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目を開けると、そこは病院でした。
何で病院に?と首を傾げて思い出した。数時間前の出来事を──。
×××
あたしの名前は松田透夏(マツダ トウカ)。
松田の苗字を貰ったのは四年前。
それまでは、児童養護施設・子どもの家の園長先生の苗字、下野を名乗らせてもらってた。
あたしは孤児で、赤ちゃんの時に、子どもの家の前に捨てられていたらしい。
子どもの家の職員に発見されたあたしは、十二年間そこで育ててもらった。
子どもの家は、正直言ってあまり良い所ではなかった。
小さな部屋に十人ずつ、すし詰め状態だし、水道代節約として、お風呂はシャワーのみ。湯槽になんて、浸かったことない。
ご飯は基本朝晩の二食で、学校のない日は最悪だ。
お金がないからしょうがない、と職員は言うが、あたしは知っている。普通に生活できる程度のお金を、国からちゃんと貰っているのを。
時間があれば勉強をしていたあたしは、同年代の子より頭が良く、二三個上の学年の勉強をしていた。
ある日、ちょっとした興味で、子どもの家の事を調べたのだ。
その時に、園長先生が子どもの家のお金を横領しているのを知った。
だけどあたしにはなにも出来なかった。
所詮あたしは育ててもらっている身。下手に口出しして、何をされるか。
結局あたしは口をつぐむしかなかった。
それから何年経った頃だろうか。
中学生になったあたしに、養子の話がきたのだ。
相手は政治家で、子どもの為の活動を積極的に行っている人。
どうしてもあたしが欲しいらしく、お金をたくさん寄付しよう、と言っていた。
最初は渋っていた園長も、お金の話になったとたん、手のひら返して頷いた。
あたしは園長の私欲のために売られたんだ。
でもまぁ、この園にいるよりはましだろう、と思っていた。だけどそれは大間違いだった。
養父があたしを養子にしたのも、私欲の為だったんだ。
政治家の養父は、更に上に登り詰めるために、民間の支持率を上げることを考えた。
そこであたしの登場だ。親のいない、可哀想な女の子を養子にすることで、民間の心を掴もうとしたのだ。
だけど、孤児なら誰でもいいって訳じゃぁない。
多少賢くて、おとなしく、従順な子だ。でないと、養子にして問題を起こされたら困る。
そこであたしが選ばれたんだ。
その企みは、大成功。
喜んだ養父は、ご褒美だ、と今まで一個上の義姉と同じ部屋だったのに、一人部屋を与えてくれた。
その事に一番喜んだのはあたしじゃなくて、養母と義姉だ。
二人とも、どこの誰とも知れぬあたしを家族に入れるのに大反対で、あたしは常に睨まれていた。
そして二人は、あたしが義姉と同じ部屋だと、義姉に何かするんじゃないかと、常に疑っていたみたいだ。
あたしとしては、彼女たちはどうでも良かった。
ただ、この息苦しい家の中で、ようやく息をつける空間を与えてもらえて、初めて養父に感謝した。
一人部屋になってからと言うもの、あたしと松田家の関わりは、ぐっと少なくなった。
ご飯は、いつのまにか部屋の前に置かれているため、部屋で一人で食べているし、家にいるときは基本自分の部屋に籠っている。
学校も、義姉と同じ私立に行かせてもらっているが、学年が違うし会うことはない。
まぁ、最低限の生活が、保証されてるだけ、子どもの家よりましか。