SAVE2 私の彼氏はゲーマーさん♪
羅那君がゲーマーだということに気づくのに、そう時間はかからなかった。
だって、私が手紙を渡す前にも、地下鉄でよく携帯ゲームをやっていたんだもの。
流石にどんなゲームをしていたのかは分からなかったけれど、画面を見て一喜一憂している姿を見ていたら、ああ、ゲーマーなんだなって、感じられるものよね。
だから、最初のデートのとき、映画を見た後でゲームセンターに立ち寄ったの。
私、ゲーセンのゲームするの好きだし、ゲーマーが二人もいるんだから、そこに寄るのも必然というものでしょう?
それにね、気づいたと思うけど、羅那君だけじゃないの。
実は私もちょっとしたゲーマーなんだ。
でも、やるのはもっぱら、メジャーなRPGと乙女ゲーと呼ばれる、恋する乙女のラブゲームっていうんですか? そうそう、いろんな男の子に告白されたり告白したりするゲームが好きなの!
あ、羅那君のことはゲームじゃないからね!
ここ重要!!
手紙を出すことにしたときでさえ、何度も戸惑ったし、悩んだし、友達にも相談に乗ってもらったりしたんだからね!
おっと、脱線脱線。
まあ、そういうわけで、二人でゲームセンターに入ったの。
賑やかなゲーム音が響き渡り、たくさんの筐体が並ぶ店内を掻き分けるかのように中に入って、プレイするゲームを物色。そして、目当てのゲームにたどり着いた。
「うわーん、やっぱり強いよう……」
私の好きな格闘ゲーム。正確にはゲームに出てくるキャラ(私の操作してたのは、女の子剣士さん。めっちゃクールで、でも可愛いの!)が好きなんだけど……ほら、私の得意分野はRPGとか乙女ゲーだから、こういう反射神経重視のは、ちょっと苦手だ。
しかも、こういうゲーセンのゲームって、難易度が調整できないから余計に難しくなってる。
「じゃあ、僕がやってみるよ」
ゲームオーバーになってる画面からコンティニューを選んで、コインを入れた羅那君は、私の代わりにその席に座った。
「……ふえ?」
思わず声が出てしまう。
確かに私よりも強い……と思う。
けれど、次々出てくるキャラを自分も相手も体力メーターがギリギリ0になる寸前で倒すのはどうなんだろ?
まあ、乱入してくる人達をそんな調子で倒していくから、挑戦者が後を絶たないのも事実。
もう一つ言わせて貰うと、ゲームセンターの人、大もうけみたいな?
でもまあ、そんな戦いが長く続くわけもなく。
「あ、やられた」
てへっと笑う羅那君。ああ、こういう笑顔もいいかも……じゃなかった。
「でも、たくさんプレイできたね」
「クリアはできなかったけどね」
羅那君は立ち上がり、後ろの人に席を譲る。
「ところで、羅那君、このゲームやってたんだね」
「うん、いつもはあの双剣使いのレイヤーを使ってるんだけどね」
「ええ?」
確かレイヤーは、金髪碧眼のイケメン君でちょっぴりテクニカルな操作が必要だったような……。
だから、あんな戦いになったのかな? レイヤー使ったら、羅那君、どう戦うんだろう?
「ねえねえ、今度はレイヤーで戦ってみてよ!」
丁度、席が空いたのを見計らって、私は羅那君をその席に座らせた。
「レイヤーで? でも……」
「いいからいいから!」
私は、レイヤーをプレイする羅那君見たさに、勝手にコインを入れて、レイヤーを選択した。
「サナがそういうのなら……」
最初はしぶっていた羅那君だったけど。
「いくよ、レイヤー」
最終的には……鋭い視線でさっきのとは比べ物にならないくらいのスピードで。
カタカタカタカタ!!
技を流れるように決めると、最後に大技で仕留める。
それはもう、息をするかのように自然な動きで、しかも隙がない!
もう、瞬・殺☆
ちなみに乱入者さんもことごとく瞬殺してくんで、途中で対戦する人はいなくなりました。
そんなペースだから、まあ当然といえば当然かもだけど、とうとう、クリアしてしまったのでした。
「まあ、こんな感じかな?」
「お、お見事!!」
思わず私、拍手しちゃいました。す、凄い……。
でも、これだけじゃなかったの。
レースゲームも1位だったし、銃を構えて敵を倒すゲームも生まれて初めてクリアしちゃったし。
しまいには……。
「うー、取れないーっ!!」
私がなかなか欲しいぬいぐるみを取れないのを見ていた羅那君が。
「そんなに欲しいなら」
わ、私のすぐ後ろに立って……!?
「僕が取ってあげるよ」
耳元で囁くようにそういうの反則……っ!! 余計にドキドキしちゃうんですがっ!!
しかもそのまま、私の後ろから正確にクレーンを動かして。
っていうか、すごく恥ずかしい格好なんですけど!!
そうじゃないのに、後ろから抱きしめられてる感じっ……。
もう、私のハートは爆発寸前!
顔も真っ赤ですよっ!?
そんなこんなしてる間に、ぬいぐるみはすとんと穴に落っこちていた。
「ほら、取れたよ?」
「あああああ、ありがとうっ!!」
急いでぬいぐるみを取って逃げるようにその場を後にしてしまった。
あ、羅那君は私の後をしっかり付いてきてくれてました。はい。
そんな羅那君が、初めて家に来たときは、なかなかクリアできなかったゾンビの出てくるサバイバルゲームを二人でクリアしたの。
「すごいすごいっ!! あの敵、EASYモードでもなっかなか強くて倒せなかったんだよね!」
「そうなの? 言われてみれば、ちょっと倒すのに骨が折れる敵だったかも」
概ね、羅那君が倒してたけどね。
でも……嬉しいこともあるけれど、ひとつ気になってたことがあった。
「ねえ、羅那君」
「うん? なあに?」
クセのある黒髪はつやつやで、大きな黒縁眼鏡の奥から見つめる、蒼い瞳が私を捉えて離さない。
「どうして、会える時間が短いの?」
そう、問題はそこなのよ!!
今日だって、やっとこさできたデートの日だってのに、ついゲームをしちゃった。
いや、私も好きなんだけどね。
ああん、そんなことよりも、本題本題!!
羅那君に事の真相をバッチリ聞かせてもらわなくっちゃ!
どうして、会えなくなってるのか、その『原因』を!!
「最近、メールも遅いし」
「ごめん」
嫌な考えだけど……。
「もしかして、新しい恋人とか、できた……とか?」
「そんなことあるわけないじゃないかっ!!」
凄い顔で怒る羅那君に、私もびっくり。
「じゃ、じゃあ……どうして反応遅いの?」
出会ったときは、こんなに遅くなかった。遅くても、数分後には必ず返信してくれてたのだ。
でも、今じゃあ翌日返信が当たり前になってる。
「えっと、その……凄く言い辛いんだけど」
「やっぱり、新しい恋人が!!」
「だから、違うって!!」
がっちり否定して出た言葉が、コレ。
「無理やりゲームやらされてるんだよ!!」
無理、やり?
「ほら、VRゲームって知ってる?」
「ああ、最近話題になってるやつだよね? 人の五感をリアルに体験できるバーチャルワールドでゲームするってやつだよね?」
どちらかというと、今はサバイバルしたり、レースや麻雀とかの方が多いって聞いてる。徐々にいろんなゲームがバーチャル対応になってきたって言われているけど、五感をリアルに体感できるのは、まだ数えるくらいしかない。ましてや、私の好きなRPGとかは、まだ対応していないんだよね。
「それでさ、ライジング・サーガって知ってる?」
「ライジング・サーガ?」
そういえば、どっかで聞いたような……。
「もうすぐ本起動するVRMMORPGだよ。かなりニュースとか雑誌とかに取り上げられてるから、知ってるかと思ってたんだけど……」
「ああ、あれかーっ!!」
すみません、RPG好きだけど、他の人の足を引っ張りたくないのと、トラブルとかあるって聞いてたので、MMO全般、避けてました。確か、あのゲームって、有名なデザイナーさんが武器や防具のデザインをしているってことで、注目されていたような……。
「最初はいやいややってたんだけど……まあ、実際にやってみたら、ちょっと面白くってその……」
「夢中になっちゃったと」
「面目ない」
しゅるしゅると小さくなっていく羅那君。
まあ、原因はわかりました。
なら、やることは一つでしょう。
「そういうことなら、私もそれ、やるっ!!」
「ええっ!?」
あれ? そこ、そんなに驚くところ?
「あのゲーム、機体とかソフトとかで20万するんだけど……」
「わーお、流石、VRだね。でもまあ、それくらいするだろうなって思ってたけど」
ふむふむと考える。
「バイトで稼ぎますか」
「どんなバイトするの!? ヤバイバイトなら、やらせないからねっ!!」
なんだか、羅那君、お父さんみたい。
「大丈夫、今、ちょっとしたバイトやってるんだ。ほら、これ!」
そういって、私が見せたのは、とあるファーストフード店の制服だった。
「でも、20万稼ぐの大変だよ? 何なら……」
「ノープロブレム!! やるといったら、私はやるよっ!!」
そう、誰がなんと言おうとやってみせるっ!!
その結果。
結局、20万に届きませんでしたが、私のお兄ちゃん(二人います)がプレイしたいと言ったので、割り勘ということで、何とかゲットすることができました。
持つべきものは友……じゃなくって、家族だよね!!
まあ、その分、複数アカウント分の費用もかかって、20万超えちゃったんだけど、それはそれ。
とにかく、これで羅那君のプレイしてるゲームができるんだから!!
羅那君と一緒にゲームができる!!
しかも、それはRPGで、VRなんだから、わくわくしない方が可笑しいでしょ?
というわけで、羅那君と連絡を取った私は、いよいよ、ログインの日を迎えるのでした。
うーん、どんなゲームなんだろ? どきどきしちゃうよっ!!