SIDE∞‐03 天敵
時は少し遡る。
《なぜだ。なぜ吾の魔力が溜まらない! この街に来れば勝手に魔力を供給されるのではなかったのか!》
駅前通りを西に抜けた先、明らかに商店ではないオフィスビルが林立する道を紘也たちは歩いていた。
「どこに行くつもりなんだよ孝一? 駅前通りの方が見るもの多いだろ」
「わかってないな、紘也。そんなのは帰りに見ればいいんだ。月波市って言えば、例の学園だろ?」
例の学園――月波市の二割以上を占める敷地面積を誇る月波学園のことだ。確かに紘也も興味がないと言えば嘘になるが、学園の位置は月波市の端。駅から随分と離れてしまう。
《無視か己ら!?》
最後尾をちょこちょこ歩いてついてきていた青い和服の幼女――ヤマタノオロチ、もとい山田が八重の声でなんか喚いていた。
「あぁん? あんた見た目が幼女だからって誰もが構ってくれると思ったら大間違いですよ?」
すかさず金髪少女――ウロボロスがメンチを切る。不良のように。
《誰も己には訊いておらんわ金髪! 人間の雄。話が違うではないか!》
そう言って山田は紘也を睨んできた。紘也はあの後車両内で葛木香雅里から聞いた話を思い出し、
「なんでもこの辺り一帯を管理する土地神に認めてもらわないと魔力は供給されないらしいな」
《そうかやはり手順がいるのだな。して。その土地神とやらはどこにおる?》
「俺が知ってると思うか?」
《ぐぬぅ……》
唇を引き結んで唸ると、山田はなにかに気づいたようにその辺を歩いていた学生の集団にとてとてと駆け寄った。それから少しの会話をして気持ち悪くニコニコしながら戻ってくる。
《焔稲荷神社というところにおるらしい! そこに吾を連れて行け人間の雄!》
最近稀に見る生き生きとした表情だった。余程元の力を安定して取り戻したいらしい。
「道は?」
《……》
「……」
《……》
「……」
《……あっちの方?》
「ちゃんと聞いとけよ面倒臭いなっ!」
紘也はパンフレットの地図を広げる。ヤマタノオロチに完全復活されては困るので行く気はさらさらないが、だからこそうっかり辿り着いてしまわないようチェックするのだ。
「あったここか。逆方向だな。残念、行ってる暇はない」
《ならば吾だけで行く。貸せ!》山田は紘也から地図を引っ手繰り、《ククク。もうこれでもう己らに会うことはないだろう》
「確保」
「了解です、マスター」
《うおっ!? なにをする火竜の雌!? 放せ!? やめろ!? 吾の腕はそっちの方向には曲がらなぎゃあああああっ!?》
赤毛ツインテール少女――ウェルシュ・ドラゴンが紘也たちから離れていく山田を羽交い絞めし、それでももがき暴れる彼女に関節技をかけるのだった。
「ヤマちゃん、あとでわたしが一緒に行ってあげるよぅ」
にっこりと微笑む愛沙には悪いが、それでもしヤマタノオロチが復活してしまうと困るのは月波市の皆さんなので、その時が来れば全力で阻止させてもらうと決める紘也である。
すると、路上で山田にチキンウィングアームロックをかけていたウェルシュが犬のように鼻をすんすんさせる。
「くんくん……マスター、変わった臭いが接近しています」
ウェルシュの鼻は魔力レーダーになっている……らしい。
「変わった臭い? 幻獣か? だったらこの街では珍しくないんじゃ?」
月波市は幻獣――妖魔が人間と同じようにくらしている珍しい都市だ。幻獣の臭いなんてそこら中に溢れているはず。
「いえ、紘也くん、これ一応幻獣ですけど、細かく分けると別分類される奴の魔力ですよ」
「別分類?」
眉を顰める紘也に、ウロは周囲を警戒しながら告げる。
「『精霊』です」
『あ! いたー!』
その時、どこからか女の子の声が聞こえた。紘也は辺りを見回したが、それらしい姿は見えない。幻獣界の万物エネルギー――マナで体が構成されている幻獣と違い、精霊はマナそのものに意識が宿っている集合体だ。向こうから姿を具象しない限り目視することはできない。
「そこですっ!」
『きゃーっ!?』
居場所を感知したのか野生の感か、ウロが迷いなく右手を斜め上に突き出して空気を掴んだ。するとそこの空間が一瞬だけ歪み、妖精のような姿をした女の子が出現する。
「……シルフです」
その姿を見てウェルシュが正体を看破する。紘也も見ればわかった。
シルフ、あるいはシルフィード。西洋の伝説に登場する四大精霊の一つである。空気を司る精霊であり、具現化するとこのような妖精の姿になる。
普通、酸素や窒素と変わらないマナ状態の精霊を素手で捕まえるなんてありえない。だがシルフの起源がパラケルススの錬金術にあると言われているように、同じ錬金術の象徴的存在でもあるウロボロスには精霊のマナを実態として捉える技術があるのだろう。たぶん。
『なになに!? なーに!? はーなーせー!』
必死に逃れようともがくシルフだったが、ウロは敵キャラのような凶悪な笑みを浮かべて握った手を広げようとしない。
「そっちこそ、今さっきあたしらを見つけたとかほざきましたよね? 一体どういうことか説明してもらいましょうか。さもないと――」
『さ、さもないと……!?』
「あたし、シルフってまだ食べたことないんですよ」
『ギャーッ!?』
ムンクの叫びのように悲鳴を上げるシルフだった。見たところどうにも悪意を持って近づいて来たようには思えないので、紘也はとりあえずウロに解放するよう命じる。
「紘也くん紘也くん、キャッチ&リリースの精神は素晴らしいと思いますが、せっかく手に入れたS級食材を逃がすのは勿体ない……ごめんなさいすぐ放しますだからその構えたピースサインは下げてくださいお願いしますっ!!」
聞き分けのいいウロボロスは素直にシルフを解放してくれた。
「で? あんた俺らになんの用?」
よろよろと危なっかしく飛ぶシルフに掌で足場を与えてから紘也は訊いた。なんか向こうで「今のはウロちゃんが悪いよぅ」「でもあたしはみんなの安全をですね」《あのままいつものように刺されていればよかったのだ》「あんですって!?」と耳うるさく雑談が繰り広げられているが、今はスルーする。
『マスターに……あなたたちを……探して……って言われたの……!』
四つん這いのポーズでゼーゼー息を切らしていたシルフは、どうにか落ち着くと羽を動かして自力で紘也と同じ目線の高さまで飛んだ。
『だから、フィーと一緒に来てほしかったり!』
フィーというのがこのシルフの名前らしい。恐らく、この世界限定の名前だろうが。
「ふむふむ、つまりそのマスターってのをぶっ飛ばせばいいんですね?」
『えーっ!?』
「……『マスター』という呼び方と一人称がウェルシュと被ってます。ウェルシュは身の危険を感じました。〝拒絶〟してもよろしいですか?」
『ギャーッ!?』
「お前らもう口挟むな怯えてるだろ!?」
幻獣を庇うなどと自分でも珍しいと思う紘也だった。一応シルフは幻獣と言うより精霊だし、そこの契約幻獣たちに比べたらかなり良識的だからだろう。
『マスターもカツラギって人から頼まれただけだもん! ひ、酷いことしないでね!?』
「それを早く言えよ……」
要はこの涙目シルフのマスター――契約者は香雅里の言っていた協力者なのだろう。つまり、いきなり抜け出した紘也たちを呼び戻しに来たわけだ。
従わなければ、後が怖い。
「孝一、月波市見物は全部終わった後にしようぜ」
「だな」
一歩下がった位置から状況を見守っていた孝一は、仕方ないといった調子で頷いた。
∞
道案内をするシルフを早足で追いかけて約五分、駅前通りの商店街で紘也たちは葛木家の黒装束集団を見つけた。
だが――
「ん? なんか様子が変じゃないか?」
彼らの剣呑とした空気を感じ取った孝一が眉を顰めた。ああ、と紘也は相槌を打つ。
「葛木家以外にも何人かいるみたいだな」
彼らの背中が邪魔である程度近づくまで見えなかったが、高校生らしき私服の少年少女が数人と、葛木家とは別種の黒い格好をした男が一人と言ったところか。
アレが協力者という奴で、単純に揉めてるだけなのか?
それとも、あの中の誰かが今回の敵なのか?
どちらにせよ急いだ方がよさそうだ。そう紘也が思った時だった。
「この感じ……まさかっ!」
「……危険な臭いがします」
ウロとウェルシュが、かつて見たことがないほど血相を変えて駆け出した。瞠目し牙を剥く彼女たちには、敵意どころか殺意さえ感じた。
「お、おい、どうしたんだお前ら!?」
慌てて紘也たちは追いかける。
《魔力を寄越せ人間の雄! 恐らく吾も戦わねばならん!》
――山田、お前もか……。
紘也はわけがわからなくなっていた。ウロと山田はともかく、ウェルシュまで意味もなくトチ狂うことはない。少し冷静に状況を見極める必要がありそうだ。
「……ウロボロス、個種結界を張ってください」
「命令してんじゃねーですよ! んなこたぁわかってます!」
二体同時に個種結界を発動させる。幻獣が持つ特性を付与し、周囲に影響を与える結界だ。ウロボロスの〝再生〟により破損物が自動修復され、ウェルシュ・ドラゴンの〝拒絶〟により無関係な人間は強制退場させられ決して侵入できない。侵入できたとしてもウロボロスの〝無限〟に捕らわれ、中心部に辿り着けず結界が解除されるまで〝永遠〟に彷徨い続けることとなる。
彼女たちによりこの駅前商店街は『隠蔽された戦場』へと変わった。
そして――
「先手必勝です」
紘也の許可を得ようともせずウェルシュはその掌から真紅の炎を射出した。アドバルーン大に膨れ上がった火炎球は、葛木家の術者たちを擦り抜け、その先にいた黒コートの男にだけ直撃する。ウェルシュ・ドラゴンの〈拒絶の炎〉は彼女が指定した対象以外を燃やすことはないのだ。
『なーっ!?』
シルフのフィーが悲鳴を上げた。彼女だけでなく、香雅里や他の人たちも突然の襲撃に驚愕している。ということは、あの黒い男は味方だった可能性が高い。
「なにやってんだウェルシュ!? 敵じゃなかったかもしれないんだぞ!?」
「敵とか味方とかその辺歩いてた部外者とか、そんなもんどうでもいいんですよ紘也くん!!」
取り返しのつかないことをしたウェルシュを叱ったつもりが、逆にウロに怒鳴られてしまった。
「あいつは殺さないとあたしらがヤバいんです!」
普段の調子に乗った態度をどこに吹っ飛ばしたのか、珍しく真剣な顔したウロからは冗談ではない危機感が伝わってきた。だがそれでも状況はさっぱり飲み込めない。
地面を強く蹴ってウロが加速する。その全身に黄金色の鱗――〈竜鱗の鎧〉と呼ばれるウロボロスの絶対防御――が浮かび上がる。それによって硬化された腕に高圧縮された魔力の光まで宿る。
全力全開の一撃を、ウロは〈拒絶の炎〉の中へと叩き込んだ。
既に焼失してしまっているだろう男になぜ追撃を? そう紘也が戦慄するのと、ウロを中心に周囲が吹っ飛ぶほどの爆風が吹き荒れたのは同時だった。商店街の品物が高く高く舞い上がり、古い建物なんかは呆気なく瓦解する。
あれはウロの魔力が炸裂したために起こった爆風だ。
そしてあの男が〈拒絶の炎〉で焼かれていれば起こり得ない爆風だ。
「……おいおい」
爆炎が渦巻く中、軽薄そうな声が聞こえてくる。
「初対面でいきなり即死級の攻撃ぶつけてくるとか、随分なご挨拶だなおい」
爆風は〈拒絶の炎〉も吹き払い、そこからウロに顔面を殴られた状態の男が姿を現した。
しかも無傷。まるで皮膚が鋼鉄にでもなったかのごとく、ウロの拳が押し当てられているのに凹みすらしていない。
「それは〝龍鱗〟……やっぱりこいつ『龍殺しの魔術師』です!!」
忌々しげに舌打ちしてウロは後ろに跳んだ。
龍殺しの魔術師。
その名の通り、ドラゴンを殺した魔術師に与えられる呼称だ。それもただ殺しただけではない。ドイツの英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』で悪竜ファブニールを殺したジークフリートのように、魔力の籠った竜血を全身に浴びることでいかなる武器でも傷つけられない不死身の肉体――〝龍鱗〟を手に入れた者のことだ。
龍を討つ者……なるほど、と紘也は胸中で納得する。ウロたちはまさにドラゴン族だ。その気配に本能的な危険を感じ取り、明確な敵意を持って攻撃したくなるのも頷ける。
「おいおい蛇の嬢ちゃん。俺はそんな大層なもんじゃねえよ」
「あぁ? 今なんて言いやがりました?」
「俺はただの――龍殺しの罪人さ」
「聞いてませんよ!? あたしは蛇じゃなくてドラゴンです!? なに澄ました顔でカッコつけてんですか!?」
激昂するウロだったが、黒い男は飄々とした態度を崩さない。
――あいつ、『人化』してるウロを見ただけでなんで蛇ってわかった?
紘也は今の遣り取りでその点が引っかかった。『龍殺しの魔術師』が持つ感か、それとも相手のドラゴンの形状を瞬時に見抜ける特殊な技術でもあるのだろうか?
「どこのドラゴンをぶっ殺したのかは知りませんが、あたしの〝龍鱗〟でも傷つかないってことは相当高位のようですね。――殺られる前に喰い殺しますけど宜しいか?」
「よく喋る嬢ちゃんだ。だが俺も死ぬのは嫌なんで、喰われる前に殺るけど宜しいか?」
ウロがどことも知れない空間から黄金色の両刃大剣を抜き、その後ろでウェルシュが真紅の魔法陣を描く。黒い男もなにかやらかすような雰囲気を醸し出している。
まずい。
あいつらがぶつかれば誰かが、あるいは全員が確実に命を落とすだろう。ウロボロスは不死だが消滅は効く。滅殺されたら恐らくアウトだ。
そして周りの様子を見るに、黒い男は敵じゃないし無関係の部外者でもない。完全に味方だ。いくら互いにぶつかり合うことが宿命とでも言うべき相手でも、味方同士で争うなど愚の骨頂だろう。
「ウロ! ウェルシュ! これ以上はもうやめろ」
「羽黒、この人たちは味方のようです。無駄な争いはやめた方がいいと思いますよ」
紘也と同時に黒いノースリーブのワンピースを着た美女が両勢力の間に割り込んだ。羽黒と呼ばれた黒い男の連れらしい。
ウロは黄金色の大剣――〈竜鱗の剣〉を肩に担ぎ、
「どいてください、紘也くん。そいつ殺せない」
青い瞳の闘志を一切引かせずにそう告げた。だが紘也も退くわけにはいかない。
「敵を間違えるな。この人は味方だ。そうだろ、葛木?」
「え、ええ、その男が来る時に伝えた瀧宮の術者よ」
確認されて正気づいたらしい香雅里が肯定する。
「そっちの人らも別にこっちと敵対するためにいるわけじゃないんだろう?」
孝一も場を収めようと学生らしき少年少女たちに訊く。すると、右眼を前髪で隠した茶髪の少女が興醒めしたように口を開く。
「なんのためにここにいるのかは、寧ろあたしが聞きたいわよ」
「実は僕らもほとんど事情を説明されてなくて、全員揃ってから話すのかなと」
白髪狐耳美少女を庇うように立っていた少年が補足してくれた。どうやら向こうはこっち以上に混乱しているらしい。なぜ揉めていたのかは謎だが、ここに敵がいないことだけは確定した。
「そんなの関係ないって言いましたよね? 敵の敵は味方とよく言いますしウロボロスさん的にも好きな言葉です。ですが『天敵』だったら話が違います。肩を並べて共闘するなんて不可能です!」
ウロの意見に賛同するようにウェルシュと山田も頷く。普段はわざとじゃないかってくらいに意見を違える三体だが、今回ばかりは違う。三体とも同じ考えだ。
すなわち、天敵――『龍殺しの魔術師』とは協力できない。
「めんどくせえ」
黒ワンピースの美女に窘められていた羽黒が吐き捨てるように零す。
「そこのドラゴン三体とバトルのは割に合わねえな。だが、あんたらと手を組むってのは依頼主の御意向でね」
依頼主というのは、どうせ紘也の父親だろう。
「そこで、だ。敵地まではとりあえず同行っつう形で、そっからは協力なんてしなくていい。別行動だ。俺らは俺らで勝手にやる。お前らはお前らで勝手にやれ。互いが邪魔になっても文句は言わない。もちろん俺はお前らを狩ろうだなんて思わない。これでどうだ?」
「そんな話誰が信じ……いえ、そうですね。そういうことにしましょう」
驚くほどあっさりとウロは引き下がった。が、紘也はなにを考えたのか手に取るようにわかる。『戦闘中、うっかり手が滑って殺してしまっても文句は言われない』とかそういう下衆いことを思ったに違いない。その証拠に、ウロはウェルシュと山田を集めてヒソヒソと作戦会議なんかしてやがる。
「ぐだぐだだけど一応話は纏まったみたいね」ほっと香雅里が胸を撫で下ろす。「ところで、敵の居場所の目星はついてるのかしら?」
「さあな」
香雅里に訊ねられた羽黒はなぜかはぐらかした。それとも『目星はついていない』という意味での『さあな』だろうか?
「ま、ついてくりゃわかるかもな」
不敵に笑い、羽黒は踵を返す。彼の仲間が事情を知らない理由について、なんとなくわかった気がする紘也だった。
「っと、その前に」
と、不意に羽黒は足を止めた。誰もが彼の行動に疑問符を浮かべる中、勿体振るような動作で腕を挙げ――――無造作に振り下ろした。
パリンッ!!
「――ッ!?」
イメージとしては、ガラスを思いっ切り地面に叩きつけて粉砕した音。
それからフッとなにかが消え去るような気配。
羽黒がなにをやったのか、紘也は『それ』を維持していた本人たちよりも早く気づく。
――〈結界破り〉……あいつ、個種結界を壊しやがった。
爆発物処理のごとく精密に解体していく紘也の〈結界破り〉に対し、今のは爆弾をぶった斬って敢えて起爆させた感じの強引な破り方だった。これが『龍殺しの魔術師』の力。ドラゴン族の結界がまるで紙っぺらだ。
個種結界を張っていた当のドラゴンたちは、信じがたい物を見る目で羽黒に視線を向けている。
「ウロボロスとウェルシュ・ドラゴンの二重結界か。なかなか珍しいもんを見せてもらったぜ」
言いながら、羽黒は軽薄な笑みをその顔面に貼りつけていた。そのどことなく嫌味な顔に、紘也は逆に冷めてしまった。
「ていうか、あんた」
「ん?」
「ウロボロスの結界だってわかってたんなら、せめて破損物が〝再生〟するまで待てよ。どうすんだよコレ」
言うと、羽黒は周りを――主にウロの攻撃でぶっ飛んだ家屋やらなにやらをぐるりと見回し、ふう、と一つ息を吐いて肩を竦めた。
「ずらかるぞ」
「最悪だこいつ!?」