(1/4)ハマの弾丸娘、挫折する
小塩由香は悔しかった。今日の試合では由香のドリブル突破が全て止められた。試合も3対0で完敗だ。相手の横須賀中央高校の女子サッカー部は確かにに強い。しかし、自分だってハマの弾丸娘と呼ばれたフォワードだ。悔しくて仕方がないが涙はこらえた。試合後、グランド脇で歯を食いしばっていると、チームメイトの優子と沙保里がやって来た。キーパーとディフェンダーをしている二人は一番の親友だ。
「由香、今日のアイツらは確かに厄介ね」といつも冷静な優子がクールに言う。キーパーでキャプテンの優子が感情を乱したのを見たことがない。
「180のディフェンダーが2枚ってのはデカいよな。図体もデカいしな。ハハハ」と沙保里が豪快に笑う。
いや、おまえもでかいだろう、という言葉を由香は飲み込んだ。
そうだ。問題は今日の試合相手、横須賀中央高校の女子サッカー部だ。今日の試合に大型のディフェンダーがいた。それも二人だ。どうやら双子らしい。身長180cm超えのディフェンダーが二人並ぶと完全に壁だ。
「今日は完全にフィジカル負けだな。ワハハ」と沙保里が由香の背中を叩く。
「でも、どうにか対策しないとダメね」と優子。
「わかってる。次はアイツらを絶対抜いてやる」と由香がいうと、沙保里がからかうように言う。
「まずは牛乳飲むか?」
その日は解散となったが由香にはよい対策など思いつかない。フィジカルの差はどうしようもない事実だ。由香は身長150cm、体重は40と少し。あのディフェンダー2枚に体を寄せられたら身動き取れない。どうすれば、あの壁をかわせるだろうか。家までの帰り道、由香はずっとそれだけを考えていた。
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翌日の放課後、女子サッカー部は試合翌日で練習休みだったが由香は1人でグラウンドに立っていた。ラグビー部からタックル用のダミー人形を2体借りて目の前に置いた。正面からいっても抜けない。脇を抜けようとしてもどちらかが体を寄せてくる。悔しいが体の使い方がとてもうまかった。
ドリブルを交えダミー人形との当たりを繰り返したがよい対抗策が見つからず由香は地面に倒れ込んだ。地面が冷たくて気持ちがいい。
と、その時、由香は校舎の2階の窓から一人の男子生徒が由香を見ているのに気が付いた。そいつは由香と目が合うと手をひらひらと振ってきた。
何だあいつは、あぁ、隣のクラスの奴か。確か名前は中森トオル、背も高いし、顔も悪くないが変人だという噂がある。そうだ、この前の期末テストで数学と物理で満点をとったらしい。それだけで、由香にとっては変人枠確定だ。
と窓から中森が見えなくなった。変な現物客がいなくなって助かったと思ったら、そいつはグラウンドに降りてきて、目の前に立った。。
由香は中森を見上げた。悔しい事にじぶんより30cmは背が高い。
「面白い事をしてるね」と中森は言った。
「ほっといてよ」
「うーーん、でも、あたりが少し正直すぎるんじゃない?」
「あんたに何がわかるんだよ」
中森は少し笑った。意外によい笑顔をしたので由香は少し動揺した。
「たぶん、大型のディフェンダー二人をどうかわそうかと考えているよね。でも解決策が見つからない」
お、こいつは超能力者か?と思ったが、今のこの状況見たら誰でもそう思うよな。しかし、次の小森の言葉に由香は少なからず驚いた。
「かわそうとしているから無理があるんだよ。ちゃんと当たって相手を倒せばいい」
あぁ~、それができないから悩んでいるんだろうが。無責任な事を言うんじゃないぞ。と口には出さず中森を睨んだ。
「そんな事出来るわけないと思ったんじゃない。無責任な事を言うなよ、とも思ったりして」と中森が笑う。
クソっ、こいつの笑顔は好きだ。怒る気にもなれない。
「でも、僕が教えたらきっとできるよ。一緒にやってみない」
そう中森トオルは由香に言った。
はぁ?
由香は、どう答えていいかわからず、中森トオルを見ていた。中森トオルはただ静かに笑っていた。
もうすぐ夕日が完全に落ちる。




