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セリアは、冷や汗をダラダラ流しながら口を開いた。
まさかバレるとは思わなかったみたいだ。
「毎日が退屈で……。透夏ちゃんをトリップさせたら、楽しくなるだろうなぁ~って……」
上目使いでチラチラこっち見ながら、暴露するセリア。
うん、同情よりもそっちのがいい。
「分かった。別にいいけど、あたし乙女ゲームとかやったことないし、逆ハーレムに興味ないから、面白くもなんともないと思うよ?」
完璧に敬語が剥がれ落ちてしまったが、まぁいいだろう。相手は自分の道楽で人を振り回す神だ。
「やー、透夏ちゃん怒らないで~」
うるうると涙ぐむセリアに、思わず吹き出す。
「あたしの自由に生きていいなら、どこに飛ばされてもいいよ。別に今の世界に思い入れはないからね」
そう言って笑えば、セリアは悲しそうに眉を寄せた。
「じゃあ、早速飛ばすね」
──え? いくらなんでも早すぎね?
そう思ったが、既に視界は歪んでいて……。
「あ、いい忘れてた。トリップするに当たって、一つだけ願いが叶えられるんだ。なにがいい? 何でもいいよ~」
頭に直接響く声に、少し悩む。
願い事と言われても、特に欲しいものはない。
強いて言うなら……。
──家族、……お兄ちゃんが、欲しいな。
できれば思いっきり甘えたい。だから弟妹はいい。お姉ちゃんは……義姉を思い出すからやだ。だから、お兄ちゃんがいい。
「りょーかい」
力の抜けるような、だけど暖かいセリアの声を最後に、あたしは再び意識を手放した。
だから知らない。あたしが消えたあとに、セリアが
「今度は幸せになってね」
って言って、涙を一筋流した事なんか。
×××
──そうだ、あたしトリップしたんだ。……でも、なんで病院?
またもや沸き上がってきた疑問に、首を捻っていると、静かに病室のドアが開けられた。
「っ! 目が覚めたんですね! 今先生を呼んできます」
看護師さんらしきその女性は、あたしと目が合うと飛ぶように廊下に消えていった。
──病院、走っていいのかな……?
しばらくボーッとしていると、バタバタと、複数の足音が聞こえてきた。
──だから、お医者さん達が走っていいの?
ガラガラと乱暴にドアが開けられ、お医者さん達が入ってきた。
「遠藤さん、お加減はいかがですか?」
低い、深みのある声で、優しく男の先生が話しかけてきた。
だけど……。
「えん、ど……う……?」
──それは誰だ? もしかして、あたしの事?
あたしの言葉に、その場にいた人たちの顔が、サッと険しくなる。
「自分のお名前、言ってもらえるかな?」
再び、先生が話しかけてきた。怖がらせないように、笑顔で優しく。
だけどあたしはプチパニックだ。
──え? もしかして、名前とか全部変わってるの? セリア最初っから言ってくれよ~!
「ぇっと……。わ、かんな、い…です」
わけ分かんないし、なんでか声出しにくいしで、思わず涙ぐむ。
そんなあたしを、看護師さんの一人が、安心させるように頭を撫でてくれる。
「大丈夫だよ。焦らなくていいから、質問に答えてね」
そう言って、先生にいろんな質問をされた。
苗字、名前、年齢、日付。家族の事、住所や学校。
それ以外にも色々聞かれたが、何一つ、答えられるものはなかった。
一通り質問が終ると、あたしの体調をチェックして、先生たちは退出していった。
再び一人になって、不安に押し潰される。
──あたしは、どうなるんだろう。