7
「母さん、透夏ちゃんが吃驚してるよ?」
少し困ったような笑みを浮かべながら、イケメン・悠登君が、詩織さんをやんわりと、あたしから引き剥がしてくれた。
「ほらほら、いつまでもこんなところで話してないで、中に入ろう」
藤堂さんの言葉に、落ち着いた詩織さんが頷き、みんなでぞろぞろとリビングへ移動。
──やー、美形家族だ。確実にあたし浮くじゃん……。
さっきまでの緊張は何処へ行ったのか、今は藤堂家の顔の良さに驚きだ。
藤堂さんもイケメンだと思ってたけど、詩織さんマジ美しい。まさに理想の女性だよ。
そんな二人の息子である悠登君も、想像以上にイケメンだった。
──あれだね、目の保養になるね。
「さて、落ち着いたところで、自己紹介をしようか。俺は藤堂佑。是非パパと呼んでくれ。悠登は恥ずかしがって呼んでくれないからな」
「父さん……」
「ははっ。よろしくな、透夏!」
悠登君をからかいながら、優しく微笑む藤堂さ……じゃなくて、パパ。
「よろしく、パパ」
「まぁ! ずるいわ佑さん。先に呼んでもらえるなんて。私の方が先に言ったのに……。透夏ちゃん、藤堂詩織よ。ママって、呼んでくれるわよね」
笑顔だが、その目はイエスorはい、しか認めないと言っている。
「うん、よろしくね、ママ」
「あ~もう! 透夏ちゃん可愛すぎる!!」
がばりと抱きついてくるママ。あたしは、どうしていいのか分からなくて、されるがままにじっとしてる。
パパと悠登君は、苦笑してる。
今まで感じたことのない、人の暖かさに、思わず視界がぼやけた。
──ありがとう、セリア。あたしに、家族をくれて。
心の中でセリアにお礼を言ってたら、ぎゅうぎゅうと締め付けが強くなってきて……。
「詩織? 透夏ちゃんを病院に戻すつもりかい?」
パパがやんわりとママを止めてくれたお陰で、三途の川を渡らずにすんだ。
──あー、マジで一瞬お花畑が見えたよ?
「じゃあ、最後は悠登君ね!」
うきうき女子高生みたいなママに促されて、悠登君が微笑みながらあたしを見る。
「悠登です。年は、透夏ちゃんの二個上の、十七歳。学校も一緒だから、困ったことがあったら、何でも言ってね?」
ふわりと笑う、その優しげな笑みで、いったい何人の女の子を落としてきたのだろう。
きっとその笑顔に、ほとんどの女の子が頬を染めるのだろう、と思いながら冷や汗をかいた。
──笑ってるけど、笑ってない。
自分もずっと、仮面を被ってきたから分かる。悠登君は、心から笑っていない。
笑顔の仮面を被っているだけだ。
彼は、あたしのことを歓迎してない。むしろ、疎ましく思っている。
悠登君の笑顔に、軽い恐怖心すら覚えるが、それらの感情をいっさい表に出さずに、笑顔を浮かべる。
「透夏です。いっぱい迷惑かけるかもしれないけど、よろしくね? えーっと、悠登お兄ちゃん?」
あたしの「悠登お兄ちゃん」呼びに、パパはにやにやして、ママは羨ましーと騒ぎ出す。
そして、呼ばれた本人悠登君は、一瞬顔をひきつらせ、だが直ぐに笑顔を浮かべる。
「うん、よろしく、透夏」
嫌がられてようが、知ったこったない。
あたしはこの世界で幸せになるって決めたんだ。
悠登君がゲームの攻略対象だろうが、あたしには関係ない。
──まぁ、それが偽物の気持ちでも、お兄ちゃんには変わりないんだから、気づかないふりして、甘えまくろ~。
あと半月で、入学式。