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百無語  作者: 山大&夙多史
42/50

SIDE100-20 姉妹

 風もないのに灰が不自然に舞い、炎となる。

 その炎が人の形を形成していき、ついには美女の姿となった。

「……………………」

 未だ覚醒しきっていないのか疲労と衰弱によるものなのか、エメラルド色の瞳は焦点が合わずに泳いでいる。

「あー、フェニフ?」

 凄まじく気は進まないが、呼びかけてみる。

 普段なら絶対こんな状態の奴に声をかけるなんて危険なことしないんだけど……頼まれちゃったしなあ……。

「ごきげんよう?」

「……………………」

 肩をすくめ、お道化て挨拶してみるもフェニフは無反応――否。

 視線も定まらず、四肢も脱力している状態で、爆発するように魔力が跳ね上がった。

「うわっ!?」

 思わず大きく飛んで後退する。

 彼女を中心に魔力が渦巻き、そのまま巨大な火柱が巻き起こって天井を焙っていく。

「……ない……」

「え?」

 擦れた声が聞こえてくる。

 その元はもちろん、フェニフだ。

「死なせは……しない……!」

「何?」

「あの子を……死なせは……しない!!」

 火柱の中心に人影が立ち上がる。

 それと同時に、無数の炎の鏃が火柱から放出された。

「っぶな!?」

 飛来する炎矢を紙一重で躱す。それはいいが、火柱からさらに距離が開いてしまった。

「落ち着きなさいよ! ――抜刀、十本!」

 言霊を紡ぎ、火柱を取り囲むように太刀を具現化させる。それを中央のフェニフ目がけて遠隔から飛翔させた。

 が。

「ああああああああああ!!」

 フェニフが悲痛な声を上げると火柱の勢いが増し、全ての太刀がジュオッと音を立てて消し飛んだ。

「嘘でしょ!?」

 蒸発した太刀は魔力となり霧散し、あたしの中に戻ってきた。しかしかなり不安定な状態になっており、しばらく喚び出すことは出来なそうだ。

「って、危ないって、もー!」

 などと分析している場合じゃない。

 こうしている間にも炎矢は次々と襲い掛かってきているのだ。

「あーもー、しつこいわ!」

 走りながら矢を躱し続ける。背後から流れ弾の犠牲になった壁やら天井やら床やらがドッカンドッカン爆発しているが、それどころではない。

「何してんのよ」

 と。

 ゴッと音を立て、不意に目の前に巨大な氷の壁が出現した。次の瞬間には炎矢が氷壁に被弾したが、ミシリと軋みはしたが解けも砕けもせず、不動の様子で佇み続けた。

 氷……。

「どうすんのよ、あれ」

「かがりん?」

 背後から呆れた口調の声が聞こえた。

 振り返れば、氷剣を持った葛木が立っていた。

「見た感じ、手が付けられなくなってるじゃない」

「どうしたんだろうね、本当」

「あんた、どうせ余計な事言ったんじゃないの」

「失礼な。ごきげんようって挨拶しただけだし」

 もしそれが引き金であーなったんだとしても、あたしの責任ではない。

「それはそれとして、よく来たかがりん。あたしにいい考えがある」

「それ、上手くいかない伏線じゃないでしょうね」

「重ねて失礼な。あんたの氷見て思いついたアイディアなんだから、失敗したらあんたも同罪よ」

「理不尽ね……」

 溜息を吐きながらも、葛木は剣を構え直してあたしに向き直った。

「勝算はあるの?」

「まーね。これでも切った張った以外にもできることあるんだから」

「ふうん」

 そう、と葛木は小さく頷いた。

「あたしが先に突っ込むから、かがりんは後から援護よろしく。あとは状況に合わせてタイミング良く――」

 軽くあたしの作戦を伝えると、葛木は大きく「はあ……」と溜息を吐いた。

「それ、私の負担が大きくない?」

「鍵はあたしなんだから目ぇ瞑りなさいよ。それと、失敗したら二人仲良く丸焼きだからヨロシク」

「しかたないわね」

 グッと膝を曲げ、葛木も走り出す姿勢を整える。それを確認し、あたしも言霊を紡いで喚び起こす太刀を選別する。あたしの作戦を確かなものにするには、いつもみたいに無暗やたらと太刀を喚び出してたらやや不安な点がある。

「合図は?」

「三で出る。カウント頼んだわ」

 両手を床につき、クラウチングスタートの姿勢をとる。

「分かったわ。それじゃあ、一」

 呼吸を整える。

「二の」

「三!」

「フライング!? って、速っ!?」

 カウントに従うとは言っていない。

 というのは冗談で、葛木にはあたしの三歩後ろから的確に火の矢を叩き落してもらう必要があるからだ。

 なんせ全力疾走プラス普段使わない銘の太刀の召喚、掛けることの平行作業での術式の構成で、完全に無防備なんだから。

「――抜刀、【秋霜(シュウソウ)】」

 まずは起点となる一本目。

 この太刀を作ったご先祖様には悪いけど、地面に突き刺した後、柄の先まで床に埋まるまで思いっきり足で踏みつけた。

「――抜刀、【豺虎(サイコ)】」

 二本目を喚び出しながら再び走り出す。

 既にあたしらの突撃に合わせて、フェニフが幾本もの炎矢を射出してきている。その全てを無視して、あたしはひたすらに走り続ける。大丈夫、迫ってきた炎矢は――

「弾けなさい!」

 葛木が、全部相殺してくれる。

「――抜刀、【西燕(セイエン)】」

 二本目も同様に床に全部埋まるくらい突き刺し、三本目を喚び出して再び走り出す。目指すは一本目から見て対角線上の辺り。

「……! 瀧宮!」

 葛木が叫ぶ。

 次の瞬間、後頭部のすぐ後ろを何か高温の物が通って行ったような気配がした。

 危ないな!

「ちゃんと叩き落しなさいよ!」

「あんたが速すぎるのよ!」

 罵声を浴びせ合うも、お互い足は止めない。一瞬でも立ち止まったら、それこそ的にしてくれと言ってるようなものだ。あっという間に火達磨確定。

「――抜刀、【晩潮(バンチョウ)】」

 最後の一本を具現化させ、最後のダッシュに入る。

 ……と、視界の隅に何かが映った。

「げ!?」

 見れば、炎矢を放ち続けていた巨大な火柱が凝縮を始め、ゴゴゴと周囲の大気を不吉に震わせながら槍のような形に変化を始めていた。その穂先はもちろん、あたしに向いている。

「さ、流石にあんな巨大な炎は無理よ!?」

「無理じゃない! やれ! 根性出しなさいよ葛木次期当主でしょーが!」

「無茶苦茶ね本当に!!」

 最後の一本を床に突き刺し、走りながら構築してきた術式の仕上げを行う。

 しかしそうこうしている間にも炎の巨槍はどんどんその密度を上げ、今にもあたしら目がけて投擲されそうだった。

「間に合え!」

 葛木があたしと炎槍の間に分厚い氷壁を何重にも張った。しかしあまりにも膨大な熱量により、一番遠い氷壁は既に蒸発を始めていた。

 そして。


 ゴッ!


 炎槍がこちらに向かって投擲された。

 全てを震わせながら猛進する炎槍は、葛木が作った氷壁が一枚、また一枚と溶かし砕き、真っすぐにこちらに向かって来る。

「くっそ……!」

 術式はまだ安定してないけど発動させるか? でもそれだと炎槍は打ち消せても、問題のフェニフを封じるには至らない可能性が高い。

「瀧宮! 一旦退くわよ!」

 次々と氷壁が消滅していき、残すは目の前の一枚だけとなってしまった。

「でも!」

「いいから逃げる!」

 葛木に肩をグッと掴まれる。

 でもここで退いたら、あたしに任せてくれた兄貴に――


『とぉおおおおおっ!!』


 その時。

 目の前の氷壁にエメラルドグリーンに輝く魔方陣が浮かび上がった。そしてそこから突風が発生し、氷壁から溢れる冷気を増幅させながら炎槍を迎え撃った。

『風精霊が風魔法をバカにされたまま引き下がってるわけには行きません!』

 脳内に直接響く不思議な少女の声。

 そして魔方陣を支えるように、手の平に乗るほど小さい妖精が羽をパタパタと動かしながら浮遊していた。

「フィーちゃん!?」

 それは紛れもなく、真奈ちゃんと契約しているシルフだった。

 ていうか、いたの!?

『フィーだけゴミ焼却場の底に取り残されてたんです! 遅くなってごめんなさいです!』

「なんでそんなところに……」

 いや、そんなことより。

「ナイスタイミング!」

 あたしは中断していた術式の構築を再開する。

 フィーちゃんが時間を稼いでくれているとはいえ、急がなくては。

『ふっふっふ! マスターが近くにいるのでフィーも遠慮なくマックス本気で迎え撃っちゃいますよ!』

 言うと、フィーちゃんは人間にはとても真似できそうにない速度でルーンを唱え、いくつもの魔方陣を操りながら魔術を構築していく。

『いっきまっすよーっ! 〈彩雲斬り裂く春一番〉! 冷気上乗せバージョン!』

 瞬間、目の水分が凍ってしまうのではないかと思うほどの冷気を纏いながら、魔方陣から先程の比ではない暴風が吹き溢れた。一瞬ビビって術式構築の集中が切れたが、慌てて作業に戻る。

「す、すごい……」

 葛木が譫言のように呟く。

 その間にも吹雪は勢いを増し、炎槍そのものを凍りつかせる勢いで呑み込んでいった。

 バキバキと音を立てながら成長していく氷壁。


 パキンッ!


 そして、ついにはあれほど勢いのあった炎槍を完全に打ち消し、代わりに巨大な氷柱が一本完成した。この場にあった炎を全て打ち消され、火柱の中央にいたはずのフェニフは呆然と虚ろな目でこちらを見ている。

 今がチャンス!

「待たせたわね!」

 術式構成の最後の一手。

 あたしの中に渦巻くありったけの力を、太刀を通して方陣に流し込む。

秋霜(シュウソウ)

豺虎(サイコ)

西燕(セイエン)

晩潮(バンチョウ)

 今あたしが扱える太刀の中でも、特に金気の強い四本。

 五行においては金生水――つまり金は水を生む。

 その水は水剋火――火を打ち消す。


「――水陣《揚清激濁》!!」


 あたしの言霊に合わせて、四本の太刀を起点とした方陣が仄暗い黒い光を発する。

「……………………」

 纏っていた炎を全て失ったフェニフは、ただ茫然とそれを眺めていた。

 周囲の大気が揺れ動き、頭上に魔力が集約していく。

 そして。


 ドンッ!


 全てを押し潰すほどの水量の滝が発生する。魔力の尽きかけているフェニフはそれに抗う術なく、滝の中心で水圧に負けて膝をついた。

「葛木ィ!!」

 ドドドと爆音を発する滝に負けないよう声を張り、葛木に呼びかける。

 すると彼女は既に術式を完成させ、凄まじい冷気を発する氷剣を構えていた。

「これで、終わり!!」

『お手伝いします!』

 葛木が放った冷気がフィーちゃんの風魔法によって増幅され、巨大な滝を呑み込む。大気が軋む音を辺りに響かせながら、フェニフごとフロア全体が凍てついていった。

 まずは床一面が完全に凍結し、そこから成長する霜柱のように上へ上へと氷が伸びていく。

 その氷はフェニフの四肢まで伸びていき、あっという間に全身を覆いつくしていった。

「……………………」

 その光景を、当のフェニフはただただ無言で眺めているだけだった。

「はい、終了!」

 パンと弾ける音が響き、滝全体が完全に凍結した。

 その巨大な氷柱は砕くのにも相当な労力が必要になりそうなほど、堅牢な監獄となっている。

「これでフェニフもしばらく動けないでしょ」

「まだ動くだけの力が残っていても、もう私にはできることはないわよ……」

 フェニフのような殺しても殺しても何度でも〈復活〉するような化物はどう対処するか?

 兄貴のようなごり押し主義者なら「死ぬまで殺す」という戦法を取るだろうが(実際取ろうとしてたし)、あたしのような平凡な術者には到底無理だ。

 残された手段は一つしかない。

 生かさず殺さず、封印する。

「あー疲れた!」

「本当に……」

 二人してその場に座り込む。

 もう正真正銘すっからかんだ。今日はもう太刀一本喚び出せそうにない。

「でも正直、不安だったわ」

「何がよ?」

 葛木が巨大な氷柱を眺めながら呟く。

「いくらあなたと私の魔力が水気寄りで相性がいいからって、この水量を一気に凍らせられる自信はなかったもの。風精霊の援護のおかげでスムーズにいけたけど」

「ああ、それ。別にフィーちゃんの援護がなくてもちゃんと出来たとは思うわよ? ここまで早くは終わらなかったでしょうがね」

「え?」

「だって今回の術式、あんたの魔力をベースに構築したからね」

「はあ?」

 きょとんと惚けた表情を浮かべる葛木。

「瀧宮」が誇る対妖滅殺術の中でもトップクラスの破壊力を誇る《揚清激濁》だが、実はそれほど手順を踏むような物ではない。「瀧宮」の太刀は例外なく少なからぬ金気を帯びているし、テキトーにチョイスした太刀を四本起点として方陣を描いて言霊を添えればすぐに発動する。術の完成度を考慮に入れても、あたしなら五秒とかからない。

 では何故あんなに時間がかかったのか。

フェニフを完全に封じるため、フロアごと凍結することにしたのだが、その冷気を葛木に一任した。しかしそれだけではあの水量を凍らせることは難しいし、何より葛木が押し負ける可能性もあった。

 それを回避するため、《揚清激濁》が葛木にも馴染むように、彼女の魔力を混ぜて発動させたのだ。故に、いつもより手間をかけて術式を構築していく必要があった。

「え、ちょっと待ちなさいよ! あなたいつ私の魔力を」

「クスクスっ。言ったじゃない、()()()()は大切だって」

「え? ……あっ」

 ま、あたしも忘れかけてたから、本当にもうとっさの判断だったんだけど、上手くいってよかったわ。

「まあそれにしたって、やっぱりフィーちゃんの援護も大きかったけどね。改めてアリガトねー……って」

 いねえし。

 さっきまでその辺をフワフワと漂っていたと思ったのに、いつの間にか姿を消していた。

 ぐるりと辺りを見渡してみると、フロアの隅の方、何重にも魔方陣による結界が張られている所に彼女はいた。

「ってヤバ! フェニフに気を取られて忘れてた! 真奈ちゃん! ユーちゃん無事!?」

「鷺嶋さん!?」

 慌てて結界に駆け寄る。遠目だけど、その辺りだけ不自然に床や壁の損害が皆無だし、大丈夫だとは思うけど……!

「真奈ちゃん、無事?」

 結界の外から声をかける。

「あ……梓ちゃん?」

 中から返事が聞こえてきた。

 思ったよりも平気そうだ。黄金化した二人の解除とこれほどの結界の維持に加え、フィーちゃんにも魔力の分譲をしていたはずだけど。

「わたしたちは……大丈夫だよ」

「そ。それは良かった」

 よく考えたら、()の真奈ちゃんは魔力無限状態みたいなもんだったわ。心配するだけ……。

「あれ?」

 魔方陣の奥に目を凝らす。

 幾重もの魔方陣が邪魔で中の様子はよく見えないが、人影が二つ辛うじて見えた。

「真奈ちゃん、ユーちゃんは?」

 真奈ちゃんの傍らにある黄金の像は、少女の姿をしていた。二つ並んでいたはずの慣れ親しんだ姿の方は、どこにもない。

「え、あれ……!?」

 彼女も今気付いたようで、慌てて周囲を見渡した。

「ゆ、ユッくんはさっき黄金化が解けて……それで、気を失ってたみたいだからそこに寝かせておいたのに……!?」

「目覚めてどこかに行ったってこと……?」

 葛木が思案顔で首を傾げる。

 ……ま、頑丈さにおいては兄貴の次くらいにヤバいあのユーちゃんだし、別に驚かないけど。

「ビャクちゃんたちを追ったと見て間違いないわね」

 覚醒してすぐ本調子が出るかは謎だけど、まあこれで大将首の方は憂いなく片付くでしょ。

「……彼のこと、心配しないのね」

「あたしが心配するほど、ユーちゃんは弱くないわよ」

 心配するだけ無駄ってもん


 ピシッ


 背後から、何かが割れる音がした。

「え」

 思わず息を呑み、恐る恐る振り返った。

 そこには変わらず、フェニフを中央に封じている巨大な氷柱がある――のだが。

「ヒビが……!」

 葛木が身構え、剣を構え直す。しかしその腕には力が入り切っていない。

「まだ動くっていうの!?」

「……………………」

 あたしは無言でヒビが広がりつつある氷柱を眺める。

 この氷柱崩壊の前触れは、間違いなくフェニフによるものだろう。

 だけど……。

「もうほとんど、最期の足掻きみたいなものね……」

 氷の中の人影からは全くと言っていいほど魔力を感じない。無理に氷柱を粉砕すれば、恐らく彼女の命の方が先に尽きてしまうだろう。それほどまでに、彼女は消耗しきっている。

「ライナ・リオ・フォレストルージュ……」

 それほど、妹が……レイナが大切なのか。

 自分の身が亡ぼうとも、護りたいのか。

「……甘えんなよ」

 そんなこと、妹が望むとでも思ってんのか。

「瀧宮……?」

「かがりん、ちょっと離れてて」

 あたしは氷柱に近寄る。

 このまま彼女が死んで、妹が一人残される。

 それは――

()()()()()()()()()()()()

 あんたら一番上の連中は、いつもそうだ!

「ふざけんなよ!」

 あたしは拳を握り締め、氷柱に向かって思いっきり突き出した。

 手に力が入りきらず、拳が歪な形だったために手の骨が軋み、鈍痛が奔る。しかし既に内側から破砕されかけていた氷柱は、それだけでヒビが全体に広がり、パンっとあっけなく砕け散った。

「瀧宮!?」

 砕け散った氷の破片が辺りに降り注ぐ。

 その中心で、フェニフーー否、ライナは呆れたことに何とかギリギリ立ち上がっていた。

「……レイ……ナ……」

「ライナ……」

 歩み寄り、今にも膝から崩れそうな彼女を抱きとめた。

 氷漬けにされていたのに、フェニックスが混じっている故か、彼女の体温はとても高かった。

「……お疲れさま」

「レイナ……レイナは……」

「……あんたの勝ち」

「……え……」

「レイナは助かった」

 嘘ではない。

 もう戦局は、どう転ぼうとあたしらの勝利だ。

 もちろん、レイナも助かる。

 ユーちゃんが追ったのだから間違いない。

「あんたは、もう戦わなくていいのよ」

「……もう……いいの……?」

「うん」

「戦わなくても……」

「うん」

「苦しまなくても……」

「うん」

「あの子と……レイナと一緒に……」

「うん……今まで、頑張ったね」

「うっ……うぅ……!」

 耳元から嗚咽が聞こえてきた。

 これでようやく、ライナも解放される。

 彼女の長い戦いが、ようやく――


「そこまでですよ! フェニフ!! 愛沙ちゃんをあんな目に遭わせた責任はきっちりとってもらいますからね!!」


 ……空気を読めない声が、天井に開いた大穴から降ってきた。


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