4.三が日終了【前編】
家の中でこもりきりだから、妙な煩悩など生まれるのだ。
そうだ。そうに違いない。
エネルギーが余ってるから、そんな所に思考が飛んでしまうのだ。
これではいけない。
乙女の危機を感じた私は、二人に別の楽しみを教えることにした。
「お正月らしい遊びをしよう!」
お正月といえば、やっぱり!
―――必要な小道具の買出しに来たホームセンター内。
家から徒歩12分という微妙な距離にあるホームセンターは、まだお正月明けて三日目ということもあり、初売りセール目当ての客でそれなりにごった返している。
人ごみではぐれてしまうことを懸念したが、長身の二人は人よりも頭ひとつ近く抜きんでいるせいで見失うことはなさそうだった。
長身というだけで人目を惹く。
それだけなら、良かった。
「で、何を買えばいいんでしょう?」
「コンビニよりも大きいな」
きょろきょろとフロアを見渡しながら歩く二人は異常に目立っていた。
身長が高い二人が並んでいるから目立つというのもあったが、それ以上に目立つ理由があったのだ。
しまった、と私は臍を噛む。
うっかり忘れていたが、この二人美形なのである。
しかも、どう見ても日本人には見えない。
お正月でひきこもり気味、顔をあわせるのはたまに買出しに行くコンビニの店員のおにーちゃん(またはお姉さん)の他はこの二人だけだったので、感覚がすっかり麻痺していた。
信じがたいことだが、世間一般の基準に照らし合わせてみたらこの二人、極上の美形と言うやつだった。
せめてひとりだけならまだしも、二人。
中身がアニオタの魔王と宇宙人だなどと他の人には知りようがない。
他人にとっては良い観賞用のオトコ二人。
視線がイタイ。側にいる私にまで視線が飛んでくる。
そりゃそうだ、この二人と私では見た目のスペックが違いすぎる。
どういう関係か気になっても仕方ないだろう。
「フオン、どうしたんだ?何か買いに来たのだろう?」
「お正月用品のコーナーありましたよ、あちらじゃないですか?」
二人から少し距離をとろうとしたら、見つかってしまった。
「フオン!?」
呼ばないで、お願い!という私が飛ばした念というか電波を、この宇宙人は受信してくれなかったらしい。
宇宙人なのに使えないことだ。
「そっちじゃないですよ、こちらです」
笑顔で私の腕を引いて、目的のコーナーまで案内してくれた。
――――ああ、周りの皆さんの視線が痛い。こっちみんな!
「玩具を探すんですよね」
「大人のおもちゃ、というと卑猥でいいな」
それなのに空気を読まないこの魔王の発言。
「黙れ」
手にした羽子板で二人を殴りたい衝動に駆られたが、POSを通す前だったので自重した。
くっ、命拾いをしたな、二人とも!
「羽と羽子板、コマと紐、めんこ、あと歌留多。花札も買うか。麻雀なら家にあるけど3人じゃねぇ」
サンマしかできない麻雀なんて麻雀ではない。
二人、ないし3人で遊べるお正月の遊びといえばこれくらいだろう。
「あ、花札知ってます。負けたら一枚づつ脱いで行くんですよね!」
ぱっと顔を輝かせて、宇宙人が偏った知識を披露した。
「何そのエロゲ展開!」
「CPUが強くて、結局勝てないんですよね……」
「お前もか。わたしも何度かやってみたのだが、最後の1枚は絶対脱がないんだ…」
「そうなんですよね、何度も挑戦して見ましたが、やりすぎてフオンのマウスが壊れてしまいました。あ、マウスってここでも売ってますか?トラックポイントだとしんどくて」
………新年明けそうそう、マウスの調子がおかしいと思ったら貴様らのせいか。
確かに私のパソコンは自由に使っていいといったが、エロゲをインストールしてもいいといった覚えはない。
私はこぶしを固めて、そして思い直したように手を開くと、力なくうな垂れた。