を付けてる。
って言っても、ほとんど自分のためだけどね。
だって、外見は完璧な悠登お兄ちゃんに、べったりくっつくんだもん。あたし自身も、それなりじゃないと。でなきゃあたしが悪口言われちゃう。
悪口言われるのは、もううんざりだ。
悠登お兄ちゃんも、"小汚い義妹"を連れて歩くよりは、多少小綺麗な方が良いだろうしね。
何だかんだで悠登お兄ちゃんも、出掛けるときは、女の子避けとして、あたしを利用してるしね。
だったらやっぱり、可愛くしてなきゃ。
だからこれからもよろしくね?
悠登お兄ちゃん?