§4.8 帰宅の準備
「そろそろ帰る準備しようか。もう夕方だし」
「あ、そうだね」
結衣は立ち上がり、身支度を整え始めた。
スウェットから元の服に着替えた結衣は、借りたスウェットを畳んで樹に差し出した。
「これ、ありがとう」
「結衣さん持って帰りなよ。部屋着に使って」
樹の言葉に、結衣は少しいたずらっぽく笑って返した。
「ここに置いといて。また使うかもしれないから」
樹の顔が赤くなるのを見て、結衣は楽しそうに笑った。
ソファの横に置いてあったパンプスに手を伸ばす。履こうとして、ふと昨夜のことを思い出した。
(あ……そうだ、靴が痛くて脱いだんだ……)
足の絆創膏、トイレで気づいた時は不安だったけど、今なら分かる。
(樹くんが、寝てる間に貼ってくれたんだ……)
靴擦れで赤くなっていた場所に、丁寧に絆創膏が貼られていた。そんな細かいところまで気遣ってくれていたことに、胸が温かくなった。
「じゃあ、そろそろ帰るね。今日は、本当に……色々本当にありがとう」
そう言って、結衣は樹に軽く頭を下げた。
「うん、気をつけて帰って」
樹はそう言って、研究室のドアまで結衣を見送った。
「あの、樹くん」
ドアの前で結衣が振り返る。
「今日のこと……。樹くんがいてくれて、よかった」
「僕の方こそ。結衣さんが信じてくれて、嬉しかった」
二人は少し照れくさそうに微笑み合った。
「じゃあ、また明日」
「うん、また明日」
結衣は軽く手を振って、研究室を後にした。
樹は廊下に消えていく結衣の後ろ姿を、優しい眼差しで見送った。
次回「§4.9 温かい記憶」
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