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望まぬ再会

 緊迫の研究室。

その場にいる誰一人として動けずにいるが、みんなの視線はジーベルとロス、そして突然現れた少女エアリーに注がれており、ジーベルとロスは自分達の側に立つ、幼い少女を見つめた。

渦中の少女エアリーは、瞳を爛々と輝かせながら研究室に存在する人間以外の、あらゆる物に目を奪われていた。


「ジ、ジ、ジーベル。こ、この子一体どうやってこの部屋に?さっきまでいなかったはずなのに・・・・・君が連れて来たのかい?ま、まさか君の子ども?!」

 

 瞬間、ロスを睨みつけるジーベル。

その目には強い嫌悪しかなかった。

ロスは失言に気づき俯いた。

ジーベルが子ども嫌いというのを、睨まれるまで忘れていたのだ。

ジーベルは視線を少女エアリーに戻した。

子どもは視界に入れるのも嫌いだが、今は目の前にいる少女がどうやってこの部屋に侵入したのかという疑問が、心の中で勝っていた。


「お嬢さん。君はどうやってこの部屋に侵入したんだい?ここは限られた者しか入る事ができない造りになっている。そんな部屋に君みたいな小さな女の子が侵入できるとは・・・・・・私としては不思議でしょうがないのだが・・・・・・」


(・・・冷静を装っているようだけれど、かなり動揺しているわね)


落ち着き払ったジーベルの声に思わず笑みを漏らす少女エアリー。

どうやって部屋に侵入したか・・・理由は簡単、魔法で自分の姿を透明にしてジーベルの後ろにずっとついていたから。

ジーベルに真面目に答える気はないが、とりあえず笑顔で答えた。


「ジーベルさん、この世界に絶対はないわ。少なくとも私はそう信じている。だからこの部屋にも入れた。子どもの姿をしているからってなめてもらっては困るわ」


ジーベルの拳が強く握られていくのを、ロスは固唾をのみながら見守っていた。


「そんなことよりもジーベルさん。お返事を頂きたいのですけれど・・・」


「・・・・・・・・私が何を研究しているのか、知っているのか?」


少女エアリーの笑みは消えない。


「勿論。不老不死の研究でしょう!」


瞬間。部屋の片隅で黒い影が動いた。

よく見るとそれは影ではなく、全身を黒マントに身を包んだ人間で、フードの所為で口元しか見ることはできないが、恐らく男だ。

マントの男は、電光石火の如く少女エアリー目掛けて走り、腰に携えていた剣を手にすると、躊躇することなく振り下ろした。


 ガキーーーンッ!!


「!!!」


研究室にいる誰もが少女エアリーの死を確信していた。

しかし、剣は少女エアリーを切り裂いてはいなかった。

彼女の頭上近くで止まっている。否、止められていると言った方が正しい。

マントの男は二・三m後ろに退くと、再び襲ってはこなかった。


「まさか・・・これは・・・・・魔法か!?」


一部始終を見ていたジーベルは初めて目にする魔法に驚き、目を見開いてしまっている。

それは隣で見ていたロスも同様で、彼は口も開いてしまっている。


「正解。私は自分の周囲には常に防御魔法をかけているの。だからどんな攻撃も私の前では皆無よ」


呆然と立つ二人の男には目も向けず、目の前に立つマントの男に向かって諭すように話す少女エアリー。

しかし突然、マントの男が大きな笑い声をあげた。

容姿は分からないが、彼が三ヶ月前にジーベルに雇われた暗殺者だということは、研究室の者なら誰もが知っている。

そんな彼が声をあげて笑うのを、みんな初めて目にした。一同の視線は少女エアリーからマントの男へと移された。

 

「イアン!さっさとこのガキを殺せ!その為に高い金を出して貴様を雇ってやったのだ!!」


声を荒げ叫ぶジーベル。

今までの彼とはうって変わって冷静さを失くし取り乱してしまっている。

すると突然、ジーベルの足が床を離れ、体が宙へと浮き始めた。


「な、なんだこれは!?体が勝手に・・・・・・・!」


空中で足をバタつかせ困惑しながらも、ジーベルはこの状況は魔法の所為だと冷静に判断し、自分を摩訶不思議な物でも見るかのような少女エアリーに向かって怒声を浴びせた。


「クソガキ・・・貴様の仕業だな!!魔法等とは小癪(こしゃく)なモノを使いおって・・・さっさと私を下ろせ!!直ぐに殺してやる!!」


しかし、少女エアリーはこの状況に衝撃を受けていた。

なぜなら、自分はジーベルに魔法を使ってはいないし、同時に、自分と同じ高位の魔法使いがまだ存在していることに、少なからず驚いていた。

少女エアリーはすぐさま周囲を見渡した。

魔法で魔力の流れを消していない限り、高位の魔法使いである自分であれば魔力を辿りこの状況をつくりだしている犯人を、容易に見つけることができる。

犯人はすぐに見つかった。

それは・・・・・・・・・・・・・・。


「ぐっ、あ、あっ・・・あ・・・がっ!」


ジーベルが呻き声を上げだした。

彼の首元をよく見てみると、誰も触っていないのに指痕のようなものが深く食い込まれていく。

間違いなく魔法で首を絞められているのだ。


「ジ、ジ、ジーベル!ど、どうしたんだい?しっかり、しっかりするんだ!」


「ジーベル様!」


「ジーベル様・・・お気をしっかり!」


慌てふためくロスや研究所の者達。

それを冷淡な気持ちで見つめる少女エアリー。


(本当は心配なんかしていないくせに・・・・)


こんな残酷なことを口にしても考えてもいけないとは分かってはいたが、今まで培ってきた感情の正直な気持ちだった。

頭を切り替える為、首を左右に振り、宙に浮かぶジーベルへと目を向けたまま、口元がうっすらと弧を描いている男イアンに告げた。


「もう止めてあげたら?貰える(もの)も、貰えなくなるわよ」


魔法使いの性格は、基本的にプライドが高い。

また、魔力は努力して身につくモノではなく、生まれながらにして備わっているモノなので、魔法使い達は魔法を使えることに誇りを持っている。

それ故群れることなく、誰もまだ編み出しだことのない魔法を生み出す為に日々勉学に勤しみ、習得していった。

恐らくこのイアンと呼ばれる魔法使いも、“俺がジーベルを選んでやった”と認識しているに違いない。

だからジーベルの言葉に怒りを覚え、制裁を降しているのだ。

少女エアリーの横顔を見つめ、イアンの口元は更に深く弧を描いた。

すると、宙に浮いていたジーベルの体が床へと落下し、ロス達はジーベルの元に駆け寄った。

ジーベルはうつ伏せの状態で必死に呼吸を整えようとしていた。

首には絞められた痕が赤く残っているが、取り敢えず命に別状はなさそうだ。

ジーベルの災難に同情する余地もなく、彼への魔法が解けたのを確認すると、少女エアリーはイアンに目を向けた。

途端、背筋に冷たいものが電流のように流れ、思わず後退りしてしまった。

こちらからはイアンの双眸がフードで見ることができないはずなのに、何故か彼が自分を凝視していると分かったからだ。それも口元に弧を描いたまま・・・・・・。

少女エアリーは不快感を露わにした。

イアンはマントを靡かせ、悶え苦しんでいるジーベルの元へと歩みを進めた。イアンの行動を警戒しながら目で追う少女エアリー。科学者達が脅え震えながらイアンの為に道を開けると、彼はジーベルの一・二歩手前で足を止めた。

そして、思いきりジーベルの頭を蹴り飛ばした。


ガンッッ!!


ジーベルの体は吹き飛び、後ろの書類棚に激突した。

そしてそのまま床へと倒れこんでしまい、彼の目に意識はなかった。

ロスは何とかジーベルに目を向けることはできたが、今度はすぐに駆け寄ることはできなかった。

今まで自分達が研究の為に犯してきたことは棚に上げて、ロスはイアンの行動に身体が震え上がってしまっていた。

科学者達も凝然としてしまっている。

少女エアリーはイアンがジーベルを蹴る際に、また魔法を使ったのを見逃さなかった。


我が愛するエアリー(・・・・・・・・・)に暴言を吐いて、これだけで済んだことを感謝しろ」


意識のないジーベルに向かって横柄な態度で言い放つイアン。

ロスや科学者達はこの短時間の間に起こった出来事に脳がついていけず放心状態となってしまい、イアンの言葉は耳に入っていなかった。

唯一人、その言葉をしっかりと聴いていた少女エアリーの視線はイアン一人に注がれていた。

言葉の後半部分は完全無視するとして、前半部分の“我が愛するエアリー”を頭の中で反芻し、疑惑の目でイアンを見つめた。

研究室に侵入してから今の今まで自分は一度も名乗っていないはずなのに、イアンという男は自分の名前を知っている。

しかも、“我が愛する”とまで付け加えるとは恐らく顔見知り程度ではないということだ。

今、自分のことを知っている人間と言えば、ラフぐらいだ。

それ以外はありえないはずなのに・・・・・・・・。

この人間が一体何者なのか、少女エアリーは思案した。

イアンと呼ばれる男で魔法使い。

声を聴いても分からない。

過去の記憶と照らし合わせても、そんな人物に心当たりがないと結論付けようとした時、徐にイアンがフードを脱いだ。

すると、少女エアリーの顔が一瞬にして凍りついた。

フードから現れたのは、彫刻の如く整った顔立ちに、透き通るような白い肌、腰まである長い銀髪に、双眸は一度見た者は必ず虜にしてしまう、血のような真紅を持った若い美男子だった。

少女エアリーの頬を、一滴の汗が流れ落ちる。

イアンは、性別と目の色を除けば、少女エアリーの本来の姿と瓜二つだった。

子供のような無邪気な笑みを少女エアリーに向けながら、一歩、一歩彼女へと足を進めていく。


「エアリーが言うからあいつは殺さないでおいたよ。偉いだろう?ああ・・・・久しぶりだね、エアリー。エアリーに会えない日々は僕にとって苦痛でしかなかったよ。それにしても、どうしてそんな子供の姿でいるんだい?僕は本当のエアリーの姿が大好きなのに」


少女エアリーの前で両膝をつき、彼女の頬に触れようと手を伸ばした途端、少女エアリーはその場から逃げるように後ろへと跳んだ。

イアンは不服そうに彼女を見る。

しかし、少女エアリーの目はいつもの彼女では決して見られない、憎悪の炎で燃え尽くされていた。


「私は大嫌いよ。本当の姿も、あなたも!」


少女エアリーの言葉を心底不思議そうな表情をするイアン。少女エアリーの言っている意味がイアンには理解できないのだ。


「何を言っているんだいエアリー。エアリーは自分の美貌が自慢だったじゃないか。だから僕はエアリーにとっておきの魔法をかけてあげたんだ。エアリーの美しさが永遠に続くように・・・・・禁忌魔法、不老不死の魔法をね!」


イアンが誇らしげに言い終えると同時に、少女エアリーは右手を振り上げ、今ある感情の想い全てを吐き出すかのように、イアンの頬目掛けて振り下ろした。

これがエアリー=ミューズとイアン=ミューズの、二千年ぶりの双子の姉弟の再会であった。

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