5.三が日終了 【後編】
どうも、彼らの学習能力は妙な方向に発揮されていたらしい。
うかつだった。
「…………花札、ルールを教えなきゃいけないかと思ったけど、その必要はなさそうね」
教えるとなると大変だなと思っていたのだが、私の知らぬ間に学習していたようだし?――エロゲーで。
なんという破廉恥な二人だろう。おまえたちが絶世の美形だなんて、世の皆さんに謝れ!
「あ、一通りなら調べましたから大丈夫です。こいこいでもおいちょかぶでも花あわせでも」
「わたしも大丈夫だ。それじゃ花札からやるか?」
「ええ、そうしましょう。勿論、罰ゲームつきですよね、フオン?……フオン?泣いているのですか?」
「……笑っているのよ」
ふふふふふ。
悪いが花札には自信がある。
自慢じゃないが100戦やったら99勝ぐらい朝飯前だ。
カードの引きが異常に良いのだ。
その為、知っている身内は花札で私に勝負を挑もうなんて考えないくらいである。
「罰ゲームつきで、やりましょう?」
私はふんわりと微笑んだ。
――――――私を本気にさせるのがお上手だこと。
教えてあげよう、本当の花札を。
そして、私の可愛いPCちゃんを穢した代償を彼らに払わせてやる。
――日付はすでに変わっている。
「フオン、これ何時までやればいいんですかっ!!」
「そろそろ疲れてきたんだが、まだか!?」
「まだ!!」
私は一人ベットで寛ぎながら、読書中。
男ふたりは下着一枚で逆立ち中。
下着一枚なので危険なゾーンが見えそうだが、そこは視線を逸らすことで対応。
男友達が少なくないせいで、下着くらいなら見慣れている。
「一晩ずっとそうしてなさい」
多分、死にはしないだろう。
私は自分のパソコンを起動させ、インストールされているプログラムを隈なくチェックした。
件の麻雀以外にもいくつかふしだらなゲームがインストールされていたが、セーブデータのバックアップなど気にせず容赦なく削除した。
「ああああああ!!!」
背後であがる悲鳴は無視をした。
「そんな、せっかくサーワ=ルナの町のイベントをクリアして、これからというところだったんですよ!」
「そうだ、漸くキスしても嫌がられなくなってきて、明日が初夜の所まで進めていたのだぞ!」
うん、思ったより色々入れられていたせいで動作も重くなっていたらしいが、これで処理も早くなった。PC買い替えも検討していたが、このままで大丈夫そうだ。
「あ、やだ。こんなものまで」
最近は肌色溢れるおねーさん達が画面の中でリズミカルニ喘ぐ動画を無料で見れるサイトも多い。
そのブックマークやDLデータもあったので、やはりこちらも削除する。
なにやら背後で男たちが悲鳴の二重奏を奏でていたが、これも無視をした。
私のパソコンなのだから、私の使いやすいようにカスタマイズするのは正当な権利である。
やがてその悲鳴もやんだ。飽きたらしい。
しかし替わりに歯の鳴らす音とともに、
「寒いです、フオン」
「暖房の温度をあげてくれ」
弱弱しい懇願の声があがった。
「ダメ」
「……頭に血が登ってきました」
「くらくらするな」
振り返って見ると、二人の顔は大分赤黒くなってきていた。
そりゃ、数時間そんなことをしていればそうなってもおかしくはない。
一応、事前に確認はしたのだ。魔王のHPと宇宙人のHPについても。
どのくらいで死ぬのかどうか。
地球の法律に照らし合わせれば犯罪ではないかもしれないなぁ、とは思っているが何かあったらやっぱり気まずい。
限界は把握しておくべきだと思い、うまいこと聞き出しておいた。
彼らの回答だが、魔王曰く勇者の必殺技でも無い限り死にはしないそうだし、宇宙人にしても蘇生回復技術はめざましいらしく、そう簡単には死なないとのことだった。
だから気にしない。大丈夫、大丈夫。
「明日は、羽子板しましょうね!」
明日というかもう今日か。
日付変更は過ぎているのだから。
なんだかあっという間の三日間だった。
「明日、明日ですか……」
若干虚ろになった目でヤマシィが呟いた。
なんだ、明日というのが不満とでも?
確かに、お正月といえば3日間のことを大体さすものだが、一日くらいオーバーしたところで構いはしないだろうに。
せっかく買ったんだし。コマも歌留多もあるのだから、遊ばなくては損だ。
明日こそお正月らしい遊びを堪能しよう。
羽子板だけでなく、書初めの時に使った墨も筆もある。羽根つきと言えば、罰ゲームで顔に落書きが基本だ。
由緒正しい罰ゲームの行使が楽しみだった。
勿論写真撮影のオプション付きで。
「明日。……一晩逆立ちし続けた後に羽根付きとやらができるのだろうか。フオンはドSだな。しかしたまにはこういうプレイも悪くはな」
――――魔王の世迷言を全て言わせる前に、気づいたら右手が動いていた。
ああ、私の本!
「酷い、一撃で伸びてます……ああ、あんな所に当てるなんて!」
まぁ、下着一枚で逆立ちしていたら、当たりやすい位置にあんなものがあったわけで。
私は、悪くない。
「何か不満でも?」
「い、イエ……」
小刻みに震えながら逆立ちを続けるという器用なことをしている宇宙人ヤマシィは、さっと私から視線をそらした。