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百無語  作者: 山大&夙多史
16/50

SIDE100-07 分断

「ビャクちゃぁあああああああああああああああああああああんっ!? どこにいるんだああああああああああああああああああああっ!? ビャクちゃぁあああああああああああああああああああああんっ!! うわああああああああああああああああああああっ!!」


 ――ズガガガガガガガガガガッ!!


「邪魔なんだよテメエらああああああああああっ!! 僕のビャクちゃんが一人泣いてるかもしれねえんだ! 失せろカス共がああああああああああああああああああああっ!!」


 ――ズドドドドドドドドドドッ!!


「……ウェルシュの出番がありません……」

「ビャクちゃああああああああああああああああああああああああああああああんっ!!」


 ――チュドーンッ!!


「……マスター、ご無事でしょうか。早く合流したいですけど、こんなに錯乱した穂波様を放置するのはさすがに気が退けます……」



        C



「まずはビャクちゃんを探すわよ葛木! 四体目!」

「何であなたに指図されなきゃいけないのよ瀧宮!」

「あたしらの面子で一番弱いのがビャクちゃんだからよ! で、さっきから響いてる銃声の方に進めばビャクちゃんも見つかるはず! さっき説明したでしょ聞いてなかったの!?」

「それはあなたたちの都合でしょう!? 戦力外で言ったら秋幡紘也も同じくらいよ! ウロボロスもウェルシュ・ドラゴンもどこにいるか分からない今、彼は一般人と同程度よ! 三体目!」

「例え紘也さんが一人でいたとしても戦えないのにウロウロするほど馬鹿じゃないでしょ! それに紘也さんと契約してるウロボロスとウェルシュがすぐ保護するでしょ! 五体目!」

「あの二体がすぐに彼と合流できない位置にいたらどうするのよ!? 四体目!」

「アンタね、さっきからそればっかりじゃない! 論破されるのが悔しいからって屁理屈こねるのやめてくんない!? それともなに? 紘也さんのこと好きなの?」

「ち、違うわよ馬鹿!? あなたの脳筋で考えてる推測とも呼べないような穴だらけの推測に指摘してるだけでしょう!? そっちこそ、文句があるならもっとしっかりと筋を通して論じることね! 五体目!」

「何が穴だらけよ! そもそも異論があるならあたしと同じ方向に走るんじゃないわよ! 六、七、八体目!」

「私はただ銃声のする方に向かって走ってるだけよ! 六体目!」

「結局あたしと同じ理屈じゃないのよ!! ていうかユーちゃんも一応八百刀流なんですけどお!? そこんトコロどうなのよ!?」

「違うわよ! もう全く違う、根本からして違う理屈よ! 七体目!」

「へえ、そう! じゃあその理屈説明してみなさいよ! 九体目!」

「はたしてあなたの弱いお頭に理解できるかしらね! でも私は優しいからきちんと分かりやすく教えてあげるわ! 『瀧宮よりかは穂波の方が髪の毛一本分くらいはマシ』だからよ!」

「よし買った、その喧嘩高く買ってあげるわよ! 株価大暴落する勢いで買ってやるわよ!」

「株価とか小難しそうなこと言って頭いいんですアピールやめた方が良いわよ!? 余計に頭の悪さが露呈するから! 八、九体目!」

「アンタ本当にぶっ殺す! つーか、キメラ討伐数一体ちょろまかしてんじゃないわよ!」

「私のカウントは正確よ! あなたの位置からだと死角で見えなかっただけじゃないの!? そっちこそ、さっきから小さすぎてもはや何と何の合成幻獣なのか分からないのまでカウントして、せこいと思わないわけ!?」

「どんなに小さくてもキメラはキメラだ! そっちこそ舐めるな甘ちゃん!」

「何ですって!?」

「やるかゴラァッ!!」


 ――ぐるるるっ!


「邪魔すんなっ!!」

「邪魔よっ!!」


 ――ザッシュッ!


「「十体目っ!!」」



        C



「やっぱ最初に白狐の嬢ちゃんを探した方が良いだろうな」

「ええい! さっきからちょこまかと!」

「一人別の場所に転送されたと仮定して、まあただやられはしないだろうが、一番脆いのは確実だしな」

「大人しく消し炭になりなさい!!」

「少なくとも、俺が敵なら間違いなく白狐の嬢ちゃんから狙うだろうな」

「あんた最悪ですね! だから今のうちにビュビュヒョボワっとかっ消してあげます!」

「それにさっきから微かに聞こえる銃声から考えると、白狐の嬢ちゃんとユウは同じ場所に転送されなかったらしい」

「あたしと紘也くんも別の場所ですよコンチキショー!!」

「連中は幻獣を捕まえたがっていたし、何よりあいつは土地神の血縁という貴重過ぎるサンプルだ」

「なのに雑魚ってどういうことですか!? なんで連れてきちゃったんですか!?」

「しかし白狐の嬢ちゃんに手を出したら土地神が、いや、その前にユウの奴が黙っちゃいないことは分かっているはずだ」

「あー、なるほど、そういうブースター的な意味ですか」

「分かっているはず、っつーか、俺がユウをブチ切れさせたところは少なくとも実際に見ているはずだしな」

「アレは酷かったですね。だからとりあえずあんたは死ねばいいと思うのです!」

「いや、連中は、少なくともあの薄気味悪い兄ちゃんは、あの女狐も恐れちゃいないようだった」

「あんたが薄気味悪いとか言いますか! 全身真っ黒でどこの中二病患者ですかってくらい胡散臭いあんたが!」

「それならやはり、白狐の嬢ちゃんを最初に救出しに行くのが常識的だろうな」

「いいえ最初にあんたが向かう場所はあの世ですから! あの白狐も紘也くんもついでに他のみんなも全員あたしが助けますからご心配なく!」

「もみじなら孤立しても切り抜けられるだろうし、我が愚妹も問題ないだろう」

「あ、腐れ火竜だけは放っておきますけど!」

「あと白狐の嬢ちゃん以外に心配すべきことと言えば、嬢ちゃんと秋幡の小僧か」

「あーもう! 殴る蹴るばかりじゃ流石に追い詰められませんね! 仕方ないのでちょっと奥の手を見せて上げますよ!」

「一番の理想は、この二人が同じ場所に転送されていることなんだがな」

「くらえ、飛剣・ウロボロカリバー!!」

「クソみてえな名前だな」

「何ですと!?」



        C



「ビャクちゃん他七名、補足しました……」

 足元に浮かび上がる魔法陣に魔力を込めつつ、わたしは紘也さんに声をかけた。

 実戦で使うのは初めてだけど、習っておいてよかった、超広域索敵の魔法陣。扱いが難しいうえに消費魔力もシャレにならないから、フィーちゃんにフォローしてもらったけど、五秒しか発動できなかった。

 魔法陣を通して送り込まれてきたイメージでは、二つで一セットの光が三つ、単独の光が二つ、立体的な配置となって脳裏に浮かんできた。

「すげえな、その魔法陣……風霊ベースの広域探査術式ってところか。この規模だと並の魔術師一人じゃ到底発動とか無茶なんだが」

 魔法陣に注いでいた魔力を断ち切り、紘也さんに向き直る。

 淡い光を放っていた魔法陣はしだいに色褪せていった。

「でも、わたしはまだまだです……発動できたのは、五秒だけですし……」

「そうなのか?」

「……はい。それにわたしでは何となく、対象がどの辺りにいる気がする、程度にしか分かりません。対象が複数だと個人判別はできませんし……そこまでの道のりに至っては全くです」

「結構アバウトなんだな……色々と制約があるのか?」

「いえ、単純な力不足です。藤村先生……わたしに魔法を教えてくれている先生なら、正確に誰がどこにいて、その地点までの最短ルートまで割り出せます」

「とはいえ、ここは敵地で意図的に俺たちは分散させられたんだ。こういう探知系の魔術を妨害するなにかを敵が行っていないわけがない。そんな環境で五秒も探知できたんだから、やっぱすげえよ」

「……そ、そうでしょうか」

 少し照れながらも、わたしは指先に魔力を込め、空中にさっき見た光の位置を描いていく。藤村先生も魔法陣を描く時、こうやって魔力で図示することが多いけど、これってなかなか便利だよね。

 さっき演習林の山頂で見えた〈太陽の翼〉の大よその輪郭を描き、そこに魔力を色分けして光の点を打っていく。

「これがだいたいの配置です。わたしたちは……ここ」

 分かりやすく、わたしたちがいる地点の二つの光を強めに点滅させる。

「こうやってみると、本当にバラバラに転送されちまったな」

「そうですね……」

 下から見ただけだから正確には言えないけど、この空中要塞、月波学園の敷地面積くらいのスケールはあった気がする。しかもそれが縦に何階層にも伸びていると言ったところか。

 今わたしたちがいる庭園が、下層部の外郭から突き出たところだとすれば、北側の上層外郭に二人、上層中央部付近に一人、中層中央部付近に二人、東側の下層外郭に二人、南側の下層内部に一人、という感じか。

 空中要塞の規模を考えると、本当にてんでバラバラだなあ……一回フィーちゃんに遠くから全体像を見てきてもらった方が良いかな。あ、ダメか。ここには外からは入れないんだっけ……実体化を解けばいけないこともないかもしれないけど……。

「それにしても」

 と、紘也さんが呟く。

「大体どこにいるかが分かっても、誰かが分からないのは不便だな。ウロとウェルシュなら契約のリンクでだいたいの方角はわかるけど……合流するなら、この単独で飛ばされちまった奴の所に行くべきか? いや、俺らの戦力じゃ下手に動かない方がいいし、複数人の方に合流した方がいいかもしれない」

「あ、どこに誰が飛ばされたのかなら、予想できますよ……?」

「は?」

 素っ頓狂な声。

「え? さっき個人判別はできないって言ったばかりだろう」

「はい。……ですから、識別はできなくても、想像ならできます」

 宙に浮く簡易見取り図に記された光の点を、順にタッチしていく。

「一番上の二つのうち片方は、一方的に相手を攻撃しているような気配がしました。もう片方はそれを飄々と避け続けている感じで……内側の一人はゆっくりと移動中という感じでした。中央の二人はお互い競い合うように走っていて、下の二人は、片方がものすごい勢いで暴れていて、片方がそれをフォローする感じ。そして最後の一人は、酷く怯えながら恐る恐る進んでいる感じ……です」

「……………………」

「そうなると、この仲間を攻撃しているのは、羽黒さんに天敵意識を持っているウロボロスさん。えっと……ウェルシュさんということも考えられますけど一番言動が過激だったウロボロスさんと仮定しておきましょう」

「それは間違いなさそうだな。ウロのリンクはそっちのに繋がってるから」

 北部上層外郭の二人のうち一人には黒の光を上乗せする。

「それで、二人競い合っているのは梓ちゃんと香雅里さん……大方、どちらが多くキメラを倒せるかを競ってるんじゃないかと……」

中層中央部付近の二人には亜麻色と藍色の光を。

「一人で怯えているのは……間違いなく、ビャクちゃん」

南部下層内部の一人には白い光を。

「下層で暴れているのは、ビャクちゃんを見失ったユッくんで……それをフォローしているのは、もみじさんかウェルシュさんですが……ド派手に暴れているユッくんをフォローできるのは、遠距離攻撃ができるウェルシュさん……が正解かと」

 東部下層外郭の二人には橙色と赤色の、北部上層外郭のもう一人には、改めて黄色の光を。

「そして最後の一人は、消去法でいって……もみじさん」

 上層中央の光を銀色で染める。

「上から順に……黒と黄色が羽黒さんとウロボロスさん。銀色がもみじさん。亜麻色と藍色が梓ちゃんと香雅里さん。オレンジと赤がユッくんとウェルシュさん。それで、最後の白が……ビャクちゃんです。一応、わたしの中のイメージカラーで染めてみたんですが……どうですか?」



挿絵(By みてみん)



「……………………」

 気付けば、紘也さんがポカンと口を開けてわたしを見ていた。

 えっと……どうしたんだろう? 少し喋りすぎちゃったかな……?

「いや……なんつーか……ウロと言いウェルシュと言い、こっちに来てからは瀧宮羽黒もそうだけど、チートクラスの奴らばっかり見てきたが……あんたも大概だな。瀧宮羽黒が連れてきた理由が改めてわかった」

「えぇっ……!?」

 わ、わたしが羽黒さんと同列!?

「し、心外です……!」

「心外!?」

「あ、いえ、言い間違いです……! 滅相もない、です!」

「語呂どころか文字数からして違わないか?」

「うぅ……」

 いえ、羽黒さんは何だかんだでいい人だよ? いい人なんだけど……ちょっと無茶苦茶だから……。

「それにさっき、魔法陣が発動してたのは五秒だけだったんだろ? よくあんな短時間で入手した情報で、あれだけの推測ができるよ」

「あ……その、それにはちょっとワケがありまして……」

 ワケ。

 わたしが短時間で膨大な情報量を入手できるカラクリ。

「わたし、一度見聞きし、感じたものは忘れないんです……」

 視界の隅に入った物なら、画面をキャプションするように。

 耳に入ってきた微かな音も、CDに録音するように。

 一度考えた内容も、レポートを書くように。

 全てを記録し、記憶するように。

「それが、わたしの能力なんです」

 この力を、正しく使えるように。

 もう二度と、誤った使い方をしないように。

 わたしは今まで、そしてこれからも、魔術の勉強を続ける。

「……つまり、絶対記憶能力?」

 紘也さんがじっとわたしを見つめる。

 何となく見つめ返していたら、不意に、こう口にした。

「それをチートと言うんだ!」

「ち、チートって言わないでください……!」

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