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しばらくして、ドアがノックされた。
また先生達だろうか、と思いながら、返事をする。
だけど、入ってきたのは、知らない男の人だった。
四十代位の男性は、端整な顔立ちで、さぞかしおモテになられるんだろうなぁ~なんて思ったほどだ。
イケメンは、こんにちは、と言いながら、ベッド脇の椅子に座った。
「落ち着いて、聞いてくれ。君は、……記憶喪失のようだ」
痛ましそうに言うイケメン。
──だけど、……言うの早すぎじゃない? 入ってきて早速ネタバラしって……。というか、それ以前にあなた誰?見たいな? あと、気ぃ使ってくれたところ申し訳ないが、記憶喪失じゃありません、はい。
とまぁ、そんな感じの事をぐるぐると考えながら、ただひたすらイケメンを見つめた。
イケメンは更に話を続ける。
そのイケメンによると、あたしは遠藤透夏。どうやら名前は変わっていないみたいだ。
年は十五。今年高校生になるらしい。一歳若返ってしまった……。
三人家族だったが、一ヶ月前の深夜、突然家に突っ込んできたトラックにより、家は半壊。更に運の悪いことに、大きな雷が家に落ち、火災発生。
唯一助かったあたしも、一ヶ月意識が戻らず、今日漸く目が覚めた。だけど、事故の後遺症か、今までの記憶が一切なく、更には、記憶が戻るという保証はないに等しいらしい。
この事に関しては、セリアが手を回してくれたのだろう。さすがのあたしでも、二つの記憶を持ってたら、狂ってしまう。
だったら、記憶喪失ってのが一番都合がいい。
それから、あたしの両親は天涯孤独らしく、親戚は一人もいないとのこと。
あ、ちなみに、このイケメンは、お父さんの幼馴染み兼親友らしい。
──あぁ~、この世界でもあたしは独り、か。
イケメンこと、藤堂佑(トウドウ タスク)さんの話を聞き終わったあとに、ふとそう思った。
──結局あたしは、どこに行っても独りなんだ。どんだけ運が悪いんだよ……。
ぼんやりとそんなことを考えていると、藤堂さんが唐突に口を開いた。
「透夏ちゃん、うちの子に、ならないかい?」
「…………ぇ?」
言われたことが、直ぐに理解できなくて、藤堂さんを見つめ返した。
藤堂さんは、真っ直ぐとあたしを見ている。
「俺の、娘に、ならないか?」
──藤堂さんの、……娘?
「はぃ、……よろし、く、おねが、い……します」
かすれる声を搾り出しながらも、ゆっくりと起き上がり、頭を下げた。
藤堂さんは、そんな畏まらなくていいんだよ、と涙ぐみながら、あたしを優しく抱き締めた。
初めてのハグに、温かいなぁ~なんて、呑気に思った。
どうせこのままじゃ、施設行き決定な訳だし。
だったらあたしは、家族ができるかもしれない、小さな小さな希望に賭けることにした。
──もしかしたら、あたしにも……。
藤堂さんに抱き締められながら、小さく願った。